機動戦士ガンダムSEED
デスティニー
2005年10月1日作成
最終更新日 2005年11月27日

「一番の注目すべき人物は」

 それは誰かと尋ねられれば、やはり「ギルバート デュランダル」プラント最高評議会議長を置いて他におるまい。デュランダルの意図する策略が見えるようになると、作品に対する評価はもちろん、彼に対する印象も大きく変わってくるはずだ。極端な話「デュランダル1人に、周りがいい様に振り回された物語」といっても過言ではない。最後まで地味で目立たなかった「シン アスカ」を前面に出すくらいなら、デュランダルの出番をもっと増ふやすべきだったとさえ思っている。デュランダルが影でどのように暗躍していたのか、その辺の描写が個人的には見てみたかった。確かに、やたらとバンクを多用し過ぎていたし、巷で言われている多くの指摘(話の矛盾など)は至極尤もではあるが、それを差し引いても今回の作品では、デュランダルの言葉と行動に、いろいろと考えさせられたのも確かである。

「改めて一話から視聴し直す」

 いきなり「アビス」「ガイア」「カオス」があっさりと強奪されてしまったことも、その事象だけ見れば確かに、摩訶不思議で有り得ない展開ではある。しかし、そこにデュランダルが一枚噛んでいたならばどうだろう。お宝(新型ガンダム)の在り処を、彼の差し金がわざと漏らしたとすれば、例の三機は不注意で「盗まれた」のではなく、わざと「盗ませた」と考えるのが妥当である。それらをミネルバでなく、どこぞの格納庫に保管させていたのも、強奪をより確実にさせる為であろう。それもこれも、「デスティニープラン」を発動させたいが為の、恐るべき計画の第一歩だったのかと思うと、非常に感慨深いものがある。
 こうして改めて1話から視聴し直してみると、デュランダルの言い分は、どれもこれも彼の都合に合わせて、はぐらかしているように思えてならない。それだけではない。彼の素性を鑑みると、強奪による混乱があることを見越して、「カガリ ユラ アスハ」をわざわざこの日に招待したように思えてならない。そうして、あわよくばカガリが事故死してくれれば、という恐ろしいシナリオすら、デュランダルは考えていたのではないだろうか。それは、後の「ユニウス7」落下テロで「アレックス リノ(アスラン ザラ)」、「ラクス クライン」暗殺未遂、「エンジェルダウン作戦」で「キラ ヤマト」、といったデュランダルに敵対する主要人物に対しても、あわよくば死んでくれないかな、なんて考えていたことだろう。

「デュランダルが仕組んだ計略」

 デュランダルは、己の理想を実現する為に、コーディネーターにとって絶大な人気の「ラクス クライン」はどうしても必要だった。理想は本物が居てくれればそれに越したことはないのだが、ラクスとデュランダルの思惑が一致しないことは、最初から心得ていた節がある。本物は行方不明だったことも、その替え玉として「ミーア キャンベル」を用立てられたことも、彼にとって好都合だった
 9話でプラントに核攻撃を受けるが、これも当然のことながら、デュランダルは事前に察知していたに違いない。だからこそ「スタンピーダ」と呼ばれる大量破壊兵器で迎撃した。そもそも、虎の子の一発であったので、効果的に使用する必要があった。極軌道に味方の軍を「スタンピーダ」とその護衛以外は配置せず、わざと核を撃たせ(ここが重要)、すぐさま返り討ちにすることで全軍を撤退させ暫く様子見をさせ、尚且つ、積極的自衛権発令のお膳立てまでした。もちろん、プラントを守り抜こうとする意思を国民に植え付ける効果もあったことだろう。
 19話でミネルバのパイロットを招集したのも、皆から意見を聞くためではもちろんない。それなら何かと訊ねられれば、それは「ロゴス」が真の敵であることを、深く印象付けることに他ならない。それまでの愚にもつかないような意見交換で、彼らにさも理解を示している素振りをして安心させ、その直後に本当に植えつけたかった案件を述べる。今回のことだけでなく、デュランダルはアーモリーワンでの強奪事件後も、なんやかんやと戦地やら任務やらにミネルバをわざわざ赴かせたのは、デュランダルの言動に、少しでも疑惑を持たせたくなかったからに違いない。
 「デストロイ」で街が壊滅させられている時、何故デュランダルは軍を一旦引かせなかったのか。理由は、ザフト軍に所属しない「アークエンジェル」「フリーダム」で、「デストロイ」を倒されてしまうと、後の「ロゴス憎し」を決定付ける演説の説得力が低下するからだ。だから、デュランダルとしては、絶対に撤退することは出来なかった。そして、何より肝心だったのは「デストロイ」を倒す時に、ザフト軍が一緒にいることだった。ザフト軍が一緒にいさえすれば、後でいくらでも編集で誤魔化せる。
 33話の表明でこそ「ロゴスを滅ぼす」と宣言していたが、実は議長にとって邪魔なオーブを消し去ることも、彼の中では折込済みだったのではないか。ロゴスにはナチュラルしかいないが、オーブにはプラントと同じコーディネーターも暮らしていることを、議長は脅威に思っていたはずだ。
 この先は、デュランダルが人の意思を操作しなくても、周りが勝手に彼の思惑通りに動いてくれた。それこそトントン拍子に「デスティニープラン」を発表するにまで至った。残念ながら首謀者であるデュランダルは死んでしまったっぽいが、彼の意思を真に受けた人材が夢の再現に向けて、何かしら行動は起こすであろう。その一派とアスランとキラが戦いながら模索してことが、噂の最終シリーズで描かれるのかもしれない。

「どうでもいいこと」

 敢えて言わせて貰うと、49話でデュランダルが最後の決戦前に「問題は・・・」と呟いていたことに関して。今にして思えば、それは「問題は・・・パイロットとしての資質」だったのではないか。彼はアスランとキラよりも、レイとシンの腕を信じていた、というより信じるより他になかったといった方が適切か。結局アスランとキラの方が圧倒的に勝っていたことが発覚した今となっては、本当にどうでもいいことではあるかな。

「終わってみれば・・・」

 シンは最後まで主役になりきれなかったが、それはもちろんどうでもいい。個人的には表の主役はアスランで、裏の主役はデュランダルだったように思っている。先に述べたように、影で糸を操っていたのは間違いなくデュランダルである。そうでないと話の辻褄が合わないし、そうでなければ単に白けた作品ということになりかねない。でなければ、怪しい仕草を何度も見せたことも、最後は自分が首謀者であるかもしれない重要な秘密を、自らカミングアウトしたことも無に帰してしまう。だからこそ、自分はデュランダルが真犯人だったと、今でも信じて止まない。
 彼のせいで世界は混乱したかもしれないが、現実の世界と照らし合わせてみても、無視することの出来ない発言があったのも事実。もし、本当に「デスティニープラン」を打ち立てたいのであれば、レイとシンだけでなく、アスランとキラ、そしてカガリとラクスも誑(たら)し込むべきであったろう。デュランダル程の頭脳を持ってすれば、彼等を騙くらかすことは造作もないだろう。そうしていれば、今回のような強引な手口ではなく、時間を掛けて誠実に事を進めるこで、本当に世界は変革していたかもしれない。それくらい、デュランダルの手腕自体は評価していただけに、大切な人材をあんな形で失ってしまったことが悔やまれる。

「なんにせよ・・・」

 今回は「デュランダルの、デュランダルによる、デュランダルの為に用意された物語」という印象が強い。誰が何と言おうと、デュランダルが自作自演で創り上げた壮大な物語に、周りがいいように踊らされたのだと。それは「そうであってほしい」から「そうに違いない」と思い込む程である。それくらいデュランダルは興味深いキャラであったし、彼がいたからこそ、最後まで呆れずに見続けることが出来たのだと思っている。

【今回見たDVD】
タイトルメーカー発売年度
機動戦士ガンダムSEED
デスティニー VOL.1〜7
バンダイビジュアル2005年