ビクトールが、還らない。

今回の出陣は少し大きいものだった。
撤退をして、本拠地に戻った後。
ビクトールの隊が行方不明だと聞かされた。

戦ではよくある事だ。
出て行った兵が戻らない事なんて。
けれど。
それがビクトールになるとは到底思えなかったから。
心配なんてしてなかった。
あの男なら、這いずってでもここに戻って来るのだと。
そう信じていたのだ。

ビクトールが、まだ、還らない。

自分が帰還してから、あと少しで一日が経つ。
心配なんかしていない。
眠れないのは、ただ、疲れが溜まっているからだ。
ここに、ビクトールがいないからではない。
あの男が死んでしまったと思うせいでは、決してない。



「よぉ、今帰ったぞ。」
3日振りに見た顔は、泥で汚れていたが、全然元気そうだった。
散々な目にあったと言って肩を鳴らすビクトールには、目立った傷は見当たらない。
「なぁ、ちったぁ心配したか?」
笑うビクトールが、自分を覗き込む。
返事をしようとして。
自然と腕が伸びた。
目の前の頭を抱え込む。
「心配なんか、する訳ないだろ。」
「冷てぇな、おい。」
腕の力が勝手に入って、尚強くビクトールを抱き締める。
「おいおい、折角生きて帰ったのに、絞め殺す気か?」
「お前なんか、殺したって死なねーだろ。」
心配なんてしてなかった。
けれど、ビクトールの顔を見て、泣きそうになるのはどうしてだろう。
存在を確かめたくて、腕の力が抜けないのはどうしてだろう。
「おいって、俺にちゃんと顔見せろよ。」
「うるさい。いいから、ちょっと黙ってろ。」



心配なんかしていない。
ただ。
ビクトールが還って来たのが、嬉しかった。
ただ、それだけだ。

                                         終。2002.05.14

さいこ様より、一周年(PC復活?)記念に、と戴きました〜!
なんか、凄くフリック嬉しそーなんですけどー!!
ああ、もう、ぎゅーってしてるのが羨ましいやら、見てて嬉しいやら〜
で、そんなカンジのお話がふつふつ沸いて来ました。
ちょっと暗かったですかね?
淡い色合いがまた…水彩ってほんといいですよねぇ。うっとり。
素敵なイラスト、有難う御座いましたv
これからもよろしくお付き合いお願い致します〜!


さいこさんのサイト


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