スナック天国

私はどうしても今日の晩ご飯にはタコ焼を食べたかった。

 

 

しかも、自分の家でタコ焼を焼いてみたかったのだ。

 

 

 

そこで、仲良く近所のスーパーへ買い物に出掛けた我々夫婦は、

 

タコ焼の鉄板の購入を、数秒間の家族会議のうえ決定した。

 

 

 

 

永年の夢だった、タコ焼の鉄板。

 

 

 

思い起こせば2年と9ヶ月前に妻と夫婦の契りを結んだ時、

 

「いつかは買おうね」と固く誓い合った、

 

あの憧れの鉄板である。

 

 

 

その鉄板がついに我が家にやって来るのだ。

 

 

 

 

 

 

780円。

 

 

 

 

おぉ、ゴージャス。

 

 

 

 

そして、その相棒として欠かすことのできない存在。

 

 

 

それは「千枚通し」

 

(でええのかな?私はそう呼んでいる)

 

…と言いたいところだが、

 

 

 

私はしばらく前に「愛の貧乏脱出大作戦」の放送で、

 

タコ焼の達人が言っていた言葉を忘れてはいなかった。

 

 

 

 

「鉄の棒が相手では鉄板が傷ついてしまう。

 

職人は道具が命。

 

タコ焼をひっくり返すなら竹串で…」

 

 

 

 

そう。「千枚通し」ではイカンのだ。

 

 

 

レジに向かう直前、カゴに放り込んだ千枚通しを、急遽、

 

「スナック天国タコ焼ピック」

 

(鉛筆ぐらいの木に爪楊枝を挿すヤツ)

 

に変更した。

 

 

 

嫁は千枚通しに固執したが、

 

グータラな御主人を貧乏から脱出させたタコ焼の達人が

 

「鉄板に傷がつくから使ってはならない」と言っていたのだ。

 

 

 

 

達人の教えに背くことはできない。

 

 

 

嫁は納得しなかったが、

 

それはテレビをきちんと見ていなかったから。

 

 

 

あの放送を見たなら、きっと二つ返事で

 

 

「タコ焼ピックを買おう。

 

 

私たちにはタコ焼ピックしかないのよ!

 

 

 

 

 

明るい未来はタコ焼ピックから!」

 

と言うに違いない。

 

 

 

誰が何と言おうとタコ焼をひっくり返すには、

 

「スナック天国タコ焼ピック」でなければならないのだ。

 

 

名前の軽薄さを気にするようでは「真のタコ焼職人」にはなれない。

 

 

 

 

自宅に帰ると、早速、嫁がキャベツをみじん切りにし、

 

私はカセットコンロの支度にとりかかった。

 

 

 

間もなくすべての準備が整い、

 

出汁で溶かした小麦粉が、「ジュー」というデリーシャスな音と油の香りとともに、

 

嫁の手によって鉄板へ流し込まれた。







おぉ、これぞ夢にまで見た自宅でタコ焼の醍醐味!

 

 

 

 

 

しかし…。

 

 

 

 

最初は順調だったのだが、時間が経つにつれ、

 

嫁の様子がタコ焼とともにおかしくなってきた。

 

 

 

嫁「ねぇ!やっぱりこのタコ焼ピックじゃいけんのんよ!

 

うちのお父さんはこんなん使ってなかったよ!

 

(嫁の話によると、タコ焼名人らしい)

 

 

ホラ見んさい。

 

もうグチャグチャよ。

 

 

最初っから千枚通しにしときゃぁ良かったんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

すでにタコ焼は鉄板の上でゲロ同然になっていた。

 

 

 

 

どうやらタコ焼ピックの爪楊枝に根性が足りず、

 

途中でフニャフニャしてみたり、折れてしまったり。

 

 

何度も試してみたが、嫁の言うとおり

 

「あっ」という間にポキリンコであった。

 

 

 

 

 

 

 

何がスナック天国じゃ。

 

 

軽薄な名前そのままやないかい!

 

 

 

 

私のタコ焼ピックに対する怒り同様、

 

嫁も私に対して怒りを露わにし始めた。

 

 

 

 

嫁「もう!これじゃできんよ!

 

つまらんモン買ってもったいない!

 

 

いっつもそうよ。

 

 

私の言うことを信用せんけぇ、こんなことになるんよ!

 

もう二度とアンタの言うことなんか信用せんけんね!

 

コレ、全部自分で食べんさいよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しい。

 

 

 

私はたった1回しかテレビで見たことのない達人の教えを信じたのに、

 

嫁は何年も一緒に過ごしてきた私への信用を、

 

たった一本のタコ焼ピックごときでなくしてしまったのである。

 

 

 

私は何も反論することができず、

 

鉄板の上で木っ端微塵になった

 

「小麦粉」と「タコのブツ切り」と「ネギ」と「キャベツ」と「天カス」を、

 

 

悲しいかな、

 

 

 

スプーンで穴ボコからほじくり出し、

 

 

 

 

 

 

かき集めて食べる羽目となった。








生まれて初めてスプーンで食べるタコ焼は、ほんのり塩の味がした。

 

 

きっと、嫁にも私にも信用してもらえなかったタコ焼ピックが、

 

スナック天国に召される時に見せたの味に違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、ここまではあげはらことワシのネタ。

 

これを読んだいいやまさん(自称タコ焼博士)より次のメールが届いた。

 

 

 

 

 

タコ焼博士より一言申す。

 

 

 

僕には、子供の頃から、

 

大人になったらおいしいタコ焼を作る

 

という大きな夢があった。

 

 

 

タコ焼に関してはかなりの試行錯誤を繰り返し、

 

味の追求をしてきた。

 

 

 

そこで、究極のタコ焼についての研究成果を記載しておく。

 

 

 

その1 タコ焼の鉄板は、十分すぎるほどの油で、白い煙が出るぐらいまで温める。

 

 

その2 タコ焼の生地は、かなりシャバシャバになるよう小麦粉を溶いておく。

 

お好み焼きの硬さでは中がトロけない。

 

 

その3 タコ焼を焼く時は、火はトロ火で最初は時間をかけて、

 

7分ぐらいを目処に焼く。

 

 

その4 溶き汁は「ほんだし」でも良いが、

 

できれば「かつを」と「こんぶ」の出汁が良い。

 

 

その5 我が家では千枚通しでひっくり返している。

 

 

貧乏脱出は銅製のタコ焼板でしたよ。

 

銅は柔らかいので、竹でひっくり返していたんだと思います。

 

 

 

 

以上ご参考までに。

 

 

 

 

 

GOOD LUCK!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GOOD LUCKって…。

 

 

 

 

そーか。

 

 

テレビで見たんは「銅板」の「タコ焼の鉄板」やったんか。

 

 

 

 

うかつやった。

 

 

嫁にあれだけ豪語したのに。

 

 

 

 

 

よし。

 

 

タコ焼博士の教えのとおり、もっぺんチャレンジしたろ。