揺れる木漏れ日に照らされて、緩く波打つ黒髪がちらちらと光る。 籠に入った洗濯物を拾い上げる腕は細く、絡げた袖の隙間から覗く二の腕は眩しい程に白い。 何が楽しいのかその口元は緩く弧を描いて今にも笑い出しそうだ。 (……かごめ) 口に出して名前を呼べば彼女はきっと微笑んで振り向くのだろう。 『なーに、犬夜叉?』 高すぎず低すぎず、心地好く耳を擽る声が今にも聞こえてきそうだ。 けれど、今、この瞬間が失われるのが惜しくて口を開くことさえできない。 「…………」 眩しさに眼を細め深く息を吐いたところで、頭部にごんと無視できない衝撃が走った。 「……ぁにしやがる」 顔を上げるまでもなく犯人は弥勒だ。 近付いてきているのは分かって居たが、脅威ではないと思って放っておいたのが間違いだったか。 「呆けたツラぁしやがって」 揶揄混じりの声。 それなりに自覚はあったのでぶっきらぼうながらも「悪いかよ」と返すと、男は驚いたように眼を瞠った。 「………」 その口元が、笑う。 男にしては珍しい、どこか屈託のない笑みだった。 「悪かねぇよ。――――― 嬉しいんだ。おれも、珊瑚も。お前がそんなアホヅラ晒してんのがなによりな」 言うに事欠いてアホヅラか、とは思ったが、それが貶める意図のものではないということぐらいは犬夜叉にもわかる。 思えば弥勒にも珊瑚にも、自分はずっと心配をかけてきたのだ。 「………悪かったな」 「さて、なんの話でしたかねー」 しゃんっと音を立てて犬夜叉の頭の上に載っていた錫杖を持ち上げて、男は今度は何時も通りの飄とした笑みを浮かべた。 「お前にも養う相手ができたことですし、これからますます稼がなくてはいけませんなぁ」 「……てめー、これ以上稼いでどうすんだ」 「金は幾らあっても困るものではありませんよ。子が出来ればさらに要りようになりますし」 「っ……!」 「……なんだ、ひょっとしてまだなのか?」 かぁっと顔を赤くした犬夜叉に、男は器用に片方の眉を上げて呆れた顔する。 「うっ、うるせぇ!!」 思わず噛み付く声が大きかったのか、かごめが柔らかそうな髪を揺らして振り向いた。 「……犬夜叉ー、弥勒様ー。そんなとこで何やってんのー?」 ――――― あぁ、この日々がどうか、何時までも続きますように。 ― END ―
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かごめちゃんが洗濯物を干しているのを犬夜叉と弥勒様が眺めているだけの話です。 |