螺旋回廊
2003年1月3日作成
最終更新日 2004年6月13日

ヒロイン別所感  一通りプレイして

『はじめに』

 多くのユーザーを恐怖のどん底に陥れた曰く付きのサイコ系サスペンスADV。それがどの程度の恐ろしさなのか、楽しみでもあり、恐ろしくもある。
 ちなみに、今回はシステムファイルを当てている。 (Version 5.35.06)



『救いのない話であることを改めて実感』

 事前にどんな内容かは判っていたものの「モノトーン調の背景にシックな柄の服装を纏ったキャラ」という世界観から連想されることは「平凡な日常から極めて逸脱した救いのない話」であることを改めて実感した。
 それにしても、この手の事件というものは、巻き込まれるのは簡単なのに、そこから逃れることはいかに困難かというのを、今回のシナリオで嫌というほど思い知らされた。そればかりか、今回の場合は、続編となる「螺旋回廊2」のように主人公側の介入で犯人を追い詰めることで、立場を逆転させて解決へ導くシナリオがほとんどなかったのが、なんとももどかしかった。エデンの隙の無さを考えると、メンバー全員は無理であろう。それなら、せめて、ムカつき加減ナンバーワンのちゅーただけでも、破滅に追いやる過程を描いた分岐があって然るべきだったかもしれない。

『シナリオについて』

 細かな配慮の行き届いた設定によってもたらされる、不自然さを感じさせない会話には何度となく感心した。そうした地道な積み重ねがあるので、犯人側の巧妙な手口によって、為す術もなく打ちのめされるヒロイン達の悲壮感というものも、より一層引き立たっていた。
 シナリオは主人公の佐伯祐司視点を基本に、同じ頃他のヒロインの動向を知ることの出来るマルチアングルシステムを採用している。佐伯視点では伺えなかった部分を覗く事で、事件の概要がきちんと浮き彫りにしているところは大いに評価できる。何気ない日常の会話でも視点によって感じ方、考え方にズレがあったり、それぞれの思惑が垣間見られたのが、何よりも良かった。
 個別で見ていくと、佐伯と同じ大学の講師である草薙香乃の、生い立ちから現在までの激動の半生は見応えがあった。佐伯の教え子の1人である桧山葉子は、事件の鍵を握る腐れ外道なちゅーたの餌食になってしまうところが、凄まじかった。その反面、メインであるはずの水代葵はやられてなんぼのヒロインでしかなかったのは残念。そして、事件そのもののトリガー役である、ゆかり視点で描かれる葵への慕情と、ある男子生徒との異常な恋愛のほろ苦さは、歪んだ感情特有の哀愁が漂っていたと思う。

「際立つちゅーたの異常さ」

 エデン絡みの異常な犯罪は、マルチアングルによってより強烈なものへと変貌させている。中でも事件の中心的な存在であるちゅーたの鬼畜三昧には、反吐が出るほどだった。彼に限らず、エデンのメンバーは皆絶対的な主従関係を強要し、女を性的欲求を満たす為の都合のいい道具になるよう、調教していく。そうやって奴隷に仕立てられていくヒロインの姿を見ていると、いたたまれなくなってしまう。
 自己中心的な思考の持ち主が集まるエデンの中でも、ちゅーたの異常さは抜きん出ていた。なんでも自分の思い通りにならないと気が済まず、それが適わぬなら手段を厭わず、相手の気持ちも無視して、手に入れようとする最低野郎だ。こんな奴に、ヒロイン達が言いように貶められてしまうのかと思うと、悔しくて堪らない。



【ヒロイン別所感】

草薙香乃

 登場するヒロインの中では香乃が結構好きだったかな。ノラリクラリとした捉えどころのない性格は嫌いじゃない。普段は物事を冷静に判断しているけど、変なことで上手く立ち回ることが出来ないもどかしさは、可愛らしいとさえ思った。しかし、それが徒となって事件に巻き込まれてしまったのだから、泣くに泣けない。

水代葵

 どちらかというと、あまり好きな方ではないかな。世間知らずのお嬢様はいいとしても、ちょっと物事を自分の都合のいいように解釈しすぎていて、それが鼻持ちならない。だったら、もっと意地悪で計算高い性格の方がよっぽどましだったかも。
 とはいえ、そんなに熱くなってまで否定する程嫌っている訳ではない。凌辱系のシナリオであることを鑑みると、ヒロインの魅力なんてない方が後腐れがなくていい。

桧山葉子

 葵とは正反対な葉子はというと、性格云々というより、過去から現在までの人生が、あまりにも過酷である。一応救われるシナリオはあるにはあるが、それも、数々の奇跡が起こらないと実現は非常に難しいというのが、彼女の不幸せオーラを助長している。一度損な役回りを受け持つイメージを持たされてしまうと、生涯苦労し続けなければならないのかと思うと、なんとも不憫でならない。

日比野照子

 かなりエゲツナイ目に遭ってしまう照子は、可哀相を通り越して、気持ち悪いとさえ思った。いくら、ちゅーたと似たタイプの尻軽系キャラとはいえ、物事には限度がある。というより、照子のような仕打ちこそ、「ちゅーた」が受けるべきだったと思う。



【一通りプレイして】

『何よりも腹立たしい「ちゅーた」』

 何よりも一番腹立たしかったのは「ちゅーた」の独りよがりな性格であろう。ただでさえ嫌みったらしいのに、エデンの連中同様、狡賢さだけは一人前で、恥も外聞もかなぐり捨てでも、人を貶めようとするところなんかは、史上最低の名に相応しい外道っぷりである。
 これに比べればユカリのやったことですら「まだマシ」とさえ思えてしまう。それに、あの人には狂気に駆られても仕方のない理由があったが、「ちゅーた」は元々そういう下劣な性格だったというのだから、不快感はさらに増長していった。シナリオの内容で、それも1人のキャラに対してこれ程の嫌悪感を起こさせられたことはない。一応、彼が何らかの組織(ひょっとしたらエデンかも)によって、粛清されるシナリオもあるにはある。しかし、その説明は箇条書き程度のもので、その後の行方はまるで判らなかったので、今一つ溜飲を下げられなかったのが、なんとも口惜しい。

『適材適所に使われていたBGM』

 オープニングで流れる「赤鼻のトナカイ」を筆頭に、精神世界を彷徨うかのようなBGMを、シーンに応じて効果的に使用していた。あらゆる場面において適材適所に使われていたので、陰惨な出来事がよりショッキングなものに感じられた。中でも「赤鼻のトナカイ」は、プレイ中でも耳にすることが度々あるのだが、苦痛極まりない場面でこの曲が流れ出すと、妙なミスマッチ効果で余計に薄ら寒さくなった。
 一部のエンディングで流れたりもするプログレロック風の「螺旋回廊テーマ」は、結末のおぞましさを的確に表現していた。また、ショックな場面に遭遇した時に用いられるオーケストラヒットを多用した「精神の揺さぶり」も非常に効果的で、事件の衝撃というものをより端的なものとして実感させられた。

『レベルの高い声優の演技力』

 BGMと並んでレベルが高かった声優の演技も作品に深みを与えていた。パッと聞いてて豊かな表情を見せる水代葵と、渋みのある存在感を見せる草薙香乃の演技は群を抜いていた。日比野照子も普段のしな垂れた感じも良く演じていたが、それ以上に彼女が同じ大学院生の天野宙に怒鳴り散らした時、一瞬自分に向けて言われたのかと錯覚するくらい鬼気迫るものを感じた。最後に桧山葉子は、大人しい性格という設定で目立たないものの、なかなかの演技だったとは思う。
 とにかく、個々の演技が卓越していたので、普段の会話は聞き入ってしまうし、陰惨な場面では苦痛に歪む演技が上手過ぎるが故に、聞くのが辛くて仕方がなかった。

『最後に・・・』

 シナリオ、世界観、演出が三位一体となって、常軌を逸した事件を作り上げたのは見事である。女性を人ではなく道具としてしか見ようとしない、非人道的な調教の数々に、始めのうちは嫌がりながらも、次第に相手の言いなりに作り変えられてしまうヒロイン達は、見るに耐えない痛々しさに満ちていた。そうしたアンダーグランドの世界を覗いてみたいという欲望があるならば、「螺旋回廊」によって十二分に満たされることだろう・・・。



【今回プレイした作品】
タイトル対応機種 メーカー発売年度
螺旋回廊win95/98 ルーフ1999年


【参考資料】
【ゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
螺旋回廊2win95/98/Me/2000Pro ルーフ2001年