おずおずと、伸びてきた手が背中に回る。 壊れやすい何かに触れるようにやんわりと抱き締められて、体重を相手に委ねるように身体の力を抜くと、耳元でふーと小さく安堵にも似た息が聞こえた。 「……?」 顔を少し動かして肩口に乗せられた犬夜叉の横顔を伺うと、彼はどこかほっとした顔で目を閉じていた。 力強い琥珀色の瞳が隠されて、強気な弧を描く眉が少し下がって。そうするとどこかあどけない、傷つきやすい少年のように見えて抱き締めて上げたくなる。 (……あんたに言ったら怒るんだろうけど) 最近少し素直になってきた犬夜叉だが、元々とんでもなく意地っ張りで人に弱みを見せることを極端に嫌う。 そうしなければ生きて来られなかった幼少時代を思うと胸が痛むが、それだけに今はその分幸せになって欲しい ――――― して上げたいと思っている。 自分にどれだけのことが出来るかわからないけれど、出来るだけのことをして上げたいし、与えられるだけのものを与えて上げたい。 「……かごめ」 犬夜叉はそんなかごめの視線に気付く様子もなく、首筋に鼻先を擦り寄せると背中に回した腕をおずおずと動かし始めた。 片方の手はかごめの身体を抱いたまま脇腹から腰に、もう片方の手は前に回ってそろそろと胸の膨らみに触れる。 「ん……っ……」 布越しで曖昧な輪郭を辿り、確かめるように僅かに力を籠める。 もぞもぞと迷うような、探るようなどこか遠慮がちな動きが続いて、それが妙に擽ったい。 随分と時間をかけて腰紐が緩められ、袷が解かれて露わになった白い胸元に口付けが落ちた。 柔らかい唇と時折肌を掠める固い牙。追って熱い舌先が触れる。 徐々に大胆に、ねっとりと素肌を這うそれとは裏腹に肌を掠める指先はやっぱり遠慮がちで、触れるか触れないかの距離で動かれてなんだかぞわぞわする。 「っ……ふっ」 暫くは懸命に声を堪えていたかごめだったが、そのうち堪え切れなくなって小さく吹き出してしまった。 「……な、何笑ってやがんでい」 ぴくっと肩を揺らして顔を上げた犬夜叉の顔が赤い。 「だって擽ったいんだもん。そんなに恐る恐る触んなくてもいいのに」 かごめはクスクスとおかしそうに笑って犬夜叉の首に腕を回した。 「なっ……」 ――――― 言うに事欠いて擽ったい、とは。 (誰の為にそうしてると……) 犬夜叉が本気で力を込めれば、人間の身体など紙屑も同然だ。 普段は流石に力加減を間違えて傷つけてしまうようなことはないが、理性が飛んでしまえばどうなるかわからない。 つい夢中になって力加減を謝らないよう、かごめを傷つけてしまわないよう、どれだけ気を使っていると思っているのか。 けれどそれは彼女に触れたいという自分の欲望の為でもあるので、一概に彼女の所為にも出来ない。 そもそも、我を失いそうだからなどと恥ずかしいことが言えるものか。 悶々と考え込む犬夜叉の鼻先が無意識の内に顰められる。 (あ、かわいー……) ムッとした様子で鼻先を顰めている様子はやっぱりどこか子供っぽくて、かごめはひっそりそんなことを考えた。 離れていた間に随分と大人っぽくなったように思える犬夜叉だが、こう言う顔をするとあの頃と変わらない。 懐かしさを感じると同時に彼が変わらないことに安堵して、微笑ましくて嬉しくて思わず口元が緩んでしまう。 「……お前、今失礼なこと考えたろ」 「えっ? そ、そんなことないわよ? だた、犬夜叉が可愛いなーって……」 ギロリと睨み上げられて、不機嫌そうな低い声で問われて視線を泳がせる。 誤魔化すつもりだったのだが、思わず本音が漏れてしまった。 「それが失礼だっつってんだよ! 男に可愛いとか言うな!」 「いいじゃない、ホントのことなんだか……ッ!?」 開き直ってクスクスと笑いだしたかごめの着物の背中を引っ張って、一気に仰向けに横たえる。 突然変わった視界にきょとんとした様子で眼を瞬いている彼女の顔の両脇に手を突いて、ぐっと距離を詰めた。 「んっ、ッ!」 噛み付くように口付けて、強引に唇を割って舌先を引き摺り出し、そこに牙を立てる。 勢いに僅かに其処が傷ついて、口内に鉄臭さと甘さの混じる味が広がった。 「んんっ!!」 驚いたように目を見張ったかごめが両手を上げて肩を押し離そうとしてくるが、犬夜叉の身体は揺らぐ様子さえない。 どう考えたって身体の作りが違うのだ。 牙を立てたそこを一転労るように嘗め上げて、咥内に強引に押し入って舌の付け根を探る。 「ん、んむっ……」 咥内を余すところなく貪って、飲みきれず溢れた唾液を啜り。彼女にもそれを与えて嚥下を強要する。 息苦しさに耐えかねて上下させた喉を撫で、先程舌で触れていた胸元へ、乱れた着物を左右に開いて形の良い臍の窪みまでを辿る。 びくっと細い肢体が跳ねて、それに腹の底から沸き上がるようなぞくりとした快感を感じて獲物を押さえつけるように更に口付けを深めた。 「ん、ぅ……」 好き放題に加減なく貪られて殆ど呻くような、苦しげな声が漏れる。 肩を押していたかごめの手が縋りつく形になって、やがてそれさえも叶わずぽとりと布団の上に落ちたところで、犬夜叉はようやく顔を上げた。 「ぁ……」 酸欠と、もう一つの理由で真っ赤になったかごめが、涙目で見上げてきている。 見せつけるように手の甲で拭った唾液を舌で嘗め取った。 「……今日は加減してやらねえから、覚悟しろよ」 「………ふぇっ?」 大きな丸い目が、ますます丸く見開かれて、素っ頓狂な声が上がる。 そのまま見下ろしていると、徐々に酸素が頭に回り始めたらしい。 「あー……えーと、やっぱり手加減、して?」 言葉の意味を理解したのかますます顔を赤くして、それから可愛らしく小首を傾げて見せる。 正直この『お強請り』には非常に弱いのだが ――――― 今は逆効果だった。 「……却下」 「きゃー! きゃー! きゃー!」 彼女の上に身を伏せた犬夜叉の耳元で、甲高い悲鳴が上がった。 ― END ―
|
良い夫婦の日に慌ててアップしました(笑)。 書きかけで出せそうなのを纏めたのでいい夫婦!感は低めかも知れません(苦笑)。 |