―――――― 好きだ。
 言葉に出せない想いを、胸の中だけで呟く。
 君が笑った時、君が嬉しそうな顔をした時、優しい目をした時、照れた時。
 それだけじゃ、なくて。
 本当は困った顔をした時も、悲しそうな顔をした時も、辛そうな顔をした時も。
 好きだ、って思うんだ。
 抱き締めて、大丈夫だって。
 そんな顔、するなって。
 一人じゃない、一緒にいるって、囁きたい。
 細い肩、指先、小さなピンク色の爪の先、髪の毛の一本一本に至るまで、全部。
 全部が時々、無性に、泣きたいくらいに愛しくなる。
 思わず眩しいみたいに、泣くのを堪えるみたいに顔を歪めたら、頬に白いグローブに包まれた指先が伸びてきた。
 白く滑らかな鞣し革のグローブの、ひんやりとした感触が心地良くて、同時に、寂しい。
 幾度か、数える程しか触れたことのない彼女の指先は、本当はもっと滑らかで、優しいことを知っているからだ。
「……どうしたの? どこか、痛い?」
 不安そうに揺れる、声。
 こんな声を、こんな顔を。させてしまっているのが自分だと思うと申し訳なくて、けれどどうしようもなく嬉しい。
 ―――――― 優しい君が、僕の為に傷つくのが。
 相反する二つの感情に挟まれて、泣きだしたいような気持ちを抱えたまま、ルークは意識して口角を引き上げた。
「なんでもねーよ、ちょっと眩しかっただけだから」
 君が、なんて言わないけれど。言えないけれど。
 あまりにも無防備で無自覚な君が気付くはずなんかなくて。
「そう?」と小さく首を傾げて離れていくのにほっとすると同時に惜しく思う。
「………」
 どんな言葉にしたって、この気持ちは伝えきれない。
 伝える気なんか、ないけれど。
 ここに、抱きしめておくことだけは許して欲しい。
(誰も、気付かないまま……)
 この身体と一緒に、音素に溶けて消える近い未来が訪れるまで。
(…………少し ―――――― 勿体ない気もするけどな)
 それは、ルークにとって。
 他の誰とも違う、ルークだけの、大切な気持ちだから。
 本当は、どこかにそっとしまっておければいいのだけれど。
 仕舞っておける場所なんて、この胸の奥以外にありはしない。
 ―――――― 好きだよ。
 もう一度、胸の中だけで小さく呟いて。
 抱きしめた気持ちにそっと蓋をして、ルークはもう一度唇を笑みの形に引き上げた。

― END ―
 

  レプリカ編の終盤…のイメージだったようです。  実は書いたのは随分前で、書きかけを纏めたテキストに入っていました。  何かに使うつもりだったのかなとは思うのですが、これは単発の方が言いような気がする…と言うわけで拍手でサルベージしてみました。
2011.9.1
戻ル。