みえない
あそこには俺の家があった。
裏はデイジーの家だった。
その隣には酒屋があって、戦から帰ったオヤジがよく朝まで入り浸ってはオフクロに大目玉を食らってた。
その向かいはオヤジの傭兵仲間のジョンの家があってよくそこのガキと遊んでやった。
同じ通りには美人のアンナの店があってみんなで競っては顔を売りに行った。
町には教会があってミサをいかにサボるかが俺の悩みのタネだった。
ガキの頃よく登った木。
秘密の隠れ家。
あそこにはそれらが確かにあったのだ。
なのに。
今は何も見えない。
何にも見えない。
すべて失った日。
2006.06.23