身体に圧し掛かる瓦礫を押し退けると、嘘のように晴れ渡った青い空が見えた。 雲一つない。 その代わり、という訳ではないが何処からか上がった火の手の煙が棚引いている。 丁度手頃な高さの、元城の一部だった塊りに腰を下ろした。 その衝撃で脇腹の矢傷から血が溢れるのに眉を顰める。 当然痛い。 熱を持ってじわりとこの身を苛んでいる。 けれど、そんな事はどうでもいいような気がした。 願いが、成就されたのだ。 自分の。 死んだ彼女の。 共に戦った仲間の。 沢山の人々の。 革命という名の、願いが。 巨悪の象徴とさえ思えた強大な城は、今はもう瓦礫の山でしかない。 今、この国は、ここから見えるあの空のように自由だ。 きっとこれから平和で、豊かな、温かい国になっていく事だろう。 そう、願いたい。 傷口から流れる血が止まらなくて、少し頭がぼんやりとする。 それでも自分は生きている。 本当は、死んでもいい、とさえ思っていた。 この願いが叶うものなら。 けれど。 『オデッサに会うのは、ちょっと早いからな』 あの言葉のままに。 彼女からの迎えは来なかった。 だとしたら自分は。 それに続けた誓いを守らなければならないのだろう。 『そいつはおれが彼女にふさわしい男になってからにしよう』 そのためにこれから生きていこう。 「おぉーい!フリックーーっ!!生きてるかあーーーっ?!!」 遠くから聞き覚えのある野太い声が聞こえてきた。 ビクトールだ。 一度別れたビクトールとは、リーダーを先に行かせた後再会した。 崩れゆく城で共に戦って。 その途中ではぐれたのだった。 いや、その言い方は正しくない。 怪我を負っていた自分の負担を軽くするため、わざと敵兵を誘き寄せて姿をくらましたのだ。 あいつらしいやり方だと思うと苦笑が洩れた。 「おおい…っ?!」 目の前にあった大きな障壁から大男が顔を覗かせた。 「よお、ちゃんと生きてるじゃねぇか!」 「お陰様でな…」 嬉しそうに笑った男の顔が目に入った。 それを見る自分の顔も笑っているかもしれない。 瓦礫を乗り越えてビクトールが側にやって来る。 あれだけの敵を相手にしながら、目立った傷は見当たらない。 その事にほっとした反面、己の状態を思い直して少し癪に思った。 顔を顰めた自分をどう思ったのか。 ビクトールは上から自分を眺めて溜息をひとつ吐いた。 「終わったな…」 「…ああ。」 自分を見ていた目が上がって、遠くを見据える。 同じように目線を合わせると、茫洋な世界が広がっていた。 その目は写るものとものと同じように、遠くを、そして未来を見ているのだろう。 そして思う。 このただっぴろい大地に埋め尽くすほどの瓦礫の山。 これは自分なのだと。 大事な、大切なものが壊れて転がっている。 そしてもう元には戻らない。 ここから立ち去るのも、ここにまた何かを築くのも自分次第なのだ。 「ところで、それ、大丈夫か?」 それ、と自分の血を流す傷を指してビクトールが言った。 「当たり前だ…こんな傷…」 「そうか。それじゃあよ、こんなトコに長居は無用だ。」 強がりが見抜かれているのだろう。 人の悪い顔になって、ビクトールは笑った。 そして、腕が伸ばされる。 「さあ、行こうぜ!」 力強い、手だ。 後ろから一陣の風が吹き抜ける。 それに背中を押された気分になって。 その手を掴むべく手を差し伸べた。 何もかもが、終わってしまった。 けれど。 ここから、また、はじまるのだと。 足元の瓦礫を踏みしめてそう思った。 終。2002.10.04 |
さいこ様のトコの「香葉庵」様の一周年企画にまんまと応募してリクエストさせて頂きましたー! お題は「青空と腐れ縁」でした。 1終了後ととても好きなシチュエーションな上に、風になびくマントとか、熊の逞しい腕とか! もー私の萌え所を痛いほど突いてくれています!! それに吹き抜ける風が爽やかで〜もうほんとにいいカンジです。 水彩も堪りませんな! ほんとにほんとに有難う御座いました! 大したお礼も出来なくて心苦しいと思いつつ…とりあえず暫くは幸せに浸りたいと(笑) |
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