『序盤から全体の共通シナリオまでの印象』
『一通りのシナリオを終えた段階での所感』
シナリオは大雑把にレゥルート(レゥ、草津みのり、篠片由真)と2人目ルート(リース、水上鏡)、そして本来の人格ルート(玉村穂乃香、本来の人格)に分かれている。このうち、レゥルートでは幸せを祈ることしか術がない現実の無常さというものが感じられ、個別でもレゥ編、みのり編が非常に素晴らしかった。特に、感情を表に出しつつも、時には笑顔という名の仮面で隠して精一杯の虚勢を張ったレゥとみのりの頑張りには何度となく胸を締め付けられた。「込められたメッセージについて」
ゲーム内に込められた沢山のメッセージにはいろいろと考えさせられた。登場するキャラの台詞の端々に「優しさ、労わり、思い遣り」というものが感じられ、そこから生きる上で大切だと伝えようとしていたのではないだろうか。その為、事件が無事解決する各ヒロインのAエンドのような、誰かと一緒に人生を歩んでいく幸せというものは、ある意味どうでもいいのかもしれない。それよりは、一期一会となるかもしれない出会いを貴重なものとして大事にしようということなのであろう。一人の力で出来ることが限られているからこそ、誰かの幸せを切に願わずにはいられない。そうしたみんなの気持ちを丁寧に描写することを心掛けたシナリオだったからこそ、終始切ない気持ちで支配させられたのだと思う。
【各ヒロインルートについての所感】
「納得のいかなかった謎の核心について」
レゥルート
そうした設定が個別のシナリオでも十分活かされていて、子供ならではの純真さで訴え掛けてくる描写がレゥ編、みのり編の多くで見受けられ、それが二人の評価をさらに引き上げる要因になっている。
そこへいくと、由真編のシナリオは上記のものに比べると多少見劣りするものの、自分の弱みを知られまいと奮闘する由真の不器用さは、一服の清涼剤であった。一時期は由真の身体の具合を間違った方向で心配していたが、その点に関しては大丈夫だったことに心底ホッとしている。
2人目ルート
事の真相に関しても、リース編、鏡編、どちらのシナリオも本編(レゥルート、本来の人格ルート)とはあまり関係がないという事実の発覚によって、彼女らに対する興味というものが急速に醒めてしまった。
いろんな意味で不満だらけではあったが、唯一救いがあるとすれば、レプリスであることを頑なに貫こうしたリースの必死さに共鳴できたことだろう。一体どんな心境で最後の手段を強行したのかをリースの立場で考えると、なんともいたたまれない気持ちになってしまった。
本来の人格ルート
そもそも、ある者の介入によって凍結させられた本来の人格の記憶は、一体どのような内容だったのだろうか。この辺りの事情というものが憶測の域を脱しないものだから、いくら本来の人格が苦しんでいても「可哀相」という感情以上のものがどうしても湧き上がってこなかった。
一体どのような経緯で彼女は誕生し、船上でレゥの人格と交代する直前までは、誰とどのような遣り取りがあったのだろう。そのくらいなら想像すればいいのでは、と言われればそれまでだが、それでもやはり、その辺の内情を的確に描写していたら、きっと想像もつかないような感動をしていたかもしれないな、と思ってしまう。
個別のシナリオでは、前向きに生きていこうとする本来の人格と穂乃香の生き様は素直に素晴らしいと思う。それに、本来の人格とのわだかまりが徐々に薄れ、次第に打ち解けていくのが伺えた展開も、悪くはなかった。しかし、キャラの魅力という点で考えると、2人とももう一歩何かが足りなかったように感じられてならない。
それでも、レゥと渡良瀬家に関する長き因縁が引き起こした悲劇が判明しただけでも、良しとしなければならないだろう。そこで判ったことは「親の勝手な思い込みで子供を育ててはならない」という教訓ではないだろうか。父恭一の歪んだ愛情によって息子恭介の精神ばかりか、エゴの象徴であるレプリスにまで悪影響を及ぼした罪の大きさは計り知れない。己の夢実現の為には手段を厭わない恭一の傲慢さは許しがたく、本来なら唯一罰を受ける人間として、全ての罪を償うべきだったろう。それが、今となっては永遠に不可能だというのが、なんとも口惜しい。
それに、事実を額面どおり受け止めるならば、この作品の中で罪を問われなければならないのは恭介ではなく、渡良瀬老人の方であると言わざるを得ない。恭一の影響が少なからずあったとはいえ、渡良瀬老人の一方的な思い込みが、一連の事件を引き起こしたのは明白で、あまつさえその責任を恭介に擦りつけようとした身勝手な発想には、怒りを通り越して呆れてしまった。
そして、この作品の中で最も納得のいかなかったのは、前作の有り得ない結末からの続きになっていたということだ。前作でも述べていたが、恭介に他のヒロインに構うだけの心の余裕がなかった状態では、レゥ以外の女性を選ぶのは到底有り得ない。レゥと付き合って何年も経っているのならまだしも、わずか一ヶ月の間に恋愛の対象が劇的に変化してしまったのが信じられない。前作の中でも特に釈然としなかった部分だっただけに、その話の続きという設定だったと知って大きく失望させられた。