> 界樹の迷宮をリプレイ風プレイ日記の後日談だよ。






> そから。



 フォレスト・セルは退治された。

 ついに、迷宮の最深部まで明かされ、エトリアを長く支配してきた 「迷宮」 の謎はついに消え去ったのである……。



GM : 「と、言う訳で無事にフォレスト・セルを退治したキミたちは執政院に向かう。出迎えてくれたのは……いつもの彼だ」


アイラ : 「なで肩眼鏡さん?」


GM : 「そう、彼は、君たちを見るなり全てを察したように静かに頷く…… 執政院の青年『……ついにやりましたね。あなた方はこの、世界樹の迷宮を踏破し、全ての謎を解き明かしたようです』


フィガロ : 「…………何でこれが全ての謎だって分かるんさね、この男は?」(ぼそ)


GM : 「えっ!?」


ナルラト : 「……そうさね、大体おかしいってヤツさね。まだ迷宮から帰ったばかりなのに察するのが早すぎるよねぇ」


ガモン : 「全ての謎を解き明かしたなど……まるで最初から、全ての謎を知っていたような口振りですね」


ヒルダ : 「案外、本当に知っていたのではないか? ……ヴィズルの裏で全てを知る黒幕、貴様かもしれぬな」


フィガロ : 「むしろ、執政院が長を謀殺した犯人かもしれないねぇ……どうする、コイツ。真の黒幕って事で、成敗しておくとするかねぇ?」




GM : 「いやいやいやいやいや! 別にこの人そういう……悪人じゃないから! そういう腹に一つ含んでたりしないから! ただ、その、何だ。システム上、誰かが終わりを告げないといけないだろ! ただそういう役だから! だからだめー、NPC殺しはウィザードリィでも大罪だよー!」



フィガロ : 「あははは、冗談さね!」


ヒルダ : 「本気にする事ないだろう……少しからかってみただけだ。大体、迷宮の全てを知る悪人が、アーマービーストの攻撃を痛くないなど誤植をするとも思えんしな」


GM : 「そっかー、良かった……!」(ほっ)


ナルラト : 「……アタシは本気だったけどねぇ」(ぼそ)


ガモン : 「私もです」


GM : 「NPC殺し駄目、ゼッタイ! ……で、無事に迷宮を踏破したキミたちは、エトリアで盛大に出迎えられる。長く踏破されなかった迷宮……その全てを解き明かしたキミたちは英雄として皆から祝福された……宴は長きに渡り、人々はキミたちを大いに労った……」


シグ : 「英雄、か……」


アイラ : 「何か実感ないよね、私たち、ちょっと興味本位で潜ってみただけだし〜」


リン : 「でも、色々ありましたよね……」


シェヴァ : 「なっ! ……俺が一撃でゴーレムを屠ったり、竜を屠ったり!」


GM : 「これこれ、シェヴァ君。自分の活躍の模造はいけませんよ」


シェヴァ : 「あと、シュンスケが欲しい採取の材料を拾ってくれなかったり、肝心な時に石化したり、死んだり!」


シュンスケ : 「……こら、シェヴァ。俺のありもしない不名誉な活躍を模造するのは……感心、せんぞ?」


シグ : 「事実だ」


ガモン : 「事実だろ」


GM : 「シュンスケ君が、自分の現実までスルーしようとしているぞ!」


シュンスケ : 「む……」


リン : 「あの……気を、落とさないでくださいね! そのうち、いい事ありますって!」


シュンスケ : 「う……!」


ヒルダ : 「リン君、そういう慰めはかえって残酷だぞ……シュンスケかえって傷ついてるな」


リン : 「えっ!?」


シュンスケ : 「べ、別に傷ついてなどいない! べ、別にな。そうだ、別に……」(いじいじ)


ナルラト : 「あら、いじけちゃって……可愛いねェ……食べちゃいたいさね……」


シェヴァ : 「……む! 駄目だよーナルラト姐さん! あれは俺んだ!」


シグ : 「シェヴァがシュンスケをかってに固有の領土として主張しはじめたぞ、いいのか?」


シュンスケ : 「……知らん」


GM : 「さて、こうしてエトリアの英雄として迎え入れられて暫く……迷宮の奥底も開発され、キミたちが踏破したダンジョンにも研究者が入るようになっていった……キミたちが冒険者として出来る事も、少しずつへっていったようだけど。さて、どうする?」


カエデ : 「えっ、どうするって……どういう事ですか?」


GM : 「うん、ここに留まっているのか。それともまた冒険に出るのか……このセッションも最終回だからさ。キミたちの展望を聞いておこうと思って……さて、みんなはどうするのかなぁ?」


シグ : 「俺は、この町を出ていくぜ」


ヒルダ : 「坊ちゃん……」


シグ : 「英雄って呼ばれるのは悪い気はしねぇけどさ……俺は元々、強くなる為に冒険者やってんだ。戦う相手がいなくなったら、次の戦う相手を捜すまでだ!」


リン : 「……シグが旅に出るなら、ボクもシグに付き合いますよ! 怪我した時に、絆創膏はってあげますからね?」


アイラ : 「私も! 私も! ……シグいっつも突っ込んじゃうんだから、背中守る相棒って必要でしょ?」


シグ : 「何だよ、お前たち……仕方ねぇなぁ」


ヒルダ : 「ま、待て坊ちゃん! 私はお前を連れ戻さないとだな……」(ゴニョゴニョ)


シグ : 「と、姉弟子がゴチャゴチャ言うだろうから、適当に。はいはい、じゃぁ帰るよー……一晩だけ待ってな! といいつつ、その一晩のうち、姉弟子にバレないようこっそり旅立つだろうな、シグは」


アイラ : 「私と、リンちゃんはそれに気付いてこっそり出ていこうとするシグについていくんだね! ……一人で逃げ出すなんて、許さないんだからね! って」


リン : 「はい! ……どこに行くのも一緒ですよ、シグ。もう、離れてあげないんですからね?」


GM : 「こうして、迷宮を踏破したさばみそギルドのリーダー、シグは二人の女性をはべらせて宵闇に消えるのだった……次の冒険を求めて、か……リア充め、爆発しろぉぉぉ! ぽーんって爆ぜろ! ぽーんって!」



シュンスケ : 「落ち着いてください、GM」


シェヴァ : 「男の嫉妬は痛々しいよ……」


GM : 「きゅーん……」(しょぼん)


カエデ : 「私は……どうしましょう。姉上を探しに来たのですが……姉上も無事だったし、一端お家へ戻りましょうか。それとも、うーん」


ヒルダ : 「私はきっと、朝起きた時に坊ちゃんがいなくて、やられた! と思うのだろうな。そして、慌てて追いかける……」


シェヴァ : 「でも、ヒルダちゃんは何となく、シグが逃げているのには気付いてそうだね」


ヒルダ : 「うむ……そうだな、ここで自由な冒険者をする坊ちゃんの姿を見ていたら、貴族として戻すのは残酷に思えてきてはいる……むしろ、このまま自由な坊ちゃんでいてほしいとも思えている。だから……きっと、追いかけるがわざと逆方向に行ったりするだろうな」


GM : 「なるほど……うん、ヒルダちゃんらしいっていえば、らしいかな」


シグ : 「姉弟子……忍びねぇな」


ヒルダ : 「かまわんよ」


フィガロ : 「さて、そうしてシグ探しの旅をするなら……どうさね、ヒルダ嬢。ここで護衛に俺なんて、雇ってみないかねぇ?」


ヒルダ : 「お前を?」


フィガロ : 「あぁ、エトリアに来る時は貧弱だったけど、ここで随分鍛えられたからねぇ……今度は護衛の役、引き受けられると思うよ?」


ヒルダ : 「ふむ……悪くない話だ」


フィガロ : 「だろ、俺といっしょに……」



ヒルダ :  「だが断る! ……お前は人格が信頼できぬからな」



フィガロ : 「何……だとッ!?」


カエデ : 「だったら! 途中までは、私が護衛致しますわ。ヒルダ様! 私も、強くなりました。ヒルダ様を必ずお守り致します!」


ヒルダ : 「ふむ……カエデ君なら、腕も人格も問題ない。だが、いいか。家に戻るには遠回りになるやもしれんぞ?」


カエデ : 「良いですよ、ヒルダ様にはお世話になりましたし……元より、武者修行もかねての旅ですから! 私、一生懸命お守りさせて頂きますね!」


GM : 「こうして、ヒルダはカエデ君と旅を……うほほほーい、フラれちゃったのぅ、フィガロ!」


フィガロ : 「うそうさねぇ……って、何でそんなに嬉しそうにするんさね、全く」




GM : 「嬉しいに決まってるだろ、イケメンが振られるんだぞ! ふふふ……イケメンの癖に……ククク……!」



ガモン : 「……では、マスターは我々と旅をしますか?」


フィガロ : 「ガモン?」


ナルラト : 「元々、アタシたち一緒に旅をしていたからねぇ……また久しぶりに、3人で旅をしようかねぇ?」


シェヴァ : 「……ガモン兄ちゃん、ナルラト姐さんは旅に出ちゃうの?」


ナルラト : 「そうだねぇ……元々、フィガロの坊やが元気かなぁって見に来ただけだし、ねぇ?」


ガモン : 「私はナルラト様、およびフィガロ様の護衛ですから」


フィガロ : 「うーん……俺は元々根無し草、一つの場所にとどまれない性分だし……何より吟遊詩人である俺は、本来英雄の活躍を歌う側だ。歌われる側ってのは慣れてないから、そろそろココを離れるのが頃合いかもねぇ……」


シグ : 「フィガロの場合、エトリアで女性に手を出しすぎてそろそろ逃げないとヤバイってのもありそうだな!」


ヒルダ : 「……うむ、ありそうだ」


フィガロ : 「ちょっ、お前ら……まぁ、それもある訳だけどねぇ」(笑)


ガモン : 「では、一緒に……」


フィガロ : 「ただ、ガモン。ナルラト姐さん。アンタらと一緒は御免だよ……暫く一人でどこまで出来るかやってみたいからね、俺は」


ガモン : 「フィガロ様、何を……」


フィガロ : 「男なら、どこまで一人で生きてられるか。試してみたい時もある……今はそういう時なんさね、ガモン」


ガモン : 「……フィガロ様」


フィガロ : 「それに、保護者付きじゃぁ、ナンパもロクに出来ないからねぇ……ガモン、姐さんの事はよろしく頼んだぜ?」


ガモン : 「……はい、それが命令とあらば、了解しました」


ナルラト : 「私はそんな心配される程耄碌してないけど……男ならやんちゃしたい時もあるだろうからねェ……わかった、好きに生きるといいさね」


フィガロ : 「あぁ……達者でな、姐さん」


GM : 「こうして、一人、一人とエトリアを去る訳だが……キミたちは、どうするんだ。シュンスケ君。シェヴァ」


シュンスケ : 「そうだな……エトリアの迷宮は古き時代の遺産。俺はその遺産の子……いわば、迷宮の遺児だ。謎の解明に役立てる知識もあるだろう……研究者が研究をすすめる為、暫くエトリアには滞在しようと思う」


GM : 「そう、ここに残るのか……」


シュンスケ : 「とはいえ、ここに永住するつもりは毛頭ないがな……そうだ、長くても1年を目処に研究し、軌道にのりはじめたら静かに去るつもりだ……元より俺も学者として留まる気はないし、俺の目的は世界の真理を知る事。迷宮の謎だけが世界ではないからな……」


シェヴァ : 「そっか、だったらおれは……」


シュンスケ : 「シェヴァ……お前は、俺を支えてくれないか?」


シェヴァ : 「えっ?」


シュンスケ : 「……研究はなるべく早く済ませるつもりだ。だから、その。何だ……えっと……」


アイラ : (シュンスケさん!)


リン : (シュンスケさん、頑張って!)


シュンスケ : 「俺は、お前が傍にいないと存外、弱い生き物でな……ここに留まっている間、俺の研究を手伝ってくれ。そして……全てが終わったら、また一緒に旅をしよう」


シェヴァ : 「シュンスケ……」


シュンスケ : 「……俺は、まだお前と見たい世界が沢山ある」


シェヴァ : 「……シュンスケ! うん、うん! いいよ、俺も。俺も、シュンスケと見たい世界がいっぱいある! 食べたいもの、聞きたい歌、見たい景色がいっぱいあるから。だから……」



 その時、シェヴァは両手を広げ、小さな身体を一杯にしてシュンスケの身体を抱きしめる。



シェヴァ : 「だから、ずっと一緒に居よう……おれ、もう離さないから……」



 エトリアの片隅で、二つの影が違いを支え合うように寄り添う。


 エトリアの謎、その全ては明かされ迷宮は踏破された。

 英雄は去り、かわりに新たな人たちの歴史が始まる。


 そんな中でも、変わらぬものもある。



シグ : 「よーし、みんな行くぞー!」


アイラ : 「おー!」


リン : 「あ、怪我しないでくださいよ!」



 冒険者たちの、変わらぬ探求心。

 そして。




シェヴァ : 「シュンスケぇ、全部終わったら次は何処いくのー、シュンスケぇ!」


シュンスケ : 「そうだな……久しぶりに、雪でも見にいくか?」


シェヴァ : 「雪ー!」



 思いあう、人の心。

 想像力と好奇心、支え合う力があれば……人は何でも成す事の出来る、英雄に誰でもなれるのだろう。




フィガロ : 「……そうさね、それじゃぁ歌うとしようか」



 そして、いつかは語られるのだ。



フィガロ : 「今日歌うのは、こんな歌はどうだ……勢いばっかり、肉好きの戦士に元気が魅力の赤毛の斧使い。健気な薬草売りの少女に、ツキのない黒髪錬金術師。そして……馬鹿で一途な少年たちが繰り広げる、エトリアの物語……まだ若き、冒険者たちの物語をね」



 伝承にある、英雄として……。


 ……これがエトリア。

 世界樹の迷宮と呼ばれた大樹の下にある窟。


 その全てを踏破した、英雄たちのサーガ全てである。






>終






 そろそろ幕を閉める頃。

 それは、ある男女たちの物語。


 出会いをし、さよならを繰り返し、それでも前に進んでいく、時を生きるモノたちの物語。



 ・

 ・

 ・


 その日のセッション終了後

 都内某所(いつもの場所)。



西園寺 馨(GM) : 「よし、システム。オールグリーン……全て、終了っと。はい、みんなお疲れさまー! これで、このセッション……世界樹の迷宮、全て終了しましたっ!」



一同 : 「「「お疲れさまでしたー!」」」(ぱちぱちぱち)



桐生 和彦(シグ) : 「しかし、思ったより長丁場になったよなぁ……」


芹沢 梨花(リン) : 「はい……色々な事がありましたよね……」


桐生 若葉(アイラ) : 「ねー……1年ちょっと、くらいだっけ。こうして皆とやってたの……何だかあっという間だった気がするけど!」


芦屋 灯里(ナルラト) : 「アタシはほんのちょっとの付き合いだったけど……やっぱり、終わっちゃうとなると寂しいねェ……」


西園寺 : 「俺も、せっかくアカリちゃんみたいな可愛い子と知り合えたのに、もうこの身体でお相手出来ないと思うと寂しいよー!」


芦屋 : 「あはは……理系の堅物だと思っていたけど、お世辞がうまいじゃないさね、ねぇ、西園寺先生?」


西園寺 : 「いやいや、お世辞じゃないって……」


芦屋 : 「うふふ……ありがと、西園寺センセ」(ぐいっ)


西園寺 : 「ちょ、苦しっ……ネクタイ引っ張らないでくれって、お嬢さっ……」


芦屋 : (ちゅ)


西園寺 : 「!!!」


神崎 高志(フィガロ) : 「!?」


芦屋 : 「……コレ、アタシのメールアドレスだから……気が向いたら、メールちょうだい。ね?」(ニコ)


西園寺 : 「あ、ああっ……は、はい!」


芦屋 : 「それじゃ、そろそろ帰るとするさね、ウォード?」


ウォード=ランカスター(ガモン) : 「はい」


芹沢 早苗(カエデ) : 「もう帰っちゃうんですか、アカリさん?」


芦屋 : 「えぇ……店の仕込とか、これでも色々する事があるし。それに……」



西園寺 : 「……シーナ君! シーナ君、にちゅーされた! ちゅー! おデコに! 俺、モテ期きた! モテ期!」


椎名 淳平(シュンスケ) : 「あれは、挨拶のキスですよ先生」


神崎 : 「モテた事ないからデコチューくらいでテンション上がっちゃってホント……情けないねェ……」



芦屋 : 「……あんまり長居すると情が移っちゃって……帰れなくなりそうだからねェ」


梨花 : 「そうですか……アカリさん、気を付けてくださいね!」


芦屋 : 「あはは、大丈夫さね。ウォードも居るからねぇ……帰るよ、ウォード!」


ウォード : 「はい……」(スタスタスタ……ピタッ)


西園寺 : 「あ! な、な、何だよ……そんなに近づくなって、お前、デッカイんだから……」


ウォード : (ビシッ)「……これが私の連絡先です」


西園寺 : 「ふぁっ!? あ、あぁ……ありがとう」


ウォード : 「……日本語は話せますが、書くのはあまり得意ではありません。故に、返信はおくれるかもしれませんが……何か御用があったら、遠慮なさらず……」


神崎 : 「固い固い、ウォード。そういう時は、素直にメールくれ。でいいんだって……ねぇ?」


西園寺 : 「あ、あぁ、そうだよ……その渡し方だと、何か俺、メール。用がないと出しちゃいけない雰囲気だったって!」


ウォード : 「そう、ですか……では……気軽にメールをくれ、西園寺。待ってるぞ?」


西園寺 : 「あ、あぁ! ……じゃぁね。アカリちゃん、ウォードさん」


ウォード : 「はい……」


芦屋 : 「また会える日、楽しみにしてるから。ね?」



 ……芦屋 灯里とウォード=ランカスターが退室した。



滝 睦(ヒルダ) : 「一人、一人とこの場を去っていく。か……」


西園寺 : 「う……何か寂しいなぁ……」


早苗 : 「私は、今日はゆっくりしていきますよ!」


梨花 : 「私も! ……今日は、ゆっくりお話しましょうね」


若葉 : 「ね、一杯話そう!」


西園寺 : 「みんな…………ありがと、ね」



 ……それから、小さな宴が始まったんだ。

 話すのは、他愛もない会話ばかり。

 今、思い出しても皆、西園寺先生と何を会話したのか……どんな話をして、何回笑ったのかもよく覚えてない。


 だけど……。




早苗 : 「あははははは、や、やめてください西園寺先生! おなか、お腹痛い……!」


西園寺 : 「え!? あれ、俺、何か変な事言ったかなぁ?」


桐生 : 「オンジって、結構天然だよなぁ!」


西園寺 : 「……ふぇー?」



 沢山の笑い声に包まれて。

 その小さな宴は、とても。とても楽しいものだったという事は、みんな同じように記憶しているんだ。


 でも、楽しい時って永遠には続かなくて……。




若葉 : 「あれ、もうこんな時間……」


早苗 : 「あ……ホントだ……」



 むしろ、楽しければ楽しい程、時が流れるのも早くて。

 お終いの時間は、あっという間に来てしまった。




椎名 : 「そうか、そろそろ帰らないとな……」


西園寺 : 「うん……そうだね」


桐生 : 「……梨花と早苗ちゃんは俺がおくっていくよ。今日は車で来たし」


早苗 : 「やったー、ありがとうございます!」


梨花 : 「……和彦さん、すいません」



 その終わりはあまりにも突然で。

 でも、いつも通り、あまりにも自然な事だったから。




滝 : 「……それでは、そろそろ帰るとするか。またな、西園寺先生」


西園寺 : 「うん、気を付けてね。滝君」


若葉 : 「メールちょうだいね、西園寺先生!」


西園寺 : 「勿論、おじさんからのメールだからって、ブロックしないでくれよ、若葉君!」


梨花 : 「私も、私も!」


早苗 : 「ブログにも来てくださいねー!」


西園寺 : 「あはは……遊びに行くよ」



 だからどこか思っていた。

 この日常が、まだ幾度も続くんじゃないか、って思っていた。




神崎 : 「……じゃぁ、そろそろ行くとするさね。またね、カオルちゃん先生」


西園寺 : 「……うん、タカシ君。元気で。性病には気を付けて!」


神崎 : 「あはは……んじゃ、また」


桐生 : 「……オンジ! 女の子にメールするのに夢中になって、俺にメール忘れるなよ!」


西園寺 : 「勿論! ……桐生君こそ、恋人の写メールばっかり渡したりしないでくれ給えよ? そんな事したら、無言でメール削除するからなっ!」


梨花 : 「ふぁっ!? な、何言ってるんですか西園寺せんせー……もー!」


桐生 : 「あはは……」


椎名 : 「……先生」


西園寺 : 「あ、椎名くん……」


椎名 : 「……今まで、ありがとうございました」


西園寺 : 「ちょ、そんな湿っぽい顔するなって! ……大丈夫だって、暇あったらメールするから。キミも頑張って」


椎名 : 「……はい」


西園寺 : 「ウチの修士課程、大変だからね……心してかかるように!」


椎名 : 「……覚悟していますよ、それでは」



西園寺 : 「……うん。それじゃ、みんな……さよなら、元気で!」



 最後に見せた西園寺先生の笑顔はいつもと同じ。

 大人の癖にすごく無邪気で落ち着いた……いつもの変わらない笑顔だったから。

 だから……。




七瀬 澪(シェヴァ) : 「あれ?」


桐生 : 「どうした、ななみ?」


七瀬 : 「おれ、携帯電話、先生の部屋に忘れてきたみたい……」


滝 : 「それはいけないな、すぐに取りにいってこい」


早苗 : 「ここからなら、5分でとりにいけますよ! ……みんな、待ってますから」


七瀬 : 「うん! ……淳兄ぃ、ちゃんとまっててね、一人で帰ったら、いやだよ!」


椎名 : 「心配せずともまってる……早くいってこい。研究室は、もうこの鍵がないと開かないからな……ほら、気を付けていけな」


七瀬 : 「……うん、いってくる!」



 だから俺は、思っていたんだ。

 何だかんだいっても、このドアを開ければまだ西園寺馨は居てくれるんだって。

 また、笑顔で。

 『どうしたんだい、七瀬君は慌てものだなぁ』

 そんな事を言いながら、出迎えてくれるんだって。

 だから……。





七瀬 : 「……西園寺先生! ごめん、おれ、携帯電話忘れて」



 ドアを開けても、誰もいなかった時。



七瀬 : 「西園寺……せんせい?」



 声をかけても誰もいなくて。

 電気もつかなくて……。


 からっぽの机があって。

 誰も座らない椅子があって。

 からっぽのカップが置かれていて……。


 さっきまで賑やかだった部屋がしぃんと、静まりかえっていて。

 誰もいないこの研究室を見た時。




七瀬 : 「西園寺……先生」



 何もない部屋でぽつんと。

 置いてけぼりになった携帯電話を見つけた時。


 『もう、置きっぱなしなんてそそっかしいねぇ』


 そんな風に笑ってくれる影が、もう何処にもなくて。


 あぁ、もういないんだ。

 西園寺先生は、本当に行ってしまったんだ。


 おれの、手の届かない世界に。

 ……その事実がやっと、脳内に染み渡ってきて。




七瀬 : 「…………さい、おんじ……せんせぇっ……」



 涙が出てきて、止まらなかった。

 頬が塩味になる。


 一粒、ひとつぶ涙が零れるたびに、色々な事が思い出された。


 色々なことがあったって、そう思った。

 ひっかきもぐらに苦戦して……そんな俺たちを笑っている、悪戯っぽいGMさんだなぁって思った事。

 ……ワイバーンの卵をとってこいって言われて、激情したおれを激しく叱責した事。

 シュンスケを、淳兄ぃを俺から奪おうとした事。

 でもそれ、全て……淳兄ぃを助ける為にやったという事。


 そして……全ての罪を自分の痛みにして抱え込んで、それでもずっと笑っていてくれた事……。




七瀬 : 「西園寺せんせぇ……!」



 サーバーがいっぱいになるほど俺たちの思い出をもっていって、あの人は消えてしまった。

 また、いつか俺たちと会う為に。

 そして……これまで紡いできた俺たちの思い出を、ずっとずっと守る為に……。


 誰もいなくなったからっぽの部屋に来て、今、気持ちがこみ上げてくる。





七瀬 : 「西園寺せんせぇ、おれ、すっごく楽しかったです! ……お疲れさまでしたっっっっ!」




 泣いたらいけないと思ったけど、溢れる涙の留め方をしらず、おれはそのまま頭を下げていた。

 西園寺先生と、先生がくれた思い出いっぱいに。




七瀬 : 「……ありがとう、ございました」



 そして、感謝した。

 ずっと、ずっと歩みを留めていた……俺と、淳兄ぃの時間を動かしてくれたあの人と……。


 ……動きだす勇気をくれた、この世界と、友達に。






> 後談 〜 貴方のいない、それからの世界






 それから、半年後。

 都内、某所。


 その日、七瀬澪は久しぶりに西園寺馨の研究室に訪れていた。




七瀬 : 「よい、しょっと……何か久しぶりだな、ここ」



 最後のセッションから随分と時がたっていた。

 再び、この場所に訪れたのは今日が初めてである。



七瀬 : 「うわ、やっぱり半年も入ってないと汚れるよね。よし、まずは掃除。そうじ……」



 七瀬はもってきた鞄から、箒や掃除機、雑巾などを取りだすとてきぱきと掃除をはじめる。

 半年、殆ど人が入らなかったのだろう。

 ほこりっぽい部屋が、見る見るうちに綺麗になっていった。




七瀬 : 「……これと、あとは芳香剤おいて……やっぱり、半年といわず三ヶ月に一度くらいきて、掃除しないといけないよね。誰も入らないとはいえ、ホコリってたまってくるし……まぁ、淳兄ぃの部屋みたいにどんどん散らかっていく事はないけどさ」



 綺麗になって部屋の中央に座り、一度呼吸を整えると七瀬は誰もいない空間へと向き合った。



七瀬 : 「えへへ……西園寺先生。メールする、っていって……何度かメールしてたけど、実際ここに来るのは久しぶりだよね。なかなかこれなくて、ゴメンね。おれ、今日はみんなの事とか、ちょっと報告に来たから」



 そして、誰もいない空間に話しはじめた。



七瀬 : 「カズ君と、梨花ちゃんは相変わらずだよ! ……二人、すっごくお似合いでさ、仲良くやってるみたい。この前は遊園地にいっしょに行ったって惚気てた! おれ、お土産のクラッカーもらったよ! 写真も見せてもらったけど、幸せそうに笑ってた! カズくんも、梨花ちゃんと一緒だと凄く自然に話せるみたいで……カズ君、いままでの恋人とはちょっとぎこちなかった所があったけど、梨花ちゃんとはそういうのないからさ……おれ、カズ君と梨花ちゃんは幸せになってほしいなーって素直に思うんだ!」



 テーブルに置かれたグラスはぴかぴかに磨かれているが、その中はからっぽである。



七瀬 : 「でも、早苗ちゃんと若葉ちゃんはカズ君たちの事、ちょっと心配みたい……二人とも、お兄さんとお姉さんが心配なんだよね! 今度、デートについていってやるんだーって計画を練ってたよ! そんな事しなくても、梨花ちゃんもカズ君も大人なんだから心配しなくてもいいと思うんだけど……二人とも、ぶらこん。しすこん。ってヤツなんだろうね! ……でも、若葉ちゃんと早苗ちゃん、仲良くなったみたいでさ。最近、若葉ちゃん『こすぷれ』を早苗ちゃんにさせようと思ってるみたいだ。何か、そういう世界に引きずり込みそうでちょっと心配かもだけど、友達増えたって早苗ちゃんは喜んでたよ!」



 ホコリっぽかった机は磨かれて、書類も綺麗に整理されている。

 だがその書類には、暫く触れた形跡はない。



七瀬 : 「イインチョは……滝さんは、最近仕事忙しいみたい。やっぱり、刑事さんだから……なかなかゆっくり出来ないんだろうね。でも、昔みたいに取っつきにくい所はなくなったかな。 俺の働いてる店……アニキの店にもよく顔を出してくれるんだよ。 アニキにデートでもしない、ってからかわれてるけど、笑ってあしらってる。余裕が出てきた気がするし、前よりずっとよく、笑うようになった気がするよ! イインチョ、笑うと凄く可愛いんだ。今度、笑ってる写真、メールでおくるから。まっててね!」



 奥にあるサーバーからは、静かなモーターの音だけ聞こえる。

 冷却用のファンがまわっているのだろう




七瀬 : 「アニキは……神崎先輩は、相変わらずだよ。お店切り盛りして、たまに楽器やって、歌うたって……あ、でも前より『オンナアソビ』っての? そういうの、減ったのかもしれない。『カオルちゃん先生と、約束したからねぇ。いーい中年の俺を見せるまで、火遊びで刺される訳にもいかないでしょ?』とか言ってたから、先生の事気にして、女の子に粉かけるのちょっと控えているんだと思うよ! 最も、アニキの性格だからいつまで持つかわかんないけどね……」



 からっぽのイスは、音もなく佇んでいる。



七瀬 : 「俺は、アニキの店でまだ働いてるよ。住み込みで、アカリねーさんも、ウォード兄ちゃんも良くしてくれる。お客さんも俺の事覚えてくれて、『キミを見に来たよー』なんて冗談言うお客さんもいるんだよ。えへへ、俺、看板娘……えーと、男だから、看板息子? でも、そんな感じで楽しくやってる! アカリねーさん、先生からのメール楽しみにしているみたいで、最近デコメとかもとってるみたいだよ! あんまり携帯とかメール、詳しい人じゃなかったのにさ……先生も罪な人だよね!」



 壁にかかっている時計は、随分前から止まっているのだろう。

 同じ時を刻み続けている。

 七瀬はそれに気付くと、背伸びをして時計をとりもってきた新品の電池と取り替えはじめた。




七瀬 : 「……えーと、ウォード兄ちゃんはたまに若葉ちゃんとデート? っぽいこともしてるみたいだよ。といっても、まだまだ付き合うとかそういう風にはならないみたい。たまに一緒にご飯食べて、お仕事の愚痴とか聞いてもらってるんだって。ウォード兄ちゃんも、若葉ちゃんの事は年の離れた妹みたいに思っているのかなぁ……でも、どっちにしてもウォード兄ちゃんが女の子の話を聞くなんて、凄い進歩だと思うんだ。前まで、女の人なんてとりつく島もない扱いだったからさ……こういうのも、先生のセッション効果かもね!」



 時計をいれかえ、時間を合わせる。

 止まっていた時は、再び動き出した。




七瀬 : 「俺と、淳兄ぃは……うん、変わらずやってるかな? 淳兄ぃ、学業復帰して色々大変みたいだけど、毎朝俺の働いてる店には顔を出してくれるよ。毎日来る奴なんかあるかーって、ウォード兄ちゃんは呆れてたけどさ。今は俺と、離れて暮らしてるからたまに行かないと部屋、ごっちゃごちゃで大変だけど……淳兄ぃ、掃除とか家事、絶望的に下手だから……」



 かち、かち、かち。

 時計の秒針が室内に響く




七瀬 : 「……でも、幸せかな? おれ、今までずっと淳兄ぃに見てもらって……世話になって生きてきた、けどさ。おれ、やっと淳兄ぃと同じ方向見て進んでいる気がする。だからおれ、とっても幸せなんだ」



 七瀬はそこでごろりと寝ころぶ。



七瀬 : 「……この半年であった俺たちの事は、そんな感じかな?」



 全て語り終え、七瀬は満足そうに笑うとゆっくり起きて立ち上がった。



七瀬 : 「ホントは、メールとかすればいいんだけどさ! ……たまには、友達の……先生の顔見て話したかったから、今日は掃除がてらここに来て話す事にしたんだ。聞こえてるかどうかわからないけどさ……」



 サーバーから、唸るような音が聞こえる。

 何か処理をしているのだろうか。

 だが、西園寺馨が姿を現す事はなかった。

 ……もう、現実の世界を認識する事はないのかもしれない。



七瀬 : 「……それじゃ、またね、先生」



 七瀬が帰ろうとした、その時。

 ポケットにいれていた携帯電話が震える。

 メールを着信したのだ。




七瀬 : 「あ、メールだ……」


 誰からだろう。

 そう思い開いたメール。

 差出人には 『西園寺 馨』 の名前があった。



七瀬 : 「せ、先生!?」



 あわてて、メールを開く。

 日時は今日、たった今。

 差出人は西園寺馨。

 件名は……。




七瀬 : 「……大切な、友達へ」


 大切な、友達へ。


 今日は来てくれてありがとう!

 久しぶりに顔が見れて嬉しく思うよ。

 近状報告も、わざわざありがとうなっ。


 ズルズルとコスプレ世界へ誘おうとする若葉君と、引き込まれる早苗君……仲良くやる和彦君に梨花さん。

 睦君も、タカシ君も、ウォードさんもアカリさんも、そしてキミと我が教え子の姿も、全部目に浮かぶよ。


 掃除もわざわざありがとう。

 最近、部屋の片隅にクモが住み始めて……寂しい部屋の慰めにはなるけど、少々景観には悪いかと思っていた所だからとっても助かるよ。


 それと、時計もね。

 時間が動かなくなったから内臓時計で推し量っていたけど、まさか半年もたっているとは思わなかったよ。


 やれ、こっちの世界は時間の流れがいまいち分かりにくいし。

 ボク自身も、一度没頭すると長時間それに集中する癖があるから時間の概念がなく、あれだけメールするって言った癖にそれも疎かにしていたと思う。

 心配してたらゴメンな。


 でも、キミたちが元気でやってるように、こっちも元気でやってるよ。

 正直、寂しくないっていったら嘘になるけど……。


 でも、キミたちがボクと旅してくれたこと。

 迷宮での思い出を少し振り返るだけで、寂しさが不思議と力になっていくんだ。


 今、ボクはこの箱の中で様々な情報をやりとりしている。

 やりとりしながら、アレコレやれる事を考えているんだ。


 これから、ボクみたいに人格のあるプログラムが出来たらどうするべきか……もっとこのプログラムを軽量化する事は可能か。

 省電力で動けないか、低予算で組めないか……。


 考える事がいっぱいあって忙しいけど、楽しいと思えるのはきっと外にいるキミたちに会いたい気持ちがあるからだろうね。


 さて、ボクは暫くこうして研究の為、未来の為箱にこもってる。

 メール不精になってなかなか、返事も来ないかもしれない。

 けど、みんなからのメールは全部読んでて、力にしているからね!


 今日は、来てくれて本当にありがとう。

 また、あえる日を楽しみにしてるよ。

 それじゃ、またね。




七瀬 : 「西園寺せんせぇ……」



 七瀬はメールを暫く見つめていたが、やがて静かにそれを閉じる。



七瀬 : 「……うん、西園寺せんせぇ! ……またね!」


 荷物をもち、七瀬は再び歩き出す。


 壁にかけられた時計は、ゆっくりと時を刻み出す。

 留められた時がいま、眩しい光りとともに動きはじめていた。








> プロローグ 〜 彼の、むもの






 全ての始まる前。

 都内、某所。



西園寺 馨(オリジナル) : 「さて、と、これでデータは充分だな……」



 その日、研究はすべて終わる予定だった。

 二重(ダブル)になった人格を持つ西園寺馨と、そのコピー……。


 何故、コピーは生まれたのか。

 記憶と人格のコピーの方法はどうするのか。

 脳が司る記憶、人格などの情報、それら全てのデータを彼はまとめあげた。




??? : 「あぁ、お終いだね」


 オリジナルである西園寺馨の前には、自分と同じ情報を持つ存在が居る。

 記憶、人格、知識……その他諸々を全て複写した人物だ。

 だが、微妙な差異が出ている。


 一卵性双生児が遺伝子上に全く同じ情報があるにもかかわらず、性格や知識などに差が出るように、オリジナルと複写の西園寺にも微妙な差異が出始めていた





西園寺 : 「……まだお前が私とかけ離れた性格になっている事は突き詰めてないが、情報としてはもう充分なくらい出そろった。そろそろ我々のデータも、凍結しようと思うんだが」


西園寺コピー : 「……鈴の音が聞こえる」


西園寺 : 「鈴?」


西園寺コピー : 「外からだ……賑やかなんだ、何だろうな」


西園寺 : 「……何だ、またお前は勝手に外のマイクをジャックして、外部の音を拾ってきてるな。そういう事はやめろと言ってるだろう? 誰かにアクセス解析でもされて、この場所を突き止められたらマズイ」


西園寺コピー : 「不正アクセスってやつ? ……無理だって、俺はデータの世界に生きる仮初めの人格だよ。血肉のある人間に、捕まえる事なんて……出来るかって」


西園寺 : 「まぁ、そうだろうけどな……」


西園寺コピー : 「……なぁ、何で外はあんなに賑やかなんだ?」


西園寺 : 「そうだな……うん、そうだ、もうすぐクリスマスだからだな。クリスマスは知ってるだろ?」


西園寺コピー : 「……勿論。サンタというショタコンでロリコンの爺さんが、玩具をこっそり寝静まったショタ&ロリの枕元におく日だろ」


西園寺 : 「あってるようで間違ってる知識だな! ……まぁいい、そうだな。折角だから、お前にも何かプレゼントをしてやろうか?」


西園寺コピー : 「ぷれぜんと?」


西園寺 : 「これまでデータ収拾に協力してくれた訳だし……ここは一つ、私がサンタになってプレゼントの一つでも準備してやろうと思ってね。さぁ、何がほしい?」



 データを凍結し、世界から情報を遮断すれば空き容量はまだ随分ある。

 この空き容量をつかって、もう一人くらい人格をつくってもいい。

 何なら、世界を一つ作るのだってかまわない。


 データの中。

 箱庭の世界だが、永久とも思える時間を得たこの人格には、世界一つ作るのもいい慰みになるだろう。


 もう一人くらい、仮初めの人格を作れば話相手も出来ていいだろう。

 幸い、空き容量はたっぷりある。


 ……望むものなら何でも作れるだろう。

 オリジナルの記憶である西園寺馨は、そう思っていた。

 だが。





西園寺コピー : 「俺は……友達が、欲しい」


西園寺 : 「……友達か。わかった、すぐに人格を形成しよう」



西園寺コピー : 「違う! ……プログラムの友達じゃなく、人間の。生きた、人間の友達だ」



 予想外の答えだった。

 何故ならそれは、オリジナルの西園寺は必要としなかったもの。


 ……他人は利用するだけの存在。

 友達などいなかった西園寺にとって、コピーの望んだものは自分の人生が拒んだものだった。




西園寺 : 「そうか、友達か……」


西園寺コピー : 「……あぁ。俺みたいなコピーとか、作られた人格じゃない。人間の……友達。俺は、そういうヤツらと馬鹿みたいに騒いでみたい」


西園寺 : 「なるほど、な……」


西園寺コピー : 「……出来るか?」


西園寺 : 「うむぅ……私自身、友達作り。なんてモノした事がなかったから……何ともいえない。だが……善処はしよう。そうだな、ひとまず椎名君に声をかけてみるか……」


西園寺コピー : 「椎名……アンタに、生きる事を諦めさせた教え子か」


西園寺 : 「そうだ……何度かあった事はあるな。あれは、いい教え子だぞ?」


西園寺コピー : 「俺は、それと七瀬ってヤツにも会ってみたいな。アンタに諦めさせたのは……ホントは、その子だろう?」


西園寺 : 「……さぁて、シーナ君はあの子を大事にしてるからね。つれてきてくれるかわからないけど、頼んでみよう」


西園寺コピー : 「あぁ、頼んでみてくれ」


西園寺 : 「だが、友達か……そんなものを作って、何になる。お前はこの箱から出られる身体ではない……それは、分かっているのだろう。永遠に触れる事の出来ない事など、どうして。そんな無駄な事……」


西園寺コピー : 「無駄かもしれない、けど……呼ばれてみたいんだ、俺。友達って……」



 友達。

 自分の人生では拒んでいたものだが、西園寺がこう語るという事は……自分は無意識に望んでいたのだろうか……。




西園寺 : 「……あぁ、わかった。テストという名目で、椎名君に打診してみよう。それと、彼の友達数人もな」


西園寺コピー : 「……あぁ」


西園寺 : 「そうだな、シーナ君はTRPGなんぞも趣味にしているから、そのゲーム実験でもするか。ゲームは……確か彼が昔遊んでいたゲームを扱おう。いいな?」


西園寺コピー : 「……あぁ、任せる」


西園寺 : 「では、早速メールをおくろう。そして、TRPGのセッティングだ……じゃ、友達作り。はじめてみようか?」


西園寺コピー : 「……あぁ!」



 その時、西園寺は複写である自分が笑うのを確かに見た。

 感情はあくまでプログラムだけのもの。

 コピーである彼は、それを操る力をもってないと思ったが……。




西園寺 : 「友達、か」



 冬のある寒い日。

 仮初めの人格、ただ一つの願い……。

 友達が、欲しい。

 その願いを叶える為、彼らは集められた。

 世界樹の迷宮に。


 そう、この物語は時を留めた男が 「友達」 とともに……時を動かす物語。



長い間、お付き合い頂きありがとうございました! すべてお終いです。お疲れさまでした!