一瞬震えた身体が硬直して、身体の奥に薄いラテックス越しのじんわりとした熱が伝わる。 肘を折ってすぐ耳元のシーツに額を押し付けた男が小さく息を吐いて。 その微かな空気の震えにさえ甘さを感じて、まだ熾火のようなを余韻を残す身体がぞくりと震えた。 「……は、ぁ……」 いつもより尚温かい、否熱い身体の重みの心地良さに、溜息が漏れる。 繋がったままのカラダの、しっかりとした重みをはっきりと感じ取れるのに。 気怠い身体はまるで自分にものじゃないみたいに、浮いてるみたいにふわふわしてる。 「………っ、ごめん、重いね」 一瞬の間を置いて男が慌てたように上半身を起こして、綺麗な夕焼け色の瞳で心配そうに覗き込んでくるのに苦笑めいた笑みが漏れた。 「……んなに、ヤワじゃねーよ」 投げ出されたままだった腕を上げて男の首に絡ませれば、汗ばんだ互いの肌がしっとりと吸い付いて。 少し気恥ずかしかったけど、まるでそうすることが当たり前みたいに気持ち良い。 「ありがとう……」 耳元にどこか陶然とした、低く穏やかな声が落ちて。 その音はとても心地よかったのだけれど、その物言いにはちょっとカチンと来て葛馬は僅かに眉を顰めた。 「……じゃ、ねーだろ?」 「え? ……ちょ、痛ッ!」 首に絡めたままの腕で、後ろ髪をきつく引っ張ってやれば小さな悲鳴が上がってちょっと満足だ。 普段勝てない相手だから妙に嬉しくて、身体だけじゃなくて気持ちまでふわふわしてくる。 「…………バカなこと、ゆーからだ。バーカ」 気持ち良くて、とろりと眠たくて、気怠くて……抗い難いこの感覚に身を任せてしまいたい。 「僕、何かおかしなこと言った? ……って、こーら、寝ちゃ駄目だよ、シャワー浴びるんでしょ?」 「んー……」 瞼が重くて開けてられなくて、スピット・ファイアの声が妙に遠く感じる。 (カラダは、ちけーのに……) 抱き直されて、肩の上に顎を乗せるような形で身体を引き起こされてももう抵抗する気も起きなくて、すとんと瞼が落ちた。 (あ、ヤベ、本気で寝そ……) 汗かいたし、べたべたするし、シャワーを浴びたい。 ふかふかのバスローブに包まってから寝た方が絶対気持ち良いし、明日の朝が楽だってのもわかってる。 でもやっぱり。 ―――― 眠いものは眠いのだ。 「ちょ、ほら、カーズくんってば」 引き起こした身体を揺らして、瞼を空けるよう促すが、殆ど眠ってしまっているようで反応が鈍い。 時折うっすらと開く青い瞳が眠そうに蕩けた色を浮かべていて………実を言うとスピット・ファイアは、その表情が凄く、好きだった。 (………なんか凄く、信頼されてる、って気がするんだよねぇ……) 「んー……ん……」 寝惚けているのかむぐむぐと肩口に伏せた口元が動いているのが擽ったい。 葛馬がこんな風に無防備な表情をするのは、子供染みた甘えた態度を取るのは、家族以外ではスピット・ファイアの前でだけで。 それも眠くて仕方がない時だったり、酷く疲れている時だったり、警戒心が強くて遠慮がちな彼のガードが弛んでいる時だけで滅多にないことだとわかっているから、嬉しくて口元が弛んでしまうのが抑えられない。 ……多分彼がちゃんと起きていたらきっと怒られてしまっていると思う。 (照れ隠し、もあるんだろうけど……) 幼い恋人はとにかく恥ずかしがり屋で、甘えるのが苦手で、意地っ張りだ。 恥ずかしいことをするなとか、言うなとか、しょっちゅう怒られてしまうのだが、本気で嫌がっているわけではないと知っているから彼に対する態度を変えつもりはないのだけれど。 「……かぁーずくん?」 真っ赤になって、けれどスピット・ファイアの腕を受け入れて、嬉しそうな顔になってしまいそうになるのを一生懸命我慢している顔だとか。 外方を向いたまま手だけが遠慮がちに伸ばされて、袖を掴む仕草だとか。 (…………こんなこと、言ったら笑われるかな……) ―――― 葛馬の全てが可愛くて、愛しくて仕方がない。 左は鼻で笑うだろうし、鵺は呆れるだろう。 ヨシツネは腹を抱えて笑うだろうし、ベンケイは苦笑を浮かべるのだと思う。 (シムカはちょっと、わかってくれるかなぁ……) ふわりと口元を緩めて、スピット・ファイアはだんだん温かく重たくなってきた葛馬の身体を抱き上げた。 「……よいしょっと」 スピット・ファイアにとっては今も細くて小さな身体は、それでも初めて会った時より随分背が伸びて。 毎日の練習の賜物だろう、脂肪はおろか筋肉さえなくてどこかしこも薄かったのがうっすらと綺麗な筋肉に覆われて幾らか重くなった。 そんな変化さえ嬉しくて、誰かに自慢したい気分になってしまう。 (シムカになら許してもらえるかなぁ……) スピット・ファイアが今まで演じてきた幾つもの艶やかな恋物語を知る妹分は、きっとス彼の初めての拙い恋を応援してくれるだろう。 自分でも驚くぐらい不器用に。 本当に大切に、抱き締めている細い身体が身動く。 無意識に温もりを求めて擦り寄ってくるそのどこか幼い仕草が愛しくて、スピット・ファイアは白い額に触れるだけのキス落とした。 「…………後で怒られちゃうかもね」 怒られてしまうと言う割には嬉しそうな口調で呟いて、ベッドを降りる。 翌朝目を覚ました葛馬は、風呂に入れられてしまったことを知ってきっと真っ赤になって怒るのだろう。 でもそれも何だか楽しそうだと思ってしまう辺り、自分も相当駄目な大人かもしれないと思った。 ― END ―
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「赤(18禁)かな、青(15禁)かな?」と言ったら「最初の二行で真っ赤っ赤だ」と言われました(笑)。 散々悩んだのですが一応終わってる(爆)ので15禁で。 ふっと思いついて書き出したネタです。うちのスピは事後にいちゃいちゃするのが好きそうです……(笑)。 |