「カーズ君」 「ん?」 何、と振り向いた口元にミニトマトが押し付けられる。 隣でスピット・ファイアが洗っていたサラダ用のミニトマトだ。 両手が塞がっていたから反射的に口でそれを受け取った葛馬だったが、それを咀嚼する暇もなくスピット・ファイアが覆い被さるように口付けてきて目を見開いた。 「!?」 顎を取られて動けないように固定されて舌を差し入れられる。 「んん……っ!!」 視界が塞がれているからレタスのボウルを置くことも出来なくて押しのけようにも手が出ない。 入ってきたものを押し出そうとする葛馬のそれと、されまいと抵抗する男の舌が口の中で押し合いになる。 男は悪戯っぽく笑っていて、それがまたむかついて何か言おうとした途端、圧力に耐えかねたミニトマトがプチュっと小さな音が響かせた。 「……っ!?」 包皮が弾けて口の中にどろりとした中身が溢れる。 びっくりした拍子にがくんと膝が崩れそうになって、何時の間にか腰に回っていた細くて、けれどその癖筋肉質の腕に支えられた。 咄嗟にしがみついてしまったこともあって体重をかける格好になってしまったのだが男はびくともしなくて少し、悔しい。 離れた唇があやすように額に落ちてきて、葛馬は顔を真っ赤に染めた。 「お、お前っ、何考えてっ…!」 「美味しかった?」 手の甲で口元を押さえて抗議の声を上げるも、男は悪びれるでもなくニコニコと微笑んでいる。 「あ、味なんかわかるかっ!!」 「……美味しいと思うんだけどなぁ」 スピット・ファイアはそう言ってひょいとミニトマトを口に運ぶともぐもぐと口を動かし、緩く首を傾げた。 「問題じゃねえだろそこはっ!!」 「あ、サラダ出来たから運んでくれる?」 「……あ、うん」 何事もなかったかのように告げられて、反射的に頷いてしまっていた。 「……………」 サラダボウルを渡すと鼻歌でも歌いださんばかりの様子で鍋に向かう男の背中を見つめて、葛馬は呆れとも苦笑とも付かない曖昧な表情を浮かべた。 ――――― 知り合って二ヶ月、付き合い始めて一ヶ月。 結構色んな顔を見てきたと思うのだが、それでもこの男が何を考えているのかわかるようになるまでにはまだまだ、だいぶ時間がかかりそうだ。 ― END ―
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没からの拾い上げ、ちょいエロ。 |