「君には俺の、炎の玉璽レガリアを貰って欲しいんだ……」

 燃えるような炎を纏うのに、彼のイメージカラーは青だ。
(意外と華奢なんだな……)
 映像で見た時はカメラが遠い所為だと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
 背は自分より少し高いがすらりと伸びた手足は逞しいと言うよりはしなやかでほっそりとして、ひょろりと頼りなさ気な印象でさえある。
(そのクセ、彼は誰よりも早く走る……)
 今目の前にいるのはトロパイオンの塔を攻略した伝説のチーム、子烏丸の副リーダーにして、チームが解散して数年が経った今も尚、現役の炎の王として君臨する男……美鞍葛馬。
 ―――― 僕の目指す道の先に、いる男、だ。
「受け取ってくれるかな?」
「……何故僕、なんですか?」
「ん〜、言葉にすると難しんだけど……オマエ、AT好きだろ? だから、かな」
「………は?」
 初めて目の前に降り立った瞬間の、全てのスピード系ライダーの頂点に君臨する王の顔はいつの間にか也を潜めて、どこか人好きする無邪気とも言える表情で、彼は笑った。
「オマエ、クールな面してっけど実は結構そうでもないだろ? 顔に出すのが下手なだけで、ホントはATが好きで好きでたまらなくて、走ることが好きで好きでたまらないんだよな」
 嬉しそうに、擽ったそうに、遠い何かを思い出すように目を細める仕草が妙に幼い。
「…………」
「毎晩毎晩こっそり公園で練習してる努力家だってのも知ってっし、実力もまぁその年にしちゃ充分だと思うし。何より俺の玉璽レガリアは誰よりもATを好きなやつに貰って欲しいから、オマエにした」
 愛しむように自身の足元を飾る玉璽レガリアに視線を落とす、伏せられた瞼を彩る淡い睫が男にしては長くて綺麗だった。
 その向こう側に透ける瞳は『僕達の目指す場所』そらと同じ色をしている。
「……それじゃ理由になんね?」
「…………」
 瞼を伏せ、彼の言葉を頭の中で反芻する。
 ―――――― 答えは、決まっていた。
「………とりあえず、お断りします」
「そうか、じゃあ早速聞いてもらいたい話が……ってえぇ!? お、オマエ今なんて……!」
 瞼を伏せた男が顔を上げて、だが次の瞬間信じられないと言うように言葉を切る。
「お断りします、と言ったんです」
 重ねて、スピット・ファイアはニコリと微笑んで見せた。


「何考えてんだあのガキャァ!!」
「炎の王の後継者候補君にフラレたんだって?」
 どん、とビールのグラスと湯気を立てるどんぶりが目の前に置かれ、葛馬は苦虫を噛み潰したような表情でそれに手を伸ばした。
「別にフラれたわけじゃねぇよ」
 ぐっと一気にグラスを呷り、吐き捨てる。
「とりあえず保留にしてくれって言われただけだ」
「似たようなもんだろ」
 ガハハハと笑って、かつてのチームメイトであるオニギリはラーメンのどんぶりにチャーシューを数枚追加してくれた。
 どうやら慰めのつもりらしい。
 彼は中学を卒業してすぐ父親の後を継ぐ道を選んだ。
 今では珍妙なメニューが人気を博しマニアに人気の店になっている……葛馬が頼んだのはノーマルなチャーシューメンだったが。
 イッキは所謂鳶、ブッチャは寺の住職見習い、葛馬は小さなパーツショップを経営している。
 経営、と言ってもガレージを借りて始めた小さな店で従業員は自分とかつてのチームメイトの安達エミリの二人きりと言う有様なのだが、炎の王直々のアドバイスが聞けるとあってそれなりに繁盛している。
 それぞれの道を歩み始めて、でも葛馬は他のメンバーと違ってなかなかATを脱ぐことが出来なかった。
 何年もかけてやっと、全てを託してもいいと思える相手を見つけたと思ったのに。
「ホントに何なんだよあのガキ〜……」
 ………まさか、断られるとは思わなかった。
 玉璽レガリアを欲しがらないライダーなんて聞いたことがない。
「ホレ、早く食わねえとのびんぞ」
「って! 何すんだッ!!」
 がっくりとカウンターに突っ伏した葛馬の頭に、平たいお盆が乗った。


「で、断ったんかい」
「うん。初対面でイキナリ言われてもね」
 ちぅぅ、とブリックパックのいちごミルクをストローで吸い上げて、スピット・ファイアは膝に広げた分厚い漫画雑誌のページを捲った。
 キラキラの王子様やふわふわのオンナノコ達の恋愛模様の交錯する、砂糖菓子のような少女マンガだ。
 その現実味リアリティの無さだとか、バカバカしさが結構気に入っていたりする。
「まぁいつかは自分で取りに行くつもりだしね」
「わいならくれる言うモンはもらっとくけどなー」
 キャスターつきの椅子をくるくる回して、空が詰まらなそうに鼻を鳴らして流れて行く。
「んー……まぁそれはそうなんだけど……」
 確かに手っ取り早いと言えば手っ取り早い、のだが。
「スピ君ー、机に足乗せちゃ駄目なんだゾ!」
 二人の間にシムカが潜り込んできて会話は途切れた。
 小さな妹分が机に投げ出したスピット・ファイアの足の上に上半身を投げ出してきたのだ。
 上に乗られては下ろしようも無くて苦笑いを浮かべるしかない。
 長いピンク色の髪に手を入れて少し乱暴に撫でてやればきゃーと小さな歓声が上がる……どうやら遊んで欲しいだけらしい。
「……玉璽レガリアも欲しいけど、もっと欲しいもの出来ちゃったんだよねぇ……」
「ふーん、スピ君が欲しいって珍しい。なになに、なぁにそれ?」
 ぽつりと呟く音を拾って、彼女は大きな瞳をますます大きく丸くして小さく首を傾げる。
「……まだ内緒、だよ」
「えぇ〜、知りたい知りたいー!」
 唇に指を当てて内緒のポーズを取るがオンナノコは知りたがりだ。
 じたばたと手足を動かして暴れ始める。
「なーいしょ」
「しーりーたーいー!」
「なんや、隠し事かいな。ワイにも教えぇや」
 駄々を捏ねるシムカの声に興味を引かれたのか派手な音を立ててまたくるくると空が戻ってきて。
「手に入れたら教えてあげるよ」
 だがスピット・ファイアはやんわり微笑んで、結局それ以上何も語らなかった。

― END ―


 やっちゃいました、お約束した逆転ネタ納品でーす(笑)。
 なんか続きそうですね…ええ、やるならじっくりやりたいネタです。でもその前にやらなきゃいけないネタとか原稿とか…なかなか手が回りません。時間が欲しい…orz。
 とりあえず発案者の秋生様&いわつきさんに捧げます。よろしければお持ちください(笑)。
2007.09.20

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