「……とりあえずこれ、着てて」 そう言ってスピット・ファイアは無事だったらしいトランクス一枚の格好でソファでタオルでがしがしと頭を拭いている葛馬に寝巻きの上だけを投げた。 ちなみに水洗いをした他の衣服は洗濯機で改めて回され中だ。 「サンキュ」 あらかた水気を拭きとってタオルを肩にかけた少年は何の疑問も持たない、無邪気とも言える仕草でそれを受け取ってニコと笑った。 「……………」 そんな無防備な表情を見せてくれるようになったのは極最近になってからだ。 始めの頃は普段イキがって見せている癖に1対1で話すとどこか遠慮がちな、育ちの良さを感じさせる控え目なところがあって中々素の表情を見せてくれなかった。 自分自身への自信の無さも影響していたのだろう、一回りも年上で炎の王でもあるスピット・ファイアと話す時はいつもどこか緊張の色を滲ませて身構えていて……それさえも彼の生真面目で真っ直ぐな気質を表している様で好ましかった。 けれどそれが解けて行く様もまた、愛おしくて。 少しづつ、距離が縮まって。 少しづつ、笑うようになって。 少しづつ、少しづつ……些細な、けれど嬉しい変化を幾つも積み重ねて今の彼がある。 葛馬は慣れた仕草で受取った二回り近くも大きな寝巻きを羽織り、ボタンを留めて袖先を折ってゆく……袖が長いのと、余る肩部分が落ちるのとが相俟ってそうしなければ袖口から手が出ないのだ。 「……下は?」 左右共にちょうどいい長さに調節したところで、一向に下が投げられないのを疑問に思ったのか彼はそう言って小さく首を傾げた。 「僕が使うからダーメ。ちなみにもう一着は洗濯中です」 「……え?」 そう言うと一瞬きょとんとした表情を浮かべた葛馬は、それからぱっと顔を紅くして噛み付いてきた。 「………ウソだ! わざとだろ、つーかやっぱ怒ってっだろ!!」 怒られるようなことをした、と言う自覚はあるらしい。 けれど何か勘違いしていそうなどこか拗ねた様子で、それに気付いたスピット・ファイアはワザと彼に聞こえるよう大きな溜息を落とした。 「怒ってますよ。でもカズ君がキッチン汚したことに怒ってるわけじゃないからね?」 「え、じゃあなんで……」 案の定、勘違いをしているらしい。 葛馬は訳がわからないといった様子で眉を顰めている。 スピット・ファイアがどれだけ自分を大切に思っているか、自分を過小評価しがちな彼は何時まで経っても気付かないのだ。 「……僕は、カズ君が僕を呼ばなかったことを怒ってるんだからね?」 「ぇ……」 歩み寄り、ソファの前で軽く上体を落として相手の顔を覗き込む。 「危ないことをして、心配させたことを怒ってるんだよ?」 わかる?と重ねればぐっと小さくうめく音が聞こえた。 ……尤もそれだけ、と言うわけでもない。 何かオシオキをしておこうかと思ったのも本当だが、ちょうど寝巻きが洗濯中だったりだとか、彼のそんな格好見てみたいと思ったりだとか、幾つかの事象と思惑が重なって。 だがその中でも最も大きかったのは幾ら無防備で鈍感な葛馬でもそんな格好をさせられれば流石に少しは警戒心が芽生えるのではないか、と思ったからだった。 (………やべー、スッゲー怒ってる……) ニッコリと綺麗に微笑んでいる男が覗き込んできているのに、蛇に睨まれた蛙気分で葛馬は内心だらだらと冷や汗を流していた。 「大体それで充分隠れるし僕のズボン履いたって落ちてきちゃうでしょ」 「なっ!!」 ニッとどこか悪戯っぽく笑う男にかぁっと頬が赤くなった。 確かに元々たっぷりとした長めの寝巻きの上着はそれだけで葛馬の腿の中程まであるし、スピット・ファイアのズボンを履いても落ちてくる。 以前に寝巻きを借りた時は脱げないように引っ張り上げながら移動して笑われた。 ―――― けれど。 けれど葛馬にだって男の矜持と言うものがあるのだ。 「そ、そう言う言い方はないだろっ!!」 甲高い声が虚しく辺りに響き渡った。 始めは足がスース―するし、裾がちらちらするしで気になったのだが、だんだん気にならなくなってきた。 よくよく考えれば男同士だし下着も履いてるワケだし、びくびくすることでもないかもしれない。 結局夕食は葛馬が着替えてる間にスピット・ファイアが作った。 葛馬が切った野菜は生クリームではなくコンソメを使った具だくさんスープになり、チキンのサラダとベーコンとチーズのリゾットと共に胃袋に収まった。 せめて片付けぐらいは俺がやると駄々を捏ねた葛馬は洗いものの真っ最中……なのだが、背後から向けられる視線が痛かった。 また何かしでかすのではないかと思われているようだ。 (……心配してくれてんだろうけど……カホゴなんだよな、カホゴ!! もう無理はしないっつってんのに……) とは思うものの前科があるだけに文句も言えない。 「…………」 洗いものを終えた手を振って水滴を払っている葛馬を、スピット・ファイアは無言で見守っていた。 (………警戒心がないにも程があるよね……) 始めのうちは少し恥ずかしそうにしていたものの、すぐに慣れてしまったようで平然と歩き回っている様子に深い溜息が漏れる。 彼が歩き回るたびに裾がちらちらと揺れて、白い太股が見え隠れするのが扇情的だ。 下着は綺麗に隠れてしまっているのでまるで履いていないようにも見える。 (……僕の方が辛いなー……これだと) 片づけを終えた葛馬は食後のデザートにと買っておいたナッツカフェのパルフェを……少しでも葛馬の体重を増やそうと最近色々買い置いている……片手にリビングへやってくると、無造作にスピット・ファイアの正面に腰を下ろして胡座をかき、スプーンでそれを口に運び始めた。 エスプレッソとキャラメルソースがほんのり香る。 「……っ……カズ君……」 スピット・ファイアは思わず掌で口元を覆ってしまっていた。 ソファの上で足を組んでいる所為で、白い素足がかなり際どいところまで露わになっている。 「………ん? 何? 食う?」 きょとんと大きな青い瞳が向けられてくるのが恨めしい。 (……やっぱりもうちょっと育ってくれないと身が持たないなぁ……) ふぅ、と一つ溜息を落とし、スピット・ファイアは片手を上げて葛馬を差し招いた。 「ん」 何の警戒心も持たずに近づいてきた少年の細い手首を掴んで、引き寄せる。 全く予期していなかったのだろう、葛馬は引かれるままにスピット・ファイアの上に倒れ込んできた。 「……えっ!?」 途中でくるりと身体を反転させてソファに座る自身の膝の上へ、自分の身体に凭れ掛けさせる様に座らせて、ついでに膝に膝をひっかけて足を閉じられないようにする。 ………その間ものの、数秒。 大きく開いた所為で裾が捲れ上がって白い太股とブルーの縦縞のトランクスが覗くのに葛馬が息を呑む気配がした。 「……なっ!!」 今更慌てたように身体を起こそうとするが、この格好から自力で起き上がるのは無理だろう。 それを承知でスピット・ファイアはいかにも薄く筋張って、けれど同時に白く柔らかそうな内股に手を伸ばした。 ふにふにとした子供っぽい皮膚の感触を楽しむように指を滑らせる。 「ぎゃっ! ちょっ、何ッ!?」 「……恋人と二人きりでそういうカッコでいることの意味がわかってるのかなと思って」 「コっ……お、オマエが着せたんだろっ!」 じばたばと上で暴れるのに落ちないように片手を腰に回して支える。 「……うん、だからね。僕にも多少なりとも下心があるとは思わないかい?」 すっと内腿を撫でていた手を足の付け根のギリギリの部分に移動させればびくっと小さな身体が跳ねて、スプーンが転がり落ちる音が響いた。 「やっ、ちょっ……アイス落ちッ……」 「………そこかい」 「……ッ!!」 すぐ目の前にある項に唇を寄せて小さく音を立てて吸い上げる。 白い皮膚に小さく、赤い花びらのような痕が散った。 「ちょっ、ホント、待てっ……っ!」 くいと顎を引き寄せられて半分後ろを向かされて、抗議の声が重なった唇の中に吸い込まれる。 甘く優しい、けれど少し強引で熱っぽい、そういうキスにも少し慣れて、反射的に口を開けてしまっていた。 (……しまっ……) 嬉しそうに笑う気配がしてキスが深くなる。 段々気持ちよくなってしまってふっと目を閉じた瞬間、下着のゴムを掻い潜って入り込んできた大きな手が直接急所を握り込んできて葛馬は息を詰めた。 「ッ、ま、待ってッ……っ!」 「イヤです。カズ君には遠回しに言っても伝わらないみたいだからね」 「………ぅッ、あっ……」 形のいい長い指が柔らかく絡み付いてくる。 思わず手を伸ばしてその手を引き剥がそうとしたけれど、片手で簡単に両手首を纏めて掴まれてしまった。 (…………大きさ、全然違うでやんの) 今更だけどそう思って、恥ずかしいやら悔しいやらで顔が赤くなる。 「ん、もっ………スピッ……!」 もがいていたらそれを押し留めるように先端を強く弄られてびくりと腰が跳ねた。 とろりと其処から熱が溢れるのがわかって一層顔が赤くなる。 ………恥ずかしくて涙が出そうだ。 ぞくぞくと背中に寒気にも似た感覚が走って、腰の辺りに重い熱が蟠って行くのがわかった。 「……っは……」 誘われるままに簡単に熱を持ってしまったのが悔しくて、でも同じぐらい気持ちよくて、逃げ出したいのかそうじゃないのか、段々わからなくなってきて、葛馬は子供のようにギュッと目を瞑った。 「………気持ちいい?」 「……ッ、き、くなバカっ……!」 瞼が伏せられて、ほんの少し体が重くなったのを感じて問い掛ければ上擦った声が返る。 そっと手首を放すと縋るものを求めるように細い指がしがみついてきて、スピット・ファイアは口元に密やかな笑みを刻んだ。 「……も、放せぇ……」 限界が近いのか内腿が小さく痙攣している。 けれどそれを一生懸命堪えている様が可愛かった。 「………いいよ、このまま出しちゃって」 耳元に低く囁けば、いやだと言う様にぷるぷると小さく頭が振られる。 (………素直じゃないなぁ……) その態度とは裏腹に葛馬の自身は当の昔に張り詰めきって堪えず先走りを溢れさせていて、スピット・ファイアが指を動かすたびにくちゅくちゅと小さく濡れた音を響かせていた。 「……ッ……ふ……」 口を開いたら変な声が漏れそうで、葛馬は慌てて自由になった手で口元を押えた。 (………ヤバイヤバイヤバイ……) 頭の中にぐるぐると回っているのはもうその単語だけだ。 スピット・ファイアにされるのは自分でするのとは全然違っていて、違いすぎて訳がわからなくなる。 「やっ……もッ……!」 我慢できない、そう思った次の瞬間にはスピット・ファイアの手と下着を濡らして放ってしまっていた。 「……バカ、スケベ、変態ッ!!」 しばらくくったりとしなだれかかっていたと思ったら、回復するなり上がったのはそんな罵声だった。 「………カズ君……」 色気がないを通り越して何だか悲しくなってくる台詞にスピット・ファイアはがっくりと肩を落とす。 相手が幼いことはわかっているが、それでもせめてもう少しだけ、甘い雰囲気を期待しても罰は当たらないのではないだろうかと思う。 「…………これじゃ帰れねぇじゃんかよー!!」 その思いとは裏腹に、部屋中に葛馬の情けない悲鳴が響き渡っていた。 ― BACK/END ―
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何故か続いちゃいました…(笑)。時期的には連載2/8以降ぐらいのイメージで…まだ未遂です(ぇ。 きっとこの後スピはコンビニにぱんつを買いに行かされるのでしょう(笑)。 頑張れスピット・ファイア!! ひかるげんじ計画だ! |