歯痒い
昨日、ビクトールがリーダー達と共にこの城を発った。
あの、吸血鬼にトドメを刺すために。
『ついてくるな』
とは言わなかった。
けど。
『一緒にきてくれ』
とも。
言わなかった。
その意味を。
深く考える事を放棄して。
目の前にある現状と役割と。
それだけに目を向けて自分はここに残った。
今頃はコボルト村にでも着くぐらいだろうか。
もし。
もしも。
ついて行ったら。
あの男はどんな顔をしたのだろう。
どうして。
自分はここにいるのだろう。
どうして。
ついて行かなかったのだろう。
自分は。
ここで何をしているんだろう。
けれども。
この選択もまた間違いではなかったのだと。
そう思う自分もいる。
あの男の還る場所を。
守りたい。
そう、思う。
この気持ちは全くもって嘘じゃない。
自分はここで待っている。
それでいい。
ただ。
ほんの少しだけ。
歯痒いような。
そんな気がする。
ただそれだけだ。
