ちりりんと軽やかな鈴の音が聞こえて、何気なくそちらを見たティアはそこに四つん這いになって愛猫を狙うルークの姿を見つけて目を瞬いた。 ルークの部屋で一緒に勉強をしていたのだが ――――― 予想外に思われるかもしれないがルークは成績は悪い方ではない。ティアにとってはたまにポイントとなる部分や傾向を教えてもらえるのが有り難いぐらいだ ――――― 少々飽きっぽいルークが休憩休憩と言って席を立ってしまって、暫くしてしてからのことだった。 少し休憩したら戻ってくるだろうと気にせずに参考書に向かい合っていたのだが、ちょっとこの光景は想像してもいなかった。 「……何をしているの?」 「っ……!」 思わず問うと小さく息を飲む音が聞こえて、その音に敏感に反応した猫のティアが顔を上げた。 そうしてルークと目があった瞬間、彼女はぴゃっとその場を逃げ出してしまう。 「あーぁ……逃げられちまった」 がしがしと頭を書くルークの手の中で、もう一度ちりんと小さく鈴が鳴った。 訝しむようなティアの視線に、机の傍らに戻ってきたルークは苦笑を浮かべて掌を開いて見せた。 部活の剣道で鍛え上られた少し骨ばって大きめの掌の真ん中にちょこんと鎮座していたのは、オレンジ色の、南瓜を模した小さな鈴だった。 「可愛い……!」 思わず漏れた呟きに、苦笑が漏れる。 「だろ? ハロウィンのディスプレイ用に売ってたんだ。小さいし、首から下げさせたらお袋が喜ぶと思ったんだけど、全然付けさせてくれねーの」 「あら、じゃあ邪魔してしまったわね」 それを聞いて、ティアは申し訳ないと言うよりは先程の様子を思い出してしまっておかしいと言う様子で笑う。 「ちぇ……」 小さく舌打ちをするルークの掌から、小さな鈴を摘まみ上げるとまたちりんと澄んだ音が鳴った。 「猫はただでさえ首に何か付けられるのは苦手だものね。勘弁してあげたら?」 黒いリボンを通された南瓜はにんまり笑っている。 「……じゃあティアが付けるか?」 「え? 私?」 どこに、と言うように首を傾げると、ルークはそのまま身を乗り出してティアの髪を掬った。 さらさらと流れ落ちる髪の一房を手にとって、顔のすぐ脇の辺りで軽く結んで余ったリボンの先を所謂蝶々結びにする。 あまり器用な方ではないので少々歪なちょうちょになってしまったが、そこはご愛嬌。 よし、とばかりに満足そうに声を上げて手を放すと、重力に従って揺れた鈴がまたちりんと鳴った。 「……こんなの付けてたら、笑われちゃうわ」 口では非難めいたことを言いながらも、ティアの声は笑っている。 高校生にもなって恥ずかしいというのが反面、可愛いもの好きの血が騒ぐと言ったところか。 「いいだろ、後で外せばさ」 そう言ってルークは離れ間際にそっと掠めるようにティアの唇に触れた。 それにまた、擽ったいような笑い声が零れて幸福感に満たされる。 調子に乗ってもう一度、今度は少し深く唇を重ねようとしたら、けれど今度はぐっと顔を押しやられてしまった。 「きゅ、休憩はもう終わりでいいでしょ、中間テストも近いんだし、もう少し真面目にやりなさい。貴方、受験生なのよ?」 「……ちぇ」 小さく舌打ちすればそれまでの照れ隠しのちょっときつめ表情が申し訳ない様な、困ったような顔に変わって。 少し眉を寄せた普段と違って少し子供っぽくも見える表情が可愛くて、堪らなくなって腕の中に囲い込むように抱き締める。 「きゃぁっ!?」 小さく悲鳴を上げた彼女に笑って、ルークは一瞬で腕を解くとそのまま大人しく彼女の向かいに腰を下ろした。 「………ルーク」 拗ねたような眼差しに満足気に笑み返して、頬杖をつく。 「……なに?」 多分、頬がにやけていたに違いない。 返す声は自分でも驚くぐらい楽しそうなそれになった。 ――――― 動く度にちりん、ちりんと鈴の音を響かせるティアはその後、猫のティアに狙われることになった。 身に付けるのはまっぴらごめんだが、音が鳴るのは気になって仕方がなかったらしい。 その後、南瓜の鈴が猫のティアの玩具になったことは言うまでもない。 ― END ―
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このシリーズはもともと短めなのですがいつもに増して短いかも……。 出会って二年目の秋、ルーク高校三年生、ティア高校二年生……の割にルークに余裕がありすぎたかもしれません(笑) |