眼科から見たベ−チェット病について

           東京女子医科大学眼科教授  木檜美津子先生



眼の炎症はどこに起こる

 ベーチェット病の眼症状はブドウ膜炎です。眼の中の虹彩と毛様体と脈絡膜、
これを合わせてブドウ膜といいます。ベーチェット病の眼の症状はこの3つとま
わりの組織に炎症がくり返しくり返しおこります。脈絡膜と網膜は解剖学的に
密接に近い位置にあります。網膜に炎症がおきますと後にある脈絡膜にも
炎症がおよびこの逆もあります。
 図1は、眼の中で炎症が起きるところを示しました。先ず、眼の前の方から
角膜があって虹彩があり、毛様体があって、その続きが脈絡膜です。
虹彩と毛様体の炎症では手前にある前房水に炎症性の細胞その他が
出てきます。毛様体の後ろの硝子体中にも炎症が広がります。後の方の網膜、
脈絡膜の炎症も硝子体中に炎症産物が出てきます。よく皆さんが硝子体混濁
があってなかなか引かないから視力が出ないとか、網膜の一番大事なところに
炎症が起ったため視力が回復しないという説明を聞かれたことがあると
思いますが、この虹彩・毛様体を境にして前の方の炎症を前部ブドウ膜炎
といい、うしろの炎症を後部ブドウ膜炎と言います。後部ブドウ膜には
網膜といって物を見る大事な細胞(視細胞)がありますので、この部分に
炎症がおこりますと視力が低下してきます。これを眼底型と呼んでいます。
前部ブドウ膜だけに炎症の起こるタイプは前眼部型と呼ばれ視力低下は
殆どなく、副作用の多いコルヒチンとかシクロスポリンは使わなくてすみます。


   

◆眼症状が重要視される理由

 眼症状がなぜ重要視されるかといいますと、それは4主要症状の一つで70%位
の人にあらわれ失明率が高く、30代、40代の働き盛りに起こるからです。男性で
あれば結婚して、奥さんもいて、子供さんもいる、家族を養っていかなければな
らない、そういう年齢層の人がかかるからです。特に眼底型の人は視力が低下し
て、働けなくなってしまう、年中繰り返し発作が起きるので治療のため働きたく
ても働きに行けない、おまけに経過が非常に長い、眼症状が起きてから大体落ち
つくまでに10年位かかります。そういった訳で眼症状は非常に重要視されていま
す。
◆眼はいつ、どれ位の割合で起るか
 では、眼症状が4つの主症状の中で何番目位に出てくるかといいますと比較的
遅くあらわれます。アフタや皮膚症状が早くあらわれ、男性の場合もアフタから
始まる人が90%位です。そして、男女共に皮膚症状が2番目、男性が比較的早く
から眼の症状があらわれますが、女性に比べると陰部潰瘍が出ない人が多い
ようです。女性は眼症状が、最後の症状となる人が比較的多いようです。
初発症状が出て眼に症状が出るまでに大体5〜6年かかります。眼は最後に近い
症状であるということになります。
 次に眼症状の出現頻度ですが、全国調査によりますと大体50〜60%の人に出て
きます。私のところは眼科ですから眼の悪い人が来ますので85%位、眼症状を欠
く、いわゆる不全型と言われる眼に全く症状の出ない人が15%位おります。この
眼症状を欠く不全型のうち60%位が女性で占められています。前眼部型の70%位
は女性ですから、女性は眼の症状が出ても比較的軽くてすむ方が多いことになり
ます。次に眼症状があらわれても中には片眼だけで終わる方もいますが、80%以
上の人が1年以内に両眼性になり1〜2年の間に90%以上の人が両眼性になりま
す。この両眼性であることが時には非常に悲惨な結果をもたらします。

◆眼科医にも眼以外の症状を申告

 べ一チェット病の診断はごく臨床的になされます。例えば検査をしてこれが陽
性であるからべ一チェット病と診断できるそのような検査はありません。そいう
意味で皆様方の中にもベーチェット病らしい疑いはあるけれどもと診断された方
もおられると思いますが、長い経過でやっと診断のつく場合もあります。先程、
眼症状は終わりの頃に起る症状だと申しましたが、眼症状がアフタの次にくる方
もおります。そうすると他の症状が出てくるまで、症状が極めてべ一チェット病
に近いからべ一チェットではないかと凝いながら診ておられるはずです。ですか
ら診てくださる眼科の先生には眼だけではなく、今日はアフタが出ました、陰部
潰瘍が出ています、関節も痛くなっていますというように、毎回先生にことこま
かく眼以外の症状についても申告された方が良いと思います。眼科医はべ一チェッ
トの眼だけを診ているのではなく、全体的に診ようとしておりますので、そのつ
どおっしゃっていただくことが医者と患者との信頼関係につながるのではないか
と思います。                     l

◆眼発作とはどんな感じ

 次に眼の発作が起きた時、どんな感じがするかということについてお話したい
と思います。いわゆる自覚症状ですね。これがあったら眼科医に珍てもらった方
が良いという症状です。初めての方は特に心配なさるようです。眼の症状はまだ
出ていないけれど眼の症状ってどんなだろうと、いろいろお悩みになる方がある
ようです。
 先ず、眼の充血ですね。多少の充血は朝起きた時は誰にでもあります。そうで
はなくて一日中ずっと眼が赤かったり、かすんで見えたりした時は眼科に行かれ
た方がいいと思います。片方ずつ眼を手でかくして左右の眼の見え方を較べてみ
るのも良いと思います。あとは痛みであるとか、涙っぽい、まぶしい、これは眼
の中の炎症細胞に光があたり乱反射してそのような感じがするのです。炎症で眼
内に炎症細胞が出たり、そのために網膜がはれたりしますと障害物となって物が
見えなくなる、かすむとか、ゆがんだ感じがします。眼の中で虫が飛ぶように感
じる飛蚊症、こういった症状があった時は眼科で診てもらって下さい。


眼症状には2つのタイプがある(表1)

 私たちは前眼部型、眼底型と略して言っていますが、前眼部型というのは
虹彩と毛様体の炎症の繰り返しで眼底には炎症が出ないタイプをさし、
眼底に出血や浸出斑、血管炎などいろいろな変化を起こすのを眼底型と
言います。これは正確には網脈絡膜炎型と言われますが、このタイプは
視力の予後が悪くて病気の勢いが強かったり手当が悪いと失明につながる
こともありまず。
 眼底型では虹彩毛様体炎もおこります。この眼底型は男性に多い
のですが、女性でも眼底型の方は男性と同じような経過をたどります。
前眼部型と眼底型の違いをお話しましたが、御自分の眼の予後を判断する
基準になりますので自分がどちらの眼のタイプであるかは知っておいた方が
良いと思います。
 最初は前眼郎型でも、途中で眼底型に移行する方もおられます。
眼が発症して5年間、眼底に何も炎症が起きない、変化の起きない方は
前眼郡型と思って差し支えないと思います。次に眼病型とその視力予後
ですが、前眼部型では5年経っても90%以上の人が0.5以上の視力を
保っていますが、眼底型では0.1以下となり、0.5以上保っているのは
半分までいかないですね。このように眼病型によって非常に視力予後に
大きな格差があります。

                  (表1)眼病型と炎症の起こる部位

  前眼部型 眼底型
虹彩毛様体炎(前部ぶどう膜炎)
眼底に出血や白斑・血管炎など ×


眼病型によって治療法が違う(表2)

 眼底型の場合は炎症を何度も何度も10年近くにおよび繰り返し起こします。
前眼部型では最初の間は発作を繰り返しますが、そのうち間隔があき、
ついにはあまり起きなくなってしまいます。前眼部型は視力の予後が良いと
いっても発作のつど適切な治療をしないと虹彩がうしろの水晶体と癒着して
しまったりします。そうすると白内障をおこしたり眼圧が高くなったり、いろいろ
な合併症が起こることになります。前眼部型の人でも炎症が起きたらすぐに
眼科医のところへ行かなければなりません。前眼郡型は発作が起きた時
だけ点眼をしたり、場合によっては球結膜下注射が必要な時もあります。
ところが眼発作を起きないように抑えるための薬(眼再発抑制薬)は一切
必要ありません。
 眼科的な立場から申し上げますと、シクロスポリンであるとか、コルヒチンで
あるとかの副作用の強い薬で発作回数を減らす努力をしなくても、発作のつど
適切な消炎治療を行えば、生涯よい視力を保っことができるわけです。
ところが眼底型は発作を繰り返し起こしている間についには回復不可能な
視力低下をまねきますので、発作の時の眼局所の消炎療法にとどまらず
発作を起こさないようにする、そういった薬の併用が必要になってきます。

                       (表2)治療法の違い

治療 前眼部型 眼底型
眼局所療法
眼再発抑制薬内服療法 ×


眼症状の実際

 実際に眼の所見についてお示ししたいと思います。
先ず、前房に出てきた炎症細胞を生体顕微鏡で検査しますと、その殆ど99%
近くが白血球です。その後の経過で今度はリンパ球が増えてきます。
この前房蓄膿は白血球が重力で眼の下の方におりてきてたまったものです。
前房蓄膿は前眼部型にはあまり起きません。眼底型の方で、しかも活動性の
高い、病気の勢いの強いときに起きます。前房蓄膿を起こすのは圧倒的に
眼底型に多くて、その時には眼底にもひどい変化が起きているものです。
虹彩が癒着したりしますと、その後に綜内障や白内障が起きやすくなります。
これを普通の綜内陣や老人性の白内障と区別する意味から続発綜内障、
併発白内障と言っています。
 次に眼底の変化についてお話します。
 先ずこれは正常な網膜ですが、この色をよく見ておいてください。この色が
炎症を繰り返している内に全く違った色に変わってきます。最初の内は
このように出血や浸出斑が数個見られる程度の軽い炎症ですが、炎症が
繰り返されていくうちにどんどん網膜の色が混濁し、視力が低下していきます。
網膜の血管にも変化があらわれます。血管型のべ一チェットと同じで、
先ず静脈が侵されます。出血や浸出斑があらわれ、血管閉塞による広範囲の
出血もおこします。このような炎症を繰り返すうちに硝子体に出てきた
炎症細胞が硝子体混濁として残るようになります。視神経にも変化が
起きてきます。重症な方は網膜剥離を起こして失明に至ることもあります。
このように眼底の病気で起こる症状の殆どがベーチェット病では起きて
しまうわけです。末期には視神経の色が悪くなり萎縮してしまい血管が
白線化する、物をみるのに一番大事な黄斑部に変化がおこると視力は極度に
低下してしまいます。こういったことが起きないように日頃からいろいろな治療
が行われます。

眼症治療の基本(表3・表4)

 治療の基本は先ず発作が起きたら、すぐに消炎をしなければなりません。
これは前眼部型でも眼底型でも同じです。次に眼底型の場合には発作の
再発を抑える薬を使わなければなりません。発作が起きた時だけの消炎
では追いつかないので、尭作が起きないようにする手段が必要になって
きます。発作が起きないようにするための治療として現在ではコルヒチンや
シクロスポリンが使われています。昔はエンドキサン、イムラン、ブレジニン
という薬が使われていました。これらの薬は最近ではコルヒチンや
シクロスポリンが副作用やその他の理由、例えばお子さんが欲しいとか、
腎臓が悪い方などでコルヒチンやシクロスポリンが使えない、そういった
場合に使うようにしています。次に前眼部型の虹彩毛様体炎が起きた時に
どのような治療が必要であるかのお話をいたします。ここで大事なことは消炎
だけではなくて、眼の場合は同時に瞳孔を管理しなければならないということ
です。これは散瞳薬を使って虹彩がうしろの水晶体と癒着しないようにずる
努力が必要になってきます。この目的で使われるのがミドリンという
点眼薬です。点眼回数は紅彩毛様体炎の強さによって違います。
これはドクターの指示にしたがつて下さい。


(表3)前眼部型発作の程度と眼局所療法

治療法 虹彩毛様体炎
軽症 中等度 重症
散瞳薬
 ミドリンP※
 アトロピン
1回/day 2〜3回/day 3〜4回/day
1〜2回/day
ステロイド剤点眼
 0.1リンデロン

ステロイド剤局所注射※※
 球結膜下注射

0〜3回/day

5〜6回/day

1時間おき

デカドロン
1.2mg:0.3ml
虹彩後癒着には
ボスミン0.05〜0.1mg混注

※  寛解期にも就寝前に点眼し、再発を予防する。
※※眼底型発作に対しては0〜5回/attack注射する。同時に虹彩毛様体炎がある時
   には、その重症度に応じた眼局所療法を併用する。

(表4)眼底型病変の再発を抑制する薬剤

一般名(商品名) 用法・用量 副作用
azathioprine
 (Imuran)
0.5〜1mg/kg/day 肝障害・胃腸症状・造血器障害
発癌性・催奇形性・易感染性
cyclophosphamide
  (Endoxan)
  1〜2mg/kg/day 肝障害・消化器系症状・造血器障害
脱毛・性腺機能障害・出血性膀胱炎
mizoribine
 (Bredinin)
50〜300mg 副作用の出現は少ない。
時に胃腸障害・肝障害など起こる。
colchicine
 (コルヒチン)
0.5〜2mg 下痢・脱毛・無精子症・月経異常
肝障害・ダウン症候群児の出産
ciclosporin
 (Sandimmun))
5〜10mg/kg 腎障害・消化器系症状・熱感・多毛
肝障害・四肢の感覚異常・発癌性
中枢神経障害



将来出産を希望する場合、コルヒチンは妊娠前最低3ヶ月間の休業期間を
置く。他の免疫抑制剤もコルヒチンに準ずる。
 消炎にはステロイドの点眼薬を用います。点眼回数は炎症の程度によって
加減します。ひどい場合はステロイドを球結膜下に注射します。眼底に発作が
起きた時の消炎にこの球結膜下注射は活躍します。眼底型に使う眼の発作が
起きないようにする薬は発作が起きた時だけ飲めばいいのではと思われる
方が、これは笑い事ではなく、よくあることなんです。ドクターの中にも
そのように勘違いをされている方がおられるようですが、飲みはじめたら
ずっと飲まなければならない薬です。飲んでいる間はいろんな副作用が
おこる可能性がありますので、1か月に1回の全身検査であらかじめ副作用の
起こる前に量を変えるとか、他の薬に変えるなどの工夫をしなければ
なりません。副作用のおこる可能性の高い薬だけにタイミングよく
使わなければなりません。
 副作用としては、先程坂根先生からもお話しがあったようにコルヒチンには
下痢や髪の毛が抜ける、子供が生まれなくなるなどがあります。ダウン症児が
生まれたというショッキングな報告もあります。これは高年齢出産であったため
コルヒチンのせいかどうか分かりませんが、一応気をつけなければなりません。
シクロスポリンの副作用としては先ず腎障害があげられます。
内服中は誰にでも起こり得るということを考えて1か月に1回はしっかり
腎機能検査をしなければなりません。その他に脳や中枢神経神経症系の
障害があげられます。ベーチェット病そのものの中枢神経症状であるのか、
薬のせいなのか判断できない場合もありますが、いずれにしても早急な対応
が必要となります。
 このように副作用の多い薬が用いられますので使う場合はその患者さんに
どの薬が一番適しているか、病気の勢いの強い時に弱い薬を使っても効果は
あがりませんので、その人の病気の勢い、活動性にあった薬をタイミングよく
選ばなければなりません。それには普段から、前もって御自分の病気のこと、
薬のこと、副作用のことを相談し、よく理解をしてください。
 とにかく、長い病気なので今診ていただいている先生との信頼関係が
必要です。長いお付き合いになると思います。診てくださる先生とよく相談を
されお互いに治そうと、お互いにこれだけの視力は保とうとこ人三脚で治して
いかなければならないと思います。                     以上




眼科からみたベ−チェット病

                          湯浅 武之助先生(ゆあさ眼科医院)

 ご紹介頂きました湯浅でございます。今日の総会が23回目
ということですが、このように大阪の友の会が23年間も
途切れることなく活動を続けてこられたことに心から敬意を
表します。これはもちろん会員の皆様方の結束が非常
に強かったことの賜物ですが、友の会の中核となって日夜
大層なご苦労を重ねて会員の方々をまとめてこられた
役員の方々があってこそ、このように活動的な組繊が維持
できたに違いありません。これまでご自分の病気にも構わず、会の運営と会員を支えることに尽くしてこられた役員の方々に、私からもお礼を申し上げます。

 私は昭和57年から前任者の三村先生の後を引きついで、眼の症状について
の相談をさせて頂いています。三村先生は、今年の春、徳島大学を定年で
退官されましたが、今も徳島に残られて、いくつかの責任の重い仕事を続けて
おられます。

 大阪でこの「友の会」ができた頃には、ベーチェット病は非常に猛威を
振っておりました。発病間もなく受診された患者さんが僅かの期間で失明
されたといった事態が頻繁にあって、我々もこの病気にはどう対処したら
よいのかわからず、呆然とすることも少なくありませんでした。厚生省の
研究班ができて、これまで行われてきた治療法のなかで比較的効果の
あるものや、症状をかえって悪化させるものが判ってきました。また眼科の
診療上注意すべきことも、よく知られるようになりました。その結果、次第に
失明される方も減ってきました。同時にわが国の高度成長の時代が過ぎて、
生活環境の大切さが見直されるようになってきたためか、新しく発病される
方も次第に減少し、べ−チェット病は全体として徐々に軽症化してきました。
 
 しかし最近では、三木先生も述べられたように、新しく発病される患者さ

数は減少を続けていたものが横パイになってきているようですし、軽症化の
傾向も、ある程度のところで止まった状況のようです。そして、最近では
新しい薬や治療法も目ぽしいものは開発されておらず、今年も相変わらすい
いニュースが少ないので、我々医療にたずさわる者として、患者の皆様には
非常に申し訳なく思っております。眼科の診療からみても、最近1年間には、
これといった新しい変化はありません。
 
 からだの症状のうちで、命にかかわる3つのグループ、すなわち神経系、
大血管および脳の症状が出現する人も眼科からみる限り減少したように思い
ます。以前は神経内科、滑化器科、血管外科なとへ紹介しなければならない
患者さんがときときありましたが、最近では非常に少なくなっています。

 発病間もない頃には、いろいろな症状が次々と現れますが、ある程度時間
が経過しますと、眼症状以外には、口腔内アフタ、結節性紅斑、関節痛のう
ちの、とれか1つか2つがいつまでも時々出現するものの、他の症状はほと
んとなくなる人が多いという傾向は以前から変っていないようです。

 ベーチェット病の眼症状には2つの面があります。 そのうちのひとつは、
繰り返して起こる「眼の炎症発作」です。眼の炎症は突然超こります。
炎症は「虹彩毛様体炎」、または「網膜ぶとう膜炎」の形をとります。
眼に炎症がおこると、目がかすんで視力が低下します。炎症は1〜2週間で
軽快し、視力は黄斑部や視神経に炎症が起こらなければ、ほぽもとに
近い程度まで回復します。炎症発作の回数をできるだけ減らすことと、
起こった炎症をできるだけ軽くすることが、第1の面における治療の目標です。

 約20年前までは、月2〜3回起こるという方も多かったのですが、最近は
1〜数ヵ月に1回が多く,毎月起こる人は比較時少数です。患者さん全体で
見ると、最近では眼の炎症発作の頻度は以前よりもかなり少なくなっている
ようです。とくに眼球の前の方の炎症、すなわち虹彩毛様体炎は頻度も
瀬少し、起こっても軽いことが多くなりました。眼底の炎症も軽くなっている
ようですが,ときには黄斑部にも炎症が起こります。近頃は虹彩や毛様体の
炎症はあってもごく軽いのに、眼底にだけは時には視力に脅威をあたえる
ような炎症が起こる人が増えてきました。黄斑部に強い炎症が起こると、
視力の回復がやや困難になります。

 眼症状の、もうひとつの面は網膜血管の変化です。いったん網膜に炎症が
起こると、炎症はすぐに吸収されても、網膜の細い静脈の璧が損傷を受け、
血液中の水分や蛋白質が損傷部分を通過して網膜組織のなかへ漏れて
きます。これを医学用語では「血管透過性の先進」と呼びます。
このような血管の損傷はつぎの眼炎症発作を起こす素地となります。
このような血管の損傷はゆっくりと修復されますが、次々と炎症を繰り返すと、
修復されずに一層損傷がひとくなってゆきます。またこのような血管の
損傷がなおらないと、炎症を繰り返すうちに血管がつまってしまい、その
血管が栄養補給や老廃物排除を行っていた部分の網膜は破壊されます。
 炎症を起こさせぬこと、起こってもできるだけ軽くすませること、血管の
損傷を早く回復させてやること、血管を詰まらせないこと、なとが第2の面
における治療の目標です。

 ベーチェヅト病で眼底に炎症が起こる人に使用する薬は、昭和47年以前は
ステロイドが主流でしたが、現在はまずコルヒチンを使います。
コルヒチンだけで効かない場合には、シクロスポリン(サンデイミュン)という
免疫抑制薬を使ってみます。それでも効かない人に対しては、私は他の
種類の免疫抑制薬か、またほステロイドを使っています。免疫抑制薬と
呼ばれる薬は一般に副作用が多く、油断すると命にかかわることもあり、
使うときには細心の注意が必要です。

 最近でほ、FK506(タクロリムス,プログラフ)という薬が効くのではないか
と検討されてきましたが、シクロスポリンの方がよく効くという結論に
なりました。シクロスポリンが無効でもFK506で効果のある患者さんが
少しはあるなら、FK506もべ−チェツト病で使えるように厚生省申請
しようということでしたが、FK506では十分な効果があがらぬことが多く,
副件用もかなりあるので申請を断念したようです。

 ご存知のように日本の医療保険制度では、
 「この薬を使用してもよいのは、この病気だけ」
という形で薬の使用が認められているので、決められた病気以外に
薬を使用すると、その薬については健康保険が適用されません。
このため、どうしてもその薬を使いたいときは、患者さんが自分で
その薬を買って頂く以外の方法はありません。

 ベーチェット病の眼症状は慢性で、落ちつくまでに何年もかかりますので、
これに対する治療薬は効果がいくら強力でも、長期間、副作用なしに
使えないと実際には役に立ちません。使用開始直後は効果があっても、
すぐに効果が落ちたり、前作用が出やすい薬は使用が困難です。
一部で試験的に使われて、「効果がある」と伝えられる薬もときどき出て
きますが、コルヒチンやシクロスポリンより眼症状に効果があると公認
されたものはありません。コルヒチンやシクロスポリンもすべての患者さん
の眼症状に効くわけでほないので、眼症状のある患者さんのうち約20%の
方々では、との薬を使用しても効果がなく、失明をくい止められない状況が
続いています。

 あとは皆様の質問にお答えする形で、お話させて頂きますので、質問して頂
ける時間を確保するためにも、ここでひとまず私の話は終りにさせていただ
きます。ご公聴ありがとうございました。