我が家の花

18年前、今のところに家を建てた。
農業調整区域だから周囲は田園である。
普通の民家は建てられないところに建てたものだから、周りは一向に家が建ってこないので、良い面もあるが悪い面もある。
しかし、周囲が田園だから開放感があって、今のところそう不具合もない。
田んぼの中に、ぽつねんと我が家だけがあるものだから、殺風景といえば殺風景であった。
そこにもってきて我が家はコンクリートのサイコロハウスで、無味乾燥という表現がぴったりの造作である。
それで花を植えようという事になり、手当たり次第買って来ては植えたものである。
手当り次第買ってきた、と言っても金に糸目をつけずという意味ではなく、限られた予算の中で一番量の多いものをという意味である。
その中でも当初バラに凝って、バラの苗を玄関の前に沢山植えた。
それなりに花を咲かせて我々を楽しませてくれたが、バラというのは手入れが大変なわけで、中でも害虫の駆除ということが大変であるが、これが思うように出来なかった。
こういう場面で、生来の私の悪癖が出るわけで、こまめに消毒をすれば害虫の駆除はある程度のところまでは可能なはずであるが、その「こまめにする」というところが出来なかった。
作業としてはそう難しいものではないはずで、事実、たまにはしたが、「こまめに度々しなかった」というわけである。
参考書を借りてきて、植え付けるまではできるが、その後のメンテナンスが、どうしても疎かになり、二、三年経つとバラの生育が悪くなり、最後は消滅してしまった。
それは消毒の回数が少なく、虫が木の中に入ってしまったと、自分なりに解析している。
日本人の美意識というのは実に不思議だ。
というのは、あの花も実もない盆栽などというものに人気があって、美しい花を咲かせるバラ等は素人園芸家がするものとして一歩蔑まれた存在である。
その中でも頑なにバラにこだわっている人もいるにはいるが、数が少ない。
もともとバラの栽培とかバラを鑑賞するという趣味はイギリスのものだと思うので、外来のものだからと言うわけで、日本人の美意識と衝突するのかもしれない。
バラの花を愛でるというのも奥行きが深いわけで、以前北海道にいたとき、バラの原種というのものを見たことがある。
バラの原種というのはまさしくノバラである。
小さな一重の花で、それがああも豪華絢爛たる花に変身するのかと思うと不思議でならない。
そういう関係で以前はバラの花を写真に収めて謁にいっていた時期もあった。
三十数年も前の話である。
そういう事もあったのでバラを植えてみたがこれも例によって挫折である。
自分で下手なりにも植物を触っていると、身の回り、我が家の近所の気候というものに関心が行く。
私の経験からすると、我が家の辺りは殆ど熱帯地方といってもいいぐらいである。
熱帯の植物は冬に少し保護するだけで大抵は生き残るが、寒帯植物は大抵夏の暑さに負けて消滅してしまう。
現職でまだ勤めていた頃、丁度家を作ったすぐ後ぐらいの時に、秋田の山奥に出張したことがある。
そこには水芭蕉が一面に群生しており、水芭蕉は採ってはいけないのではないかと思ったが、現地の人が「構わない構わない」と言うものだから、それを二、三株持って帰ってきた。
水芭蕉というのは綺麗な水の中に生きており、白い花を咲かせるもので、根は地上に出ている部分の十倍ぐらい下まである。
綺麗なせせらぎの中の腐葉土の中に咲き乱れているが、この腐葉土の層というのが1mぐらいある。
畑の作物を掘るようなつもりで引き抜くと全部途中で根が切れてしまった。
それでだいぶ失敗した。
しかし、環境保護に逆らうような事であるが、水芭蕉が生えているようところは作物は何もできない不毛の地である。
自然保護という観点から、むやみやたらと引き抜いてはいけないことは言うまでもないが、人が生きるという観点からすれば、白樺林とか、水芭蕉の群生地というのは文字通り不毛の地で、人の役には立たない土地である。
大きな目で見たとき、動植物の食物循環という生態系を維持するという観点からの保護が叫ばれているわけで、その事は理解しなければならない。
このとき蕗も2、3株失敬してきた。
これも山の中に自生している秋田の蕗で、やはり気候があわないのか消滅してしまった。
秋田の蕗はその葉っぱの大きい事で有名だが、やはりこの地にはあわなかったようだ。
この二つを忍ばせて列車に乗ったので、道中冷や冷やのし通しであったが、どうにか無事家までたどり着き、家の玄関脇に植えたが、寒い地方の植物は案の定、夏の暑さにやられて消滅してしまった。
水芭蕉の株の一部を家内の実家にお裾分けしてみたところ、こちらでは上手い具合に根付いて、今でも時節に花を咲かせている。
家内の実家は柏森で、我が家よりは少しは北に位置している。
とにかく我が家では北の植物は概して生育が悪いが、熱帯の植物は不死身である。
デイゴという木がある。
夏に赤い柿の種のような格好の花を咲かせる熱帯の木である。
私が知っているのは沖縄デイゴとアメリカデイゴという二種類であるが、これは見事に不死身である。
秋に枝を払って直径五cm程の枝を土に突き刺しておけば翌年芽が出る。
剪定して、その後片付けが面倒なので、適当に切ってその辺りに突き刺しておくとそれで翌年芽が出て結構生育してしまう。
こういう木は気をつけないと根が張りすぎて後で苦労しなければならない。
我が家は日当たりも滅法良いし、風通しも充分であるので、熱帯の植物は実によく生育するが、寒帯の植物は見事に影をひそめてしまう。
我が家の主人、私は、寒い地方が好きなのに全く世の中はままにならないものだ。
2002.1.17

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