しとしとと、音もなく。 降りしきる雨に、吸い込まれるように掻き消されて、他の音が聞こえない。 人の声も、動物の声も、ATの音も。 ベッドに寝転がって雑誌を捲りながら、葛馬は湿気で僅かに捲り辛い気がするそれに眉を顰めた。 (当たり前か…………) ATは水に弱いから、雨の日に出かけるのはなるべく避けたい。 本当は今日だって練習のはずだった。 雨さえ降らなければ、こうやって一人で雑誌を見ていることもなかったはず。 「…………そろそろ梅雨明けだってのに、よく振りやがる」 小さく一人ごちて、身体を起こした葛馬は窓辺へと歩み寄ると青いカーテンを開けた。 窓も開けて、湿気を含んでいる所為か今の時期にしては幾分か冷たく感じる甘い空気を深く吸い込んで、空を見上げた。 暗くて重い空がやけに近くに見えて。 ATがなくて、地べたに縫い付けられている時に限ってこんなに近いなんて、サギだと思う。 ――――― 空はキレイに晴れ渡れば渡るほど、遠くなる。 追いかけても追いかけても追いつけない虹の根元のように。 虹の根元には財宝が埋まっている、と言うのはどこの国の神話だっただろうか。 「………俺、雨の日ってキライ。あんたは?」 ぼんやりと考えながら、勉強机の上の、パソコンに声をかける。 それは当たり前のように小さなウィンドウを立ち上げ、応えた。 『…………僕は、嫌いじゃないよ』 「………なんで?」 …………走れないのに。 髪の毛湿気でぺったんこになってんのに。 「………アンタの燃え頭、湿気にめちゃくちゃ弱そうなのに」 拗ねた様な声に、くすくすと笑う気配がした。 『雨の音、聞いてると落ち着かないかい?』 触れない癖に、ここに居ない癖に、なんでそんな風に何時もと同じように笑うんだ? 『………それに、頑張りすぎのカズ君にはいい休息日になるしね』 そんな風に優しく、そんな風に柔らかく、そんな風に穏やかに。 大好きだよ、って聞こえてきそうな声で。 『……ちょっ……』 何だかそれがむかついて、葛馬は手を伸ばして、ばたんとディスプレイを閉じてやった。 「………バーカ」 備え付けの椅子に腰を下ろして、ノートパソコンの横に上体を投げ出すみたいにうつ伏せて、呟く。 「……………言いたい事があるなら、そんなとこにいないで、さっさと出てこいっつーの」 ――――― 雨はまだ、降り続いている。 ― END ―
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またしても放置……orz ラブラブを書く予定だったのですが。 何故か朝から降っていた雨に触発されてウェットな感じに……しかも思いついたままに書いたら何故かパソスピでした。 ちょっと落ち着いた感じのが書きたかった……のかも? |