門扉に手を掛けると、ウォンウォンと大きな声が響いてくる。 飼い主の気配に気付いた飼い犬が、今にも飛びかかろうと玄関に待ち構えているだろうことを正確に予想して、ティアは微笑とも苦笑ともつかない笑みを浮かべた。 「ただいま、ルーク」 「わふっ!!」 鍵を開けて扉を開けると、赤みを帯びた茶色の毛並みの大型犬が尻尾を千切れんばかりに振りながら飛びついてくる。 「きゃっ、ッ、こら! 危ないでしょ!!」 それをどうにか受け止めたティアが、叱りつけるような声を上げて。 しゅんとなったルークが尻尾を垂らして脇にどくのは何時ものこと。 何時までたっても子犬のような彼は、ティアが部屋に戻って着替えるまでの間、彼女の部屋の扉の前でじっと彼女を待ち、扉が開くと待ちきれないと言った様子でじゃれ付いてくる。 「仕方ないわね………」 苦笑しながらそれをあしらい、ティアはリビングのソファに腰を下ろした。 当たり前のようにソファに上がってきたルークが、ティアの膝の上にぽすっと顎を乗せてくる。 「……ホントに、あなたは何時までたっても甘えん坊ね」 頭を撫でてやると、彼は気持ち良さそうに鼻を鳴らしてくるくると良く動く緑色の目を閉じた ――――― 猫なら間違いなく喉を鳴らしているだろう仕草だ。 おそろしく人懐っこくて甘えん坊の彼は、一応のところティアのボディーガードである。 兄の知り合いのブリーダーのところで生まれたのだが、この綺麗な緑の瞳が災いして血統書が認められず、処分されかかっていたのをティアが引き取ってきた。 その頃ちょうど仕事が忙しくなり始め、家を空けることが多くなってきた兄が番犬代わりとしてならと飼うことを許してくれて、それ以来、四六時中一緒に過ごしている。 当時は両方の掌に乗る程の大きさでころころと可愛かったものだが、太い四肢が示すようにあっという間に大きくなって、今では抱き上げるのが難しいほどだ。 そろそろ飛び付くのをやめさせなければと思うのだが ――――― 受け止めきれず転んでしまったことは一度や二度ではない ――――― ルークはなかなか言うことを聞いてくれない。 頭が悪いわけではないとは思う。 お手、お代り、お座り、伏せ、とってこい、一通りのことはすぐ覚えたし ――――― 落ち着きが無い所為か待てだけは未だに苦手だ ――――― 兄の前では別犬のようにぴしりとして言うこともしっかり聞く。 犬は自分を家庭で下から二番目に置くというから、舐められているのかも知れないと思ったこともあるが、仕草や表情からどうやらそう言う事でもないと言うのがブリーダーの意見だ。 曰く、単純に嬉しすぎてテンション上がりすぎてあまり話を聞いていないだけではないか、と。 好意を持ってくれているのは嬉しいが、些か問題である。 「…………どうしたものかしらね」 ティアの呟きを聞きつけてパタパタとルークの耳が揺れる。 「………あなたのことで悩んでるのよ」 顔を上げてやけに人間臭い仕草で首を傾げる彼の頭をぐいと押さえつけてやると、遊んで貰っているとでも思っているのか、大きな尻尾がぱたぱたと左右に揺れて。 まるっきり何にもわかっていないその仕草に、ティアは大きな溜息を落としたのだった。 ― END ―
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バカ犬ルーク……(笑)。 まだ出会ってもいませんがちゃんとルクティアになりマス(笑)。 翠の目の犬もなかなか居なくて結局こんな形に……犬種は想像にお任せします(苦笑)。 |