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やまと しんたろう

大和真太郎

やまと しんたろう

1890.4.15(明治23)〜 1966.5.23(昭和41)

実業家(ビクトリア月経帯)

埋葬場所: 12区 1種 2側

 福井県三国町(坂井市)出身。名古屋商業学校を卒業し、横浜の商館勤務の経験を活かし、1910(M43)20歳の時に京橋で輸入雑貨商を開業したが失敗。しかし、そこで取扱商品のゴム製品の将来を感じ、まずアメリカ製月経帯に商機を見出だす。これは経血を吸収させるための使い捨ての脱脂綿や布を乗せる長方形のゴムを腰に巻いたベルトの前後から吊るす丁字帯のことで、今でいうサニタリーショーツである。明治半ばころより医師が中心となり月経処置の重要性を教えられた一部の女性たちのために輸入品が販売されていたが高価なものであった。
 大和ゴム製作所を創業し、月経帯に用いる薄ゴムをアメリカから輸入し加工して自社製の月経帯を製作し発売を始める。更に輸入していた薄ゴム製造開発にも取り組む。ガソリンで融解したゴムを板上の硝化綿に塗り重ねて行き薄くして剥がすという製法で開発に成功(ビクトリアバンド)。機械化することも可能とし、輸入に頼らない薄ゴム国産化の月経帯製造販売を確立した。加えて脱脂綿が普及したことで、月経帯との間に挟むものを従来の和紙から脱脂綿への切り替えも順調に行われた。
 1914(T3)「ビクトリア月経帯」を商標登録。輸入品であると1円50銭のところ、半額以下の70銭にて新聞雑誌に広告を出し発売。当初は一般的ではなかったため売れ行きが伸びなかったが、女学校の寄宿舎の寮母宛にサンプル品を送り、実際に女学生たちに使用してもらうことで販路拡大を行った。これにより女学校から100個単位で注文を受けるようになる。
 ビクトリア月経帯は発売後も工夫と改善、製品の研究を行い、社員の妻や関係者の女性たちに協力を求め意見を聞き、サイズやデザイン、接触部分を二重にするなどの改良を重ねた。着用中のイメージができない男性製作陣たちはその様子を見たいと協力者に懇願するも強く拒否され、頭を下げて吉原の女性たちにも頼み込むも断られ続けたが、根負けさせなんとか協力を得て性能向上に努めたという逸話がある。
 また現代では「生理」と普通に口にして言える時代であるが、大正時代では「つきやく」「めぐり」「月の者」と言い換えて表現し、女性は下世話の話題すら極度に恥ずかしがり、男性も女性の下世話で商売はしたくないと距離を置く時代であった。その時代下において、大和は人間として当たり前のことをもっと身近にさせようと、ビクトリヤ月経帯の女性雑誌での広告で「お月の病気」「女子衛生時のマスコット」という表現をキャッチフレーズにし、美的な演出をするなど力を注いだ。これにより知名度も増し、大正時代は独占状態となる。
 大和ゴム製作所はその他にも、おしめカバー、防水布、レインコート、ゴム手袋、海水帽などの日用雑貨品の製作に成功し販売。ルーデサック(コンドーム)製造にも着手したが、これは失敗し機械化を断念している。
 昭和に入り、タオルの月経帯などの模造品や、後続企業も増え、特にゴムタイヤ製造メーカーであったフレンドバンド(「飛んでも跳ねても安全第一」というキャッチコピー)は同業他社のライバルとなっていった。しかし、その中で、東京至誠病院長の吉岡彌生(8-1-7-9)が、「ゴム製の月経帯はよくない。メリヤス生地のものがよい」と雑誌の記事で語り、月経用婦人サルマタを考案(メトロンバンド)。防寒も兼ねた1枚1円で送料4銭で発売。従来の月経帯と違い、毛絲綿で出来ており温かく、衛生に最も有効とゴム製品の月経帯に対抗。女医が開発したゴムに頼らないサルマタは注目され、更に女性からの視点で家庭衛生問答のコラムも執筆し一世を風靡。
 大正時代は独占状態であったものの、ゴム製の同業他社の到来や、真っ向からゴム製を否定した女医開発のサルマタと、昭和初期は三つ巴であった生理用品だが、日中戦争が始まり、'42.5 太平洋戦争直前では月経帯に欠かせない脱脂綿や布地の不足により配給(15歳から45歳までの女性を対象とし不定期に50グラム)となる。代替品として紙綿となり、もちろんゴム製のものも姿を消していいくことになり、大和ゴム製作所も休業を余儀なくされていった。なお、現在最も普及している生理用ナプキンは、戦後、'61.11.1 坂井泰子が考案した「アンネナプキン」からである。

<『生理用品の社会史』 田中ひかる>
<ゴム時報など>


*墓石正面「大和家之墓」、裏面「昭和十三年十二月 大和眞太郎 建之」。右側に墓誌があり、「昭和十三年十二月 此処を塋域と定め、福井県三国町の妙海寺境内墓所より右記二十霊分骨移葬す。眞太郎 誌之」とあり、大和太吉ら代々が刻む。真太郎の戒名は和風院諦道日直居士。妻は行子。


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