真っ暗で、仄かに土の匂いがする空間で子犬は目を覚ましました。 (………?) ふかふかして何だか暖かいものに包まれているのがわかって、でもそれが何かわからなくてひくひくと鼻をひくつかせます。 その鼻先をちらちらと何かが擽って、子犬は鼻をむずむずさせてくちゃん、と小さな音を立てました。 「…………」 狼さんは抱き込んでいた子犬が身動くのに気づいて、鼻先を伸ばしてその小さな鼻先に触れました。 子犬は寝惚けているのかもぞもぞと前足を動かし狼さんの鼻を押しやります。 小さな柔らかい肉球の感触に狼さんは顔が緩ませました。 「……ふ……!?」 笑う気配に目を瞬かせた子犬は、大きな生き物の気配に気づいて顔を上げ……それが先ほどの狼さんだと気づくと慌てて逃げ出して、けれどどこにも逃げるとことなんかないことに気づいて愕然としました。 そこは暗い穴の中の、狼さんの巣穴の中だったのです。 「…………」 もうどうしたらいいのかわからなくて、子犬さんは息をすることさえ忘れてしまいました。 ………狼さんがのそりと身体を起こします。 「!?」 どさり、と目の前に置かれたものに子犬はびくっと身体を硬直させて壁際にお尻を押し付けるところまでいっぱいいっぱい後退さりました。 それ以上もう下がれないところまで行って、目を瞬かせます。 無造作に投げ出されたものは子犬と同じぐらいの大きさの丸々太った兎でした。 「…………」 死んでいるのか、ぴくりとも動きません。 一緒に食べられてしまうのかと思ってぎゅっと目を瞑ったのですが……いつまで経っても予想していた衝撃は来ませんでした。 それどころかぺろりと予想外に優しい動きで顔を舐められて、恐る恐る目を開けた子犬の顔を狼さんの大きな顔が覗き込んで来ていました。 その迫力に子犬はまたくらりと気を失ってしまいそうになったのですが、よろめいたところを狼さんが鼻面でを支えてくれます。 きょとんとした表情を浮かべる子犬がちゃんと一人で立ったのを確認して狼さんは顔を引きました。 それから食べろと言うように兎が押しやってきて………子犬はほっとすると同時に途方にくれてしまいました。 ………それまでカリカリや缶詰のご飯しか食べたことがなかったからです。 目の前に置かれた兎はあまりにも大きくて、生きた兎そのままの姿で、本能的にそれが食べ物だと言うことはわかってもどうしたらいいのかわからなかったのです。 「……?」 動かない子犬を見守っていた狼さんは、やがてそのことに気づいてひょいと身を屈めると食べやすいように兎の足を噛み千切ってやりました。 「!!」 とさっと生々しい色を曝したものが目の前に置かれて、子犬はびくっと身体を竦めて、けれど空腹に耐えかねて恐る恐るそれに鼻先を近づけました。 確かめるようにくんくんと鼻を鳴らして、美味しそうな匂いに目を瞬かせます。 「…………」 それから兎の足を前足で押さえ付けて、ぎゅっと目を瞑って齧り付きました。 お腹の空っぽだった子犬は後はもう夢中で、ガツガツと音を立ててそれを貪りました。 時間をかけて兎の足を片付けた子犬は、食べ過ぎてまあるくなったお腹を上にしてころんと転がりました。 狼さんは満足気な表情の子犬の顔の周りをぺろぺろ舐めて綺麗にしてやります。 子犬はお腹がいっぱいになった所為かどこか眠そうな表情で、擽ったそうにもたもたと短い前足で狼さんの鼻先を押しやろうとして、拙いその動きが可愛くて狼さんは嬉しそうに目を細めました。 こうして狼さんは迷子の小さな子犬さんの面倒を見ることになったのです。 ― END ―
|
白い狼さんと薄茶の子犬のお話その2です。 後2回分ぐらい考えてあったり。 |