My Merry Maybe
2003年10月5日作成
最終更新日 2003年10月30日

各ヒロインルートについての所感
レゥルート 2人目ルート  本来の人格ルート
その他

『序盤から全体の共通シナリオまでの印象』

 前作で問題となっていた部分は全て解消しただけに留まらず、作品自体のクオリティーも見違えるようにパワーアップした。ただ、これだけ快適な操作環境を構築する技術があるのなら、ドリキャスからの移植だった前作ではそれが何故出来なかったのかが悔やまれてならない。
 シナリオのテンポにしても、確実に話を進めることに専念したことや、長すぎず短すぎずなエピソード毎で区切る構成に徹していたことにいたく感心した。話が落ち着くようになって多少間延びした部分が見受けられるようになったものの、前作で嫌という程点在していた無駄な描写は大幅に縮小されていたことも大きく評価したい。そうした様々な要因の積み重ねによって熟成されていたからこそ、現時点では堪能させてもらっているのだと思う。

『一通りのシナリオを終えた段階での所感』

 シナリオは大雑把にレゥルート(レゥ、草津みのり、篠片由真)と2人目ルート(リース、水上鏡)、そして本来の人格ルート(玉村穂乃香、本来の人格)に分かれている。このうち、レゥルートでは幸せを祈ることしか術がない現実の無常さというものが感じられ、個別でもレゥ編、みのり編が非常に素晴らしかった。特に、感情を表に出しつつも、時には笑顔という名の仮面で隠して精一杯の虚勢を張ったレゥとみのりの頑張りには何度となく胸を締め付けられた。
 そこへいくと、由真編はそれらに比べるとちょっと格が落ちるけど、彼女自身のシナリオに入る前までの喜怒哀楽は見ていて楽しかった。最後に出現する本来の人格ルートも評価は由真編とそう変わらないものの、穂乃香編にしろ、本来の人格編にしろ、未来への希望を見出そうと一所懸命に頑張る姿勢には感服させられるところがあった。
 反対に、2人目ルートでのみ登場するリースと呼ばれる人格へ交代する展開は個人的に抵抗があった。個別のシナリオで見ても、伝えようとするメッセージがアヤフヤで理解し難いせいもあって、リースに対して感情移入することがほとんど出来なかった。それは、つまり「レゥという人格には幸せになってほしいと願えるが、リースにはそれを祈りたいと思わせるだけの押しが足りなかった」ということだ。

「込められたメッセージについて」

 ゲーム内に込められた沢山のメッセージにはいろいろと考えさせられた。登場するキャラの台詞の端々に「優しさ、労わり、思い遣り」というものが感じられ、そこから生きる上で大切だと伝えようとしていたのではないだろうか。その為、事件が無事解決する各ヒロインのAエンドのような、誰かと一緒に人生を歩んでいく幸せというものは、ある意味どうでもいいのかもしれない。それよりは、一期一会となるかもしれない出会いを貴重なものとして大事にしようということなのであろう。一人の力で出来ることが限られているからこそ、誰かの幸せを切に願わずにはいられない。そうしたみんなの気持ちを丁寧に描写することを心掛けたシナリオだったからこそ、終始切ない気持ちで支配させられたのだと思う。


【各ヒロインルートについての所感】

レゥルート

 幸せを祈ることしか術がない現実の無常さというものを全ルート中最も強く感じられた。今置かれている現状というものを把握した上で、自分のことで真剣に悩むみのりの姿から醸し出される儚さには、なんとも辛抱たまらない愛しさがあった。もちろん、健気さ、いじらしさ、意思の強さ、幼さ、といったものが綯い交ざることで、新たな存在感を開拓したレゥも、前作以上に可愛らしかった。
 そうした設定が個別のシナリオでも十分活かされていて、子供ならではの純真さで訴え掛けてくる描写がレゥ編、みのり編の多くで見受けられ、それが二人の評価をさらに引き上げる要因になっている。
 そこへいくと、由真編のシナリオは上記のものに比べると多少見劣りするものの、自分の弱みを知られまいと奮闘する由真の不器用さは、一服の清涼剤であった。一時期は由真の身体の具合を間違った方向で心配していたが、その点に関しては大丈夫だったことに心底ホッとしている。



2人目ルート

 レゥとの楽しい日々の印象が強かっただけに、唐突に人格が入れ替わられても、しばらくは由真のように困惑するのが、普通であろう。それから、何かのきっかけで好意的になるのならいざ知らず、何の前触れもなくリースのことを必要だと主張するようになる浩人の変貌っぷりが、俄かに信じられなかった。その後もリースに対して曖昧な態度を取り続けるのもどうかしているが、それを受け入れてしまうリースAエンドも同様におかしいと感じた。
 事の真相に関しても、リース編、鏡編、どちらのシナリオも本編(レゥルート、本来の人格ルート)とはあまり関係がないという事実の発覚によって、彼女らに対する興味というものが急速に醒めてしまった。
 いろんな意味で不満だらけではあったが、唯一救いがあるとすれば、レプリスであることを頑なに貫こうしたリースの必死さに共鳴できたことだろう。一体どんな心境で最後の手段を強行したのかをリースの立場で考えると、なんともいたたまれない気持ちになってしまった。



本来の人格ルート

 シナリオの中でも最も重要な担い手となっている本来の人格なんだけど、ゲーム中に提示される船事故の情報の不完全さには、戸惑いを隠しきれない。もちろん、判った範囲の事実だけを整理して考えれば、一連の事件に巻き込まれた被害者と見なせるものの、それ以上のことは残念ながら思い浮かばなかった。
 そもそも、ある者の介入によって凍結させられた本来の人格の記憶は、一体どのような内容だったのだろうか。この辺りの事情というものが憶測の域を脱しないものだから、いくら本来の人格が苦しんでいても「可哀相」という感情以上のものがどうしても湧き上がってこなかった。
 一体どのような経緯で彼女は誕生し、船上でレゥの人格と交代する直前までは、誰とどのような遣り取りがあったのだろう。そのくらいなら想像すればいいのでは、と言われればそれまでだが、それでもやはり、その辺の内情を的確に描写していたら、きっと想像もつかないような感動をしていたかもしれないな、と思ってしまう。
 個別のシナリオでは、前向きに生きていこうとする本来の人格と穂乃香の生き様は素直に素晴らしいと思う。それに、本来の人格とのわだかまりが徐々に薄れ、次第に打ち解けていくのが伺えた展開も、悪くはなかった。しかし、キャラの魅力という点で考えると、2人とももう一歩何かが足りなかったように感じられてならない。

「納得のいかなかった謎の核心について」

 結局のところ全ての謎が明らかになった訳ではないのが少し心残りである。やはり船火事の原因というものは知りたかったし、本来の人格の過去というものも非常に興味がある。この辺の疑問が解消してくれないことには、レプリスに関わる者達に対して100%感情移入することは、どうやら出来なさそうだ。
 それでも、レゥと渡良瀬家に関する長き因縁が引き起こした悲劇が判明しただけでも、良しとしなければならないだろう。そこで判ったことは「親の勝手な思い込みで子供を育ててはならない」という教訓ではないだろうか。父恭一の歪んだ愛情によって息子恭介の精神ばかりか、エゴの象徴であるレプリスにまで悪影響を及ぼした罪の大きさは計り知れない。己の夢実現の為には手段を厭わない恭一の傲慢さは許しがたく、本来なら唯一罰を受ける人間として、全ての罪を償うべきだったろう。それが、今となっては永遠に不可能だというのが、なんとも口惜しい。
 それに、事実を額面どおり受け止めるならば、この作品の中で罪を問われなければならないのは恭介ではなく、渡良瀬老人の方であると言わざるを得ない。恭一の影響が少なからずあったとはいえ、渡良瀬老人の一方的な思い込みが、一連の事件を引き起こしたのは明白で、あまつさえその責任を恭介に擦りつけようとした身勝手な発想には、怒りを通り越して呆れてしまった。
 そして、この作品の中で最も納得のいかなかったのは、前作の有り得ない結末からの続きになっていたということだ。前作でも述べていたが、恭介に他のヒロインに構うだけの心の余裕がなかった状態では、レゥ以外の女性を選ぶのは到底有り得ない。レゥと付き合って何年も経っているのならまだしも、わずか一ヶ月の間に恋愛の対象が劇的に変化してしまったのが信じられない。前作の中でも特に釈然としなかった部分だっただけに、その話の続きという設定だったと知って大きく失望させられた。


【その他】

『簡単な時代考証』

 この作品の世界は果たしていつの時代の話なのだろうか。一応携帯電話は出てくるものの、舞台となる村では使用不可にすることで具体的にどんな機能があるかははぐらかされた。他に手掛かりはないかと探すと、本編の世界では旧式とされるDVDラジカセが登場していた。そこでの説明から察するに、現在(2003年)でいうところのカセットテープ式ラジカセに相当する扱いであるようだ。あと、ゲームの始めに登場するトラックのエンジン音をよく聞くとディーゼルのようだし、デザインも現在のそれと大して変わらない。これらを合わせて考えると、そんなに遠くの未来ではないかと思えなくもない。
 しかし、前作から活躍しているレプリスが有する機能の数々を目の当たりにすると、ちょっとやそっとの技術革新では到底不可能なレベルの代物である。例えば、取り外し可能な部分にあるべき繋ぎ目が全く見当たらないことや、怪我をすれば修復するところなんかは、科学という概念を遥かに超越してしまっている。それでいて、身体の基本的な構造は限りなく人に近く、普段の生活も人と変わらないというのだから凄すぎる。これだけ想像を絶する技術が駆使されていることを考慮すると、何百年、下手したら何千年もの未来の話というのが、個人的な見解である。

『システム』

 前作にあったどうしようもない部分の修正は当然として、それ以外で目に見えて向上したのはスキップの速度だった。ボタンを押しっぱなしにしないと最速の状態を保てないのが玉に瑕だが、通常のキャラCGによるポーズの変化を省略することによって、CGの切り替えで発生していたタイムラグを、減らすことに成功したのは大きな進歩である。あとは、おおよそノベルタイプのゲームに必要なものはほぼ揃っていると思う。



『最後に』

 前作との繋がり云々を抜きにすれば、全体の共通ルート、並びにレゥ編とみのり編で味わえる切ないシナリオが体験出来たことには十分満足している。それ以外の部分では程度の差こそあれ、前作を彷彿させる冗長な描写の水増しが目立っていたものの、レプリスという人工生命体を通して、人間の在り方を様々な角度から諭すシナリオには、大いに考えさせられた。ただし、船事故関連については霧に包まれたままなので、もし続編があるならば、次こそは何もかもすっきりとした形で収束してくれることを切望する。
 最後に、本作をより深く楽しむ為には前作の「マイ・メリー・メイ」もプレイしておくべきなのだろうが、実際のところ、強くはお勧め出来ない。最大の理由は、本作だけでも十分に事実関係が掴めることをプレイを通じて感じていたからだ。最も、前作の評価が個人的に芳しくなかったことも、大きな要因となっている。


【今回プレイしたゲーム】
タイトルメーカー 対応機種発売年度
My Merry MaybeKID PS22003年


【参考記録】
既読メッセージ数選択肢達成数 総プレイ時間
42719 (99.93%)210 (100.00%) 79時間05分


【参考資料】
『ゲーム』
タイトルメーカー 対応機種発売年度
My Merry MayKID PS22003年