>> 聖夜の徒労






 どうやら獅子王は、サンタクロースを信じているらしい。

 審神者からそう聞かされた時、同田貫正国は 「いくら獅子王でもまさかそれはないだろう」 と思い、冗談だろうと聞き流した。
 だが実際に獅子王が秋田藤四郎や五虎退に混じって。


 「なぁ、サンタさんにどんなプレゼントもらうか、もう決めたのかよ!?」


 そうやって無邪気に聞いてまわる姿を目の当たりにした同田貫正国は、獅子王が純粋に 「良い子にしていた子供にプレゼントを配ってくれるサンタという存在」を信じていると気づき、その純粋さに感心した程だった。

 見た目は確かに幼いが、仮にも「太刀」という立場であり、刀剣としても平安の頃からの存在。
 かなり「年長」のはずなのだが……。


 「まぁ、刀剣のすごしてきた年齢と知識は必ずしも同じじゃないし……獅子王はその点、他の刀剣より子供っぽい事あるからなぁ」


 獅子王が短刀たち同様に「本当に心からサンタの存在を信じている組」だと知った時、審神者は苦笑いをしていた。
 この本丸には、比較的純粋に「サンタクロース」を信じている短刀たちが多い。
 審神者はそんな短刀たちのためにこっそりプレゼントのリクエストを聞いたり、サンタクロースの服を準備したりと色々忙しくしていたので、よもや比較的年長者である獅子王までサンタを信じているとは思っていなかったようだった。


 「いや、それにしても獅子王までサンタを信じてるとは……参ったな。獅子王からもプレゼントを聞いてやらないと……」


 手帳にびっしりと書かれた短刀たちの「欲しいものリスト」を見て、同田貫正国はその苦労を知る。
 そして。


 「もし主が良かったら、獅子王のサンタ役は俺に任せてくれないか」


 そう申し出るに至ったのだ。
 普段から物事には頓着せず、戦うために己を律し鍛錬に励むばかりの同田貫正国が自分から何かをやりたいと申し出た事が嬉しかったのだろう。
 審神者は 「忙しかったからちょうど良かった」 嬉しそうにそう告げると、サンタが着るという赤い装束を渡してから 「獅子王のサンタさんは任せたぜ」 笑顔でそう、送り出してくれた。

 獅子王は鍛錬でも内番でもはしゃぎすぎてしまい、しょっちゅう部屋着を破ってしまう。
 クリスマスでも 「サンタさんは、俺にはオモチャとかじゃなくて新しい部屋着を2,3枚プレゼントしてもらえればいーよなぁ」 なんて事を言っていたのは記憶に新しい。

 獅子王を思う気持ちこそあるが、特別なプレゼントを思いつかなかった同田貫正国はその時の言葉を思い出し獅子王が愛用している部屋着と同じものを3枚準備する。
 ラッピングなんて洒落た事は出来なかったが、どの道獅子王の事だ。プレゼントを見つけたら袋を破いてしまうだろうがこれで充分だろう。

 あとはそ獅子王が眠っているうちにこっそりと枕元におけばいい。
 そう思っていたのだが……。


 「なぁ、正国! いっしょにサンタを捕まえようぜ!」


 ……獅子王からそんな提案をうけたのは、クリスマス・イヴの夜の事だった。

 今年のサンタ役は目の前にいる同田貫正国なのだが、本気でサンタを信じている獅子王はそれに気付く事もないのだろう。
 断るのも不自然だ……というより、そもそも獅子王は断るスキを与えてはくれなかった。


 「ほら、俺の部屋で作戦会議しようぜ!」


 獅子王は半ば強引に同田貫正国の背中を押すと、自分の部屋へと案内する。
 同田貫正国は結局流されるまま、二人は寝室でサンタの襲来を待った。


 「サンタを捕まえればさ、プレゼントとか、全部俺のもんだもんなっ!」


 本気か冗談かわからない笑顔で、獅子王はそう言う。
 サンタが来ても怪しまないようにと、室内はすっかり暗くなっていた。

 短刀たちは、サンタを待つために早く寝てしまったのだろう。
 そのせいもあってか、室内は外で降り積もる雪の舞い散る音すら聞こえるほどに静かに思えた。


 「……こないな、サンタ」


 元より早寝早起きの獅子王には、夜更かしは少々身体に応えるのだろう。
 まだ零時をまわったばかりだというのに、すでに眠たそうに目をこすりながら、襖をじっと眺めている。
 そこからサンタが来るのではと、期待しているのは明白だった。


 「……もしかしてさ、俺が悪い子だったから、俺のところには来ないのかな?」


 不安になったのか、獅子王はやや弱気な声でそんな風に呟く。
 その言葉を受け、同田貫正国は彼の頭を撫でながら言った。


 「バカ言うな……お前がいつも仲間が傷つかないよう、真っ先に戦陣へ突っ込んでいくのを俺ぁ知ってるぜ? ……そんな仲間思いの奴が、悪ぃ奴な訳あるかよ」


 それから 「けどなァ」 と付け足して。


 「サンタを捕まえようって思うのは、ちったぁ悪い事かもしんねェなぁ」


 すると獅子王は一瞬反省したそぶりを見せるがすぐに明るい笑顔になって。


 「そうだよな、うん……へへ、俺なんだろうな……サンタさんが来るとかより、正国に褒められた方が嬉しいかも」


 そうやってそっと、彼の腕に滑り込むのだった。
 しばらく、二人で抱き合ううち。


 「すぅ……」


 同田貫正国の腕の中、獅子王の寝息が漏れ聞こえる。
 やはり、普段から早寝早起き。健康優良児の獅子王だ。あんまり長く起きているのは無理だったのだろう。


 「これじゃあ、サンタの衣装はいらなかったかもなァ」


 同田貫正国は誰聞かせるでもなく一人、そうつぶやくと準備していたプレゼントを獅子王の枕元に置き、その耳元で小さく。


 「メリークリスマス」


 そうやって、囁いて彼を抱いたまま眠りにつくのだった。
 ……獅子王の温もりを、身体一杯に感じながら。






 <でぐちこちら。>