てのひらを、たいように
2003年2月8日作成
最終更新日 2003年8月17日

てのひらを、編
永久エンド  穂エンド  美花エンド  永久トゥルーエンド
【一通り終えて】

『きっかけ』

 ここ最近の作品ではかなりシナリオの評判がいいこともあって、取りも直さずやってみることにした。

『不思議な感じ(序盤から中盤について)』

 暗く塞ぎ込む春野明生に明るく話しかける夏森永久の無邪気さ、そして明生とその仲間達(永久、佐倉穂、吉野美花)のことを目の敵にする蓮見まりあ及び、○○による執拗なまでの憎しみ、これらの感情はどうして引き起こされたのかを考えるととても不思議な感じがする。
 不思議といえば、明生だけでなく幼なじみの佐倉穂と吉野美花も小さい頃の約束は朧気に覚えているのに永久のことだけ忘れていたというのも変な話だ。3人とも途中で永久のことは思い出すのだが、それで全てではないということに何かすっきりしないもどかしさを感じた。
 なんだか「不思議、不思議」と連呼してばかりなんだけど、ここまでの印象を一言で表すとなると、やはりこの言葉が一番しっくりくるような気がする。



てのひらを、編

永久エンド

『共通シナリオについて』

 心を閉ざしていた明生、穂、美花が永久の影響で徐々に生気を取り戻すにつれて、ちょっとしたふざけ合いのような掛け合いが見られるようになることで、面白味はさらに加速していった。互いを信頼しているから思ったことを言い合える。そういう雰囲気を感じさせるクロストークが実に楽しい。それに、天然永久によって引き起こされる楽しいイベントにかこつけて悪質な事件を絡ませるという手法にも唸らされた。それまでに張り巡らされた伏線をちらつかせながら、徐々に真相が明らかになるという理想的な展開にいつしかのめり込んでいた。

「悪の必要性」

 作中、絶対に許せないと思う嫌な連中が登場するが、奴等と闘いを挑むことで4人(明生、永久、穂、美花)の友情が深まることを考えると、悪の存在も必要なのかもしれない。
 特に、穂の危機を3人(明生、永久、美花)である程度解決した記念にティーハウス「ハーベスト」で祝ってる時のやり取りは最高に可笑しかった。実は良い奴なんだよと3人がからかった時に嬉しいのを誤魔化すようにして怒る穂を見ていると「困難を乗り越えたことで深まる友情もいいよな」なんて感慨に耽ってしまった。

「○○の歪んだ精神」

 狂気じみた○○の演技を目の当たりにすると、高慢ちきなまりあでさえまともに思えてしまう。それくらい○○の精神は多分に歪んでいた。演技といえば、物語のクライマックスで○○が手紙を読むしゃべり方もある意味凄みがあった。確かに、○○の気色悪いしゃべり方には腸の煮えくり返る思いをするかもしれない。しかし、読んでいる人間が抱える苦悩を考えながら聞いているといろいろと考えさせられる。それに、少し間を置いて読み手が代わってから受ける感動というものもより効果的なものになるような気もしている。

「結末について」

 主立った問題は粗方片づいたかと思いきや、何やら含みを持たせる意味深な結末だった。しかし、考えてみれば残された問題について何一つ解決してないし、そのことで永久はいろいろと思い悩んだに違いない。彼女は一体どんな気持ちであの結論に辿り着いたのだろうか。まりあが明生達を憎む理由も含めて、非常に気になるところだ。
 それにしてもいい話だった。たとえ目を背けたくなるようなことがあっても、子供のような純真な気持ちで立ち向かおうと頑張るところは、昔読んでいた「少年ジャンプ」のテーマ「努力、友情、勝利」を彷彿させる。どんな困難に直面しても信じていれば必ず報われる、そんな子供心をくすぐる心地良さをこのシナリオで思い出させてもらった。



穂エンド

『佐倉穂』

 永久エンドと共有するシナリオが多かったものの、明生を意識するようになってからの穂の可愛らしさといったらなかった。普段は意地っ張りで素直でない性格ばかり見ていたからだろうか、要領を得ないたどたどしい口調でデートに誘おうと恥ずかしさを堪えながら話す彼女のいじらしさが妙に新鮮で可愛いらしかった。それと、コーヒーショップに潜入調査するための変装としていつものツインテールからストレートにした時の髪型も結構良さげな感じだった。
 いずれにせよ、今までの穂のイメージとのギャップを感じさせることで新たな魅力を生み出すことには成功していると思う。

『佐倉穂波』

 穂も充分可愛らしさかったのだけど、彼女の母穂波さんはそれを上回る素敵な女性だった。どう見ても穂のような子供がいるとは思えない若々しい容貌もさることながら、裏表のない性格で明生達を躾けている姿は理想の母親そのものと言える。自分の母親がこんなにも若くて綺麗で、その上誠実な性格だったら、きっと甘えたり我が儘言ったり期待に応えようと頑張ったりしたに違いない。そう思わせてしまうほど、穂波さんの母親っぷりは完全無欠だった。



美花エンド

『吉野美花』

 我が儘で素直になれないどうしようもないのは確かにその通りなんだけど、誰よりも花のことを考えているところを見ると根はいい奴なんだなと思う。そういうことを知ってからは、しょっちゅう頬を膨らませてぶうたれても可愛らしいと思えてしまうから不思議だ。
 ただ、穂と同じくシナリオは永久エンドと共通で、しかも、穂以上におまけで付け足しただけな印象が強かったのは残念でならない。美花も他のヒロインに負けないくらいの魅力があっただけに、もう少しなんとかしてほしかったように思う。



永久トゥルーエンド

 事実上共通シナリオを都合4回も見なければならないというのはどうかと思う。これでスキップが快適な速度だったらよかったのだが、ないよりはましという程度の代物なので、正直4度目の時は勘弁してほしいと思った。(補足)スキップの速度は要求する推奨スペックを上回ってないと駄目なようで、事実新しいパソコン(CPU1.6GHz)では十分な速さで読み飛ばせていた。
 長年続いていた因縁がご都合主義的に解決されてはいるものの、純粋な気持ちを持ち続けていればいつかいいことが起こるはずだ、という発想は嫌いではない。それに、敵対する側の立場、事情を察すると気持ち判らないでもない部分があるだけに、いろいろと考えさせられたことも多分にあった。

『立場によって形を変えてしまう正義』

 話の中心になっている永久に関する謎が明かされていくつれて、昔の習わしに縛られた人間のエゴが垣間見えた時は嫌悪感を抱いたものの、この町の歴史を考えると必ずしも明生達の主張だけが正しいとは限らないのでは、と思うようになった。アニメ『機動戦艦ナデシコ』であるお方は「人の数だけ正義があった……」と言っていたが、この作品でもそのことがまんま当てはまる。どちらが正しいとか間違いではなく、置かれた立場によって正義というものは、いくらでも形を変えてしまうことに改めて痛感させられた。
 何があろうとも永久のことを守るんだという明生達の気持ちは当然で、自分もそういう気持ちは大切にしたいと思っている。しかし、危険分子を排除しようとする大人の言い分や、『雫』や『Blow』を彷彿させる○○の異常なまでの執着心にしたって、もし自分がその人と同じ立場、境遇になっていたらと考えると、気持ち判らないでもないなと思ってしまった。

『謎が判明してスッキリした』

 「何故まりあは明生達のことを目の敵にするのか」という謎もようやく判明してスッキリした。同時に、本当は彼女も根っからの悪じゃないんだということもよく判った。多少お嬢様的な我が儘はあるにはあるけど、基本的にはまともな神経の持ち主だし、それでいて効果的な冗談も言えたりする見所のあるサブヒロインだった。
 それにしても、今まで悪人だと思っていたキャラが主人公達のピンチに味方として再登場、という懐かしい勧善懲悪ものの王道パターンは今見ても唸らされてしまう。

『夏森永久』

 永久エンドで彼女について語れなかったのは、思ってた以上に掴み所のない性格だったからだ。仕様のない奴と思ってしまうほどのお人好しかと思うと、実は現実というものをしっかりと見据えるしたたかさを兼ね備えているところに自分は納得していなかったようだ。しかし、それこそが永久の個性であり長所であるんだと考えられるようになってからは、彼女に対しても不思議な魅力というものを感じるようになった。



【一通り終えて】

『「たいように」編の感想も含め、シナリオについて』

 そもそも「たいように」編そのもののシナリオが必要だったのかどうかが疑わしい。中身を見ても序盤で順哉達が町の歴史を調べようとするまでのどうでもいい日常のダラダラさ加減は最悪だった。その後も「てのひらを、」編が深く絡んでくるまでは、これといった見せ場というものが全くなかった。物語の確信に触れる中盤になってようやくつまらなさ加減が薄らいではきたものの、順哉と仲間達が考える正論に至るまでの過程が大半だったことを考えると、「たいように」編の必然性は無かったのではないかという結論に至らざるを得ない。
 確かに現実の世界であれば順哉の言う通りにするべきだろう。実際に理想の生き方を実践するなんてことは不可能に近い。しかし、常識の枠に囚われた考え方というのは、現実では当たり前であるが故につまらない。それに、どうせ現実で無理だというのなら、せめてゲームの世界だけは理想の生き様というものを追求してほしいという願望もある。それをきちんとした形にしたからこそ「てのひらを、」編のシナリオでは心に熱いものが滾ったのである。
 何事も安全な道を選んでいれば大きな失敗はないだろう。しかし、そんな視野の狭い考え方だけを信じ込んでしまうと、生きていく上で最も大切な人、もの、価値観を失ってしまいはしないだろうか。明夫、穂、美花、永久の4人が時には反発しあいながらも、目標に向かって一致団結して邁進していく姿は、見ていて清清しいし、思わず応援してしまいたくもなる。それもこれも徹底したキャラメイクというものを追求して見事に昇華させたからだと思う。
 そこへいくと、「たいように」編のキャラには個性がなく、シナリオで伝えたいことも常識的な範囲で小さく纏まってしまっていて面白みに欠けていてしまっている。あくまでも脇役としてこじんまりと登場する程度なら構わないが、メインを張って長い物語を引っ張っていくというのであれば話は違う。キャラに個性がなければ日常の台詞回しですら退屈になるし、シナリオで伝えようとしているテーマも当たり障りの無いことばかりでは何をか言わんやである。

『演出関連について』

 素晴らしいシナリオの影に隠れがちではあるが、独特の蛍光色で塗り分けられたCGに程々に心地いいシンセで奏でられたBGMは不思議な世界観というものを上手く体現していたと思う。

『環境設定について』

 テキストタイプのアドベンチャーゲームでおよそ必要とされるものはきちんと用意しているのは流石である。あとはメッセージウィンドウや文字を自在にカスタマイズ出来るようになれば完璧ではないだろうか。

『声優について』

 これは○○の演技に尽きる。キチガイじみたおどろおどろしいしゃべ方や狂ったように叫ぶ時の力の入れようは他の追随を許さない。きっと手紙を読み上げるシーンではノリノリだったのではないだろうか。そう思ってしまうほど、○○の演技は迫真に迫っていた。それ以外でも、メインである穂、美花、永久の3人組も安定していたのだが、意外なところでは小さい頃の明生の声優もなかなかどうして達者な演技を披露していた。

『まとめ』

 とにかく「てのひらを、」編で活躍する明夫、穂、美花、永久の友情パワーに尽きる。始めはバラバラだった4人が次第に心を通わすようになり、やがては協力して悪に立ち向かうという昔ながらの勧善懲悪な展開が好きならば是非お勧めしたい。「たいように」編という蛇足にしてはボリュームのあるシナリオがあることを差っぴいても、やってみてほしい作品である。



【今回プレイしたゲーム】
タイトルメーカー 対応機種発売年度
てのひらを、
たいように
Clear win98、2000
Me、XP
2003年

【参考資料】
『DVDビデオ』
タイトル 発売元VOL.7発売年度
機動戦艦ナデシコ
VOL.7
キングレコード 1999年