そして、粛清の扉を
2005年5月1日作成
最終更新日 2005年5月16日
『果たして、本当に衝撃の問題作だったのか』
帯に「第一回ホラーサスペンス大賞受賞の衝撃の問題作」と謳われるだけあって、残虐な描写の数々は半端でなかった。人質となった生徒が1人、また1人と惨殺されていく様子は痛快を通り越して凍えるような寒気すら感じた。これだけ大それたことをするからには、それ相応の理由がなければ、自分としては納得できないのだが、その辺はどうだったのであろうか。
そうやって読み進めていくと、どうしようもない不良が集まるクラスの担任を長年勤め、しかも、娘の事故死の加害者がその中にいることが判明。これだけの条件が揃えば、犯人である女教師でなくても、復讐の炎は嫌でも燃え上がるだろう。
それにしても、復讐ネタでよくもまあここまでグロテスクに描けたものだな。率直なところ、最後に明かされる事実は説明不足なこともあって、納得しかねる部分がない訳ではないが、それを上回る壮大なスケール(多少の穴はあるが・・・)且つ、綿密に組み立てられた計画(実際に可能かどうかはさておき・・・)は唸らざるを得ない。実際に無念な表情で殺されていく生徒や、犯人の仕掛けた罠で醜態を晒す保護者なんかは、結構溜飲を下げさせてもらった。
その一方で、憎き相手への復讐を遂げる為には、死を厭わないくらいの悲壮なる覚悟をもち、尚且つ完璧な計画が不都合無く遂行されないと駄目なのか、とも思う。現実では、やりたいと思ったとしても不可能なことは判りきっている。それだけに、不幸にも理不尽な形で被害に遭ったとしても、大半は泣き寝入りせざるを得ない。現在も加害者ばかり手厚く保護される一方で、被害者は運が悪かったと言わんばかりの冷たい扱いで、一生苦しめられている。
確かに復讐はしてはいけないのであろうが、だからといって、こうしたケースで被害者になった方々が、一生救われないことになっていいはずがない。下手すると出所してきた加害者に、日常を再び脅かされる、なんて事態も十分有り得る。だとすれば、被害者側が対抗する唯一の手段があるとすれば、加害者と同じくらいの狡猾な方法で、仕返しをするより術がないように思うのだがどうだろう。
【今回読んだ本】
タイトル
作者
出版社
出版年度
そして、粛清の扉を
黒武洋
新潮文庫
2005年
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