何時ものようにソファでごろころしていたら、ぽんと掌が頭に乗った。 隣に座ったスピット・ファイアは軽く足を組み、膝に乗せた雑誌のページを繰っていたのだが……何を思ったのか、唐突で。 けれどあまりに自然で、柔らかい……小さな子供にするかのような手付きで、葛馬は僅かに眉を潜めた。 「……お前さぁ…それ、どうにかなんね?」 「それって?」 どこかきょとんとした表情が向けられて、ムッとする。 無意識なあたりが、始末が悪い。 「子供扱いすんなっつってんの!」 「………しなくていいのかい?」 「ったりめー……!」 どさっと、何か重いものが落ちる音が聞こえた。 あまりに突然すぎて、それが自分がソファに沈んだ音だと気付くのに長い時間を要した。 「なっ……」 視界が一転して天井が映った、そう思ったらすぐ目の前にスピット・ファイアの端正に整った顔立ちが迫っていた。 次の瞬間、噛み付くように強引に口付けられて葛馬は驚きに目を見開いた。 「んんッ!?」 咄嗟に唇を閉じようとするも、男の舌が入り込んでくる方が速い。 歯列を辿り、上顎から舌の付け根へ、何が起こっているのかわからないまま震えている舌を絡め取られ、きつく吸い上げられて痛いぐらいの刺激に眉を寄せる。 腕を突っ張って逃げ出そうとするも、気が付くと何時の間にか覆い被さってきていた男はがっちり葛馬の下肢に跨り、逃げられないようその長い腕を細い腰に回していた。 (……ギャー!!) 内心パニックに陥るも、吐息は全て奪われて悲鳴を上げる隙もない。 「……むぐっ……んっ、ッ……」 開いた唇から流し込まれた唾液を嚥下させられて、息苦しいやらわけがわからないやらで自然と涙が滲んだ。 結構深いキスだって、何度かしたことはあるけど全然違う。 いつもの余裕たっぷりのキスとは正反対の、腹を空かせた狼みたいに、強烈なキスで。 「………はっ……けほっ、ごほっ…急に、何すッ……」 ようやく解放される頃には息も絶え絶えで酸素を求めて大きく肩を喘がせる羽目に陥っていた。 「……大人扱い」 低い、どこか艶めいた声が響く。 「………は?」 「もっとしてあげようか?」 何を言われたのかわからず涙目で目を瞬かせる葛馬に、スピット・ファイアは一瞬前までのどこか凶悪なまでの雰囲気をきれいさっぱり払拭した穏やかな笑みを向けた。 (……………大人扱い) 「……僕も結構、我慢してるんだけどね?」 頭の中で反芻して、続く台詞に葛馬はかっと頬を染めた。 (………ワザとか!) 遊ばれた、と思うと同時に、男の言葉が結構真実なのではないかと、思う。 (…………我慢、は言いすぎにしても) かなり、手加減をされているのではないだろうか。 性格もあるのだろうけれど、やろうと思ったら簡単なのだ。 「………子供扱いでいいデス」 「……よろしい」 ちゅ、と額に触れるだけのキスが落ちて、葛馬はほぅと息を吐いた。 …………まだまだ、先は長いかもしれない。 ― END ―
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またもや没を掬ってみました。スノードロップ2の7話目…に使おうかと思っていたものを加筆修正。 最初はギャグっぽい予定だったようです(笑)。 |