次回の御題が同窓会ということで私は「シメタ!」と思った。
同窓会に関しては一文を認めておかなければならない、と前々から思っていたので、その事を書き残そうと勇躍してコンピューターに向かった。
というのは昨年還暦を記念して小学校のクラス会が小牧市で行われた。
総勢20人程度が集まった。
私は中学校から彼らとは違う学校に行ったので、それ以来というもの幼馴染とはほとんど接触がなかった。
だから40年ぶりで見る幼馴染はほんとうに懐かしい顔ばかりで、名前を思いさせない顔もあった。
地元に居を構えている連中はしばしば同窓会をしており、私にも声を掛けてくれたが、こちらは普通の勤務ではなかったので、人が休日でも私は出勤だったりしてゆっくりと会う機会はなかった。
60歳で定年になった後ならばそういう心配もなく、皆とゆっくり会えたので、実に懐かしかった。
同窓会そのものは型どおりに進行し、先生を囲んで話も盛り上がり、それなりに終わったが、その後で私はいささか考えさせられた。
というのは、丁度この日は小牧のお祭りで、小牧駅前の東側の広場でパフォーマンスとしてバンド演奏をしていた。
私は立派なホールで高額の入場料を払って聞く音楽会よりも、ストリート・ミュージックの方が好きでつい立ち止まってしまった。
そのバンドの名前も忘れてしまったが、彼らは4.5人で古いオールデイーズを演奏していた。
ビートルズ・ナンバーも入れて50年代60年代のものを演奏していた。
50年代60年代といえば、ロックン・ロールからツイスト、プレスリーから二ール・セダカ、平尾正晃からミッキー・カーチス、その他諸々ある。
この時代というのは我々の青春時代とオーバー・ラップしているわけで、私は見とれ、聞き惚れ、体は自然とスイングしていた。
そこにさっきまで同窓会で一緒にいた女性、同級生Kさんがバスの時間待ちで現れた。
二人で人混み中に立って、この時代の音楽の話をでもしようとしたが、彼女は一向に興味なさそうに見えた。。
馬鹿な若者が馬鹿な事をしているという目つきで見ていた。
同世代なのだから私と同じように、彼女もこういう音楽に私と同じ様に興味を持っているものだと、勝手に思い込んで話しかけても、一向に反応がない。
「私と同世代なのだからこういう音楽は懐かしいでしょう?」といったら「私たちはこの頃は子育てで、とても音楽を聴くような状態ではなかった」と言った。
それを聞いた私は妙に納得し考え込んでしまった。
同世代でも女性と男性ではその生き方がまるで違うということを思い知らされた。
彼女が子育てでてんてこ舞い舞していた頃、私はジャズ喫茶やら、音楽喫茶やら、歌声喫茶などいったところをうろついていたわけで、自由奔放、好き勝手をしていたわけである。
先のことなど何も頭の中にはなく、ただただその日の快楽を求め青春を謳歌していた事になる。
しかし、こういうものはその後の人生の肥やしにはなっている。
青春を謳歌するということは放蕩を極めるという意味ではなく、その中でも得るものはそれなりにあったし、それがその後の人生に役立ったことも大いにある。
中でも自衛隊の入隊というのは若気の至りを通り越して、馬鹿げた行為といってもいいが、私の場合は青春そのものであった。
灼熱の太陽のもとでの厳しい訓練、厳寒の冬の過酷な任務、それはその後の私の人生の魂と肉体の血となり肉となっていた。
その後、人並みに結婚して以来というもの、世の退廃的な享楽から一切足を洗って、家庭一途になりきれたのもそういう遊び・青春時代の極限を極めた時期を経験したからではないかと今は思う。
それで、私と同世代の女性の当時の状況というものを推測してみると、やはり22,3歳で嫁いで、舅姑がいればいたで、いなければいないで生活に追われていたに違いない。
小牧などという田舎では、親の世代も、我々の同級生の世代も、人の生き様とか生き方だとかについて旧態依然たる意識のままで、変革を求めるなどいう意識は毛頭なかったと思う。
親や周囲の言う事を素直に聞いておれば、その人生は順風万帆と考えられていたに違いない。
封建意識というか、変革を嫌う雰囲気というのは、この地域には根強く残っているわけで、自らの人生を自ら切り開く、などという考えは唾棄されるべき思想であったように思う。
封建意識が強く、変革を嫌う地域というのは保守的な気風が強いわけで、そのことはその地域が昔から豊かであったということの証左ではないかと思う。
過去に豊であったればこそ、それを失うリスクを犯してまで変革をする事に躊躇するわけである。
その中で普通に成長し、普通に結婚して、普通に子育てをすれば、他のものに興味を持ちきれないまま過ごしてしまっているのではないかと思う。
若き日に、血沸き、肉躍らせるような感激を経験することなく人生を終えるのもなんだか味気ない気がしてならない。
彼女も恐らくそういう意識改革というものを経験していなかったに違いない。
それは善悪の問題ではなく、価値観の問題だと思う。
同窓会に出席していた他の女性を観察しても、ロックン・ロールに興味を示しそうな人は見当たらなかった。
当然、男性で「俺もロックが好きだ」という人間は皆無のようだ。
それに比べると、私は異質なのだろうか?
若い頃は好きなことを好きなようにしてきたわけで、その分道草を食い、紆余曲折の人生であったが、昔の音楽を聞いて体がスイングするというのもそう悪いものではない。
私の家内も私と6歳違いであるが、一向にこういう音楽には興味を示そうとせず、私の同級生と同じ反応を示す。
そういえば、当時ビートルズの音楽など不良の音楽といわれていたものだ。
生真面目な女生徒が近寄るものではなかったのかもしれない。
ましてや、幼子を抱えた女性が聞くべきものではなかったのかもしれない。