xmas xmas ぼくには妹と弟がいて、どちらもサンタクロースを信じている。 いい子にしていれば贈り物がもらえると信じている。 でも僕は、サンタクロースは実はいなくて、両親がこっそり贈り物を用意してくれるものだと知っている。 だから今年のクリスマスは期待できない。僕らの両親はここ最近の同盟軍とハイランドの戦いのさなかで、命を落としてしまった。今は同盟軍が用意してくれた戦災孤児を集めた家に拾われて連れてこられた。 まだ幼い二人にはきちんと話していないけれど、うすうす察しているようだ。だから余計、サンタクロースに期待してしまうのかもしれない。 それならなおのこと、どうにかしてやりたいけれど、僕には何もできそうにない。 日々の食事さえ、配給に頼るばかりなのだ。 僕は溜息をついた。 「どうした」 この辺りの守備を担当している傭兵隊の隊長が言う。見かけはごついがいい人だ。手の空いた時にはこうして僕に剣術を教えてくれる。 僕は妹と弟を守るために、強くならなくてはいけない、と思う。 クリスマスとサンタクロースのこと、妹と弟のことを話すのはやめた。まるで贈り物をねだっているようだし、こうして面倒を見てもらっているだけで、十分すぎる負担なのだ、と思う。見たところ同盟軍や、その下で働く傭兵隊は、お金持ちには見えない。 「何でもありません」 「そうか。飯が足りねえとかならすぐ言えよ」 「・・・お前、誰でも飯と酒のことばっかり考えてると思うなよ」 といささか失礼なことを言ったのは、いつのまにか側に来ていた、その傭兵隊の副隊長だった。 交替の時間だ、という。 隊長に剣術の稽古の礼を言って、その場を離れた。 結局何の用意もできないままクリスマス前夜が来てしまった。 何かの手伝いをして小銭でも稼げれば、と思ったけれど、ここではみんなが善意と奉仕で働いている。自分たちが身を寄せる家のまわりにも、クリスマスらしい飾り付けがされていた。自分達のことばかりを考えてもいられなかった。 良い考えも浮かばないまま、夕食を食べて、子供は寝ろ、と寝床に放り込まれた。 戦時下でも大人はお酒を飲んだり、それなりに楽しいことがあるらしい。 あまり楽しくない子供としては、毛布をかぶっても見ても眠れなかった。 明日の朝目覚めて、枕元に贈り物がなかったら、隣で眠る妹と弟は、がっかりするだろう。 僕はまた溜息をついた。 誰も起こしてしまわないように小さく。 しかしその溜息よりもわずかに、何か、物音が聞こえた。 窓・・・戸口の方だ。 僕は起きあがってそちらを見た。 ここ数日で降り積もった雪明かりに、人影が浮かんで見える。 ハイランドの、兵かもしれない。 いつのまに。 みんなを起こして逃がすべきか、こちらが気づいたと知られないように身動きせずにいるべきか、わからないまま、ないよりはまし、という程度の武器をつかんだ。 ここには子供しかいないし、訓練用にもらった木刀しかない。 みんなを起こそう、と大声を上げかけた口が、背後から伸びてきた手に遮られた。 しまった。仲間がいたのだ。 「静かにしろって。みんな起きちまうだろ」 「お前が子供に気づかれるようなへまをするから悪いんだろ」 「うるせえな」 「・・・いいかげん離してやらないと窒息するんじゃないか?」 「おおそうか」 小声で交わされた会話の後に、悪かったな、と口を塞いだ手が離れた。 僕は雪明かりと月明かりに浮かび上がる見慣れた二人の姿を確認した。 「何してるんですか?」 「おう。ばれちまったらしょうがねえ。お前も手伝え」 ごそごそと大きな袋から、いくつかの包みを取り出す。 「ヒトリ一個な」 一方では副隊長が、並んだ子供用の寝台に、同じような包みを配り始めている。 「大したもんじゃねえけどな」 ないよりましだろ、と隊長が言う。 すぐに全部の寝台に包みを配り終わった。 「よし。任務完了だ」 「お前も冷えないうちに早く寝ろよ」 「みんなには黙ってろよ」 「戸締まりよろしくな」 副隊長が先に外に出た。後をついて、戸口を出てゆきかけた隊長が、引き返してきた。 「何ですか?」 「口止め料だ」 渡されたのは小刀だった。小さいけど本物の刃がついている。 「お前がいるなら、このへんの見回りは少し手抜きしてもよさそうだなあ」 「さぼるな莫迦熊」 みんなを起こさないうちにさっさと行くぞ、と副隊長が歩いていく。 じゃあな、と大きな手で僕の頭をなでて、隊長も後を追った。 「どうしたの?」 部屋の空気が冷えたせいか、目を覚ました妹が毛布から顔を出した。 すぐに目の前の包みに気づく。 「サンタさん来たの!?」 「あ、」 止める間もなく窓に走り寄る。 すぐに隣にいた弟も飛び起きてきた。 窓の外には、歩き去る二人の姿がまだ見えていた。 妹と弟は、一瞬黙ってから、口々に言い出した。 「サンタさんそりじゃないね」 「きょうはおようふく青いね」 「トナカイじゃなくて熊をつれてるね」 「・・・・・・」 どうやらもう少し、サンタクロースは信じてもらえるらしい。 「寒いから、もう寝ようね」 「おくりものみてもいい?」 「朝になったらね」 残念そうに、妹と弟が寝台にもぐり込む。 明日になったら、何でサンタさんはいつもと違う格好だったのか、とか、トナカイはどうしたのか、とか、質問責めにあうに違いない。 口止め料分のはたらきはしないとな、と思いながら、僕も寝台にもぐり込んだ。 了
2003.012.13〜 TOP画として使用。 |
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