水夏
2001年9月19日作成
最終更新日 2002年5月5日

ファーストプレイ
1章(伊月と小夜)  2章(さやか先輩)
3章(透子と茜)  4章(名無しの少女)
セカンドプレイ(かなりのネタバレあり)
1章(伊月と小夜)  2章(さやか先輩)
3章(透子と茜)  4章(名無しの少女) 
一通り終えて (2002年5月5日追加)

『きっかけ』

 今回も例によってネットでの評判がわりと良かったからという主体性のない理由で購入してしまった。


【 1章 (伊月と小夜) 】
『序盤について』

 田舎に辿り着くまでのダラダラとした展開にはかなり退屈させられたものの、キャラの性格、ゲームの演出など、全体的には無難に仕上げられていたように思う。

『三角関係になったことで少しは面白くなってきた』

 双子の水瀬姉妹と出会うまでの道のりこそあまり良くなかったが、微妙な三角関係に発展する頃にはそれなりに面白くなってきた。中でも姉妹による駆け引きが見え隠れする展開はなかなか上手く描かれていたと思う。
 また、水瀬姉妹(特に小夜)との賑やかなトークも結構楽しめた。彼女達がシナリオに絡みだすとともに物語もようやく動き出し、さらに謎めいた要素も挿入されてきたことで少しは今後の展開が楽しみになってきた。

『なんとなくいいなと思える話だった』

 終盤に差し掛かって伊月の意外な事実が判明した辺りから徐々に続きが気になりだしてきた。最後は水瀬姉妹の気持ちのすれ違いによって演出された切ないお別れという締めくくりだった。具体的にどう良かったのかはよく理解してないんだけど、なんとなく心揺さぶられる結末だったようには思っている。

『ちょっとだけ小夜のファンになった』

 あれから何度か読み返すうちに自分なりの解釈が浮かんできたので、ちょっと書いてみようと思う。これまでもどちらかといえば小夜を応援していただけに、彼女の立派な立ち居振る舞いを見ていたらついつい彼女の擁護というかフォローをしてみたくなってしまった。

「こんなことを小夜は思っていたのではないか」

 小夜と風間彰(以下彰)が偶然再開するシーンでの会話で、小夜は彰のことに気がつかないような素振りだったけれど、実際は違うのではないかと思い始めた。
 ここからはあくまで想像だけど、小夜は彼との何気ない会話からまだ脈があるのかどうかをさり気なく探る作戦を練っていたんだと思う。時折、間を置いて(…←のこと)慎重に言葉を選んで話しているところを見ると、やはり彼が本物の彰だと気づいていたように思う。
 結局は彰にその気がないという結論に達した小夜は、彼のいう嘘の返事も快く受けてきっぱりと諦めてしまう。そして、おそらくは池の前で泣き崩れてしまったことが予想される。しかし、精神的に成長した小夜なら今回のことをバネにして彰以上に素晴らしい人生を歩んでいけそうな気がする。そんな予感のするエピソードだったと自分の中では思っている。


【 2章 (さやか先輩) 】
『今一つ説明不足の内容に終始戸惑った』

 1章とは違った意味で取っつきにくさを感じたものの、一年先輩の白河さやか(以下「さやか」)から家庭教師を頼まれる辺りから不思議な感覚を覚え始めた。形はどうであれ、先輩から無条件に慕われるという萌えるシチュエーションは心地良かった。とはいえ、癖のあるシナリオに対する戸惑いは残念ながら最後まで消え去らなかった。
 一応、種明かしはされるものの、断片的な物言いばかりで、はっきりこうだと言いきれるものは何一つなかった。それくらい抽象的な表現の目立つシナリオだったと思う。特に登場するキャラが話すどうとでも解釈できそうな微妙な言い回しには終始困惑させられた。気になったので何度か読み返してみたが、結局のところ、複雑な心境を抱えていたことくらいしか読みとれなかず、心の中のモヤモヤを晴らすヒントになるものはついぞ見つけられなかった。
 せっかくさやか先輩というユーザーの心をがっちりと鷲掴みするヒロインを輩出していただけに、それぞれが抱えている胸中をそれとなくでいいからアピールしていたらもう少し印象が良くなったのではないかと思う。


【 3章 (透子と茜) 】
『強烈に存在をアピールする義理の妹茜』

 相変わらず事情がよく飲み込めない状態で始まるのだけど、これまでと違って存在を強烈にアピールする「柾木茜(以下茜)」の大胆な行動に見ていてドキマギさせられた。
 それにしても茜は随分と積極的に主人公「柾木良和(以下良和)」へアタックしてくる。水着の日焼け後がうっすら浮かぶ裸同然の下着姿で迫ることからしてマニアには堪らないシチュエーションであろう。そこへもってきて、良和とは義理の兄妹でしかも彼には「京谷透子(以下透子)」という恋人がいるというのだ。これは何か因縁めいたものが無ければ嘘になるというくらいの意味深な雰囲気に、その後の展開が妙に気になりだしてきた。

「どこまでも可愛らしい妹」

 話を進めていけばいくほど、茜の無邪気で溌剌とした姿にどんどんと惹かれていく。彼女の素直さ、愛らしさ、さっぱりした性格は理想の妹像そのものといって差し支えない。
 そうこうしているうちに、夢と現実がごっちゃになって頭の中をミキサーで掻き回されたような状態になるんだけど、どこまでも無邪気にはしゃぐ茜が見られたからか、不思議と心地良さは薄れなかった。このような状態から一体どのような結末にもっていくのか、非情に楽しみになってきた。

『なんだか知らないけど面白かった(茜エンドについて)』

 最後はなんだったんだろう。まあ、良和のカウンセラー「若林鏡太郎(以下鏡太郎)」の性格が歪んでいたのはいいとしても、茜は兄である良和のことが好きだったのではなかったのか。それがどうしてあんな空恐ろしい結末になってしまったのだろう。確かに、良和にとっては残酷な結果になってしまったんだけど、理屈はともかく、背筋の凍るような終幕は個人的には好きなので一向に構わない。なんていうか、いい意味で「そうきたか、やられたあ」という感じだった。なんにしても、今までの中ではもっとも面白いシナリオであることは間違いない。

『本当にしてやられた(透子エンドについて)』

 茜が良和に擦り寄ってくる本当の理由を知って鳥肌が粟立った。そうか、そういう秘めた想いがあったから良和と透子の仲を裂こうとしていたんだ。だとすると、茜エンドで茜と透子が二人して奇妙な会話をしていたことにも納得がいく。あの場面を見る限り、茜の願いは成就したといえそうだ。たとえ、周りから変な目で見られようが、彼女さえ満足しているのなら、そういう愛情もありかなと思う。
 そして、本編ではあまり目立たなかった透子も実はもの凄い行動を起こしていたことに正直びっくりした。まさか彼女に想いを馳せているカウンセラーの気持ちまでも逆手に取ってしまうとは思ってもみなかった。どんなことをしてでも良和を独り占めしたいという、女の執念というものをまざまざと見せつけられた気がする。
 また、結末で語られる事のからくりを知れば知るほど凄まじいまでの執念と忍耐強さというものも感じた。そこで思うのは大人しい性格の人間ほど裡に秘めた想いというのは計り知れないほど大きいということなのだろう。
 さて、この章でも例によって説明不足な部分を補わなければならないものの、手掛かりとなる要素からいろいろと想像を膨らますことが出来たので、事3章に関しては十二分に満足のいく内容だったと思っている。


【 4章 (名無しの少女) 】
『序盤は面白く中盤は中弛み』

 3章同様、4章も序盤からかなり飛ばしている。名無しの少女(以下お嬢)と稲葉宏(以下宏)がアルキメデスのことで噛み合わない答弁をしてるところなんかは結構笑えた。お互いの意志がなかなか伝わらないことで困惑する様子が目に浮かぶ。それに偉そうに喋る縫いぐるみアルキメデスの存在も見逃せない。
 そう思っていたら飛ばしすぎて息切れしてしまったようだ。それからはずっと取り留めのない日常をダラダラと過ごす退屈な展開が続いてしまう。この流れは明らかに戴けない。せっかくいい面子を揃えたのだから、どうでもいいところは端折ってとっとと大事な場面に進めてほしかった。序盤の掴みが良かっただけにすぐにだれてしまうのは非常にもったいないと思う。

『夏祭りエンドについて』

 2章以上に何がなんだか分からない内容だった。そもそも千夏は1〜3章でどういう役割をになっていたのか、それすら理解できなかった。反面、お嬢に関しては彼女自身が明確に語ってくれた。そう、お嬢は死んだ者の魂を成仏させる死神だったのだ。
 それはいいんだけど、最後の方は話が二転三転してエピローグに至って「えっ、これまでのは全部夢だったの!?」という展開に頭は大混乱をきたしてしまった。どうやらこの章も繰り返し読まないと理解することが難しい内容になっているようだ。

『お土産エンドについて』

 夏祭りエンドと同じく「なんのことやら、はてさてふむう」な感じだった。こちらでも千夏の説明は曖昧で、某かの力を用いて人助けをしようとしていたくらいのことしか分からなかった。それにしても最後はなんだったんだろう。途中までは病弱の妹ちとせだけでなく、宏もこの世から旅立ってしまうばかり思っていた。そうしたら、お終いのところで稲葉兄妹だけでなく、名無しの少女までもがひょっこりと顔を出していた。となると、これまでのシリアスな展開は本当になんだったんだろうかと思い悩んでしまう。とりあえず、現状では己の読解力の無さも手伝ってこの程度のことしか考えが及ばなかった。


 ここからは非常に多くのネタバレが含まれているので、それが嫌な人は読まないことをお勧めする。











『そして、セカンドプレイ』

 一通り事情を飲み込んでから再び最初から読み返してみると、今まで分からなかったことが理解出来るようになることで違った面白さが体験できる(特に1章で)。そのため、「水夏」を真に楽しむことが出来るのは2周目からといえるかもしれない。

『プロローグについて』

 一番初めのプロローグ、実は4章の主人公である宏が村に訪れた時の情景だった。その辺りの事情が分からなかったので、あの時はダラダラしていて退屈だ、なんて思ったのだ。それにしても、こうしてもう一度やり直してみると、まっさらな状態で始めた時では味わえない新たな発見の連続に驚かされるばかりだ。

セカンドプレイ 【 1章 (伊月と小夜) 】
『家庭環境』

 そういえば、水瀬姉妹と彰の家庭環境は非常に似通っていた。互いの両親は仲が悪く、いつも喧嘩の絶えない毎日を過ごしていた。それに嫌気がさした彰の母親は息子彰と一緒に出ていき、水瀬姉妹の住む土地に越してきた。一方、水瀬家の両親は互いに譲り合うことなく口論に明け暮れていた。愛情を注ごうともしない駄目親の元にいると何かと苦労するけど、唯一の救いは、このことがきっかけで3人の仲がより深まっていったことではないだろうか。

「対照的な2人のヒロイン」

 静の伊月と動の小夜という好対照なヒロインを見てこれまでは小夜の歯に衣着せぬ物言いが割と好きだったが、改めて見直すと夢みがちで一つのことに没頭すると周りが見えなくなる伊月も悪くはないなと思えるようになった。
 こうして改めて見直してみると伊月と彰の間にはすでに言葉で交わさなくとも分かり合える絆が出来ていて、そこに小夜が入り込む余地というものはすでになかったようだ。だとすると、それをどうにかして壊そうと必死に頑張る小夜が哀れに思えてきた。

『1章における自分なりの解釈』

 たとえ一時的にせよ、伊月が現代に蘇られたのは、おそらくは死者と対話出来る千夏と不思議な力を秘めた巻物によって引き起こされた奇跡ということなのだろう。きっと実の父親に撲殺された時の無念な気持ちが千夏の心に届いたものと思われる。そして、伊月の気持ちを汲み取った千夏は巻物の力を借りて期間限定で復活させたのではないかと推察される。もちろん生き返った訳ではないから、どこを怪我をしようと何度も撲殺を謀ろうと、翌日には元通りになる。
 伊月の父親が恐怖に怯えたのはこのせいだったのだろう。あの日、確かに殺したはずなのにある日突然、何事もなかったかのように自分の前に姿を現しただけでも驚愕だったはずだ。その上、確かな手応えで幾度となく殺害してもゾンビのように舞い戻ってくる伊月を見て、父親は次第に発狂していったであろうことが推測される。こうして悪夢の日々を過ごしていたある日、彰が訪ねてきて「愛する人が死んだら自殺しなければなりません」という言葉に全てを悟ったのか、それとも絶望したのか、理由こそはっきりしないが、いずれにせよ生きていることに耐えられなくなった父親は自ら命を絶ってしまう。
 水瀬の父親は人格に問題が大ありだっただけに、精神的な苦痛を時間掛けてたっぷりと味わった末に自殺するくらいの罰を受けるのは至極当然のことだ。これで伊月が帰ってくる訳ではないけれど、胸の支えはいくらか取り払われたような気持ちにはなれた。

セカンドプレイ 【 2章 (さやか先輩) 】
『とにもかくにももう一度考えてみる』

 とにかく分からないことが多かったのでもう一度考えてみると、どうやらこの章のポイントは「降りかかる死の影」ということになりそうだ。「さやか」の父親律は女性の死体が徐々に朽ち果てた後、みるみると再生していく様や、亡くなって間もない「さやか」の母親をモデルに絵を描いている。そんな、死を匂わす絵を好んで描いているとしか思えない父親を「さやか」は恐ろしさと同時に心から憎んでいて、実際に呪い殺そうともしていた。しかし、彼女も描くことに集中し過ぎた為にモデルをやってもらっていた母親の死を看取ることが出来なかったことを今でも後悔している。
 このように物語の至る所に死臭が充満していて表面上はとても陰鬱な感じがする。けれど、それ以上のことはやはり読みとれなかった。特に絵描きは医者よりも人殺しとして相応しいなどに見られる、特有の考え方が自分には理解できなかった。単に絵を描いているだけでどうやって人を殺めることが出来るというのだろう。さらに、律が話す殺害を駆り立てる理由を物書き特有の理屈で説明されるところも小難しく、なんだかなあという感じだった。その辺りの感覚が飲み込めなかったこともシナリオで深く感銘出来なかった要因になっていると思う。
 ただし、何となくではあるものの、言いようのない余韻というものはあったような気がする。それがどういうものなのかは霧のようにモヤモヤとしていて現状では掴みかねているのだけど、いつの日か解明できればいいかなと思っている。


セカンドプレイ 【 3章 (透子と茜) 】

 3章をリプレイしてみて、改めて茜と良和の心の内に秘めた複雑な心境を丹念に描かれたシナリオだったことをひしひしと感じた。

「リプレイならではの楽しさ」

 「駅の待ち合わせや、茜の身体に対する違和感、疲れやすいと良和がぼやく原因、そして入院している『あかね』という名の記憶喪失少女」などはもう一度見直すことで「ああ、そうだったのか」と納得することが多かった。それから海水浴中に(透子が演じた)茜が溺れるというハプニングがあり、その時診てもらった医者こそ茜という名の少女の主治医だった。後で医者は少女に2人にあったことを話す。そこで「お前さんと同名異人に会った。もう一人連れがいて2人は兄妹だといっていたが、その割には全然似てなかったな」というようなことを少女に聞かせるのだが、これも事情を知っているだけに思わず顔が綻んでしまった。こうしてリプレイすることでそれぞれに秘めた思惑を改めて確かめられたことは何にも増して嬉しかった。
 それに、徐々に記憶を取り戻す茜が話す台詞も今にして思えばなかなか意味深だった。この段階で彼女は好きな人のことを常に「あの人」とぼかしていた。もちろん、はっきり思い出したからではないだろうが、誰なのかはっきりと分かる表現を敢えて避けたところにシナリオライターのセンスの良さを感じた。

「ひょっとしたら茜も…」

 透子の執念も凄まじいものがあったが、もしも、良和と出会う前から彼女を独り占めするにはどうすればいいかと考えていたとしたら、茜も相当な手練れである。何故なら透子は鏡太郎の気持ちこそ理解していたが、茜の真意までは見抜いてない節があると思ったからだ。ただ、透子の側からすれば、まさかそこまで茜に慕われているとは想像だにしていなかったに違いない。茜にしても本当の気持ちを知られたら嫌われてしまうのではないか、という懸念もあってこれまでは表だった行動は控えていた。その辺の微妙な感情を考慮してもう一度見直してみると、同じ台詞でもまた違った世界が開けてくるような気がする。

「血の繋がりについて」

 良和は序盤で茜と血の繋がりはないといっていたが、終盤で繋がりのあるようなことを完全にではないが匂わせていた。これを前提にすると鏡太郎は「茜と良和は血の繋がりはない」と嘘をついたことになる。しかし、シナリオを見る限り、どっちともとれるような表現で本当のところはなんともいえないのかもしれない。
 ここだけに限らないけど、「水夏」のシナリオは説明した方がいいと思える部分まで省略してしまっている。かといってそうした部分がおざなりになっているのかというそうではないので、余計に気になってしまう。


セカンドプレイ 【 4章 (名無しの少女) 】

 4章に限って言えば、序盤から中盤にかけての印象は最初の頃とあまり変わらなかった。セカンドプレイにおいても序盤を過ぎてからの延々と続く中だるみな展開はやはり戴けない。どうせなら序盤に見られた宏、お嬢、アルキメデスによるたわいのない掛け合いを中心にした方が面白かったような気がする。

『どうやら夢オチのようだ』

 夏祭りエンド(ひょっとしたらお土産エンドも)は夢オチということで間違いなさそうだ。この結末自体はあまり好きではないけれど、夢の中で巻き起こる不思議な現象はそんなに悪くなかったと思う。
 ただし、複雑に絡み合う要素を詰め込みすぎたせいで理解するのが容易ではないし、無駄に長いエピソードや会話が多かったことでテンポが悪かったのも否めない。日常の会話など不要な部分は必要最低限に留め、物語の核心では真相を明かしつつもいくらか気になる謎はきっちり残す、というような形にしてくれていたら今頃はとんでもないシナリオに変貌していたかもしれない。

『学生服の少女エンドと鬼籍エンドについて』

 どっちつかずの選択肢を選んでいるうちに辿り着いたのだが、いずれも唐突に事の成り行きをなぞらえるだけという不親切な結末だった。また、学生服の少女エンドでお嬢が学生服を身に纏うのだけど、その際、どんな格好だったのかが見られない(背景は真っ黒)というのも残念でならない。


【一通り終えて】
『独自の便利な機能がいくつも搭載されている』

 章単位でクリアすると二度目からはあらすじとして読み飛ばしていける機能には度々お世話になった。長い文章や退屈だった部分などはこれでさっさと次に進められるのは非常に有り難い。
 細かいところでは、シナリオ情報という文章の量やどこまで読み進めているのかや、選択肢の有無などが一目で分かる機能は便利だったし、個別で声のオンオフを設定できるというのも重宝した。
 ゲーム画面の構成では1〜3章がノベルタイプで4章はウィンドウ型でメッセージが表示される。このうちどちらが良かったのかというと、後者にあたるウィンドウ型の方に分があるように思った。理由は、後者は誰が発言しているのかが読み返し時に分かるのに対し、前者は全く分からないからだ。また、メッセージの読みやすさにしても、窓枠にすっぽり収まっている方がテンポよくゲームを進められるので、次回作以降ではウィンドウ型で統一した方がいいと思う。

『演出について』

 どの章のヒロインも朗らかな表情の似合ういかにも一般受けしそうな容姿だと思う。ただ、キャラの表情がコロコロと変わる割にはその違いがあまり感じられなかったのはちと痛い。微妙な表情の変化を狙ったのだろうけど、もっとパターンを増やさないと意味がないように思う。
 あと、BGMに関しては夏の清涼感を醸し出す曲が思ったより心地よかった。中にはちょっと外しているかな、というのが何曲かあったけど、さりとてゲームの邪魔になるようなことはなかった。

『声優について』

 何はともあれ茜役の声優がずば抜けていた。「地球在住のプリティーな女の子」というイメージにピッタリな愛らしい猫撫で声で縋り寄ってくるのだからたまらない。そんな中、透子の声優が今一な感じだったのと華子(千夏)の台詞で「さ、す、せ」が聞き取りにくかったのは残念だけど、それ以外は概ね水準以上の素晴らしい演技だったと思う。

『シナリオについて』

 全体を通して言えることは一度で理解するのは非常に困難な内容だということだ。そのため、シナリオをきちんと把握するには繰り返しプレイする必要がある。しかし、そうしてシナリオに対する理解力を深めても、それだけでは不十分と言わざるを得ない。そこから自分なりの解釈をどこまで当てはめられるかで「水夏」という作品の評価は決まるといっても過言でない。
 特にそう感じたのは4章の終盤で、なんの説明もなしに話をバンバン進めるなど、理解に苦しむ展開がてんこ盛りだった。加えて、これまでの流れを無視して唐突に新事実を挿入するだけしておいてフォローは全くないというのも勘弁してほしい。ただでさえ説明不足のせいで理解しづらいのに、4章でのみ通用する事実(お嬢の夢で突如登場する宏の祖父の少年時代)が発覚することで話が余計に混乱してしまった。各章が独立しているのならまだしも、多少なりとも章同士で繋がりがあるのならば、そのことについてある程度納得のいく説明をすべきだったと思う。

「個人的な疑問に対する答え」

 このままだと単なる説明不足と決めつけてしまうところだが、ちょっとばかり腑に落ちなかった。何故なら、他のレビューサイトを見ると舌足らずな内容と思われる2章と4章について評価しているところが少なからずあったからだ。その辺りをいろいろと読み漁ってみたものの、今一つピンとこなかったので、それなら自分で納得のいく結論が出るまで繰り返しプレイした方がいいだろうと思い立った。
 その結果得られた答えは「与えられた材料から自由な発想で物語を構築することが出来ればこの上ない喜びを感じられるのではないか」ということだった。理由はダイヤの原石のような輝きをゲームの素材から感じられたからだ。各章のヒロインは皆個性的で魅力があるし、話の導入部にしてもどんな展開になるのか気になるような意味深さを醸し出しいる。このように想像力を刺激する要素は十二分に持ち合わせていることを考えると(ユーザーの想像力次第ではあるが)、無限の可能性を秘めているような気がしてならない。

『結論』

 断片的に用意された情報を手掛かりに、想像力をどこまで拡げられるかによって評価が分かれる作品だと思う。意図的に省かれた部分を自分なりに補完することが出来れば十分楽しめるが、それが出来なければなんのことやらさっぱりという状態に陥ってしまう。とはいえ、明らかに説明不足な部分があったことも確かで、その点ではかなり人を選ぶ作品だと思うが、1、3章の展開は個人的にもの凄く気に入っているので、こういうのもたまにやる分にはいいかもしれないとは思っている。
 それにしても、近年はこの手の仕掛けを盛り込んだシナリオが流行っているようだ。他社では「銀色〜完全版〜」(ねこねこソフト)や「Kanon」「AIR」(key)などにその傾向が見られる。もし、これらの作品が気に入っていれば「水夏」も同様に楽しめるのではないかと思う。


【プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
水夏win95、98、me サーカス2001年


【参考資料】
『ゲーム』
タイトル対応機種 発売元発売年度
銀色
〜完全版〜
win95、98、Me ねこねこ
ソフト
2001年
Kanonwin95、98 key1999年
AIR win95、98、2000 key2000年