最初はそぅっと、押し付けるだけだった。 次はちゅっと微かな音を立てるように。 おずおずと重ねられて、互いに呼吸を止める。 そんなキスが変わっていったのは何時のことだっただろう。 「んっ………」 ――――― 唇を噛まれる。 もちろん痛いほどじゃなくて、柔らかく、感触を楽しむように。 唇で軽く挟んでひっぱってみたり、舐めてみたり。 何だか遊ばれているようで、恥ずかしくて抗議の声を上げようとしたら、わずかに開いた隙間からするりと入り込んできた舌で唇の内側を舐められた。 「ちょっ………!?」 慌てて離れようとしたら追い縋ってきて、舌先に噛みつかれてティアはビクッと肩を跳ねさせた。 「……ッ……」 「………ん」 肩にかけた指の下、細い身体が硬直するのがわかって、ルークは僅かに瞼を開けて彼女の様子を伺った。 きゅっと細い眉が内側に寄せられて、何かを我慢しているような表情になっている。 ルークは驚かせないようゆっくり上体を引くと、身を屈めて覗き込むように彼女を見た。 「………嫌だったか?」 真っ赤になった彼女の唇がふるふると戦慄いている。 「……い、嫌だったか、じゃないわ! あっ、あなた、こんなのどこで覚えてくるのよ!」 初めてのキスはほんの一月前。交わした回数はほんの数回。 肉親への憧れめいたそれを除けばお互い初恋で。 こんな風に口付けを交わすのだって初めての相手で、お互いゼロからスタートを切ったはずなのに。 一体どこでこんなことを覚えてきたのかと思うと驚きもする。 「…………別に、覚えてきたってわけじゃねーんだけど……」 ティアの動揺に気付いているのか居ないのか、ルークはうーんと小さく唸ってその立場とは裏腹の乱暴な仕草でがりがりと頭を掻いた。 「ティアの唇、柔らかそうで美味そうだと思ったもんだから、つい」 「………っ!?」 くしゃりと笑う彼とは裏腹に、ティアは顔を真っ赤にしてぱくぱく酸素の足りない魚状態。 「恋人同士ならこういうキス、するもんなんだろ?」 けれど逆にどこかきょとんとした表情で返されて、頬に手を押し当てて俯いた。 「…………そ、それは………その……。する時もある、でしょう、ね」 ――――― 忘れていた。 このヒヨコ、おそろしく順応性と学習能力が高かったのだ。 その上、からかわれれば赤面して大騒ぎする癖に妙なところで臆面がない。 「ティアはこう言うの、嫌いか?」 「………き、嫌いと言うか、その……」 じぃっと覗き込んでくる翠の瞳はまるで子供のように純粋だ。 「……………は、恥ずかしい……から、ヤメテ……」 負けてしまいそうだ、と思いながら。それでもどうにか小さく振り絞った声に、けれどルークは嬉しそうに笑って抱きついてきた。 「きゃぁっ!?」 「………ティア、すっげー可愛い……」 驚いて声を上げるティアの肩口に顔を伏せ、すりすりと動物めいた仕草で顔を摺り寄せてくる。 犬なら多分、間違いなく尻尾がパタパタと振られている状態だろう。 「………………バカ」 恨みがましいような声に力はなくて。 白旗が上がるのはそれ程遠い日のことではないのかもしれなかった。 ― END ―
|
さり気に09年冬コミ新刊の流れだったり……多分6本目と7本目の間にこう言うことがあったのです(えー。 書き終わってからあれです、我ながらなんて恥ずかしいものを書いてるんだろうと思った……orz (↑でも公開はする) |