ぽかりと意識が浮上して、温かい何かにくるまれているのに気付いて葛馬は手の甲で眠い目を擦った。 視界が暗いのはもう夜だからだろうか。 まだ意識がはっきりしなくて、もう少し微睡んでいたくて薄い瞼を瞬かせる。 (俺、何してたんだっけ……) まだ頭が半分寝ているようで中々思い出せない。 ただあったかくて、気持ちよくて、ずっとこうしていたい気分だ。 居心地のいい場所を探してもそもそと身体を動かして、目の前の黒っぽいものを掴んだら頭上からふわりと柔らかな音が落ちてきた。 「……カズ君?」 「んー……」 聞き慣れた、優しい声だ。 包み込むように優しくてあったかくて、名前を呼ばれるだけでふわふわした気分になる。 ―――――― そんな声。 (まだユメ、見てんのかも……) ぼんやりとそんなことを考えながら、葛馬はゆっくりと瞼を伏せた。 「……カズ君?」 すぐ隣で丸くなっていた小さな身体がもぞもぞと動いて、スピット・ファイアは午睡から目を覚ましたらしい彼の顔を覗き込んだ。 「んー……」 僅かに色素の薄い睫が震えて、寝起きの所為で少しぼやけた、煙るような綺麗な青が覗く。 (キレイだなぁ……) 面と向かって告げればきっと照れて顔を真っ赤にしてしまうのだろう、それを想像すると思わず口元に笑みが浮かんだ。 (……あれ) オハヨウ、と其の唇が動くのかと思った。 けれど、予想外に。 それは覗き込んだスピット・ファイアの対照的に鮮やかに赤い瞳の前で伏せられてしまって。 寒いのかもそもそと擦り寄ってくるのを反射的に抱きとめてスピット・ファイアは目を瞬かせた。 (………疲れてたのかな) 並んでラグに寝転がって雑誌を読んでいるうちに何時の間にか静かになってしまった葛馬。 起すのも忍びなくて、寝冷えしないようにと毛布をかけ、自身はそのまま彼の体温を感じながらのんびりと至福の一時を過ごしていたのだがそろそろ陽も落ちてきた。 流石にこのままラグで眠っていたら風邪を引いてしまうし、そろそろ夕食の支度も始めたい。 少し、考えて。 スピット・ファイアはそろりと手を伸ばして彼のまだ子供じみた柔らかなラインを残した頬に触れた。 「………かぁーずーくん」 ふにふに、と指先で頬を突く。 「……うぅ゛?」 眉がぐぐっと内側に寄って、健やかな寝顔が苦悩するそれに変わった。 うにゅうにゅと何事か口を動かしているのが可愛い。 「………食べちゃうぞー?」 「う゛ー……」 柔らかくてふくふくした頬を両手で挟み込み、緩く揉む様にすると、眠りを妨げられることを厭うてか葛馬はハリネズミよろしく自身の頭を胸に抱え込むようにぐるんと丸くなってしまった。 どうやら当分起きるつもりはないらしい。 そう判断して、スピット・ファイアは苦笑いを浮かべた。 「…………しょうがないなぁ……」 葛馬を寝室に運び自身は夕食の支度に取り掛かろうかとも思ったのだが……身体を起そうにも葛馬の両手はしっかりスピット・ファイアの胸元を掴んでいる。 それを外してしまうのは可哀想だし、何より勿体無い。 人並み外れて照れ屋で意地っ張りな恋人は素面の時は中々自分から手を伸ばしてはくれないからだ。 (………たまには、いいよね……) 無防備に擦り寄ってくる身体は温かくて、抱き止めているうちにこちらもだんだん眠気を誘われてきた。 今日はどこか外に食べに行くことにしよう。 そう心に決めて、スピット・ファイアは緩く瞼を伏せた。 (リクエストはグラタンだったから……どこがいいかな……) 宥めるように其の華奢な背中を撫でながら。 スピット・ファイアもまた、ゆっくりと意識を手放していった。 (起きたらカズ君、びっくりするかなぁ……) 丸くなった葛馬を包み込むように、緩く抱き締めながら。 ― END ―
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鬱憤を。ぶつけるようにらぶらぶです。 もっとちゃんとカズ君をカズ君にしたいんですが……これだとちょっと可愛すぎるかなあ…… 男の子男の子(呪文 |