■ ビクフリリレー小説 第二話  (作:いかわ) ■



「サウスウインドウとかも大きな街で華やかだけど、ラダトは独特の活気があるっていうか、開放的な感じがしますよね」
 リーダーの少年の声ははずんでいる。
 街は、いつにも増して賑わっていた。 露店には、普段見られない珍しい物や少し贅沢な品が並べられている。
 向こうに見える大通りでは、陽気な音楽の響く中、旅の一座が見事な大道芸を披露している。
 この時期から新年にかけてラダトには大勢の人が集まり、ちょっとしたお祭り騒ぎだ。 リーダーは先ほどからあちこち見回しては立ち止まったり、いきなり走り出したりする。
  ビクトールは、おいおい、と笑いながら少年の手を掴んで。
「リーダー、浮かれすぎるなよ。ラダトの商人ってのは一筋縄でいかねえ奴ばっかだから、油断してボられないようにな」
 ええ、それはトーゼン、とリーダーは力強く拳を握った。
「今回の買出しのお金は、厳しい予算の中からなんとか搾り出してもらったんですから。みんなが涙流して喜ぶようなサイコーな買い物をするつもりです!!」
 盛り上がってるところ悪いが、とフリックが遠慮がちに口を挟んだ。 その手には、びっしりと文字が書き込んである白い紙片。本拠地を出発する時に渡された、「お買物メモ」である。
「リーダー、ここに書いてある、子供用1等、2等、3等・・・ってのは何だ?」
「あれ?説明しなかったかなあ。新春イベント用の景品です」
 リーダーがさらりと言って、ビクトールとフリックは一瞬だけ、黙った。 リーダーが新年にイベントを企画しているというのか・・・。
「・・・イベントって、何をやるんだ?また、なんか、ヘンなヤツか?」
 問いただす、ビクトールの声は暗い。
 しかし、リーダーは太陽のような笑顔で、顔の前でぶんぶんと手を振った。
「ヤだなあ、違いますよ。お正月だから、いつもみたいな奇抜なのじゃなくて、万人受けするオーソドックスなのをやる予定です!奇跡の少年杯争奪武闘大会と か、グランマイヤー記念競馬とか、新年宴会隠し芸大会とか、新春福引とか」
「そうか・・・」
 意外とまともだ、と胸を撫で下ろす二人。
「軍の士気を上げるためには必要だからって、シュウさんが結構予算をつけてくれて。小さい子には全員に福引券を配ることになったんです」
「へえ。そりゃあいいな」
 フリックが微笑む。
「じゃ、景品にはガキどもの宝物になるようなすげえいいモンを選ばねえとな」
 ビクトールが、にっ、と笑う。 そういう買い物なら、荷物持ちもやりがいがあるというものだ。
 それに第一、とフリックは考える。 充分予算がある、というのが有難いことではないか。 故郷の村を出た時からずっと、解放軍に参加した時も、トランを出てビクトールと二人で旅をしていた時も、傭兵砦に落ち着いた時も。
 思い起こせば、何故かはわからないが、自分はいつも金に不自由していたような気がする。 こんなに潤沢な予算で、それも有意義な買物をする機会に恵まれたことが、未だかつてあっただろうか。
  なんだか嬉しい。
  感慨深く回想にひたりかけたフリックの耳に、これもやはり嬉しそうな相棒とリーダーの会話が飛び込んでくる。
「なあ、そういうことなら、金はいくらあっても足りねえんじゃねえか?」
「え・・・これだけあれば大丈夫じゃないかなあ?」
「でも、金が大きけりゃそのぶん豪勢に買えるだろ?俺に預けてくれりゃあ2倍にしてみせるぜ、いや、絶対。ラダトにはまっとうな賭場があるんだよな!」
「賭場ですか?でも、買出しがあるしあんまり時間ないですよ?」
「大丈夫、そんなに時間かけねえから!もともと自分の持金を増やすのに寄ろうと思ってたし、ものはついでだからな!おまえ達は先に行って景品を選んでてく れりゃ俺は増やした金持ってすぐに合流すっから、」

 ごっ。

  と、ビクトールの背にフリックの蹴りが入った。
「以前のことはともかく、トランを出てからこっち俺が年中金欠なのはおまえのせいだ!!!」
  フリックの目はすっかり据わっている。
「な、なんだよおまえいきなり。暴力はやめろっていつも言って、」
「俺が預かっとく。金よこせ」
「えッ・・・だって俺の金だぜ・・・」
「よこせ」
「・・・・・・・・・」
 身につけた金をごそごそと取り出して、それを悄然と手渡すビクトール。
 その肩を、ポン、とリーダーが叩く。
「よく考えてみれば賭け事は危ないから、やめたほうが正解ですよね。でもお金のことはね、がっかりすることないですよ、ビクトールさん」
 その言葉にフリックとビクトールがリーダーを見ると、その瞳はキラキラと輝いていた。いいことを思いついた、といった風情である。
「僕、この間からシュウさんに、交易、っていうのを少しずつ習ってて。それがね、やり方によってはほんの1日ですごくお金を増やせることもあるらしいんで すよ!まだ試したことはないんだけど、でも僕、一生懸命予習してるし。今日はなんだか上手くやれそうな予感がするんで、」
「そうか、リーダー。そういうことなら」
 希望に満ちたリーダーの声をフリックが穏やかに遮った。優しい笑みをうかべて、有無を言わさぬ口調で続ける。
「おまえの金も俺が預かる」
その瞳は少しも笑っていなかった。



「えーっと、子供用の景品ですけど!フリックさん、何がいいと思います?」
「なあフリック、この竜のお面とか、いいと思わねえか?ぐっとくるよなー!」
 雑貨屋の中、愛想のいい笑みをいっぱいに浮かべて、リーダーとビクトールは上ずった声でフリックに話しかけている。 その額に一筋の汗。フリックの笑わない瞳がよほど怖かったらしい。 小声でひそひそと囁きあう。

(ビクトールさん、今日は何事も控えめにしときましょうね・・・考えてみたら、朝っぱらから怒らせたばかりだし)
(それはおまえのせいだろ?!)

「何をコソコソ話してるんだ。妙な悪巧みしてるんじゃないだろうな?」
「やっ、やだなあフリックさん!僕、いたいけな子供達へのプレゼントを一生懸命考えてるところなのに!!!!」
「そそそそうだぜ。早いトコ、子供用1等、2等、3等、を選ぼう!!!!よーし、1番いいと思うモンを1個ずつ選んで、皆で持ち寄ってみよう!!!!」
「え・・・おい、ビクトール。俺はあまりこういうコトは・・・」
「さ、がんばりましょう!フリックさん、時間ないですヨ〜!!!」
 言うや否や、フリックから視線を逸らして、凄い勢いで店先に並ぶ玩具を物色し始めるリーダーとビクトール。 呆然とその様子を見ていたフリックだが、やがて、困ったように眉を寄せた。
 景品を手にして喜ぶ子供達を見たいのはやまやまなのだが・・・正直な話、何を買えば子供達が喜んでくれるのか、よくわからない。
 子供の頃貰って嬉しかった物と言えば、何と言っても、玩具の片手剣だが。 だが、本拠地の子供達には、剣より、もっと喜ぶものがあるような気もする。
 例えばピリカに何かを買ってあげることができるとしたら・・・。
 フリックは考え込んだ。 確か、ピリカは熊の人形を大事に抱いていた・・・きっと気に入っているのだろう。もしかしたら、友達のように感じているのかもしれない。友達なら、剣と同 じくらい大切に思うはずだ。
 いや、むしろ剣よりも。

(・・・よし、景品は熊の人形に決めたぞ)

 フリックは方針を決めて、ぬいぐるみの積んであるコーナーに向かった。
  とりあえず良さそうなのを選ぼうと、ぬいぐるみの山を漁ってみる。 色々と見比べたあげく、ひとつのぬいぐるみをひっぱりだした。
 しみじみ眺めて、一人で小さく頷く。 これがいいような気がする。 坐った子供ほどもある大きな熊のぬいぐるみで、色は黒に近いこげ茶。 目は真っ黒で光っている。 ちょっと見ふてぶてしい顔つきは、よくよく見ると愛嬌があってなかなか可愛い。 抱いた感触はしっかりして固め。 毛皮はバサバサとあちこちに跳ねていて不揃いだが、触ると気持ちがいいし、なんだか落ち着く。 見れば見るほど、これがいいような気がする・・・これなら、子供達も喜んで、大事に傍に置きたくなるに決まっている。
 これにしよう。



 フリックは熊のぬいぐるみを片腕に抱いて、まだ品定めを続けているらしいビクトールとリーダーの方へ歩いていった。
「なあ、ビクトール、」
 俺はコレがいいと思うがどうだ、と声をかけようとしたちょうどその時。
「どれもこれもイマイチなんだよな・・・子供にとっちゃ、人形は大事な友達なんだぜ?簡単に妥協はできねえ!」
 店の中央の棚を物色していたビクトールが、リーダー相手に力説しはじめた。

・・・人形は大事な友達。

 フリックはビクトールの言葉を頭のなかで繰り返す。

・・・よかった、やっぱり子供が喜ぶのは人形で間違いなかったんだ。このぬいぐるみなら子供の友達にピッタリだ。

「でも、こっちの人形だって、僕は充分かわいいと思うけどなあ。」
 後ろで聞いているフリックには気づかずに、ビクトールとリーダーは話し続けている。
「いや、理想にはほど遠い。だいたい、目が青くねえじゃねえか。男の夢とロマンを育む人形は、青い目に限定されてんだぜ。」
 ビクトールはきっぱりと言い切る。 フリックは動揺した。

・・・青い目に限定されてるって、どういうことだ?こいつの目は黒いが、これじゃ駄目なのか?納得いかねえ。この黒い目がいいんじゃねえか・・・。

「ビクトールさん、男の夢とロマン、じゃなくて、子供の、でしょ・・・大体、個人的な好みが入りすぎですよ」
「いや、普遍的な真理だぜ。人形を選ぶなら絶対青い目だ!で、髪は柔らかくて触ると気持ちよくて、顔立ちはキリッとして、全体的にバランスとれててスレン ダーで、脚はこう、スラッと長くねえとな!」

・・・柔らかい髪でキリッとしてスレンダーで脚が長くないと・・・?

 フリックは腕に抱いた熊縫いを見た。

・・・かなり、ハズしたような。

・・・い、いや、あいつが言ってるのは、人の形をした人形のことだ。熊のぬいぐるみに必要な条件はおのずと違ってくるはずだ。それに、こいつの毛皮だっ て、柔らかくはないが、触ると凄く気持ちいいんだ!このバサバサ感が!

「それに、抱いた感じはしっかり抱きごたえがないと駄目なんだよ、ヘンに柔らかいんじゃなくて。そうでないと、なんつーか、満たされねえっつうか」
 聞いて、フリックは心の中で頷く。

・・・その通りだ。こいつならがっしりしてて抱きごたえがあるし、そのへん十分クリアしてる。

リーダーは、ビクトールにやや白い目を向けた。
「普遍的な真理ねえ・・・もしかしたらその上に、青いバンダナとマントつけてて左足には青いサポーターつけてなきゃ駄目とかいう条件がつくんじゃないんで すか?」

・・・青いバンダナとマントとサポーター・・・って俺のことじゃねえのか。

 フリックは眉をひそめた。

・・・なんで人形にそんな。

「あー?そりゃ、そうだな・・・それだと理想的だな」
 だはは、とビクトールが笑って、リーダーがはあ、とこれ見よがしにため息をつく。



「全く、自分の好みに走らないでくださいよ」

・・・自分の好み?

 フリックは再び腕に抱いた熊ぬいを見た。

・・・好み、って・・・。

「そう言われてもなー。やっぱ、大切なものを選ぼうとする時には、無意識のうちにも魂の求めるものが影響しちまうもんじゃねえか」

・・・・・・・・・・・・。

 フリックは呆然と熊ぬいを見たまま固まっている。
「魂いぃ?そんな高尚なモンですか!だいたい、妙に生々しいですよ。髪の感触が気持ちいいだの、抱いた感じがしっかりしてないと満たされないだの。そんな ヨコシマな理由で純真な子供達にプレゼントするものを選ばれたんじゃ、」
「ち、違う!!!!」
 フリックが思わず叫んで、ビクトールとリーダーは驚いて振り向いた。
「お、フリック、そこにいたのか。」
「フリックさん、どうかしました?」
「いや・・・俺、ちゃんと真面目に選んで・・・」
 口ごもるフリック。
「え、何ですか?あ、可愛い熊。これ、どうしたんですか?」
 リーダーがフリックの腕の中の熊縫いに向かって手を伸ばすと。
「こ、これは別に何でもねえ!!!!!」
 フリックは目にも止まらぬ素早さで熊のぬいぐるみをその辺の棚に戻したかと思うと、いきなり身を翻し、首まで赤くなって、だーッ!!と凄いスピードで店 を飛び出していった。
「あっ、おい、フリック!どこ行くんだよ!」
 ビクトールが驚いて後を追おうとするが、フリックの後ろ姿は人ごみにまぎれて、直ぐに見えなくなってしまう。
「ど、どうしたんですか、フリックさんは・・・」
「俺に聞かれてもよ・・・」
 二人は呆気にとられて立ちつくした。
「僕達の話、聞いてたのかな・・・ビクトールさんがヤらしい事言うから怒っちゃったのかも。駄目じゃないですか、朝も怒らせたばっかりなのに!」
「朝怒らせたのはおまえだろ!!」
 とりあえずお約束の掛け合いをしてみるリーダーとビクトールだが、こうしていても埒があかない。
「どこに行ったんだろう・・・帰ってくるかな、フリックさん・・・」
「まあ、何考えてんのかわからねえが、戻ってはくるだろ。今日はおまえの護衛についてるんだからよ」  フリックは律儀な性格なのである。
「じゃ、買物しながらここで待ってた方がいいですよね。町中凄い人出だし、捜しにでてすれ違っても困るから」
 リーダーが言うのに、ビクトールは首を横に振る。
「いや、多分すぐみつかると思う。捜しに行こう」
 それから、肩をすくめて。
「だって、俺達、文無しだぜ。金は全部あいつが持ってるんだからよ」


  リーダーとビクトールは周囲を見回しながら、人波を縫って歩く。
「すぐ見つかるなんて言ってたけどビクトールさん。何かあてはあるんですか?」
 尋ねるリーダーに、ビクトールは頷いた。
「ある。さっき、通りで旅芸人が踊ってただろ?」
「ああ、大通りで派手に楽器鳴らしてたやつですね。それが何か?」
「アレのまわりにいるはずだ」
 ビクトールがキッパリ言って、リーダーは訝しげな顔になる。
「・・・何で?」
「さあ?」
  ビクトールは首を傾げた。
「何でかは知らねえけど、とにかくああいうのを見たら必ず立ち見してるぜ。機嫌のいい時は立ち見しながら笑ってるな」
「・・・機嫌の悪い時は?」
「普通に立ち見してる」
「そうですか・・・」
 疑う視線をビクトールに投げていたリーダーは、やがて、大通りにでてぽかんと口を開けた。
 陽気な音楽と、歌って踊る芸人達を囲む人だかり。
 その後ろの方に見えるスラリと背の高い青い姿は。
「ほんとにいるんですねえ・・・」
 なんとなく気が抜けるリーダーである。
 芸人達の踊りを眺めるフリックは、遠目に見てもわかるくらい仏頂面だ。 まだ不機嫌そうだな、とビクトールは苦笑する。 やっぱ、朝の件が後を引いてんのかな・・・せっかく好きな大道芸を見てるんだし。機嫌が直るまで、ちょっとほっといてやるか。 と、そう考えるビクトール。
 踊りが終わって、軽快な音楽とともにジャグリングが始まり、そちらに目を向ける。
 すると。
「あの女の人、フリックさんの知り合いかな?」
呑気なリーダーの声。 見ると、いつの間にか、見知らぬ派手めの美女がフリックにしなだれかかっているではないか! ちょっと視線を逸らした隙に。いったい、いつ近づいたんだ。
  ビクトールはダッシュをかけた。
「いや、俺、用があるから」
 フリックは、邪険にならないように美人の腕を振り解こうと四苦八苦している。
「それなら先にその用につきあうわよ。それから私につきあって。一緒に町を見て回るくらいいいでしょ?ひとりじゃ楽しくないもの」
「連れがいるんだよ、俺は。はぐれただけで」
「はぐれた、って、こんなに大勢人がいるんだから今日はもう会えないに決まってるわよ。ねえ、一緒に歩くだけ。いいでしょ、ちょっとつきあってくれたっ て」
「別に、つきあう義理ねえだろ・・・」
「義理なんてひどいわ・・・勇気だして、声、かけたのに・・・そんなに私って嫌な女にみえるの?」
「あ・・・いや、別に、俺はそんなつもりで」
「フリック!!おまえ仕事ほっぽって何遊んでやがるんだ!!!」
 いきなりの大声にフリックと美女がぎょっと目を見開くと、そこには仁王立ちのビクトール。少しコワイ顔である。 がっ、と相棒の腕をつかんで乱暴に自分の傍に引き寄せると、いきなり、にこっ、と女に愛想のいい笑みを向ける。
「わりぃな、姉さん。こいつ仕事中なんだ。また誘ってくれな」
 そう言うやいなやまたコワイ顔に戻り、フリックの腕を掴んだままどかどかと歩きだす。 唖然して見送る美女からかなり離れたところまできて。
「おい、ビクトール、放せ!」
 引きずられるように歩きながら、フリックが慌てて声をかけるが。
「・・・ったくおまえは。見境なく女に声かけらるのはやめろ!」
ビクトールから返ってきた声は不機嫌そのもの。
「あっちが声かけてくるのを俺にどうしろってんだ!」
 聞きようによってはイヤミなセリフをフリックが怒鳴っていると、リーダーが息を切らせて走ってきた。
「まいるなあ、ビクトールさん、いきなり走り出すんだから・・・二人とも、また大人気なく喧嘩してるんですか?」
言われて、むっつりと不機嫌に黙ってしまうビクトールとフリックである。
「いいじゃないですか。フリックさんが見知らぬ綺麗な女の人に声かけられるくらい。見知らぬゴツイ男に肩抱かれでもする方がよっぽどイヤでしょ」
 う・・・そりゃまあそうかな・・・と考えるビクトールの横で、フリックがポロっと漏らす。
「いや、そっちの方は殴りつければいいから断然楽だった」
「おまえ、男にも声かけられやがったのか!」
「・・・だから、それは俺のせいじゃねえだろ!」
 再び痴話喧嘩を始めだしそうな二人に、リーダーが慌てて割ってはいる。
「ハイハイ、わかりましたから、もうそのヘンで。当初の目的に戻りましょう」
 フリックの方を向いて。
「お金が手元になくて、まだ全然買物してないんですよねえ、うちのチーム。もう今頃は、ナナミ達は半分はノルマをこなしてるんじゃないかと思うんですよ ねー」
「あ、そ、そうか・・・」
 はっ、とフリックは青ざめた。 そういえば、金は全部自分が預かっていたのだった。
 しまった、悪いことをした。
「・・・まずは買出しだな」
 まだ少し不機嫌そうに、ビクトールが頷く。
「そういうことです。さっきの雑貨屋で目星をつけた分があるから、戻って買っちゃいましょう」
 リーダーが言って。 ビクトールとリーダーの二人は雑貨屋に向けて歩き出した。
 しばらく進んで。
「・・・って、おい、フリック?」
「何してるんですか、置いていきますよ?」
 一緒に来ないフリックを怪訝に思い、二人が振り返ると。
 目に入ったのは、もといた所に立ち止まったまま、焦った様子で自分の身体をあちこちを探っている、顔色の悪いフリックの姿である。 硬直して、二人は、一気にフリックと同じくらい青ざめた。
 フリックの、その動作の意味するものは、もしかして。もしかしなくても。
「・・・・・・・・・フリック」
「・・・・・・・・・フリックさん、なに、してるんですか・・・?」
 不吉な予感に打ちのめされながらも、ビクトールとリーダーはぼそぼそと問いかける。
 そして、フリックから返ってきたのは、予想通りの。

「・・・金、がない・・・」


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<作者コメント>

第二話、一番楽しいポジションだったかも・・・
書き終わって考えてますが、もっとこう、無茶苦茶な伏線入れればよかったでしょうか(笑)?
大好きな書き手様方を困らせたいような、困らせたくないような!リレー小説、楽しいです。(順番終えるとより一層楽しいですv)