窓から入る眩しい光に目を細め、少し遅めの朝食の準備を終えたスピット・ファイアは寝室へと足を向けた。 今日は土曜日。シフトの都合で珍しく一日オフで、寝室では幼い恋人が眠っている。 穏やかで優しい、今までにこんな日が来るとは思いもしなかった程満ち足りた朝だ。 (そろそろ起きたかな……) 朝、目を覚ますのは大抵スピット・ファイアが先で、葛馬の方が寝起きが悪い。 前日の疲れが残っていると言うのもあるのかもしれないが、それを差し引いても葛馬はあまり寝起きがいい方でないようだった。 樹達と学校に止まる時などはそうでもないらしいが、安心し、リラックスしている時……自宅やスピット・ファイアの部屋では酷く無防備で、幼い顔で眠る。 『……気ィ抜いてるってわけじゃねーんだけど、何かバクスイしちまうんだよな……悪ィ……』 そう言って困ったように頭を掻く仕草が可愛くて、それだけ自分に気を許してくれていると言うことが嬉しくて、抱き締めてキスの雨を降らせたい衝動を堪えるのに苦労した。 一緒に居るとそんなことばかりで、ずっとキスしていても足りないぐらいだと思う。 愛しくてたまらない、何にも変えがたい大切な宝物のような幼い恋人。 出来ることなら好きなだけ眠らせておいてあげたいいと思うが、一応これからの予定と言うものもある。 (今度何にもない日を作りたいなぁ………) デートは勿論楽しいのだが、たまにはそういう日もいい。 そんなことを思いながら寝室への扉を潜ったスピット・ファイアは。 「カズく……」 恋人の眠るベッドに声をかけかけて、やめた。 布団の中から細い腕がにょっきり飛び出したからだ。 (あ、起きたみたい……) 続いていつもスピット・ファイアのお気に入りのさらさらの綺麗な蜂蜜色の髪が少しだけ。 柔らかな猫っ毛がくしゃくしゃになって、ところどころ寝癖で変な方向を向いているのがおかしくて思わず漏れかけた笑いを噛み殺す。 細い腕がごそごそとサイドボードの上で何かを探るように動いて、スピット・ファイアは僅かに首を傾げた。 (……何か探してるのかな……?) あそこに何か置いていただろうか。 携帯は眠りに着く前、リビングに置かれているスポーツバッグのポケットに入れていたような気がする。 「んん……? んー……??」 明らかに何かを探している素振りで、声が声になっていない。 (………ひょっとして……寝ぼけてる?) 足音を立てないように静かに近づいて見ると、葛馬はまだその薄い瞼を閉じていた。 どうやらまだ半分……否、半分以上眠っているらしい。 どこか困ったように眉根が顰められて、その手が。 右手だけでは足りなくなったのか両方であるはずの何かを探している。 (可愛いなぁ………) やがて諦めたのかくたりとその腕が落ちた。 ベッドの脇に腰を下ろして、まだ目を閉じたままの少年の顔を覗き込む。 何か言いた気に、口元がもごもごと動いている。 スピット・ファイアは手を伸ばして、あちこちに跳ねている髪を指で撫で付けてあるべき場所へと戻してやった。 「…………う………?」 「探しているのは目覚まし時計、かな?」 耳元に唇を寄せて囁けば薄い瞼が瞬いて。 その間から細く、鮮やかな空色の瞳が覗いた。 「……と、けい……」 綺麗な綺麗な青がまだ眠そうに煙って、酷く無防備で、幼い。 スピット・ファイアの大好きな表情の一つだ。 「時計は其処にはないよ?」 「………あ……」 数度瞬いて、葛馬ははっとしたように大きな青い瞳を見開いた。 「…………悪ィ、家のつもりでいた」 気恥ずかしそうに頬を染める、その頬にキスを落とせばますます頬に差す赤みが増した。 ある日の、日常。 ― END ―
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これもだいぶ前から半分ぐらい出来ていたのですが……。 最近そんなんばっかです>< |