ファースト・コンタクト
29 駐屯施設に戻る途中、王留美からティエリアの乗るトレインにトラブル発生の連絡を受けたロックオン一行は、慌てて「タワー」へと引き返した。 「やっぱり、搭乗ロビーまで見送ればよかった」 アレルヤが悔やむと、ロックオンが宥めるように言った。 「そんなこと言ったって、まさかトレインにトラブル発生なんて思いもしねえよ」 「通常起こりえないトラブル発生の原因として最も考えられるのは、人為的ミスだ。無作為と作為と。作為だった場合、テロの可能性もある」 「おいおい、刹那。あんまり物騒なこと言いなさんなって」 あくまでも冷静に物事を捉える刹那に、ロックオンは苦笑する。 「取り敢えずティエリアはそのトレインに乗らなかったんだし、今のところテロの報告もないし、それでよしにしようぜ」 「………」 まだいまひとつ納得しきれていない様子の刹那の頭をくしゃっと撫でたロックオンは、ちょうど着いた「タワー」の入り口に車を横付けにする。 「僕と刹那で確認してきますから、ロックオンは車を駐車スペースに入れてきてください」 「了解」 「わかった」 車から二人が飛び降りたことを視認したロックオンは、そのまま車を急発進させて駐車スペースに放り込むと、ロビー内に駆け込んだ。 自分では落ち着いていたつもりだが、意識しないところでやはり焦っていたらしい。 俺もまだ青いなと自嘲しつつアレルヤ達のもとへ向かっていたロックオンは、人混みの中に見知った顔を見つけて立ち止まった。 「―――あいつは…っ!?」 信じられないものを見たロックオンの瞳が、驚愕に見開かれる。 グラハム・エーカー! あの野郎が、何故ここに!? 激しく動揺するロックオンのもとに、インフォメーションカウンターから戻ってきたアレルヤが言った。 「ティエリアはさっき出た振り替えのトレインに無事乗ったようだよ。乗客名簿に名前があった。残念ながら一足遅かったね」 まるで幽鬼でも見たかのような表情で立ちつくすロックオンに、アレルヤは訝しげに声をかけた。 「ロックオン…?」 「どうかしたのか?」 二人に怪訝そうに声をかけられ、はっとしたロックオンが振り返った。 「……なんでもねえ」 いつになく厳しい表情を浮かべたロックオンに、二人はこの短い間に一体何事が起きたのかと息を飲んだ。 嫌な予感がロックオンの胸を掠める。 あの男がここにいたからって、ティエリアに会ったとは限らない。たしかに軍関係と民間が「タワー」を共用しているが、軍用トレインは民間のそれから隔離されているから、会う可能性は低いはずだ。 ―――だが……。 言いようのない不安にロックオンの胸が掻き乱される。 もし、ティエリアとあの男が会っていたら? あってはならない偶然で二人が再会していたらと思うと、ロックオンは激しい焦燥にかられた。 やはりティエリアを一人で行かせるのではなかったと、激しい後悔に苛まれる。 「…くそっ」 ロックオンは苛立たしげに拳を握り締めた。 今すぐティエリアに連絡をしてこの疑念を晴らしたい衝動に駆られるが、トレインに乗っている間は通信ができない。いや、仮に通信可能であっても、精神的に不安定さが残るティエリアに直接訊くことは躊躇われた。あの男の名を耳にして、ティエリアがまた動揺しないとは限らないのだから。 だが、このまま手をこまねいているのも耐えられない。 「……アレルヤ」 「何ですか?」 「お前、明後日「天柱」のトレインに乗る予定だよな。それ、明日に繰り上げられねえか?」 「えっ!? 何故そんな急に…?」 戸惑うアレルヤに、ロックオンは厳しい顔のまま低く呟いた。 「あの野郎がここにいた」 「え?」 「グラハム・エーカーを見かけたんだよ、今」 「何だって!?」 「…!?」 驚いた表情のアレルヤと刹那が真っ直ぐにロックオンを見つめる。 「ティエリアがあの野郎と会ったかどうかはわからねえが、もし会っていたらティエリアが心配だ。だから、一日も早く宇宙へ上がって、ティエリアの様子をみてほしい。俺が上がれればいいんだが、今は地上から離れられねえ。だから、アレルヤ。お前に頼む」 悔しそうに眉を顰めるロックオンに託されたアレルヤは、力強く頷いた。 「わかった」 「頼んだぜ」 このいいようのない不安が杞憂であってほしいと願わずにはいられない。 だが、嫌な予感ほどよく当たるものだ。 自身にとって最悪の結果がもたらされる可能性を、ロックオンは考えざるを得なかった―――。 To be continued. |