世界ノ全テ
2002年5月5日作成
最終更新日 2002年7月13日

各キャラ別の感想へ
小西智子  櫻井まりも  草薙かすみ  草薙ほのか 
【一通り終えて】

『きっかけ』

 「小西智子」シナリオのがとにかく凄いという声が各地で評判になっているのを確かめるべく購入してみることにした。


『物語の前半(共通シナリオ)について』

 高校生活におけるありふれた日常が淡々と綴られ、学生時代にありがちなやり取りが描かれていく。それはいいのだけど、その間に心を揺さぶる事件が起こらなかったのが至極残念でならない。
 これは前半の中心に据えられている軽音楽部についても同じ事が言える。演奏風景はまあそれなりのものを感じさせはするものの、それ以上でも以下でもない。楽器演奏の上辺だけをなぞっているだけという気がして、音楽そのものの魅力というものが生かし切れてなかったように思う。


【キャラ別感想】

小西智子(以下智子)

『中盤までで思ったこと』

 智子との親密度が上がっていくまでの過程が大したことないなと思っていたら、突如彼女の身に降りかかる最初の衝撃が原因で宮本浩(以下浩)が憂鬱極まりない態度を取るようになってようやく面白くなってきた。こんなことなら最初のうちからいろいろと抜き差しならぬトラブルを起こしておいてくれていたら前半も退屈せずに済んだかもしれない。
 何故そう思うのか、理由は問題が深刻になればなるほど、人の感情がむき出しになるからだ。それにトラブルが発生することによって伺い知る本性というものを理解し合えればお互いの絆というものは深まっていくだろうし、それに伴ってキャラに対する感情移入というものもより強く感じられるようになると思う。
 あと、智子の家庭問題が浮上してから目立つようになった青臭い台詞は聞いてて恥ずかしくなるけど、それでも仲間がいることの有り難みが実感できるシナリオはなかなかどうして悪くなかった。キャラの役割や設定とシナリオとの兼ね合いにしても問題が発生する前よりも後の方が断然噛み合ってて面白かった。

『その気持ち、よお分かる』

 浩にとって2度目の衝撃後の様子を見ていると、多くの人が彼女を守ってやらなあかん、という気持ちになるのが手に取るようによお分かる。智子の生い立ちもそうだけど、現状でも彼女の家庭環境は決して誉められたものではない。もし、この状況に身を置いていたら、今智子を守らなければいつ守るんだという気持ちで一杯になっていたに違いない。

『そういうこと、だったのか…(智子エンドについて)』

 幾多の困難を乗り切り、ようやく2人で輝かしい未来に向かって歩んで行こうと希望に満ち溢れていたその矢先、真っ逆様に突き落される真実を知らされる。否応なしに訪れるどうしようもない失望感は、これまでプレイしてきた人間であれば誰しもが感じることであろう。
 このような耐え難い想いは智子に対する愛情の深さに比例している。もし、智子のことを掛け替えのない存在として認識してしまってラストに突入でもしようものなら、それこそしばらくは放心状態になってしまうほどのショックを受けてしまってもなんら不思議ではない。
 出来ることなら智子と一緒に世界の果てに旅立てるのであればどんなに幸せなことだろう。しかし、逆に考えれば2人の恋が成就しそうにないからこそ、彼女のことが狂おしいほどの愛しさを感じられるのだと思う。ともすれば、智子は存在そのものが脆弱で儚く、いつ消え去ってしまうか分からない危うさがあった。そんな彼女だからこそ掛け替えのない思い出として人々の心に深く刻みこむことが出来たのだと思う。


櫻井まりも(以下【まりも】)

『ごく普通のラブコメ』

 智子シナリオのようなあっと驚くようなことはなく、中盤まではごく普通のラブコメにありがちな展開だった。実際のところ、かなり突っ込みどころはあるのだけど、子供っぽい仕草で感情を露わにされると別にいいか、なんて思ってしまう。【まりも】みたいに素直で可愛らしい後輩からこんなにも慕われたら悪い気になるはずがない。

『どうしてこんなことに…(【まりも】バッドエンド)』

 【まりも】の仕草が可愛らしかっただけになんの前触れもなく訪れる惨劇は見るに耐えなかった。おそらく智子の親父が持つ巨大な権力を傘に仕返しをしたのだろうけど、娘は無事に帰ってきたんだから何もそこまでしなくてもいいではないか。これでは何のために智子が家に戻っていったのか分かりはしない。これまで無邪気にはしゃぐ【まりも】の愛らしさで和んでいただけに、不条理さが拭えないまま迎える悲しい結末に「どうしてこんなことになったのか誰か教えてほしい」と叫ばずにはいられなかった。

『今一つ納得がいかない(【まりも】エンド)』

 一応【まりも】にとって幸せと言えそうな結末なんだけど、バッドエンドに比べるとかなり無理があるような気がした。結局のところ浩と【まりも】が襲われた理由というのは不明のままだし、その後のフォローというものも示されなかったことに今一つ納得がいかなかった。
 というのも、事件に一応の決着がついた後も依然として智子の親父には睨まれるだろうし、【まりも】の母親にしても浩のせいで娘が汚されたと思っていることを考えると【まりも】には会わせてもらえそうにない。これらの問題がクリアしていない現状では浩と【まりも】の2人が結ばれるなんてことは到底あり得ない。それなのに、何故だか知らないうちに、そうした問題は無事解決したと言わんばかりの展開に疑問を抱かずにはいられない。
 もちろん、表に出ないだけで実はきちんとケリをつけていたいたのかもしれない。しかし、それならそれでどのように解決したのかという説明を簡単にでもいいからしてほしかった。それがない以上はいくら幸せな結末であろうとも、素直に認めるなんてことは土台無理な話だ。


草薙かすみ(以下【かすみ】)

 【かすみ】とのHの経緯はかな〜り強引なんだけど、智子が事実上脱落してて他には先生の妹である【ほのか】しかいないとなると、気持ちが移ってしまうのもある意味当然の流れかもしれない。

『文化祭直前からが本番か』

 文化祭直前になって僅かながらだけど面白くなってきた。これから文化祭だと意気込んでいたところに水を差す出来事で穏やかならぬ雰囲気に変貌することや、中井戸麗次(以下麗次)の恋が見事に玉砕するところなんかはそれなりに良かったと思う。それに、【かすみ】の身の上話で先生として大人の考え方というものが垣間見られたのには結構感心した。きちんと相手の事を考えているんだというのがよく分かるいい話だった。
 それからも【ほのか】に誘われて家にお邪魔した時の【かすみ】とのやりとり、そして、唯一文化祭の前から伏線となっていると思われる気になる発言等、割と退屈させない展開にはなっていたと思う。

『唯一笑えるポイント』

 浩が【かすみ】先生のことを想うあまり、あたかも精神が壊れてしまったかのように振る舞うようになってからの【まりも】、麗次との会話にはかなり笑わせてもらった。中でも【まりも】が体型のことでからかわれて傷ついているところに浩がトドメを刺して落ち込ませた後に心の中で呟く的を得た台詞は可笑しかった。ただ、そういう風に思えるのは【かすみ】シナリオの時に限ったことであって、【まりも】シナリオだったらそれこそ洒落にならない。というよりも絶対に言ってはならない禁句になるな。

『偉いぞ浩(【かすみ】エンドについて)』

 なんていうか、思った以上に心の琴線に触れるいいシナリオだったと思う。事実を隠す時間が長くなればなるほど辛さが増していくところなんかは良く描かれていたと思う。また、それにつれて周りの反応もだんだんと心配になったかと思うと、ついには腫れ物にでも触れるようになるまでの様子もいい感じだった。
 そして、【かすみ】シナリオ最大の見せ場となる周りとの関係にきちんとけじめをつけるんだと決意してからの浩の毅然として態度は本当に偉いなと思った。たとえ全てを失ったとしても【かすみ】に対する想いは変わりはしないという浩の決意には並々ならぬものを感じた。もちろん、彼の過ちを考えると周りの怒りはこの程度(【まりも】のビンタと麗次の凹殴り)では済まないだろう。しかし、悩み苦しんだ末に決めたことを充分読みとることが出来たので、個人的には非常に満足している。
 本来なら道ならぬ恋なんだろうけど、そのことから逃げ出さなかった浩はもちろん立派だが、最後まで大人としての態度を貫こうと必死に堪え忍んだ【かすみ】もまたよく頑張ったと思う。


草薙ほのか(以下【ほのか】)

『なんだか地味なヒロインだったな』

 優しくて真面目で引っ込み思案、それでいて心配性な性格はいいとしても、【ほのか】には心に刻み込む決定的な何かが欠けていたように思う。もっとも大人しくて自分をあまり主張したがらないところが彼女の特徴と言われればそれまでである。しかし、まがりなりにも主人公である浩と絡むのだったらもう少し印象に残るような出来事があっても良かったのではないだろうか。攻略対象のキャラというのであれば無理矢理であろうがなんだろうが、何か一つでも突出した取り柄というか人を引きつける魅力というものを身につけてほしかった。一応二つあるエンドを見たけど、メインとサブの狭間にある中途半端なヒロインという印象は最後までぬぐい去ることはできなかった。


【一通り終えて】

『シナリオについて』

 『世界ノ全テ』のシナリオでは共通していることがある。それは文化祭を過ぎてから面白味が増していくということだ。文化祭を境にある時はギャグが冴え、またある時は話の内容が引き締まるという具合にシナリオの質が目に見えて向上している。そのため、序盤のまったりとした展開と、終盤に起こる事件の収拾、そして唯一今一な感じだった【ほのか】シナリオにもう少し気を配っていたらより素晴らしい作品になっていたように思う。
 とはいえ、そうしたことを除けばシナリオに関しては水準以上の出来映えだったと思う。智子シナリオでは二転三転する意外性に驚き、【まりも】シナリオでは彼女と浩の身の上に起こる悲惨な出来事を発端とする無惨な結末に悲しみ、そして、【かすみ】シナリオでの浩の男らしい態度に何度となく感心させられた。

「軽音楽部の存在意義」

 どのシナリオに突入しても文化祭後になるとクラブに顔をほとんど出さなくなってしまう。これでは部活はヒロインとの出会いの為だけに用意されたイベントという感じで、だったら別に軽音楽部でなくてもなんでもいいのではと思ってしまう。せっかくバンドという華やかな素材を扱っているのだから、もう少しシナリオに絡ませても良かったような気がする。

「同じようで違う2人のヘタレ」

 主人公宮本浩(以下浩)のヘタレ具合は確かに『君が望む永遠』の鳴海孝之(以下孝之)とダブルところがある。しかし、孝之のそれに比べたら浩のなんかはそれほど騒ぐことのほどではないように思う。
 何故なら、何日にも渡って執拗に悩むだけでいつまで経っても現実を見ようとしない孝之に比べ、浩のそれは要所のみという感じだったし、最終的な判断も自分の意志で決めていたことにいたく感動したからだ。

「ふと思い浮かべたこと」

 ゲームをやっているうちに宇宙刑事ギャバンの主題歌がふと脳裏を過ぎった。サビで若いうちならいくらでも取り返しがつく、だから失敗を恐れずに目的に向かって突き進んでいこうという前向きなところは「世界ノ全テ」が伝えようとしている部分と重なるところがあるように思う。

『システムについて』

 階層別にデータを管理することでセーブ画面は格別に扱いやすかった。他にもスキップ機能や読み返しで音声が再生出来るなど、ゲームを進める上で必要なものは大体揃っている。

『演出について』

 特筆すべきものはないものの、CGなんかはそれなりの丁寧さで塗られていたし、BGMにしてもピアノやバイオリンの旋律で哀愁漂う雰囲気がよく出ていたように思う。
 全体的には文句のつけようがないのだが、敢えて苦言を呈するならば、無駄な演出で処理落ちしてしまうことが挙げられる。電車内から見た外の風景なんかは特にそうで、多重スクロールさせることの意味があまり感じられないばかりか、そのせいで処理が重くなってしまうのだから何をか言わんやである。

『声優について』

 主人公である浩以外は全員関西人でヒロインのみボイス付きで話しかけてくる。最初のうちは関西特有のイントネーションに違和感を抱くも、時間が経つうちに少しずつ慣れていった。はたしてこの発音が正しいのかどうかは分からないので何ともいえないが、どのヒロインもそれなりに演技していたようには思っている。
 余談だが、シナリオ重視のゲームにしてはヒロインの喘ぎ声が妙に豊富だったのにはちょっと驚いている。

『終わりに』

 学生時代ならではの甘く切ない恋物語が随所に見られたことがなによりも良かった。中でも智子シナリオの出来は素晴らしく、彼女のことを守らなければと何度思ったか分かりはしない。極端なことを言えば、智子シナリオの為だけでもこのソフトを購入してみる価値は充分あると思っている。


【今回プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
世界ノ全テwin98、2000、Me、XP たまソフト2002年


【参考資料】
『ゲーム』
タイトル対応機種 発売元発売年度
君が望む永遠win95、98、2000、me アージュ2001年


『CD』
タイトルアーティスト 発売元発売年度
メタルヒーロー
全主題歌集
宮内タカユキ、
水木一郎、他
日本コロンビア2002年