ふにふに、むにむに。 白くて柔らかくてもっちりとした手触りは極上のそれで、どれだけ触れても飽きるものではない。 人前では恥ずかしくてさせて貰えないけれど、家の中で二人だけの時なら ――――― 不承不承受け入れてくれる。 「……気持ちいー」 はーと至福の表情で溜息を吐いたのは、嫁の方だった。 かごめは犬夜叉の後ろに膝立ちになって、両手でむにむにと左右の耳を弄っていた。 かごめはたまに、こうやって犬夜叉の耳で遊ぶ。 犬夜叉はいつもの胡座に懐手と言う姿勢でそれを受け入れて、かごめが飽きるまでじっとしているのが常だったのだが ――――― その日は違った。 「………おい、お前。いい加減にしろよ?」 ひくりと犬夜叉の口元が震えて低い声が漏れる。 普通の人間なら竦み上がるだろう如何にも不機嫌そうな声だったが、無論かごめが怯むはずもない。 なんだかんだ言ってこの男は優しい。かごめはそのことを熟知していた。 「いーじゃない、減るもんじゃなし」 「そう言う問題じゃねえっ」 だから笑って返すと、ぶるっと頭が振られてその動きに手の中から犬耳が抜け出してしまった。 「あん! もー、犬夜叉のケチ。ちょっとぐらいいじゃない」 そのまま手の届かない位置まで距離を取られ、思わず唇を尖らせる。 別に毎日四六時中と言うわけではないのだ。 夫婦なんだからたまにはそのぐらいのスキンシップはあってもいいと思う。 ――――― そう、思っていた。 犬夜叉の、どこか据わった眼を見るまでは。 「……お前がそう言う考えなら、おれにも考えがある」 ゆらりと立ち上がった犬夜叉に妙な圧迫感のようなもの感じてかごめは眼を瞬かせた。 「お前が好き勝手おれの耳を触るってことは、おれも好き勝手お前の耳を触って良いってことだよな?」 「………へ?」 一瞬何を言われたかわからなかった。 「お前はよくて、おれは駄目ってのは筋が通らねえ」 「まあ、そうだけど……」 ぐぐっと身を乗り出してきた犬夜叉に押されるように無意識に後退りながら応える。 「きゃっ!」 伸びてきた手にぐっと肩を掴まれたかと思うと、次の瞬間には仰向けに引き倒されていた。 背中打ち付けないようふわりと下ろされる優しい仕草とは裏腹の、獣めいた光を放つ瞳の琥珀色がやけに色っぽく見えて胸の内が騒ぐ。 「あ、えっと、いぬや……ひゃっ!?」 多い被さるような形になっていた犬夜叉がそのまま距離を詰めてきて。 反射的に眼を閉じた直後、耳に温かく濡れた感触が触れた。 (……キス、されるかと思ったのに……) 唇が触れたのは、耳朶だった。 唾液を纏って濡れた舌先が、ぞろりとその輪郭を確かめるように這う。 「ひぁっ!?」 丸い先端に尖った牙が食い込む。 痛みを感じる程ではない、けれど振り解くのが難しい程には強い。 そんな強さで噛みつかれて、何がなんだかわからないでいるうちに指先で反対の耳を包まれた。 こちらは耳の後ろから耳朶にかけて、擽るように撫でては戻る仕草を繰り返し、やがてふにふにと耳朶を弄び始める。 「えっ、ちょっ……キャー!キャー!」 何してんの、と言おうと開いた口から漏れたのは悲鳴だった。 舌先が耳の内側をなぞり、耳腔にまで進入してきたから。 何度も何度もそれが繰り返されて、ちゅくりと奥で直接、濡れた音が響く。 「ぁっ……んっ!」 背中がぞくぞくと震えて頭を振って逃げようとしたら、もう片方の手でぐっと頭の後ろを掴まれて動けなくされてしまった。 そうなるともう頭を振ることさえできなくて、ただただ嵐が過ぎ去るのを待つことしかできなくなる。 視界に移っているのは傍らで蠢く白銀の髪と赤い衣に包まれた肩だけで、懸命に手を伸ばして背中の辺りを引っ張ったって見かけよりも頑強な犬夜叉の体はびくともしない。 「やっ、ちょっ、やめて! ほんとにやめてってば!!」 ひーんと声を上げても犬夜叉の動きは止まらない。 耳の中で響く粘度を帯びた水音の音がとんでもなく恥ずかしい。 「……かごめ」 その耳の奥に直接落とし込まれる低い、声。 濡れたそこが吐息に触れると脳髄が痺れるような衝撃が走った。 「っ……!」 もう一度奥へと忍んだ舌先が、今度は耳の後ろに回って、そこから耳朶へと達する。 耳朶を口の中に含まれてしゃぶるようにされて、先程とはまた違う水音がする。 「い、いぬや……」 「………かごめ」 「やっ……」 低く名前を囁かれる度に、身体の奥が震える。 擽ったいやら恥ずかしいやらぞくぞくするやらで半ばパニック状態で殆ど涙目になって、衣を引っ張っていた手が縋りつくようなそれに変わった頃、ちゅと音を立ててそこから舌先が離れた。 「…………」 「は……」 肘を突いて僅かに身を起こした犬夜叉を、息も絶え絶えの状態で見上げる。 「……良いんだな、好きに触って」 「………はぇ?」 一瞬なんのことかわからなかった。 頭がぼうっとして、思考が上手く働かない。 「お前の耳、いつでも好きに触って良いんだよな?」 「………!!」 どうしてこうなったのか、瞬時に思い出してはっとして身体を跳ね上げる。 犬夜叉にぶつかりそうになったが、彼は上手くそれを避けてバランスを崩しそうになるかごめを抱き止めてくれた。 「もっかい聞くぞ? お前がおれの耳、好きにするんだから、おれもお前の耳、好きにして良いよな?」 先程まで触れていた耳元に唇が寄せられて、囁かれる。 「……良くないっ!」 ぶんぶんぶんっと頭が左右に振られた。 ただでさえぼーっとしていた頭があまりの勢いでくらくらしたけど、犬夜叉が支えてくれているので大丈夫だった。 「じゃあお前もしない、でいいな?」 「………」 こくこくと、今度は縦に首を振る。 かごめの顔は耳の先から首筋まで真っ赤で、羞恥と興奮でふるふるしているのがなんだか凄く、可愛い。 だが身体は強張ったままだし、眼は涙目で流石にこれ以上苛めるのは可愛そうな気もする。 「………」 「……きゃっ!」 犬夜叉は小さく息を吐いて、その華奢な身体をひょいと膝の上に抱え上げた。 位置を入れ替えて壁に背中を預け、かごめの身体を自身に凭れかけさせて小さな子供にでもするように背中をぽんぽんと撫でる。 暫らくすると、強張っていたかごめの身体から徐々に力が抜けてきた。 くったりと無防備に体重をかけてきたのを感じ取り、苦笑しながらその背中を覆う柔らかな髪に指を絡める。 「……ま、たまにはいいけどよ。いつもされっとたまんねぇから、ちったあ考えろよ?」 「うー……こんな恥ずかしいなんて思ってなかったぁぁ……」 普通の人間のそれとは形が違って、柔らかくて触り心地が良くて。 それに触れられるのは小さな子供以外では自分だけと言うのがちょっと嬉しくて、深く考えずに触っていたのだが、確かに人間のそれに置き換えるととんでもなく、恥ずかしい。 構図を朔の夜の犬夜叉に置き換えてみると ――――― 想像しただけで顔から火が出そうだった。 (でも犬夜叉にとってはそれもこれも変わんないってことよね……) そう考えると、なんだか今まで自分がとんでもないことをしてきたような気がして。 赤くなった顔を隠すように犬夜叉の胸に擦り付けていたら、耳元にぼそりと低い声が落とし込まれた。 「……続き、してもいいか?」 「っ!?」 ― END ―
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疾しいことは何もしてません。ちょっと大型犬にじゃれつかれただけです。多分(笑)。 不思議と犬夜叉の方がエ●に抵抗がありません……(^^;) |