窪田勘六
くぼた かんろく
明治・大正期の東洋美術研究家、実業家
石川県出身。金澤藩馬術師範の絹川彌路久の六男として生まれる。1885.6(M18)先代の孝昇の死後養子となり窪田家に入り家督を相続す。家督を相続した同年、石川県師範学校卒業。1886 上京。
東京法学校を卒業し、金澤銅器会社東京出張所員となる。瀧野川（東京都北区）に芳林学校なる私塾を設け有志を教えた。1900.2 出品同盟会委員としてパリ博覧会に出張。さらに、英国グラスゴー万国博覧会の出品協会委員にも選任され、政府より四万円の補助を受けて出品團體を組織した。'02.2 帰朝。'04.3 セントルイス博覧会日本出品協会委員・石川県委員総代となり日本赤十字社の嘱託を兼ねて出張。'05.1 帰朝。
工業所有保護協会創立に際し、理事として事務に従う。'08 台湾総督府の嘱託となり、同島の産業調査に従う。'09 発明品博覧会の事務長に就任した。'10.3 英国博覧会に赤十字社嘱託石川県委員を兼ね出張。同年秋、帰朝し、株式会社審美書院専務取締役に就任した。併せて、帝国発明協会監事の常務理事を兼務した。'13(T2)横浜協進会の顧問。
博覧会に関する識見技能を認められる一方で、東洋美術研究家としても活躍した。主な編著書に『東洋美術大観』(1910)、『唐宋元名画集』(1910)、『文人画三大家集』(1913)、『藝苑心賞』(1915)などがある。享年63歳。
＜人事興信録など＞
＊墓石は和型「窪田家之墓」。右側に墓誌が建つ。窪田勘六から刻みが始まり、戒名は敬徳院宏仁義勤居士。また「石川県士族 絹川彌路久 六男」と刻む。人事興信録には四男とあるが墓誌には六男と刻む。
＊妻は松子(M10.2-S21.8.19)。勘六との間に3男4女を儲ける。長男の良孝は早死。二男の他吉郎(M34.8-S5.1.20)は館山剣岳で「剱沢小屋雪崩事故」にて遭難死。三男の精三(M36.1-S59.8.15)が家督を継いだ。三男とも同墓に眠り、長女の愛(M27.10-H1.8.21)も同墓に眠る。精三の妻の澄江(H27.7.3没)は106歳の大往生。なお、二女の直子は実業家の金井作彦に嫁ぎ、三女の美代は薬種商の小谷富三��に嫁いだ。四女は豊子。
【剱沢小屋雪崩事故】
1930.1(S5)窪田勘六の二男の窪田他吉郎を含む6名が、黒部川上流の剱沢沿いにある別山平の山小屋剱沢小屋で大規模な雪崩に遭い遭難死した事故を「剱沢小屋雪崩事故」という。
窪田他吉郎は金沢市の第四高等学校を経て、東京帝国大学を卒業。在学中はスキー山岳部に属した。その後、大学院で写真科学を研究していた。1923.3(T12)立山から針ノ木岳をスキーで初踏破している。
東京帝国大学スキー山岳部（Tokyo Imperial University Ski Alpine Club = TUSAC）の後輩の田部正太郎と、1930(S5)冬の剱岳・立山登山を行うことになった。田部正太郎は登山家の田部重治(9-1-18-21)の兄で英文学者の田部隆次の長男。よって、田部重治は叔父にあたる。二人はさらに、スキー仲間である松平日出男、土屋秀直を誘う。現地の案内人（芦峅寺ガイド）の佐伯兵次、佐伯福松を含めた計6名で登山した。
1930.1(S5) 剣岳登頂を目指して剣沢小屋で天候の回復を待っている時、大雪崩に襲われた小屋が壊滅、睡眠中の6人全員がその小屋の中で遭難死した。同.1.20 第2回捜索隊により全員の遺体が収容された（墓誌には没月日を発見収容された1月20日としている）。しかし、遭難から10日以上経っていたにも拘らず、窪田他吉郎は収容直前まで生存していたことが分った。さらに遭難から4ヵ月半経った5月末、TUSACのメンバーが遭難跡から窪田他吉郎と田部正太郎の手帳を発見、この手帳から遭難が1月9日であることが判明した。この二つの手帳は、遭難とその後の状況の説明と、近しい者達への遺書であり、遭難した両人の誠実な人柄を物語っており、死に直面した人間の悲痛な心境をありのままに伝えている。
同.7 TUSACが山行のための準備から遭難に至るまでの報告、雪崩発生の原因、捜索状況、遺書の解読、多数の写真からなる『銀嶺に輝く−報告と追悼』を発行。なお雪崩の原因については、鶴ヶ御前（2776.6ｍ）手前のコルから発生した乾燥新雪雪崩が、約400mの落差を流下して小屋を直撃したものと考えられた。剱沢小屋のすぐ横には6名の霊を祀る「六字塚」と呼ばれる慰霊碑が建てられている。
＜銀嶺に輝く−報告と追悼 東京帝国大学運動会スキー山岳部＞