看護婦さん

看護婦さんの仕事はスペシャルハードである。

 

早朝から夜中まで休むことを知らない。

 

 

まぁ、仕事なんだから…、と言ってしまえばそれまでだが、

 

なかなかどうして。

 

 

 

入院して一番感心したのが、患者の病状の伝達の速さと正確さ。

 

 

3交替なので、ミーティングで次の担当者に申し送りされているんだと思うが、

 

看護婦さんの誰もが自分の病状を把握してくれているような印象を受けた。

 

 

 

うちの会社でもここまで完璧にできたらスゴイだろうな、と思わせる。

 

 

人命にかかわる仕事なのでキチンとしているんだと思う。

 

 

 

私も含め、ワガママな入院患者を相手に

 

走り回っている看護婦さん達の献身的な勤務ぶりには、

 

ただただ頭が上がらず、

 

感謝せずにはいられない。

 

 

 

 

私の入院生活は、上司に叱られ、他部署の部課長に叱られ、

 

朝から晩まで時間に追われて、パソコンで書類を作成するばかりの会社に比べれば、

 

優しい看護婦さん達のお蔭で保養所生活も同然。

 

 

しかも、外はすご〜く寒そうなのに、病室の中は半袖でもOKだ。

 

 

点滴を抜いてパジャマをアロハに着替えれば、

 

ここはもう健康ランド。

 

部屋でテレビが観られないことを除けば快適この上ない。

 

 

 

入院したての時は仕事が気になって仕方が無かったが、

 

そんな気持ちも、今となってはどこへやら。

 

 

すっかり会社になんか行きたくない。

 

まずいぞ。

 

このままやと出社拒否になりそうじゃ。

 

 

 

 

 

 

入院していると、検査があるうちはいいのだが、やがて本当にやることがなくなり、

 

じっとしていることまでが仕事になってくる。

 

 

 

歯を磨くのも、

 

顔を洗うのも、

 

ヒゲを剃るのも、

 

髪を洗うのも、

 

食事をするのも、

 

体温を計るのも、

 

読書をするのも、

 

他の患者さんとオシャベリするのも、

 

オシッコをするのも、

 

ウンコするのも、

 

全部仕事のうち。

 

 

 

いつものペースでいっぺんにやってしまうと時間が余り過ぎるので、

 

わざと一つひとつ時間をかけて、

 

しかもバラバラにやるようにする。

 

 

 

それでも私みたいなせっかち人間はやはり退屈なので、

 

いろんないらんことを考えてしまう。

 

その結果がこの意味不明の入院レポートとなる。

 

 

 

 

 

入院生活では、先生はもちろんのこと、

 

何よりも看護婦さんの存在が一番大きい。

 

 

 

女性ばかりの世界と言うのは私自身、会社で何年も過ごしてきているので、

 

どんなもんかは容易に想像がつく。

 

 

 

 

 

あ〜、コワ。

 

 

 

 

別に何も知らないが、多分…コワい。

 

 

 

 

でも、表面上はわからない。

 

 

 

ということにしておこう。

 

 

 

 

 

余談だが、看護婦さんも先生も、注射針を刺す時にお決まりのセリフがある。

 

 

「ちょっとチクッとしますよぉ」

 

 

 

 

 

 

そらそうですわな。

 

 

 

 

 

 

 

 

ザクッとして、

 

グワシャッてしますよぉ」

 

って言われたら、あまりにもイヤ過ぎ。

 

 

 

 

 

 

 

これまで何人かの看護婦さんや先生についていろいろと書いてきたが、

 

まだまだ書き足りないのでちょっとだけ…。

 

 

 

 

看護婦さんは個性たっぷりである。

 

うちの会社の健康相談室の看護婦さんも、ええキャラクターをしているのだが、

 

こういった職業は引っ込み思案な性格ではやっていけないんだと思う。

 

 

 

でも、1人だけこの東病棟3階に、他の看護婦さんに比べて気が弱そうに見える

 

異色の看護婦さんが存在する。

 

 

 

Y津さんがその人だ。

 

 

和風の美人で、うちの嫁と同い歳らしい。

 

てっきり20歳くらいで、

 

看護婦さんをやり始めて間がないのかと思っていた。

 

 

 

 

決して頼りないのではない。

 

仕事や言葉づかいが新人さんのようにやたらと丁寧なのだ。

 

 

 

看護婦さんは普通、どちらかと言えばフレンドリーで、

 

家族みたいな言葉づかいの人が多い。

 

 

 

「お身体の具合はいかがですか?…ハイ。

 

お通じはいかがですか?…ハイ。

 

オシッコは何回ですか?…ハイ。

 

血圧を測りますね。

 

…ハイ、ありがとうございます。

 

何か気になることはありませんか?」

 

 

Y津さんはこんな感じでメモをとり、

 

まるでお客様に接するが如く…である。

 

 

 

しかも、ひと部屋をまとめて一気に片付ける、といった印象がなく、

 

一人ひとり丁寧に会話を大切にしながら巡回する。

 

 

 

これがまた患者としてはかなりうれしい。

 

忙しいはずなのに忙しさを表面に出さず、

 

じっと目を見て話してくれる。

 

 

 

毎日退屈で、誰とでもしゃべりたい、

 

特に看護婦さんとたくさんしゃべりたい。

 

 

自分の病状を聞いてもらって何でもいいからアドバイスして欲しい。

 

そんな患者の気持ちを知ってか知らずか…。

 

 

 

 

最も友達になりやすいタイプはM谷さんである。

 

 

 

 

M谷さんの朝の採血は、「○○さぁん、おはよーございまぁ〜す」

 

オトボケた声で始まる。

 

 

あ、採血か…と思い目を覚ますが、順番待ちで起きていないといけないのに、

 

他のベッドで採血をしているM谷さんの声を聞いていると、

 

また眠ってしまいそうなぐらい、いい味の声だ。

 

 

 

 

私は東病棟3階のおっちょこちょいナンバー1

 

T本さんと睨んでいる。

 

 

 

T本さんは、メガネはぶっ壊すわ、

 

コンタクトレンズを指で割ってしまうわ、

 

などというそそっかしさだそうで、

 

女性でありながら力仕事ならお任せらしい。

 

 

 

私服のT本さんに出会ったら、きっと看護婦さんとは思わないだろう。

 

 

昼にうどん屋の暖簾をくぐったら

 

「らっしゃい!」とか言って店の奥から出て来そうだ。

 

 

 

A部さんは、私が広島にいた頃の先輩のS金さん

 

(私より2歳くらい歳下の女性。美人)

 

に顔が、特に目が似ている。

 

K西さんに言わせればA部さんはヤンキーなんだそうだが、かわいいぞ。

 

 

 

 

ある日、S金さんは、

 

会社の健康相談室の看護婦さんからもらったケーキを自宅に持って帰り、

 

ポンとそこらへんに置いたままにして忘れてしまったことがあった。

 

 

翌日の朝、

 

まだ昨日のじゃし、匂いもせんけぇ腐っとらんじゃろ、

 

と朝食代りに食べたら、

 

その30分後に想像を絶する腹痛がS金さんを襲い、

 

そのまま救急車で運ばれて入院した、

 

という恥ずかしい過去を持つ。

 

 

もちろん会社(私とS金さんが所属していた人事部)には、格好が悪いので

 

腐ったケーキを食べて食中毒になった

 

とは報告せず、急性胃炎か何かということで電話連絡があった。

 

 

 

たまたま私の住んでいた独身寮の川向いが

 

S金さんの入院先の救急病院だったのでお見舞いに行ったところ、

 

「うちのバカ娘がご迷惑をお掛けしてすみません。

 

腐ったケーキなんぞ食べにゃー、

 

こがーなアホウなことにはなりゃーせんかったんですが…。

 

このバカ娘が卑しいばっかりに…」

 

の、ご家族の方のうかつなひと言で本当の原因が発覚した。

 

 

 

「あげはらさん。

 

腐ったケーキはおなかが空いてても食べちゃいけんよ。

 

絶対いけんよ。

 

味が何ともなくても」

 

とご丁寧に忠告してくれたが、

 

 

アンタと一緒にして欲しくない。

 

 

 

 

 

A部さんの話に戻る。

 

 

以前、朝の採血の時に私が動いたからか、

 

血がシーツにこぼれてしまったことがあった。

 

 

その時のA部さんの慌てようと言ったら…。

 

 

別にそんなことで怒る人なんかいやしまいに、焦るA部さんが、

 

これがまたカワイかったんである。

 

 

 

 

K崎さんは、ピンポンパンのお姉さんみたいな懐かしい声をしている。

 

誰やったっけ?

 

名前が浮かばん。

 

 

K崎さんがうちの会社にいたら、配属先は売場ではない。

 

明らかに経理の事務所にいそうなタイプである。

 

 

で、月初めに私のところへ電話をかけて来て、

 

「あげはらさん!

 

先月末締切の伝票、まだですか?

 

急ぐんですよ。

 

早くしてくださいよ!」

 

と叱られそうだ。

 

 

 

 

K関先生は、私よりも患者用のパジャマが似合いそう。

 

 

手術前の説明は、まるで催眠術をかけられているような、

 

ゆったりとしたシャベリで、妙に説得力と安心感があった。

 

 

ひょっとしたら催眠術だったのかも知れない。

 

 

 

 

O林先生は絵に描いたような外科医である。

 

テレビドラマを地で行くようだ。

 

カラーシャツと袖まくりがバリバリ良く似合う。

 

 

 

 

N島先生は、私より2つ歳下なんだそうである。

 

すごーく声にハリがある若い先生で、

 

なーんか聞いたことあるなーこんな感じの声、と思っていたら、

 

「ジャストミ――――――ッ!」とか、

 

テレビで叫んでいるアナウンサーか何だか

 

よく似ていることがわかった。

 

 

 

手術室で、

 

「腹部の縫合もジャストミ――――ッ!」

 

とか叫んで欲しいもんである。

 

 

 

 

まだまだ好き勝手なコメントをしたいが、

 

めちゃめちゃお世話になっているのに

 

お名前がわからない先生と看護婦さんが数人いる。

 

 

 

 

名札を見ようとしても、付けていなかったり、

 

エプロンで隠れていたり、字が小さくて確認できなかったり。

 

 

 

ま、下手に名札が見えたら私がいらんことをレポートしてしまうので、

 

これ幸いということで…。