>> 陸遜少年の事件簿。






 その日は朝から穏やかな光に満たされていた。


 「退屈、ですねぇ」


 在り来たりの報告業務をあらかた終えた頃、陸遜がぽつりとそう呟く。


 「何言っているんだ、我々に仕事がないという事は、世が安寧の中にあるという証拠だぞ。いい事ではないか」


 屋敷内の使用人より受けた陳情書に目を通しながら、私は言葉を返す。

 時刻はもうすぐ昼時か。

 これを読み終えたら少し休憩に入るか、そう思っていた私に。



 「すいません、孫権様」



 陸遜がふと、そう声をかける。



 「ん、なんだ?」



 顔をあげ返事をすれば、陸遜は珍しく照れたように頬を赤らめ視線を逸らす。

 愛らしくも美しい笑顔を浮かべその小さな唇から静かな口調でこう、言った。




 
「なんだか退屈なんで、ちょっと全身の骨という骨をベキベキに砕いて狭いスキマとかに入っていってくれませんかねぇ」 (※1)




 
天使のような顔をしてなんて悪魔な事を口にするんだこの子は。



 というか。



 
出来るワケがない!




 「そんな事、無理に決まっているだろうが。私はサンタナでもなければ滑井でもないんだからな!」



 当たり前の返答をしたつもりだった。

 というか、そう返答しなければ命をかけて身体の骨という骨を折り何処か狭い所に入らなければいけなくなる。


 その思いから常識的かつ上司的な回答をしたつもりであった。

 だが。



 
バシン。



 乾いた音が響き、左頬に鈍い痛みが走る。


 ――叩かれた。


 そう認識するのと同時に、陸遜は悲痛な声をあげ私に言った。



 
「孫権様、見損ないましたよ。孫権様ともあろう方が、やる前から不可能だと言うなんて! ……赤壁の時もそうでした、最初は不可能だと思った。ですけれども、劉備殿の協力を経て、我々は勝利を掴みました。あの時、どうして勝つ事が出来たのか、孫権様。わかりますか。諦めなかったからです。諦めなかったから、我々は勝てたのです。いいですか、孫権さま――諦めたらそこで試合終了ですよ!」(※2)




 
安西先生、それここで言う事じゃありません。




 「じょ、冗談は程々にしてくれっ。確かに諦めないという事は大事だ、赤壁での勝利も、いい意味でのしぶとさで勝利したと言えよう。だがな、陸遜。
今ここは、勝負するところじゃないだろうが。常識的に考えて!」


 「何を言ってるんです、孫権さま。そろそろ、
闘わなきゃ現実とっ!


 「だから勝負する所じゃないと言っているだろうが、今私同じ事二回言ったぞ。だいたいお前、そうやって私を現実と闘わせようと目論んでるがなぁ……実際ただ、私が骨をいきなりバキバキ砕き始めたら面白いんじゃなかろーかと、思いついたから言ってみただけだろう。違うのか」



 そう切り返す私の言葉に陸遜は小さく舌打ちをすると。



 「しかし、本当に今日は退屈ですよねぇ。何かこう、空から呂蒙が降ってくるとか。そういう面白い事があればいいんですけれども」



 そんな事を言いながら、再びたまっていた職務の整理を始めた。

 どうやら、全身の骨という骨を折る事は免れたらしい。



 「そうだな、呂蒙でも降ってくればさも面白いのだろうがな……」



 って、それが面白い事なわけあるか。

 全く、今陸遜の奴がまるで今日は雨でも降りそうですね。

 みたいな感覚で、今日は呂蒙でも降りませんかね。とか言ってのけるモンだから、つい相づちを打ってしまったじゃないか。

 私とした事が、悪い軍師にそそのかれそうになってしまった。



 「何言ってるんだ、発想が地味に恐ろしいじゃないか……」

 「そうですか、普通だと思いますが」

 「バカいってないで、とっとと仕事を終わらるぞ」



 私は、過ぎ去った危機にひとまず安堵の息を漏らしながら自分の職務。

 読みかけの陳情文の続きを読もうとした。


 何なに、3階のベランダが……っと。

 そこまで読みかけた、その時。




 
「うぉぉぉぉぉ、お、お、落ちるっ。落ちるぞー!!!」




 聞き覚えのある叫び声が、窓の外から聞こえる。

 まさかと思い顔を上げた私の目に入ったのは、今まさに空から落下していく、呂蒙の姿であった。




 
「って、りょ。呂蒙ーッッッ!」




 私は驚きと困惑とで叫ぶ私の耳に、どさっ。という、砂袋が落ちるような鈍い音が響く。


 確かこの建物、3階はあったよな……。

 呂蒙、見るからに頑丈そうで、休日ともなればビール片手に草野球に勤しんでいそうな風体だが、あれで結構病弱で穴という穴から血を吹き出したりする(※3)し、これは流石に……。



 
逝ったか?



 なんだか、窓から外を覗くのが怖いのだが。

 どうしようか。



 そう考えている私より数秒おくれて、陸遜はゆっくり顔を上げた。



 「孫権さま、今なんか 
董卓の声 がしませんでしたか?」




 
――孫呉であの声が響けば、それは呂蒙の声だろう。常識的に考えて。




 「い、いや。違う。その、り。呂蒙が、今な」

 「呂蒙殿がどうかしましたか。相変わらず暑苦しいヒゲしてましたか。暑苦しいヒゲとロンゲになりましたか、どうなんですか」



 なんかコイツ、仮にも上司であり恩師といっても差し支えの無い呂蒙に対して随分と辛辣な気がするが、何かあったのだろうか。

 気にはなったが、今はそれについて掘り下げている場合ではない。

 何故なら、こうして無駄に呂蒙の造詣がややオッサンよりであるという事ついて語っている間にも、落下した呂蒙の体力はぐんぐん減っているのだから。



 「それはともかくとして、大変なんだ陸遜っ。今、お前も見ていただろう。呂蒙が今なっ。その、落ちてきたんだ。空から!」



 動転したまま、早口でそうまくし立てる私に陸遜は穏やかに笑って言った。



 「はは、またまた冗談を。いくら呉下の阿蒙
(※4)とはいえ、いくらなんでも私たちを笑わせる為にそんな身体を張る理由が思いつきませんよ」




 
いや、別に私たちを笑かそうとするために落ちたワケではないから!



 というか、お前どうして 呂蒙が落ちる=身体をはって笑わせようとしている。 という発想になるんだ。

 普通なら、事故かと思うだろうがっ。



 「嘘だと思うんなら、窓の外を見てみろっ。多分、地面に伏して倒れている呂蒙が居るから!」



 半ばヤケになってそう言う私を見て、しぶしぶ陸遜は窓から身を乗り出して外を見た。

 そして。



 「うわっ、阿蒙が倒れている」


 と、小声で呟くと。



 「しまった……呂蒙が落ちる決定的な瞬間を見逃してしまいました。至極残念です。残念の極みですよ」



 と。



 
本当に、心底残念そうに、絞り出すように勿体ないといった声で、言った。




 ……そんなに残念がるの、私どうかと思うよ。陸遜。



 「というか、本当に落ちているのか。呂蒙っ」



 怖くて確かめられないの私に変わって陸遜が方は身を乗り出し地面を見ると二度三度頷いてから答えた。



 「落ちてますね、真っ赤なトマトになってますよ。呂蒙、一人ハンバーガーヒルです」

 「そんな、呂蒙っ。一体何が……」



 そう呟きながら、考える。

 今、居るこの部屋は2階にあたる。


 その上から落ちてきた。

 という事は、呂蒙は3階か、あるいは屋上に居たという事か。


 一体上で何を……。



 「わかりました」



 私の考えがまとまりきらないうちに、陸遜がいう。



 「解ったって、何がだ、陸遜……」



 おそるおそる問いかける私に、陸遜は凛とした表情で続けた。




 
「これは、密室殺人です。呂蒙殿は、何者かに殺害されたのですっ!」





 
何か言い始めちゃったよこの子!


 というか。

 一体何を根拠に殺人事件っ。


 ただ、事故で落っこちただけかもしれないじゃないか。

 それだっていうのに、なんで事件なんだ。



 「どういう事だ。陸遜。殺人とは、物騒な話だが」



 陸遜の発言は気にかかる。

 何せ陸遜は、呂蒙が何者かに殺されたのだと言うのだ。



 呂蒙は我が軍でも大切な軍師。

 その呂蒙を何者かが殺したのだとすれば、私としても黙っているワケにはいくまい。


 それに、陸遜が密室殺人と言い出した事も気になる。

 何せ、呂蒙は今
思いっきり屋外で倒れているワケなのだから。



 とはいえ、私だって一応探偵小説のたしなみもある人間だ。


 屋外で行われた殺人事件であっても、その場で殺人が行われるのが不可能であった場合。

 それを「密室状態の殺人」、即ち「密室殺人」として扱う、という事くらいきちんと心得ている。



 つまり、陸遜はこういいたいのだろう。

 呂蒙は屋外で倒れてはいるが、恐らく呂蒙の元にいくのは理論上不可能な状態であった。


 だから、呂蒙の事件は密室殺人だ。と言ったに違いない。




 「と、思ったら。呂蒙は外で倒れてますね。というワケで、密室殺人とさっきいいましたが、すいません。あれは嘘でした」




 
と、思ったら嘘かよ!



 お前、今一生懸命脳内でお前の発言に対するフォローをした私の立場を少しは考えてくれ!

 というか、お前今、完全に思いつきで喋っているだろう!


 なんというか、もう少し考えてモノを喋ってくれよ!



 「しかし、事件である事は間違いないでしょう」

 「また、何を根拠にそんな事を……だいたい、事故かもしれないだろう。呂蒙が、屋上で足を滑らせて転んだだけかも」



 むしろ、確立的にいって事故の方が高いだろう。

 呂蒙は、確かに少し暑苦しい顔とか性格とかだが、それでも殺される程悪人だとは思えなかった。



 「えぇ、私もそう思います。呂蒙なんて殺して犯罪者になりたい奴なんて、この世に居ると思えませんからね――」



 事故である点は、陸遜もおおむね同意のようだった。

 だが、
いくらなんでも、呂蒙に辛辣すぎやしないか、お前。



 何かあったの? と、疑問に思う私の耳に入ったのは、陸遜の。

 呂蒙に対する辛辣な態度を遙かに越えた、信じられない言葉 であった。



 「ですが、ここで呂蒙に事故死されたのでは、せっかく
呂蒙が空から降ってくるという面白いシチュエーションを生かし切れないと思うんですよね、私は」



 
は?



 「呂蒙殿が身体をはって命を賭してまでかけた一世一代のギャグなんです、私も答えないといけないでしょう」




 いや、だから別に呂蒙、お前を笑かそうと思って落ちたワケじゃないと思いますけど?




 「だいたい、私は些細な事でも事件にしたい性格なんですよ。 もめ事大好き!」




 そういうの、軍師としてどうかと思うんですが?




 「だから私は、呂蒙殿の身体をはったギャグに答えて、この件を事故じゃなく。事件として処理していこうと思うんです。そう……
この事故、私が事件にして、33分間持たせてみせましょう!」 (※5)





 
何持たせようとしているんだよ、お前はっ!!!





 というか、事件にしてとか。何厄介事おこそうとしているんだこの子は。

 仕事がまだ、残っているんだぞ私たち。

 私はさっさと仕事は終わらせて一刻も早く家に帰り、お酒飲んで寝たいタイプの人間なのだが。



 「と、言うワケで。いきましょう、孫権さま。現場検証に、
呂蒙殿の、殺人の証拠をでっち上げる為にッ!



 
しかもなんかでっち上げるとか言ってるし!



 「バカ言うな、仕事がまだ残っているのだぞ。お前、仕事も終わってないというのに……」



 慌ててそう反論する私に対して陸遜は。




 「あれ、駄目ですか?」



 ものすごい穏やかだけれども、だが穏やかであるからこそ恐ろしい笑顔を、私へと向ける。



 「こんなに私が頭を下げて頼んでいるのに……駄目ですか?」



 その時。

 一瞬、陸遜のイメージボイスが魔人探偵 (※6) に変わった。



 
いや、お前は頭も下げてないし、そもそも私に頼んでも居ないだろうが!



 そう思ったけど、言うのはやめておいた。

 だって、その時の陸遜の顔ときたらまさに人修羅。



 松井優征先生のマンガ的表現 (※7) をするところの。



 
断ったら殺される!



 という奴だ。



 「わ、わかった。いこう……」



 かくして私は陸遜とともに、屋上へと赴くのであった。

 地面で血を吹き出している呂蒙は、ひとまず死んでいる事にしておいて……。



 ・


 ・


 ・




 「と、言うワケでここが殺害現場になります」



 まだ殺害現場と決まったワケではないので、これから陸遜によって殺害現場の証拠がでっち上げられる場所というのが正しいだろうか。


 上からおちてきたのだから、とりあえず3階から調べてみよう。

 そう思い、向かった3階が予想通り、事故現場
(陸遜的に言えば殺害現場)だったようだ。



 この部屋は、所謂ベランダがついているのだが、そのベランダにある柵が一カ所ヘシ折れているのが見て解る。


 恐らく、呂蒙は何かしらの理由でこの柵に寄りかかるか何かした結果、柵がへし折れバランスを崩し柵事地面に落ちていったのだろう。


 と、考える私の肘を陸遜が小突く。



 「孫権様、この部屋についての説明をお願いしますよ」

 「何でだ……だいたい、陸遜。そういうのは、お前の方が詳しいだろう。お前が説明をすればいいだろうに……」

 「何言ってるんですか、解説は探偵助手の仕事だと相場が決まっているでしょう」




 あれ、私何時の間にか探偵助手にされているぞ。




 「というワケで、小林少年。説明を頼みますよ」



 しかも小林少年とか呼ばれ始めたぞっ。



 「だ、誰が小林少年だっ。誰が。というか、私はどう見ても少年じゃないだろうが」

 「あぁ、そうでしたね、じゃあ……
小林オッサン。説明を頼みますよ」



 
しまった、完全墓穴!



 というか、どうしてそんなに私を小林にしたいんだ、お前は。


 だいたい、私が「小林」なんて名字になったら、名前が 「小林 権」になっちゃうだろうが。

 ひらがなで書くと 「こばやし けん」 だぞ。

 略すと 「コバケン」 だぞ。



 
ラーメンズ (※8) と間違えられたらどうするんだっ!



 よしんば、ラーメンズに間違えられなかったとしよう。

 だとしても、
ラーメンズのコバケンと同じ名前の料理研究家と間違えられたらどうするってんだ、ええっ!




 
私は、江東の虎、孫堅の息子。


 
カツ代の息子になった覚えはない! (※9)




 「とにかく説明をお願いしますよ。探偵助手。早く自分の立場を弁えないと、朱然に火ぃつけさせますよ」



 色々、一括して突っ込みたい気分で一杯だったが、ここで抗ったら朱然部隊に伝令されてしまう。

 ここは一つ、おとなしく テリーマン係 
(※10) を引き受けておくとするか……。



 「そうだな、この部屋は……普段、評定がある時などに使っている大広間だ。評定がある時以外、掃除する使用人が出入りする他ほとんど人は入らないが。武器庫や宝物庫、書庫と違い大切なモノを保管しているワケではないから、普段から出入り出来るように鍵などは特にしていないなぁ」


 「鍵はしていないんですか」


 「あぁ、ここは特に封鎖してある部屋もないし。階段も出入り口も、仕事での移動を妨げないよう鍵をかけていないから、屋敷の中の人間なら誰でも自由に出入りする事が出来るな」


 「そうですか……」


 と、陸遜は腕組みして考えると。



 
「驚きました。これは、完全な密室ですね」



 さらりと、そう言ってのけた。



 
陸遜、私の話本当に聞いていたか?



 「いや、だから鍵かけてないって言っただろう。出入りも自由だって、誰でもここ入れるて。だいたい、今私たちが入ってきただろう、普通に」



 そう反論する私を横に、陸遜は何処から持ち出したのだろうか。

 見るからに鍵ですよ。

 というのが理解出来る、赤ん坊の頭くらいの大きさはありそうな錠前を取り出すと、それで内側からがちゃりと鍵をかけた。



 「はい、それなら。これで、密室。はい、これなら文句ないでしょう」




 
事後密室、ただいま完成!




 「これで完璧な密室です。と、言うワケで次はベランダを見てきましょう」



 密室というか、なんか中に私たちがいる時点で密室じゃないというか。

 ベランダから外に出られる時点で密室とは違うと思うのだが、それは私の心が汚れているからだろうか。


 そんな考えをぐっと押さえ、私達はベランダに出る。

 ベランダは私の見立て通り、柵の一部が壊れていた。



 「呂蒙のやつ、この柵に寄りかかったか何かして、壊れた柵ごと下に落ちたんだな……」



 私はそう言いながら、折れた柵を見る。

 別に、柵が腐っているというワケではなさそうだが……。


 というか、まだこの建物自体そんなに古くないはずだ。

 老朽化が進んでいるとか、木が腐っているとか、そういうワケでもないのにこうも見事に柵がへし折れるなんて、一体何があったんだろうか。



 「折れた柵の木は、別に腐っているワケではなさそうだ。折れ口がまだ新しい。こんな新しい木が、こうも簡単に折れるなんて確かにおかしな話しだな」



 私は陸遜に聞こえるよう、そんな独り言を漏らす。



 「お前みたいに事件にしたい、というワケではないが……この、折れた柵の新しさを見ると、ただの事故とも思えん。何者かが、柵にあらかじめ切れ込みをいれるか何か、したのやもしれんな」



 だとすると、これは事故ではなくやはり事件だ。

 無差別に誰かを狙った、故意による事件であれば黙っているワケにもいくまい。


 そんな私に、陸遜は小さく首を振ってから言った。



 「あぁ、それは違いますよ。孫権様。その柵は、以前から少しばかり使いすぎていましたので……痛んで来てしまっていた、だけです」


 「は?」



 何それ。


 
使いすぎ…… って。



 「このベランダ、景色いいじゃないですか」

 「あぁ……評定だけでなく、酒宴でもここが使えるように、景色のいい部屋にしたからな」

 「このベランダの、ちょうどそこ。折れた柵の部分から、夜ともなればいい星と月とが望めるんですよ」

 「へぇ……そうなのか」



 だが、それと柵を使いすぎるのと、一体何の関係が?

 考える私に、陸遜はさらに続けた。



 「で、その柵に寄りかからせた相手を無造作に突き上げると、月の風情と喘ぎ声とが相まってなんというか……ふふ、恥ずかしい話しなんですけど……勃起しちゃいまして、ねぇ」 (※11)



 へぇ、そうなんだ……。

 って。



 
陸遜、今お前聞き捨てならない事言った。聞き捨てならない事言ったよ!



 でも、聞かなかった事にしておく。

 聞かなかった事にしておくよ、お前の事を清純なショタっこだと思っている、全国のおネエ様方の為にもな。



 「ついでに言うと、呂蒙殿の場合は夜より昼にする方がいい塩梅なんですよ」

 「は……?」

 「ほら、ここ。ちょうど、孫権様の仕事場の真上でしょう。真っ昼間からこんな事をして、恥ずかしくないんですか。ほら、孫権様に聞かれてしまいますよ。……とでも言えば、+25%増し は期待出来ますから」 (※12)




 
陸遜、お前なんというか……出過ぎだぞ、自重せよ!



 「まぁ、冗談ですけどね」



 そうだね、そういう事にしておこう。



 「と、とにかくこの柵はわけあって、老朽化が進んでいたんですよ」



 陸遜はそんな事を言う。

 私は、その訳あって。の、事情の部分には決して立ち入ってはいけないと確信し、柵が壊れやすい状況であった事を受け入れた。



 「しかし、それなら一つ疑問だな。呂蒙は、柵の老朽化が進んでいる事を知っていたのだろう」

 「えぇ、呂蒙殿にもコレを使わせましたからね」



 使わせてたとかいった気がしたが聞こえない、聞こえない。



 「……だとしたら、ますますわからんな。ここが壊れやすいのを知っていて、柵ごと落ちるなんて」

 「そうですねぇ、確かに……一体呂蒙殿に、何があったんでしょうか」



 私は気分的には、お前にこそ何があったんだ。という感じなのだが。

 と、その時。



 「おいっ、おいっ、誰も居ねぇのか。おいッ」



 扉を叩く、聞き覚えのある声が響く。

 この声は……甘寧、か。



 「あれ、孫権さま。なんか、扉の向こうで、サン・ジョルジョ・マジョーレ島で別れたはずのパンナコッタ・フーゴ 
(※13) の声がするみたいなんですけど。気のせいですかねぇ」




 
この期に及んで甘寧の声を、凶悪すぎるスタンドの持ち主と勘違いするお前に、私は敬意を表するッ!




 「どう聞いても甘寧だろうが……」



 私はそう呟き、扉の前に立つ。



 「人なら居るぞ、甘寧。ただ、扉がな……なんだか、50m先から見ても鍵だと認識出来る程に巨大な錠前 がかけられてしまってなぁ」



 扉ごしに声をかけると、いくらか安心したような甘寧の声が帰ってきた。



 「あぁ、殿が居るんですかい。っと、殿。お一人で」

 「いや、陸遜と一緒だが……」

 「陸遜と……?」



 と、そこで甘寧の声から、安堵の色が消える。

 かと思うと。



 
「いけねぇっ、殿。一刻も早くそこから、逃げてくださいっ。奴の手にかかったら、いくら殿でもっ……」



 急に、怯えた声でそう言い出した。



 
甘寧ほどの男をここまで怯えさせるなんて、陸遜。


 
お前、一体甘寧に何をした!?


 と、思っていたら。



 「やれやれ、甘寧ときたら」



 陸遜はそう言いながら穏やかに笑うと、閉じたままの扉を一度。

 まるで、床に伏しているチンピラでもけっ飛ばす時の桐生さんのような勢いで思いっきり蹴り上げると。



 「何言ってんですか、甘寧。それじゃ、まるで私が非道い男みたいじゃないですか。全く、貴方は一度、骨の髄まで教育しなおさないといけませんかねぇ」



 と。

 なんか、雛見沢的なモノにでも乗っ取られたかのような笑顔で言った。



 「あ。あ……陸遜。い、いや。そんなつもりはねぇよ。な、ただ……わ、忘れてくれ」



 街を出歩けば、腰にぶら下げたその鈴の音を聞いて子供達が逃げ出すとまで言われた男、甘寧。

 その甘寧が、折れた。




 
……お前、甘寧に一体何をした。



 「……そ、それより甘寧。一体、どうしたんだ、こんな所に」



 私は、今のやりとりを全面的に見なかった事にして、甘寧にそう問いかける。



 「あぁ、実はですね。殿。俺、さっきまで外で野郎どもと連んでた……もとい、野郎どもに訓練つけていたんですが」



 どうやら甘寧のやつ、普段は仕事しているふりをして部下と連んで遊んでいるらしい。

 だが、その程度のおさぼり。

 
陸遜の不貞を聞いた今では、なんかすごく小さい事に思える。



 「ふむ、それで」

 「それで、いつもの通り野郎どもと昼間から迎え酒なんてしていたんですがね、そしたら……」

 「そしたら」



 
「空から、呂蒙のオッサンが降ってきまして」




 どうやら、甘寧は私と同じモノを私とは別の場所で見ていたらしい。

 と、思ったら。



 「しかもオッサン、落ちた所が悪かったのか……落ちた場所に孫家で飼っている虎が居ましてね」


 「は?」



 あぁ……そういえば、居たな。虎。

 確か、小喬が餌付けしていたか。



 「その虎がどういう訳か、非道い空腹だったみたいで。空から落っこちてきたオッサンの事を餌だと勘違いしたみてぇで。牙をつきたて、今まさにオッサンの血肉をむさぼり食おうとしたんで、俺も流石にやべぇと思ったんですよ」



 た、確かにそれはヤバイ。

 いくら呂蒙でも虎の牙にかかったら……。



 「このまま、虎がオッサンを喰ったりしたら、虎が食中毒になる事請け合いっすからねぇ」




 
って、心配するところそこか!



 なんだ、この チーム呂蒙 なんだ。

 どうして、誰一人呂蒙の事を尊敬してないんだよっ。



 一生懸命事をやっているだろう、呂蒙、一生懸命やってるだろうっ!



 「で、こりゃやべぇや、と思いまして。虎が悪いモンくっちまわないウチに、追っ払おうとしたんですが、そこにですね」



 ……何、お前の話まだあんの。



 「飢えた狼が、偶然通りかかりまして」



 あぁ……そうだね、飢えた虎、飼っているくらいだもの。

 飢えた狼の一匹や二匹、通りかかるよねぇ……。



 
って、そんな訳あるかっ! (孫権様、人生2度目のノリツッコミ)



 なんだよ、この屋敷。

 虎は飼っているから仕方ないとして、どうして狼まで入ってくるんだよ。


 というか、小喬も小喬だ。



 
虎、飼うなら餌ちゃんとやれよ、飢えさせるなよ!



 危ないだろーがっ、屋敷に飢えた虎置いたら!



 今は無双だからそれも、スキルを育てて操ればいいだけの話だが、これが水滸伝だったら、住民の人気度がガンガン下がっていくぞ! (※14)



 「……それで、飢えた虎と狼とが、呂蒙のオッサンをかけて勝負しはじめまして」




 
お前もそうなるまえに助けてやれよ、甘寧。



 「わぁ、いいですねぇ、呂蒙殿。モッテモテじゃないですか」



 あと、陸遜。


 
その感想はおかしいよ。



 「まぁ、そうこうしている間に虎の下敷きになっていたオッサンのダメージはどんどん蓄積されていく訳なんですけどね……。さらに、そうこうしているうちに、飢えた熊がひょっこり冬眠から目覚めまして」



 まだあんの?

 というか、この屋敷どんだけ、野生動物の宝庫なんだよ!


 ムツゴロウ王国だって、こんな沢山の猛獣飼ってないだろうが!



 「そこで、飢えた虎と狼と熊とが三つどもえの死闘をしている間に、偶然傍にあった
軍隊アリの巣が……」



 
もうやめてくれ、甘寧! 呂蒙のライフはとっくにゼロだ!



 ……と。

 このままでは、呂蒙が、軍隊アリに攫われ、谷底に落ち、滝壺の主に喰われかけた所ハゲタカの大軍に襲われ、最終的にはライオンに喰われかかりでもしないかぎり、話が終わらそうなので、とりあえず甘寧の話をうち切る事にした。 (※15)



 「とにかく、甘寧。その、呂蒙がなんか猛獣たちと過剰なスキンシップをとった結果、死にかけたという事は頭でなく心で理解出来たよ。ただ、それで……どうしてここに、お前が」

 「あぁ、それなんですがね」



 と、甘寧は扉ごしに咳払いを一つする。



 「実は俺、オッサンがそんな事になっていたから、すぐさま助けに行った訳なんですが、ちょうどそん時活力漲ってたんで、
どうせなんで無双乱舞ってみた訳なんですよ、そしたら……」



 皆まで言うな、甘寧。


 言わずとも、
その後の惨劇、容易に見てとれるぞ。



 というか、駄目だろ甘寧。

 お前、無双5時ならまだしもその前の状態で無双乱舞ったら、
自分の制御なんかきかなくなって誰を攻撃するかなんてわかんないだろうがっ!



 「オッサンは味方キャラだから、当たり判定なんてないだろうと簡単に考えてたんですがねぇ。いやぁ、ままならねぇモンッす」



 確かに呂蒙は、味方キャラだから通常ならアタリ判定なんてないだろう。

 だが、フリーモードであればたとえ味方キャラでも敵として出る事がある。


 その時の呂蒙は、即ちそういう事だったんだろう。



 「ふむ、解った。それで、呂蒙にトドメを刺してきたお前が、どうしてここへ来たのだ……」


 「えぇ、それなんすけどね」



 と、そこで甘寧はまた少し咳払いをする。



 「このままほっといたら、まるで俺が呂蒙のオッサンを殺したみてぇじゃないですか」



 うん、そうだね。


 というか、
ぶっちゃけ殺したよね?



 「俺ぁ、それでなくても 何処かの誰かのオヤジ殺しの濡れ衣 を着せられて、
熱狂的な追っかけが居る状態なんすよ」



 あー……。

 その、
何時もお前の後をついてくる、ストーリーモードまるまる一本分がお前の追っかけ話である男 が居る事は確かに気の毒だと思うよ。


 でもさ。


 
それ、濡れ衣じゃなくね?



 「これ以上、追っかけが付くのは正直ごめんってぇ話なんで……
オッサンが落ちたこの部屋に来て。なんか、他の誰かがやった風に見せかける偽装工作でもしようかと思って来たって事っすよ」




 ふぅん、なるほどねぇ……。



 
って、不貞不貞しい!


 
実に不貞不貞しいよお前はっ!



 まぁ、甘寧の場合。

 なんか斬ったの斬らないのってのは、今更って気がするのもまた事実だが……。



 「ってぇ訳なんで、すいませんがここ開けてくれませんかね。一刻も早く偽装工作をしねぇと、俺、オッサン殺しの濡れ衣を着せられてるかもしれねぇでしょう。俺としても、これ以上誰かの恨み買ってストーカー増やす訳にもいかねぇんで」

 「確かにお前が昼夜問わず凌統にされているストーキングについては気の毒だと思うが……」

 「そうですか。私は、孫権様の上着なんて押しつけられた凌統殿の方が気の毒だと思いますが」 (※16)



 
陸遜、今さりげなく非道い事言った!



 「しかし、偽装工作は良くないと私は思うぞ。食品とかも偽造すると大変な事になるし、素直に罪を認めた方がいいって事もあるからな。そもそも、呂蒙のアレの場合きっかけは落ちた事である訳だから、お前のは不可抗力って気もしない事でもないし……」



 と、とにかく今は甘寧を説得して、とりあえず呂蒙転落事件の話に終止符を打とう。

 そしてこの下らない茶番を終わらせて、とっとと仕事に戻り今日はお家かえって酒飲んで寝よう。


 そう思いながら、扉ごしに甘寧の説得を始めたその時。



 
「謎はすべて解けましたっ!」



 陸遜が急に、何か言い出した。



 「えぇ……っと、何が全て解けたんですかねぇ……陸遜さん」

 「だから、謎が全て解けたといってるのです、この事件、すでに我が輩の舌の上という奴ですよ。というか、この事件は私が解きます、そう、
ジッチャンの名にかけてッ!」




 
陸紆の名にかけてどうするつもりだッ! (※17)



 
「その台詞は言んじゃねぇ、ストーカーの事思い出すだろうが!」 (※18)



 しかも、陸遜の発言は何故か地味に甘寧にまでダメージを与えていたようだ。


 うん、確かにね、そうだね。

 ジッチャン云々というと、お前のストーカーの事思い出してしまうかもしれないね。



 「何言いだしているんだ、陸遜。そんな、お前の爺さんの名にかけてみたところで、謎が解決出来ると思わないんだが……」



 
というか、そもそも謎なんてねぇし。


 と、陸遜を諫めようとしたのだが。



 
「犯人はっ、この中に居る!」



 陸遜に収まる気配はなにもなかった。



 
って、この中にって、陸遜!


 
今ここには、私とお前としか居ないんだが!



 というか、お前、もしかして……。




 「この事件の犯人…… 
放課後の邪気眼 はっ、貴方だったんですね。孫権様!」




 
あぁ、やはし!


 やはしお前、
私を犯人としてでっち上げるつもりだったんだなっ!



 というか、何その中二病全開の二つ名は!

 なんか、どうせ殺人事件の犯人としてでっち上げられるなら、なんというかなぁ。


 放課後の魔術師とか……。

 地獄の傀儡師とかさ……。 (※19)



 「孫権様の場合、デフォルトの二つ名。江東の碧眼児自体がもうなんか中二病っぽいんでこういう感じにしてみましたが、気に入りませんでしたか」



 
デフォルトから中二病とか、言うなぁ!



 「孫堅様の江東の虎とか。孫策様の江東の覇王愛人とか、そういうのと比べて有名じゃないのは気の毒っすよねぇ」



 有名じゃないのは気の毒とかもやめろ、甘寧。


 た、確かに自分でもさ。

 武勇が凄いから虎、とか。強いから覇王とか、そういうふうにいかにも凄いぞーって感じじゃない。

 ただ目が青いからってだけで碧眼児って、どうなのって思ってるよ。


 配下であるお前の二つ名。

 鈴の甘寧と比べて、エピソードにおける格好良さもイマイチだと思ってるよ。



 
でも、気の毒がられる筋合いはないよ!



 あと、さりげなく兄上の事を「江東の覇王愛人」とか呼んでたけど、兄上愛人じゃないからな!

 そこでそんな
こじゃれたまゆタンセンス、必要ないから!



 兄上は江東の小覇王だから、間違えないでおいてくれよな。



 「しかし、まさか殿が放課後の邪気眼だったとは……」



 あれ、しかもなんか知らない間に甘寧まで、私の事を犯人にしようとしているぞ。



 「えぇ、孫権様。貴方はこの場所に呂蒙殿を呼び出し、そのベランダが壊れている事を知って、呂蒙殿をここから突き落としたのです」



 と、私の事なんて一切お構いなしに、陸遜ときたらやった覚えのない事件の事をでっち上げられているのだが。

 なんかそれって結構やばくないか。

 私、なんかこのままだとやってもいない呂蒙殺しの犯人にされないか。



 「ちょ、ちょっと待て陸遜っ」



 このままだと、私が犯人にされかねない。

 ここは一刻も早く、罪をなんかもう手遅れになるまえに着せられる前に汚名をすすがねば!



 「だいたい、お前さっきまで一緒に仕事してただろうが。それなのに、ここに居る呂蒙を殺すなんて出来る訳がない。不可能犯罪だろうが、これは!」



 慌てて反論に転じるが。



 
「それはトリックを使ったんですよ。ですが……すでに謎はとけています!」



 えぇっ、なんか 使っても居ないトリック でっちあげられて、しかも謎まで解かれている!?



 「バカ言うなっていってるんだ、だいたいトリックって……」

 「そうですねぇ……」



 陸遜は腕組みして考えると。



 
「貴方はそう、あの時私と仕事をしていると見せかけて実は影武者に仕事を任せていたんです!」



 なんか、
推理と名の付く作品が絶対にやってはいけない類のトリックを口にしだした。



 駄目だろ陸遜その推理!

 どのくらい駄目って、
実は双子だと思っていた犯人が三つ子だった (※20) とか言い出すくらい駄目だよ!



 「バカ言うな、私は影武者なんて使わないぞ」



 そもそも、私という人間は勢力が割拠する時代でも護衛とかつけないで虎狩りとか楽しんじゃう、とっても無邪気で好奇心旺盛な可愛い君主なのだ。

 そんな、自分に危険のある虎狩りでさえ護衛さえつけない私がいちいち影武者なんて用意しているかっていうの。

 だいたいの所、仮に影武者が居たとしても、誰がそんな、私の仕事を引き受けてアリバイ工作までしてくれるっていうんだ。



 「周泰殿とか」




 
どんだけ万能だよ周泰!


 なんだその汎用性は。

 周泰はメギドかよ。

 どんな敵が出てもとりあえずメギドならきくだろう、みたいな感覚でどんな事態に遭遇してもとりあえず周泰の名前出しておけばいいだろうって思うなよお前。



 
魔法反射してくる敵はメギドだって反射するみたいに、周泰だって出来る事と出来ない事があるんだよ!



 「そうか、確かに周泰なら殿のどんな無茶振りにも答えるだろうからな!」



 
お前もその意見にのろうとするな、甘寧。



 だいたい、周泰が私の代わりに仕事していたってすぐに周泰だって気付くだろ。

 お前、あいつがどれだけタッパあると思ってるんだ。



 「でも、この前凌統の奴がせっかくだからって、殿の上着きてあるいて見たら、孫権様、チーッス!って部下がへりくだったと言ってましたぜ」



 えぇ、上着きただけで私と間違えるか!?


 そんな、私そんな印象の薄いキャラか!



 「ちなみに、殿の上着。洗ってないラッコの匂いがするって言ってましたわ」 (※21)




 
しないよ!


 どうして私からラッコの匂いがするんだよ!


 むしろ私はフローラルだよ!

 南国に咲き乱れる色とりどりの花々と同じ匂いがするよ!



 「そう、つまり世間では孫権様は外見でなく体臭で判別されている、という事……」



 別に体臭で判別されてないよ、陸遜お前今凄く非道い事いったよ!

 私、今猛烈に人権を淘汰されている気分だよ!



 「即ち、たとえ周泰殿のようにタッパのある人間であっても、孫権様の匂いが傍にあれば充分代役になる、という事です」




 だから、その理屈はおかしいよ!



 「そうだな、周泰だったら殿の匂いももうデフォルトで染みついてるだろうし……」



 あと、甘寧もホントそーいうのやめろ!

 別に私、そんな周泰におんぶにダッコじゃないし別に周泰に匂いが染みつく程濃厚なスキンシップはしてないのだからな。



 「解りましたか、孫権さま。もう、貴方のアリバイは崩れているんですよ」



 でもなんだか、その無茶な論理で私のアリバイは崩れようとしていた。

 な、なんでこんな事に……。



 「崩れてるって、崩れてるってなぁ……だ、だいたい。私には、なんだその……動機、ってのもないだろう!」



 なんで私、こんな言い訳みたいな事しなくちゃいけないんだろう。

 最初から、何もやってないってのに……。


 と、しどろもどろになる私に。



 「あ、そういえば、以前殿の口からこんな事を聞いた事があったんだが」



 すかさず甘寧が口を開く。



 「そう、それは以前殿がいつもの通り。本陣で張遼に攻め込まれ今にも叩きつぶされそうな時の話しなんだが……」




 
何そんなになるまで、私ほっといているのこいつは。



 ってか、お前魏に張遼あらば呉に甘寧ありよとまで言われているんだから、そうなるまえに早く私を助けろよな!


 私、張姓の奴は二人ほど、ピンポイントに大嫌いなんだからな!
(※22)




 「その時、俺ぁ聞いたんだよ。あの時、殿が……
畜生、こんな風に攻め込まれて死ぬくらいだったら、更け顔という個性がかぶっている呂蒙を殺しておくんだった! って……」



 と。

 私が少し、張姓の奴を嫌っている間になんか甘寧がとんでもない事を言いだしていた。



 「何言ってるんだ、そんな訳あるかい!」



 だいたいの所、確かに私と呂蒙はお互いにふけ顔だと思っている。

 だが、同じふけ顔という個性でも棲み分けはしているつもりである。


 私はどちらかといえば文系老け顔。

 スポーツなんてやってなさそうないかにも将棋部といった老け顔だが、向こうは体育会系老け顔。


 中学高校大学。

 そして社会人とずっと何かしらの形で野球を続けてきたぞ、という印象の老け顔である事から、全くジャンルの違う老け顔だという事は見てとれるだろう。


 個性がかぶっていても棲み分け出来ていれば存続出来るのが自然の摂理というものだろう。

 そう、私と呂蒙につぶしあう理由なんてないのだ。


 が。



 
「そうですか、それは犯行に及んでも仕方ないですね」



 陸遜はもう、私の犯行という道に固めたようだ。


 というか、老け顔だから殺したってあんまりじゃねぇ?



 「いい加減にしてくれ、お前らっ……だいたい、お前らなぁ。さっきから私が殺したとか、そういう流れにもっていこうとしているけど。そもそもアリバイとか。動機とかって全て状況証拠だろう」


 「はぁ、確かにそうですけど……」


 「状況証拠なんて、裁判ではただの水掛け論になるだけだ。当てにならんだろう。私を犯人にしたければ、証拠をもってこい。証拠を」



 いや、そもそもその状況証拠も完全なるでっち上げであり私は白か黒かで問われれば純白。

 犯人であるハズがないのだから、証拠なんか出る訳ないんだが……。



 「はぁ……所で孫権様、すいませんが武器を貸してもらえませんか?」

 「ん、武器……って、どうするんだ。私のそれ、ユニーク武器だから壊さないでくれよな」



 「はい、ありがとうございます……
ていっ!」



 陸遜は私からユニーク武器を受け取るや否やベランダへと赴くと、一切の躊躇いを見せずそれを地に伏す呂蒙の身体へと突き立てた。



 
お前仮にも恩師であり上司でもある呂蒙になんというか、もう少し手心というものをくわえてやれよ!




 「はい、これで証拠出来ました。呂蒙殿の身体に突き刺された孫権さまのユニーク武器。もう、言い逃れ出来ませんね」



 そうですね。

 むしろ、証拠過多すぎてかえって不自然なくらいです。



 「もう証拠はそろってます、孫権様。あなたが……犯人だったんですね」

 「殿、そんな。老け顔という個性を守る為に……」



 でもすでに、陸遜も甘寧も。

 私がやっちまったんだ、って事で全てを収めようとしていた。



 「う、ううう……」

 「ほら、抵抗しないでそろそろゲロしちゃいましょうよ。実際、仮にえん罪であったとしても、罪を認めてしまった方が早く釈放されたりしますよ」



 仮にえん罪というか、本当にえん罪なんだが。



 「殿、証拠もそろってますし、ここは……ま、諦めるのも大事だと思うぜ」



 真犯人とも言える甘寧まで、なんかそんな事を言いだしている。

 でも、それでも私はやってない!

 なんかもう、周囲が100%私の犯行だといっているけど、私やってないんだよ、えん罪なんだよえん罪!

 助けて、なるほど君!


 と、その時。



 「あぁ、痛たたた……っと、一体どうしたんだ、これは。扉が封鎖されているようだが、何があったんだ、甘寧」



 そ、その声は。



 
「りょ、呂蒙っ……!?」



 生きていた!

 呂蒙が生きていた……?



 「あ、っ……お、オッサン。い……生きてたのか」



 扉越しに聞こえるのは驚く甘寧の声だ。



 「何勝手に殺しているんだ、お前な……見ての通り、ピンピンしているだろうが。俺がそんな簡単に死ぬような男だと思ったのか」



 簡単に死ぬ。


 お前は、関羽が死んだ後簡単に死ぬ。



 と、そんな気がしたが、どうやら今回の呂蒙は無双2の時並のタフネス
(※23)をもっているようだ。



 「扉の向こうに居るのは、殿ですか。ちょっと待っていてください、今扉を開けますから」



 そういいながら、呂蒙は無造作に扉を叩く。



 「チッ、とどめを刺したつもりだったんですが……」



 なんか扉を叩く音に紛れて陸遜が言った気がしたが、もう聞こえなかった事にした。


 まぁ、何にせよ。

 呂蒙が生きていてくれたから、事件というのは最初からなくなった、という事である。



 「ふぅ……やっと開きましたぞ。殿、大丈夫ですか」

 「……呂蒙」



 壊された扉より現れた暑苦しいヒゲ面が、今日はなんだか妙に輝いて見える。



 「生きていてくれて、ありがとう。本当に、本当にありがとう……」



 私は知らないうちに呂蒙の手をとり、涙まで流していた。


 なんでも、呂蒙は確かにベランダから落ちたがそもそも我々無双キャラ。

 無双キャラは、どんなに高い所から落ちてもダメージ判定がなかったという事。


 また、その後の虎の攻撃に続く猛獣たちの猛攻も、それからずっと床に伏していた為ダメージにならなかった事が幸運となり、ほとんど無傷で生きながらえたのだという。


 唯一受けたダメージは、
最後に陸遜の放った(私の)ユニーク武器攻撃だったそうだが、そこは丁重に詫びる事にした。



 ちなみに、ベランダから落ちた理由はあの部分の老朽化、その状況を見にいって触れたら折れた、という事だ。

 そのへんはなんか……もう触れない事にした、聞かなくてもいい話を聞きそうになったからである。



 何にせよ。

 事件は解決したのである。


 ・


 ・


 ・



 「あーあ、せっかく面白そうな事件だと思ったんですけどねぇ」



 部屋に入り開口一番そんな事を言う陸遜だったが、私はすでに怒る気力もなくなっていた。

 今はただ、さっさと仕事を終わらせて帰りたい。


 そう思い仕事に戻る。

 読みかけだった文章に目を通した。


 それは、使用人からの陳情書だった。

 陳情内容は……。



 『3階 大広間のベランダ、一カ所なんかえらく痛んでいるんで、誰か落ちる前になおした方がいいっすよ。呂蒙さんとか落ちそうですから』



 と、書いてある。



 ……。


 …………。



 私は迷わずその陳情を取り上げ、すぐに柵をなおしたというのは、言うまでもないだろう。



 

オチとかもう全体的に最低とか思っても温かく見守ってくれたら幸いだ。




>注釈(ネタ元解説とか、蛇足)




※1:全身の骨をベキベキ砕いてぇ。

 排気口に入るのが荒木飛呂彦センス。(サンタナ:ジョジョ2部より)
 排水溝に入るのが伊藤潤二センス。(滑井:うめく排水管より)



※2:諦めたらそこで試合終了ですよ

 安西先生の言ってる事は大まかな所であっているのですが、言うタイミングが違うと大変な事になるという事もありますね。



※3:全身の穴という穴から血で噴水という水芸。

 まぁ、演義ではそうやって死ぬんですけどね、呂蒙さん。



※4:呉下の阿蒙

 進歩のないお馬鹿さんという意味合いがある。


 どうでもいいが、お馬鹿さんと言われると腹立たしいが。

 んもぅ、バカな人ね。

 と言われると、なんとなく嬉しいのは何故なんでしょうね。あぁ、ボイスイメージは峰不二子でお願いしますよ。



※5:33分間持たせてやる。

 ジッチャンの名にかけての人が探偵で新境地を開きました。
 というか、ガチャピンとか出るのすごくね。



※6:cv子安。

 ウージムッシ、ウージムッシ。
 でもおっちゃん、子安武人といえばボーボボーなんだよな。



※7:松井優征先生。

 ドーピングコンソメスープの原作者。

 何か間違えている気がしたが、別にそんなことはなかったぜ。



※8:ラーメンズ

 コント中心のお笑いコンビ。


 ギリジン!

 ギリジン!



※9:コバケン。

 ラーメンズのコバケンなら、小林賢太郎。(はなうさぎ)

 お料理のコバケンなら、ケンタロウ (本名 : 小林健太郎)は、小林カツ代の息子という話。



※10:テリーマン係

 「あの技は見た事がある!」

 「確かその事になら聞いた事があるぞ……。」


 とか、言う係の人。

 大概はメインの戦闘から一線ひいてしまったキャラ(主に噛ませ犬キャラ)がなる。


代表的なテリーマン係 )

 ・テリーマン。

 ・雷電。(知っているのか雷電!)



 なお、ヤムチャは もっと別の何か であるので、これには含まれないモノとする。



※11:しちゃいましてねぇ。

 吉良吉影ですよ。えぇ、変な意味ではなく。



※12:真っ昼間から呂蒙たんを使う。


 当初は。


 真っ昼間からこんな所でこんな風にされて気持ち良くなっているなんて。

 知勇に長けた名将も、こうなればただの狗にすぎませんね。


 ほら、どうします。

 貴方の事を認め、重用してくれている孫権様が今真下でお仕事をされているんですよ。


 そんなに声をあげて。

 貴方がただの淫乱な獣である事を知れば、きっと孫権様はさぞ落胆されるのでしょうねぇ。


 おや。

 さっきより締まりがよくなったようですが、どうしましたか。

 孫権様に見られると思ったら、余計に興奮したのですか。


 やれ、本当に困った方だ。

 仕方ない、このまま果ててしまったらどうですか。



 等という長台詞が入っていたのですが。

 流石にそれはないだろう、常識的に考えて。というか、何処のホモスレですか。

 という制作者サイドの良心により、削除しました。


 あれ、削除したとか言ってここにやっぱり置いてあるのは何故だ。

 と問われれば。


 全国に一億五千万人は居ると思われる、女子高生呂蒙ファンの為のサービスである。


 としか答えようがありません。

 当サイトの陸遜は、こんな性格ですが純潔なので別に本当、してないという話です。



※13:サン・ジョルジョ・マジョーレ島で別れたはずのパンナコッタ・フーゴ。

 また出ると思ったが、そんな事はなかった。

 ゲーム版フーゴの中の人=甘寧というはなしです。はい。



※14:水滸伝だったら、狼ほっとくと人気がメキメキ下がっていくぞ。

 コーエーSLG、水滸伝〜天導108星 の話ときましたが、付いてこれるよいこのみんな、居るかなー。

 天導の方はまだしも。
 天命の誓いの方は、ちょっとヤバイ難易度だったよなぁ……。

 コーエーSLGは、今のガチガチに大作SLGですぜ。
 という風なのもそれもいい、それもいいんだが、あの頃のちょっちアバウトな作りのSLGも、大好きなんだぜ。

 維新の嵐くらいのアバウトさも、大好きなんだぜっ。


 「こうなれば連打で勝負ッ!」



※15:しにかける呂蒙になんか沢山の猛獣が!

 まぁ、ハーメルンのバイオリン弾きの、フルートちゃんみたいなモンです。



※16:仲謀の上着。

 頑張ったらもらえます。

 凌統の見せ場といえば合肥だと思うのだが、どうだろう。



※17:陸紆

 陸遜のおじいちゃんの名前。
 何はともあれ、名家です。



※18:ジッチャンの事言うとストーカーの事思い出したりして。

 まぁ、つまり はじめちゃんの中の人 = タレ眼ストーカーの中の人 というはなしです。



※19:放課後の魔術師とか、地獄の傀儡師とか。

 金田一センスなんですが、これだって中二病臭予感が。

 エターナルフォースブリザァアアァッド!



※20:双子だと思ったら三つ子だった。

 でも、こういうアドベンチャー実在するから世間というものは恐ろしいです。



※21:ラッコのにおい。

 ラッコの上着がくるよ、ラッコの上着がくるよ!



※22:張姓のやつだいっきらい。

 張遼と張昭の事ですよ。



※23:無双2呂蒙。

 一番輝いていた時の呂蒙。

 敵として出た時は、軽い悪夢だと思え。
 三國志5呂蒙も、同等だ。






 <呂蒙たん純粋すぎて全俺が泣いた>