「ティーア」 「……何?」 名前を呼ばれて振り向くと、ルークはにこりと邪気のない笑みを浮かべて寝台に腰かけた自身の隣のスペースに手をやった。 ここここ、と言わんばかりに掌をぽんぽんと弾ませて笑みを深めるのによくわからないまま足を向ける。 促されるままに横座りに腰を下ろすと、ルークは下ろしていた両足を寝台の上に抱え上げ、胡坐をかいてティアの様へと向き直った。 「顔、触っても良いか?」 「えっ?」 一瞬何を言われたのかわからなくて眼を瞬いていたら、酷くゆっくりと記憶にあるより少し大きな手が伸びてきた。 「ぁ……」 逃げたければ逃げていい、そう言われているようで。少しだけ迷って、ティアは僅かに目を細めてその手を受け入れた。 指先が、壊れ物にでも触れるかのようにおずおずと頬に触れる。 視線のすぐ先にあるルークの口元には変わらぬ柔らかな笑みが浮かんでいる。 少しざらついた指先が頬を滑り、耳朶の方へ。 それでもティアが動かないのを確かめてから掌がそうっと頬に沿う。 「…………」 剣胼胝のある掌は少し硬くて、けれど温かい。 「……へへっ、やっと触れた」 やがてくしゃりとその口元が緩んだ。 酷く無防備で、頼りない。けれど酷く幸せそうなその笑みに、胸の奥を鷲掴みにされたような感覚を覚えた。 ――――― あぁ、ルークだ、と思った。 背が伸びても、声が低くなっても、顔付きが大人びても、何も変わらない。 強がりと虚勢の殻の奥に居た、柔らかいルークの本質のままの子供染みた笑い方。 そう思った瞬間、涙が溢れていた。 「……っ!? っ、ごめっ……そんなに嫌だったか?」 ギョッとしたように眼を向いたルークが手を引いて、離れていく掌と頬の間にひんやりとした空気が流れ込む。 「っ……そんなわけないでしょうっ、バカっ……!」 そんなこと、あるわけがない。 ずっとずっと待っていたのだ。 ルークが還ってきてくれる日を、ずっと、ずっと。 「…………」 弱り切ったような、その癖どこか嬉しそうな顔をしたルークがもう一度手を伸ばしてくる。 今度は頬ではなく、肩に。触れた手がぐっとティアの身体を引き寄せて、腕の中に閉じ込めた。 「っ……!」 「……りがとう、ティア」 耳元で、低い囁きが落ちる。 溢れる涙を隠す様に、ティアはルークの広い肩に額を摺り寄せた。 ― END ―
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アビス舞台に萌え転がって再燃中です。 似たような話ばっかり書いている気がするけど!今は!それでも書きたい!! お付き合い頂ければ幸いです。 |