ギルド、アドリビトムは居心地の良い場所だ。 他のギルドに比べれて女性や若者の数が圧倒的に多い所為か、規律も厳しくはなく、自主性を重んじる風潮で ―――――と、言うよりは実際のところ船長もギルドの旗揚げ時の責任者も幼すぎて、細かいことは考えていなかったのだろう ――――― 堅苦しいこともない。 それでこの纏まりを見せているのだからある意味では奇跡的な集まりなのだろうと思う。 勿論人数が増えてきた今では多少の大人や後ろ盾も得て、外部からの信頼も厚い、のだが。 それもまた奇跡のような偶然が積み重なっているとしか思えない。 ふわふわとした空気、誰もが穏やかに笑って仕事を楽しんで、些細ないざこざや喧嘩騒ぎはあってもそれが大事に発展するようなことも無く、ある意味では理想的な場所だ。 ――――― そう、であるだけに。 時々どうしようもなく居心地が悪く感じてしまうのはもはや性のようなものなのかもしれない。 依頼や何となくうろついている時以外でゼロスが自身の居場所と定めているのは機関室に程近いナパージュ村から参加したメンバーに与えられている控え室に程近い廊下だった。 本来なら室内で休むべきなのだろうが、あそこにいると何となく息が詰まるような気がして。 けれど何かあればすぐ部屋に戻れる形にしておいた方が都合がよく。 廊下であれば『外の方が色んな子に会える』と言う言い訳も立つからだ。 何を考えているのか同じ廊下の反対側の隅にはナパージュに居た頃から色々と気に入らない傭兵が佇んでいるのだが、今更場所を変えるのも癪で敢えて視界に入れないことにしている。 何時もの様に通りかかった連中とくだらない世間話を交わし、時間を潰していると。 機関室へと繋がる扉が開いて一人の少女が出てきた。 灰色とも栗色とも取れる落ち着いた色合いの長い髪がその動きに釣られるように靡く。このギルドの名目上のリーダーであるグランコクマのお坊ちゃまの護衛を努める軍人達の一人。 十六歳と言う年齢が嘘のように ――――― 恐ろしいことに同郷の神子と同い年、だ ――――― 完成された肢体を持つ彼女のことを、ゼロスは結構気に入っていた。 「ティアちゃん今日も可愛いね〜? 依頼の帰り〜?」 声を掛けると、振り向いた彼女は切れ長の瞳を更に細めて僅かに溜息を吐いたようだった。 「…………何か用?」 「べっつにー? 言葉どおりの意味だけど?」 冷ややかな声音に自然と口元が緩んだ。 ――――― 女は頭が悪くてノリのいい一夜限りのお友達タイプか、でなければ彼女のような取り付く島もない堅物に限る。 確かにこのギルドは普通のギルドに比べて女性の人数が多いしレベルも高い。 だが平均年齢の低さは否めず、一夜を共にする相手を探すには不向きだ…………それに見合う女性が全く居ないとはいわないが、流石にこの閉鎖空間でむやみやたらと食い散らかすわけにも行かない。 だから彼女のような靡かない女に声を掛ける。 適度に美人でスタイルが良くて、いかにも女好きな男が好みそうなクールビューティ。 そう言う意味で、彼女はゼロスにとって非常に都合がいい相手だった。 (まあ理由はそれだけってわけでもねーんだけど………) 「今度俺様と一緒に修行依頼なんかどう? ティアちゃんと一緒なら俺様頑張れると思うんだよね〜」 右目が隠された独特の髪形をしている所為で表情が良く見えなくて。 もっとよく見ようと顔を近づいて覗き込むと、柳眉が僅かに内側に寄せられるのがわかる。 「…………誰かと」 呆れたような小さな声が漏れたと思った途端、機関室からどやどやと数人が廊下へと流れ込んできた。 「あー!! ゼロスてめぇまたティアにちょっかい出してやがんな!」 裏返ったような声に顔を上げるとその中の一人、首の辺りでひょこんと跳ねた赤い髪の男こちらを指差しているのが視界に入った。 彼女の護衛対象であるグランコクマのお坊ちゃま、だ。 案の定面白いことになった、とゼロスは内心北叟笑んでニヤリと口端を引き上げた。 「あれ〜? 俺様がティアちゃんクエストに誘っちゃなんか不味いことがあるワケぇ? 誰が誰を誘おうと自由のはずだよな〜?」 「……っれはそーだけど! 嫌がってんだろ!」 だだっと駆け寄って来て、ルークは彼女とゼロスの間に身体を割り込ませてくる。 ――――― このお坊ちゃまは、傍から見ていて面白いぐらい彼女にご執心なのだ。 「嫌がってる、ねー? 俺様まだティアちゃんの返事聞いてないんだけどなー。どうしてお前に彼女がまだ口にしてない答えがわかるのかねぇ?」 「そ、そんなの誰だってわかんだろ!」 「誰だって、ねぇ? 俺様今ティアちゃんの答え聞くとこだったんだけどなー。大事な大事な依頼のお話ー」 ぐぬぬぬ、と小さく唸る声が聞こえる。 それに追い討ちをかけたのは恐ろしく律儀で真っ直ぐなティア自身だった。 「………ルーク。人の話を途中で遮るのは感心しないわ」 思うところはあるけれど、注意はしておくべき、と言ったところか。 「っ、お、俺は!」 途端にヒヨコ頭はゼロスに背を向けて、顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせ始めた。 「…………俺は、何?」 「………なッ、なんでもねぇよ! とっとと行くぞ!」 真っ直ぐに彼を見詰める少女の眼差しに耐え兼ねたのか、視線が泳いでいる様子が丸わかりだ。 結局言葉が出てこなかったらしく、挙句の果てには彼女の腕を掴んで強引に控え室の方に向かって歩き出した。 「きゃっ! ………ルーク!! 人の話をちゃんと……」 「るせー、さっさと準備しなきゃなんねーんだろ!」 「ルーク!! そんな態度はないでしょう!?」 叱り付ける様な少女の声にまさに逆切れ、な少年の声が重なって、バタンと扉が閉じられる。 それと同時に、ゼロスは腹を抱えて笑い出した ――――― どうやら我慢していたらしい。 「うひゃひゃひゃ……あー、あいつらで遊ぶとホント退屈しないね」 ティアにちょっかいを出す理由のもう一つはこれ、だ。 真っ直ぐで単純な青少年をからかうのは面白くて仕方がない。 しかもあの二人の場合、恐ろしく鈍くて天然な彼女が我知らずとこちらを味方してくれる場合もあるので事を運びやすくて助かる。 「あーぁ、可愛そうに……ルークで遊ぶのも大概にしときなよー?」 楽しそうに笑うゼロスに苦笑する気配がするが、誰も止める気はないらしい。 なんだかんだで皆同じようなことを考えているのだ。 「しょーがねーだろ、あいつら単純で面白いんだって」 「それは否定しないけどね〜」 げらげら笑うゼロスに釣られて皆笑い出したのだけれど。 その中で一人だけ、不思議そうな表情で。真っ直ぐにこちらを見詰めている榛色の瞳があった。 「ん? どうした?」 つんつんと跳ねた前髪が特徴的な、こちらも同郷の少年 ――――― ロイドだ。 ついつい気が緩んでいたらしく、何気なく声を掛けてしまったゼロスは次の瞬間それを深く後悔した。 「………おまえさ、なんか機嫌悪い?」 「……………」 ――――― それは、ほんの一瞬。 親しい者でなければ………否、親しい者でも気付かないほどの僅かな、間。 「はぁ? アンタ突然何言い出すの?」 誰かがそんな声を上げて。我に返ったゼロスは何事もなかったかのようにそれに乗っかってみせた。 「そうそう、な〜に言ってんのロイド君! 俺様、超ご機嫌よ〜?」 何を言っているんだとばかりに相手を小突いてみせる。 「そっかぁ? なんかそんな気がしたんだけど……」 彼は途端、自信なさ気な表情を浮かべて後ろ手にぼりぼりと頭を掻いた。 「つかいいのか、依頼? なんか途中だったんじゃないの?」 「あ、いっけね! 俺達も出発の準備しないと!」 「もー、ゼロスの所為で余計な時間食ったじゃん!!」 ばたばたと子供達が思い思いの控え室へと走り去っていく。 「……………」 ばたんと大きな音を立ててロイド達の消えた部屋の扉が閉じた瞬間、すっとゼロスの目が細まった。 先程までの上機嫌が嘘のようにつまらなそうな表情で、壁に背中を預けて腕を組む。 遠くで一連の出来事を見ていたはずのクラトスは気付いているのかいないのか何も言わず、それに少しだけ安堵を覚えた。 何か言われたら軽くぶち切れてしまいそうな気分だった。 (どう見たって上機嫌にしか見えないだろうよ………) 表情も、声も、雰囲気も、全て、完璧だったはずだ。 ――――― なのに何故、あの子供は気付いてしまうのか。 普段は猪突猛進の天然坊主にしか見えない癖に、妙なところで聡い。 いつも、いつも。どうでもいいことは見ていないくせに、気付いて欲しくないことに限って気付いてしまうのだ。 (…………だからあいつは嫌いなんだ) 彼らが部屋を出てくる前に気持ちを切り替えておかなくては。 ゆるく頭を振って、流れ落ちてきた髪を掻き上げる。 ――――― あぁ、イライラする。 ― END ―
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結城 「 ルクティア描いてよー、ルクティアー! 」 友人 「 じゃあロイゼロ書いて 」 結城 「 わかった 」 友人 「 書くのかよ! 」 と、言うわけでロイゼロな友人に捧げたものです(笑。カップル未満ですが>< 基本的に捧げモノは再録しない主義なのですが、多分そっちもこっちも見てる人は居ないだろうと言うことで許可を貰ってアップしてみましたー(笑。 Dianthus=石竹の花言葉は 「 あなたが嫌いです 」 |