医療講演会



      ベーチェット病の臨床と治療法について

                  聖マリアンゝ医科大学 坂根 剛先生


ベーチェット病の最近の傾向
 ベーチェット病は1937年、トルコのベ−チェット教授によって提唱された
病気で、口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、及び
外陰部潰瘍を主な症桃とする全身性の疾患で、急性炎症性発作を繰り
返しつゝ、慢性の経過をとる難治性の病気です。     
 元来この病気は、シルクロード沿いの諸国に多く、東洋には稀な疾患と
されていましたが、1950年後半から1960年代にかけてわが国でにわかに
増加しはじめ、現在では18.300人と世界で最も多い患者数が推定されて
います。わが国のベーチェット病の地域分布をみてみますと北高南低の
分布を示し、北海道では人口10万人に対して30人の発症が認められるの
に対し、福岡では10人余りで、べ一チェット病の発症に環境因子も絡んで
いることが窺えます。
 ベーチェット病では20歳代後半から40歳にかけての働き盛りの発病が多く、
また、病変に基づく失明率の高いことや、一部のベーチェット病にみられる
中枢神経や血管、消化器の病変による死亡が少なからず見られましたこと
から、医学的のみならず、社会的にも大きな関心を集め、1972年に厚生省は
ベーチェット病を特定疾患に指定しました。
1972年に行われた全国規模の実態調査と1984年及び1991年に行われた
ものを比べて見ますと、この20年間にベーチェット病患者は一貫して増加し
続けていることが分かります。また、一時期女性患者が増加しましたが、
最近では再び男性患者が増加する傾向にあること、4つの主症状、即ち
口腔粘膜、アフタ性潰瘍、皮膚、眼、外陰部潰瘍の全部がそろっている
ものを完全型、全部がそろっていないものを不全型ベーチェット病と呼んで
いますが、不全型の患者が増加していること、発病年齢も調査時年齢も
いずれも上昇していることが目立ちます。更に1984年には新しい患者の
発症が1.060人でしたが、1991年には925人と僅かですが減少しています。
また、過去1年間の臨床経過を遡って追跡して見まずと、1991年には
1972年に比較して改善または発作なしが大幅に増加し、悪化例が著しく
減少していました。これはおそらく治療の進歩が大きく頁献しているものと
考えられます。

ベーチェット病の主症状と副症状
 ベーチェット病にみられる症状には、発現頻度の高い主症状と、
関節炎を除いては発現頻度の低い副症状に分けることができます。
通常主症状が先行して副症状は後になって現われます。神経症状は
殊に遅く現われます。
1972年と1991年に全国規模で行われた調査を対比してみますと、
それぞれの症状の発現頻度は従来と大きな変化はありませんが、
ベーチェット病の診断の中で唯一の客観的な検査法である針反応の
陽性率が従来の75.1%から43.8%に減少しています。
 口腔粘膜のアフタ性潰瘍はベーチェット病の初発症眠であることが
圧倒的に多く、はぼ患者の全例に現われます。口唇、頬の粘膜、舌、
歯ぐきなどに辺縁が明瞭な円形の痛みを伴う潰瘍を形成します。潰瘍の
周囲には発赤を伴い、普通7日ないし10日間以内に傷あとを残さずに
治りますが、再発を繰り返します。
 皮膚症状もベーチェット病患者の90%の人に見られます。
ベーチェット病に見られます皮膚症状には、結節性紅斑、皮下の
血栓性静脈炎、毛嚢炎様皮疹、いわゆるニキビ様皮疹があります。
結節性紅斑と言いますのは、手足、特に足の膝の下の部分に多く現われ、
大きさは様々で、表面からの盛り上がりが少ない紅斑で、押さえますと、
圧痛のある硬いしこりとして触れます。ひとつひとつの皮疹は数日以内に
治りますが、再発を繰り返します。皮下の血栓性静脈炎は、手足の皮下
にロープのような紐状の圧痛のあるしこりとして触れます。毛嚢炎様皮疹、
痙瘡様皮疹は顔、首、特に毛の生え際、胸、背中などによく出来るニキビに
似た皮疹です。大きさは様々ですが、膿のたまったできものになり易い
傾向にあります。
毛の生え際に密集するのはベーチェット病の特徴です。
 ベーチェット病に特徴的な皮膚の過敏性の典型は針反応です。
清潔な針を軽く刺した皮膚の部位の発赤が次第に増して48時間後には
明らかな発赤や硬結を示し、時に中心に膿をもったできものを形成する
反応を針反応といいます。
 眼症状は典型的には前房蓄膿性の虹彩毛様体炎で前房内に膿が
たまり、膿による水平線の形成が見られます。しかし、虹彩毛様体炎に
とどまる軽症例は20%から25%で、多くは網膜も侵され、その時には
約40%は実用的視力を失うと言われています。眼のことに関する症状や
治療は、この後で小暮先生から詳しいお話があると思います。
 外陰部潰瘍は75%の患者に認められます。他の主症状は何回も
繰り返し現われることが特徴ですが、外陰部潰瘍の生じる回数は様々で、
経過中に一、二度しか起こらない例もあります。外陰部潰瘍は外陰部に
生ずるアフタに似た潰瘍ですが、口腔粘膜に生ずる潰瘍より深く、
辺縁も不整で、治るのに時間がかかり、傷あとを残すことが多いようです。
男性 では陰嚢に、また女性では大陰唇、小陰唇によく出来ます。
 副症状としては、関節炎、消化器症状、副こう丸炎、血管系症状、
中枢神経症状があげられます。これらの出現頻度は、関節炎以外は
多くありませんが、消化器、血管系、中枢神経系に病変をもつ
ベーチェット病は、生命に脅威をもたらし得る警戒すべき病型であり、
夫々を腸管型ベーチェット病、血管型べ一チェット病、神経ベーチェット病
と呼んで慎重な臨床的対応の必要性を強調しています。
 関節炎ないし関節痛はベーチェット病患者の半数以上に出現し、
膝、足、肘など主として大きな関節に何回も何回も現われます。
 消化器症状では多発性の潰瘍が特徴的で、時に出血や穿孔を起こして
重篤になることがありますので注意が必要です。このような多発性潰瘍は
回腸や盲腸に最も多く出現し、次いで上行結腸や横行結腸の部分に多く
見られます。
 血管系症状は大動脈や大静脈など大きな血管に閉塞や瘤を生じた結果、
脈なし症状や脳循環障害が起こって中枢神経症状が現われたり、
腎性高血圧症が出て来たりします。
 中枢神経症状は神経ベーチェット病と呼ばれ、べ一チェット病を発症した後、
数年以上経過して発現することが多く、数ある症状の中で最も遅く現われて
きます。難治性であり、経過と共に重篤になる傾向があります。
初期の症状は、手足の動きが不自由になるなどの中枢性運動麻痺と
性格変化などの精神症状であり、頭痛や歩きにくい、物が二重に見えるなどの
脳幹症状を伴うこともあります。経過と共に脳幹症状の頻度や重症度も
高くなります。

臨床所見と検査所見
 以上がべ一チェット病に見られる主な臨床症状ですが、現在のところ例えば
このような検査が陽性に出ればベーチェット病であるというような特徴的な
検査はありません。従って診断はもっぱら臨床症状の組み合わせによって
行われています。臨床症状の他に、家族歴では家族内の発症は2%と
多くはありませんが、家族内にしばしば口腔内アフタを有する者が多いと
いうことは参考になりますし、発症年齢が20歳代後半から40歳位であることも
参考になります。
 検査所見は診断上参考にするにとどめられていますが、診断基準の軽い
例に対しては検査所見は参考になりますし、他の病気との区別を行うときにも
大切になります。検査の中で最も重要なのは患者の皮膚の過敏性を反映する
針反応であり、最近では43.8%の患者にしか認められませんが、症状とは
違って唯一つの主観の入らない検査で、日常診療で簡単に出来る検査です。
 その他、診断上の参考となる検査手段としては、HLA抗原系の検査と免疫グ
ロプリンの測定があります。HLA抗原系のうちB51陽性率は健常人の約10%に
比べて、べ−チェット病の患者では50%ないし60%と高率に認められ、しかもこ
れは人種や国をこえて認められまず。免疫グロプリンについては、IgD、IgA
がしばしば増加します。IgDの増量の意味は不明ですが、活動性の症例に認
められることが多く、また他の疾患ではTgDの増加は滅多に見られません
ので診断上の参考になります。
 この他、べ−チェット病にだけ見られるわけではありませんが、急性炎症反応
を反映する血清CRP陽性や末梢血白血球数の増加、赤沈値の亢進が
見られれば、病勢の診断に有用で、活動性ということになりますし、現われた
症状を見て活動性のベーチェット病が疑われましても、CRPが陰性で白血球も
増加していない、赤沈値も亢進していないとなれば、ベーチェット病以外の
病気を考慮する必要があります。このように臨床所見と検査所見を詳細に
解析して、これら所見をべ−チェット病の診断基準にあてはめて診断を下す
わけです。

ベーチェット病の診断基準
 このスライドが二度の改定を経て1987年に厚生省ベーチェット病調査研究班
が提唱した臨休診断基準です。1972年には4主症状のみに発言権があり、
診断はもっぱら主症状の組み合わせによって行われ、4つの主症状のすべて
を認めたものを完全型、1主症状を欠く例を不全型としていました。しかし現在
では、副症状にも、1点でなく0・5点ですが、診断への発言権が与えられ、
2つの副症状をもって1つの主症状に代えることが出来ます。
 また、1990年にはInternational Study Groupによってベーチェット病国際
診断基準が作成きれました。この国際基準では12か月間に少なくとも3回の
口腔内アフタが出現することを必須項目とし、これに陰部潰瘍、眼症状、
皮膚症状、針反応の4項目のうち2項目を満たせばベーチェット病と診断
出来るとしています。

べ一チェット病の治療方針
 べーチェット病の治療方針は一つは生命の危険を伴うものであるか、
一つは生命に危険はないが重大な後遭症を残す可能性があるか、一つは
後遺症も少なく、日常生活への影響もさはどでない病状であるかによって
基本方針を決めます。
生命の予後に影響するものとして、まず神経べ一チェット病があげられます。
この場合は副腎皮質ステロイドの大童投与が行われます。
 また、血管ベーチェット病には病変部位によって外科的処置を行ったり、
副腎皮質ステロイドなどの使用を行います。
 更に腸管べ一チェット病に対しては外科的処置の適応を考慮しながら、
サラゾピリン、スーパーオキサイドジスムターゼ、短期の副腎皮質ステロイドの
使用による内科的治療を行います。        −
 次に、著明な機能障害の予測されるものとして眼病変があります。
眼発作に対しては散瞳剤や副腎皮質ステロイドの局所使用を行います。
また、眼底病変の再発の予防として、コルヒチンやシクロスポリンの有用性
が認められています。
この点に関しては小暮先生より詳しくご説明があると思います。生命に影響が
なくまた、機能障害を残さない口腔粘膜や陰部のアフタ、皮膚の結節性紅斑、
毛嚢炎様皮疹、関節症状に対しては塗り薬を主体にして、必要に応じて
非ステロイド性消炎剤が用いられています。

HLA−B51遺伝子と好中球の働き
 ベーチェット病の急性炎症の場で常こ主役を果たしているのは、好中球という
白血球です。本来、好中球は細菌が体内に侵入しますと、その侵入した場所に
走って行って、細菌を食べ、細菌を殺す様々な物質を出して効率よく殺菌する
働きをしています。言い換えますと、好中球は生体防御の最前線に位置して、
我々の体を守っているわけです。ベーチェット病ではこの好中球が働き過ぎて、
本来は体を守るために作られる様々な物質がむしろ組織を傷つけ、
ベーチェット病を引き起こします。
 それではベーチェット病では何故、好中球が働き過ぎるのか、その原因に
ついてはよく分かっていません。我々はベーチェット病にHLA−B51陽性率が
高いことに眼をつけて、好中球の働き過ぎとHLA−B51の遺伝子との関係を
調べて見ました。ヒトのHLA−B51遺伝子をマウスに埋め込みますと、
正常マウスや他のHLA遺伝子を埋め込んだマウスでは、そのマウスの
好中球を刺激しても細菌を殺す働きのある活性酸素が全く作られない
のに対して、HLA−B51を埋め込んだマウスの好中球を刺激しますと、
活性酸素が活発につくられることが分かりました。このようにHLA−B51
遺伝子が好中球の働きをコントロールしていることが分かりました。

べ一チェット病の原因は?
 ベ−チェット病の原因に細菌やウイルスが考えられています。我々は細菌や
ウイルスに限らず、下等動物からヒトのような高等動物に至るまで種を超えて
広く存在してしている熱ショック蛋白に着目し、おそらくは熱ショック蛋白に反応
したリンパ球が好中球の働きを活発にさせる物質を作り出し、これが病気の
原因ではないかと考えたわけです。
 そこで熱ショック蛋白をばらばらにしてペプチドという10ないし15個からなる
アミノ酸に分解して試験管の中でリンパ球を刺激しますと、ものの見事に
ベーチェット病のリンパ球だけが、特に眼に症状をもつべ−チェット病患者の
リンパ球だけが熱ショック蛋白のペプチドに反応して、好中球を活発にさせる
物質を作り出したのです。
現在まで分かっているべ一チェット病の原因をまとめますと、生物界に広く存
在する熱ショック蛋白によって、ベーチェット病患者のリンパ球は活発に働くよ
うになり、この活発になったリンパ球は、自己の熱ショック蛋白や、微生物の熱
ショック蛋白によって更に勢いが増し、好中球を働かせる物質を沢山作って、
その結果、特にHLA−B51を持つ患者では症状の激しいべ一チェット病が
起こるのではないかと考えています。
 このようにべ一チェット病は人から人へ移る感染症でもなければ、子供に
遺伝する遺伝病でもなく、体質と環境因子、年齢など病気になる条件が
たまたま全てそろったときに発症すると考えています。ここまでベーチェット病が
分かってきますと、原因を考慮した治療法の確立が急がれます。
 これまでの成績を基本にしたベーチェット病治療の展望は、このスライドのよ
うになります。本当の意味でのベーチェット病の治療法が一日も早く確立できる
ょぅに我々も努力していくことをお約束して私の講演を終ります。     以上


内科から見たベ−チェット病

                             三木知博先生  大阪逓信病院第1内科

 逓信病院の内科におります三木と申します。最初から言い
訳になってしまいますが、お役に立てるお話しが出来るか
どうかいささか不安に思っております。5年前に当時の班長
でした坂根先生とこちらへお伺いしました。その時皆さんが
非常によく勉強しておられまして、質問をうけたこちらがどう
しようかと思う事もありました。
 私自身大阪に帰りまして、西上さんから、ベーチェット病に
ついて話をしてほしいと御依頼頂きました。本日は
   「内科から見たベーチェット病について」、
少しお話したいと思います。
 おみかけしましたところ、私の患者さんの御家族の方もおられます。
病院の外来はなかなか忙しく日頃十分お話出来ませんので、この機会に
丁度お話できるとも思っています。知っておられる方には、繰り返しに
なりますが、お話をはじめさせて頂きます。

   ◇ベーチェット病の特徴


 ベーチェット病は、1937年にトルコのベーチェットと云う先生が、いろんな
症状をくりかえす病気にベーチェット病と名前をつけたのが始まりです。
この病気は、御存知のように、過敏性がありいろいろな臓器に影響を及ぽすと
いうこと。それから、再燃といって、何回も繰り返すということ。これが特徴です。
 この病気には地域性があります。シルクロードの周辺と申しますか、丁度
トルコからず一っと中国を通ってくるシルクロードに沿って帯状の地域に患者
さんが多いと云う事です。海外でもヨーロッパやアメリカには患者さんは少ない
といわれています。それ故に診断や治療については日本が進んでいるといえ
ば進んでいると思います。次に日本の中でも地理的に、北の方が多くて南の方
が少なく、北海道は、九州の3倍位の患者さんがおられます。
 病気由体の持っている特徴ですが、例えば遺伝、この前阪大の吉崎先生が
お話された時も遺伝性の疾患かどうかと云う事を、たずねておられましたけれ
ども、確かに家族内発症は2〜3%あるといわれています。しかしそれ以外
にも、気候とか環境因子というものがそれに何らかの修飾をしているのでは
ないかと考えられています。
1972年にベーチェット病を厚生省が特定疾患に指定し、医療費補助がはじ
まりました。皆様もご承知と思いますが、国の医療に対する方針の大きな転換
があり、来年以降どうなるかが、大変問題となっています。何故この病気が
特定疾患に指定されたかと云う事ですが、再発をしつつ、徐々に病気が進ん
で行って、尚且つ、初発症状の再発性のロ腔内アフタだけでなくて、眼の症状
であるとか、腸管型、神経型、血管型という特殊型ベーチェットもあり、これらに
より失明される方、腸の穿孔をおこしたり、動脈瘤をつくったり、治りにくい上に
QOLの低下をきたしたり、命にかかわる事があるからです。疫学調査により
ますと、いまだに年間1000名弱の方が新しく発症しておられます。
提唱されて60年になる病気ですが、なくなっている訳でもなければ、そう
減っている訳でもありません。
 最近の病態では、発症される方の年齢が少し上がってきています。発症平均
年鈴は1972年の統計ですと、32〜33歳でしたが、最近では35戴から36歳
になっています。

      ◇診断基準


 ベーチェット病には、診断基準があります。患者さんにお話しますと
「先生、診断基準があるのはいいですね、考えなくても診断基準にあてはめ
たらいい」って言われますが、診断基準というのは、いかに病気が診断しにくい
かと云う事の裏返しなんです。例えば、心筋梗塞という心臓の血管がつまる
病気があります。これは、心電図や、血液の中の酵素の検査をすれば、
心筋梗塞を起こしたかどうかわかります。ところがベーチェット病だけでなく、
膠原病といわれる慢性関節リウマチや、全身性ユリマトーデスとかいう病気は
診断基準がみんなあります。これは、診断をつけにくい病気だからです。
 つまり血液の検査をしてこの結果が出たらベーチェット病と云える検査は
ありません。症状をとってみても、例えば、口腔内アフタはよく出来ますが、
アフタが出来たらベーチェット病かと云うと、アフタが出来る病気は他にも
あります。腸に潰瘍が出来た場合、先程この会場で御自分のお薬を出して
みておられる方がいらっしゃって、ペンタサという薬ですが、この薬は、腸管型
ベーチェットにも使うんですけれど、他に潰瘍性大腸炎という病気があります
が、この病気にも使います。この様に、腸に潰瘍が出来たらベーチェット病か
というとそうもいえません。そういう事で、症状や検査を組み合わせて
ベーチェット病であるとか、ベーチェット病が疑わしいということを診断していく
訳です。
 さて症状にはいろいろなものがあります。一番有名なのが口の中の再発性
のアフタ性潰瘍ですね。それから外陰部潰瘍。そして結節性の紅斑とか、
毛嚢炎様皮疹とかいわれる皮膚症状ですね。湯浅先生に詳しくお話頂けると
思いますが、虹彩毛様体炎といった眼の症状があります。これらが4つそろっ
たものを完全型といいます。
 4つではなくて、3つとかそれ以下の場合を不完全型といいます。4症状
揃った完全型ベーチェット病は減ってきているといわれています。1972年に
37%の方が完全型であったものが、最近は、30%を切るくらいです。
 それから一時期女性患者さんが増えていたのですが、また、最近では、ほぼ
男女比は同じです。男性の方には申し訳ないのですが、一般的に女性の方の
ほうが病気としては、粘膜、皮膚症状、つまり口内炎とか結節性紅斑と云った
、軽症例が多いのですが、男性の場合、内臓障害のような重篤な場合が多い。
もちろん統計と云うのは平均した数字しか出ませんから、女性でも重症の方も
おられます。
 診断基準というのは、1972年特定疾患に認定された時に作られました。
15年後に改訂されまして現在
87年の改訂版を基準にして診断しております。
それ以外に、1990年に国際診断基準もつくられておりますが、私どもは
87年の診断基準を使っております。
 先ほど申しました類似疾患の潰瘍性大腸炎も色々な症状のでる腸の病気
で、下血をしたり、下痢をしたり、お腹が痛くなったり、それで調べてみたら、
潰瘍性大腸炎という事があります。この病気以外にもクローン病も、同じ様に、
ベーチェット病の主症状を発現することもあります。それでベーチェット病と
考える為にはと云うのはおかしいですが、大事な事は再発傾向が強いこと、
一回きりで治まってしまった場合まずベーチェット病ではないといえます。
それから、炎症所見ですね。炎症というのは、風邪をひいた時に、喉が「痛く」
なり、「赤く」なって「腫れ」て、「熱」をもつ。そういう色々な症状のことです。
この炎症所見はベーチェット病の病勢が強くなるとでてきます。検査では
例えば、血沈・CRP・フイブリノーゲンといった検査が上昇します。炎症を繰り
返すことは一つの診断の根拠となります。



    ◇主症状と副症状

 症状について少し詳しくご説明します。これには主症状と副症状とがあり
ます。出現頻度が高いのが主症状で頻度が低いのが副症状と云う事です。
大体先行するのは主症状で、副症状は遅れて出てくる場合が多いといわれま
す。その主症状には4つあります。 ロの中の再発性のアフタ性潰瘍、それ
から、皮膚症状です。これには結節性紅斑などがあります。それから、眼の
症状.それから、外陰部潰瘍。副症状としてはまず関節の痛みとか腫れ、
それから、男性の場合ですけれども副睾丸炎、消化器症状、血管の症状、
次に中枢神経の症状、その5つです。この組み合わせで診断します。先程申し
ました様に、完全型、これは今言った主症状の4つが病気の経過中に一度に
まとまってでなくとも、すべて出現する場合です。それから不全型。これは
3つの主症状があるか、2つの主症状と2つの副症状、定型的眼症状とその
他の1症状、もしくは2副症状が出現したものをいいます。ややこしい組み合わ
せなので混乱しそうですが、これで完全型か不全型と判断します。

 先程申しました4つの主症状の出る完全型が最近は減って釆ています。日
本の診断基準は、眼の症状をかなり重要視しています。それ以外に特殊病型
と云う事で、腸管ベーチェット、血管型ベーチェット、それから中枢神経の
ベーチェットがあります。
 各症状についてお話します。まず口腔粘膜の潰瘍は、浅くて境界鮮明
な有痛性潰瘍で口唇とか歯肉、舌などに出来る潰瘍ですね。これは大体
95%から100%出現します。最初の症状となる事が多いです。これが再
発します。皮膚症状としては大体3つありまして結節性紅斑、血栓性静脈
炎、毛嚢炎様皮疹です。下腿によくでますが丘状に隆起してかたくなり、押
さえると痛い。それが結節性の紅斑です。それから血栓性の静脈炎というの
は、皮膚の下の静脈が紐状になりまして押えると痛みがでます。それから毛
嚢炎様皮疹ですね。皆さん方の顔に出るニキビ、そういったものが皮膚に出
てくる場合、皮膚症状は大体85%〜90%の方に出ると言われています。
眼の症状ですけれどもこれは前眼部と後眼部に分けておりますが、湯浅先生
の御専門ですので、のちほどお聞き下さい。外陰部潰瘍というのは大体7割
位の方に出現します。男性の場合は陰嚢、女性の場合は大陰唇とか小陰唇に
でますが、深くなったものでは痕が残ってひきつれたりしますので、割と
診断には投に立つと云われています。これが主症状の4つですね。
 次に5つの副症状ですけれども、副症状の第1に出るのは、関節炎、これ
が大体5割から6割位出現するといわれており、副症状の中で一番頻度が高
い様です。大きな関節に痛みが釆て、腫れて痛みがあって赤くなったりする
場合があります。リウマチも関節が痛みますが、リウマチは変形して釆ます
が、ベーチェットの関節炎は変形がないというのが、一つの特徴と云われて
います。それから副睾丸灸、これも数日間で癒るんですけれど睾丸が腫れて
痛みが出現します。頻度は6%位で低いのですが、特異佳が高く、これがあ
るとベーチェット病がかなり疑わしいと考えられます。それから、消化器の
病変ですね。小腸と大腸の継ぎ目のところ回腸とか盲腸とかいいますけれ
ど、このあたりに多発性の深い潰瘍が出来ます。出血・腹痛とか下血をおこ
したり、腸に穴があいて、腹膜灸を起こして緊急手術をしなければいけない
場合もあります。一般的にこの部分が多いのですが他の消化管に出ることも
あります。次は、血管病変ですが、これは血栓が出来たり、動脈瘤、要する
に動脈のところが嚢状・袋状に外へ隆起して出てきます。症状としては、脈
が触れにくいとか、血栓が出来て詰ってしまうと指の先が壊死を起こしたり
します。例えば、腎臓の血管がこういうことをおこして血流の流れが悪くな
ると、腎臓が血液を欲しいと云うこと
で、血圧が上がることもあります。
中枢性の神経病変というのが副症状の最後にありますが、これは遅発性、
割と遅く出ます。男性に多い。これも良くなったり、悪くなったり、ベーチェットの
特赦なんですが、段々進行して行って性格が変ったり、運動麻痺が起こったり
とか時には、髄膜刺激症状という、頭痛・吐気があって、項部硬直といいまし
て首のところが固くなることがあります。
 診断の補助としてはHLAという、白血球の血液型と考えて碩いていいので
すが、その中でベーチェット病の方はHLA B−51というのを半分近くの方が
持っています。それから、我々を病気から守る働きをします免疫グロプリンと
いうものがあります。その中にIgDというのがあり、これはあまり上がる病気は
ないのですが、ベーチェット病ではでは上昇することがあると云われています。


   ◇ベ−チェット病の治療

 治療についてですが、時間もあまりありませんので簡単にお話します。まず
患者さんの病気の状態を3つに分ける。

   第1には粘膜障害のみの場合、私も良く口内炎が出来ますが薔油なんか
 が当ったらとても痛いですね。でもこれは命にはかかわりません。放っておい
 ても治ることもあります。粘膜とか皮膚の病気ですね。結節性紅斑も痛いし、
 ひどい紅斑で潰瘍が出来た場合は別として小さい紅斑であれば命にはかか
 わりません。
   2番目は眼の障害、これは命にはかかわらないが失明という事がおこり
 ます。ベーチェット病と云うのは後天的な失明のトップになる病気です。失明
 は、いちじるしくQOLを低下させます。
   3番目は先程云いました命にかかわる、生命の危険を伴う様な特珠型の
 病気、この3つに分けて考える訳です。

 今言った再発性のアフタや皮膚症状
には、外用のステロイド軟膏とか内服薬
で例えばコルヒチンを使います。私自身、最近べ一チェット病の方に、
エパデールという薬、エイコサペンタエン酸を使っています。動脈が閉塞して
いる方に効いたりコレステロールが高い方に効く薬です。魚の油が入っていま
すが、ある患者さんがこのカプセルを噛んでみたら魚市場の匂いがすると
言っておられました。この薬はあまり副作用もないし、ベーチェット病で炎症
症状がある方に服用してもらっています。生命の危険もないし重大な後遺症
もない場合は私共はなるべく薬としては副作用が少ない薬を使って行く様に
考えています。
 あと、関節が痛いという場合、痛み止めを用います。痛み止めも2種類あり
まして、プレドニンとかリンデロンというステロイド剤と、ステロイド以外の痛み
止めがあります。これを非ステロイド性抗炎症剤といいます。皆さんが知って
いらっしゃるものではボルタレンとかインダシンなどがあります。飲み薬や座薬
で関節の痛みなどの症状をとる様にします。
 後遭症を残す眼の病気の場合。特に眼底に病気がおよぶ場合はコルヒチン
からサイクロフォスファマイドそしてシクロスポリンという免疫抑制剤を用います
が、眼科のことは湯浅先生にお願いします。
 内科として、重要なのは腸管型、血管型、神経型です。これはもう副腎皮質
ホルモンに頼るしかありません。これを大量に投与します。腸管型は、さっき言
いましたサラゾピリン・ペンタサという薬を使って治療する。穿孔しそうな場合
には外科的な治療をしなければならないこともあります。「大腸は短いから、
何度も手術できないんでしょう」と言われたんですが、小腸は長いんですよね。
ところが大腸は短いんですね。それにベーチェット病は再発しやすい。大腸に
出来た場合、何度も何度も切れませんから、基本的には補助的療法で行きま
す。なるべく手術をしない様にして、どうしても出血するとか、穿孔する場合、
手術と云うことになります。血管型の場合、グラフトといって、血管再生手術を
する場合があります。それ以外にも抗血小板剤、血を固まりにくくするとか血栓
が出来にくくする薬を飲んで頂く場合があります。
 神経ベーチェットと云うのは診断も非常に難しいんですけれども、診断がつけ
ばかなり大量のステロイド、例えばステロイドはプレドニンと云うのが大体
1錠5mgなんですが、20錠とかもっと大量に、使う場合があります。そして
減量して維持量をみつけます。
 長くなって申し訳ないんですが、遺伝のこと、皆さん方、心配されている方が
あると思いますが、2〜3%家族内発症はあると言われ、遺伝的素因が関係
していないことはありませんが、
100人で2人位あるかないかということで、
あまり神経質に御自身がベーチェット病であるからといって、子供さんのこと
を、ベーチェットということで気にする必要はありません。むしろ治療のなかで、
免疫抑制剤を飲んだことによって女性の場合は妊娠される際には、用心して
頂かないといけないということはあると思います。病気の状態とかそういう事に
関しては、皆さん方がかかっていらっしゃる主治医の先生によく御相談なさって
下さい。


   ◇ストレスをためないように

 皆さん方に知っておいて頂きたいのは、色々なストレスありますよね。
ストレスがかかると病気が急に悪くなる方が沢山いらっしゃいます。例えば
職場でリストラがあって出向して下さいといわれた途端に悪くなる方とか、
結婚を契機に悪くなるとか、結婚がストレスになるのはちょっと相手の方に申し
訳ないんですが。また、天候が悪くなる時とか、例えば寒冷地へ行ったとき、
それから徹夜をした時とか、季節の変化によっておこることもあります。
そういう時には、休養をとることと、ストレスをためないと云うこと、これは昔から
言われていることなんですけど大切です。再発させない為には出来るだけ
ストレスをためない。こんな時代で難しいと思いますが、これもひとつ病気を
再燃させない為に大切です。頂いたお時間をかなり延長してしまって申し訳
なかったんですが、これで終わります。どうも有り難うございました。