問題提起作品集
2002年8月8日作成
最終更新日 2003年7月26日

作品別に気になったこと
いたみ  ひみつ  めまい  うわさ  なみだ  とびら  であい1巻

『きっかけ』

 ランク王国のコミックランキングに於けるこの作品の解説にビビッとくるものを感じてすかさず購入することに相成った。

「全体の印象」

 扱っている題材が「援助交際、ドラッグ、いじめ、校則、自殺」などニュースでよく取り上げられる問題ということもあるが、その内容たるや、言葉にすることが躊躇われるくらいの衝撃を受けた。ただでさえ洒落にならないような出来事を女の子の視点から殊更リアリティーに描写することでとんでもない寒気を何度も体験した。

『結論』

 「雫」のような歪んだ精神世界を「MOON.」のように女の子の視点から複雑な心境を語ってもらうことで事件のおぞましさというものを上手く引き出していると思う。さらに、事件に巻き込まれた時(もしくはその後)の容赦のない恐怖のリアリティーさは「螺旋回廊(2は除外)」や「好き好き大好き」(いずれも他人のレビューによる印象ではあるが)を彷彿させる。それだけにかなり人を選ぶ内容になっているとは思うが、少しでも興味を抱いているのであれば、どの作品でもいいから一度は手にして読んでみることをお勧めする。きっといろいろと考えさせられるはずだ。



【作品別に気になったこと】

いたみ

 物事を第三者の視点から冷静に描ききっていることもさることながら、今そこにある出来事を真摯に伝えようとしているのことがそれこそ痛いほど伝わってきた。
 一番印象に残っている台詞は、雑誌記者が女子高生に「あなたの初体験は、あげただった?それとも、捨てただった?」と質問するところだ。この部分は何度読み返しても背筋がゾワゾワするし、質問の意味するところを知った瞬間の衝撃といったらなかった。


「ゆがみ」

 校則で生徒を雁字搦めにする話は聞いたことがあるが、言うことを聞かなければ生徒達の目の前で手酷い体罰を見せしめでやってしまうのはいくらなんでもやりすぎだろう。だからといってそんなことをする教師だけを糾弾すればいいのかと言えばそれは違う。
 確かに、生徒に大怪我をさせるほどの暴力や過剰な職権乱用は許されるべきではない。しかし、まるで囚人同然の扱いを受けても教育熱心な先生だともてはやす親や、内申書に悪く書かれることを恐れて内心では変だと気づきつつも言いなりになってしまう生徒の方がよほど問題ではないだろうか。
 明らかに学校側に非があるにも関わらず、当時の教育制度を盲信していた親はこれっぽっちも疑おうとはしなかった。そうした親の態度を見ていたら子供も言われたとおりに従ってさえいればいいと安易に考えるようになるのはある意味当然といえる。

 こうした状況下では誰かが反対したとしても教師達は聞く耳持たないばかりかその場で散々な目に遭わされ、他の生徒からは白い目で見られ、親からは不良のレッテルを貼られてしまうのがオチだろう。ならば徒党を組めばいいのだろうが、大多数の生徒は学校側による巧妙な洗脳プログラムでモルモット同然にされているのでそれも難しい。
 学校では教師にも生徒にも見放され、家でも子供の助けに親は耳を傾けてくれないというのであれば、強行手段で訴えてしまうのも致し方ないところだろう。やがてそれすらも無駄だと悟ると「死をもって抗議する」という最後の掛けに出るより他に術はない。今回はたまたま事態が好転したからいいようなものの、実際のところそこまでしなければ変えられないかと思うと遣る瀬なくなってきた。



ひみつ

 女性側に落ち度があろうがなかろうが、レイプされたという事実が加わるだけで途端に立場が悪くなってしまう現実をまざまざと見せつけられた。
 かつてのドラマや多くの陵辱ものでは必死の抵抗も適わず犯されてしまう、なんてパターンが多かったが、実際同じような状況になったらそんなこと出来るわけがないんだと考えを改めた。そりゃ数人の男にナイフで脅されれば自分の身の安全を最優先するのが人情というものだろう。
 さらにレイプされたことで心に深い傷を負ったミカは学校に通うことが困難になるばかりか、男性に対する不信感が強まるあまり、知らない異性はもとより恋人ですら近づいてきただけで過敏な反応をするところは見ていて辛かった。
 こうして平穏な生活を送ることが困難にされてしまった被害者に対して、加害者はというと何食わぬ顔で平然と過ごしているのかと思うと許せない。しかし、たとえ裁判で勝訴しても被告は数年で出所してしまうし、原告側は世間から好奇の目で見られるという苦痛に耐えなければならない。これだけ被害者に不利な条件が揃っていると裁判を起こすことがいいのかどうか真剣に悩んでしまう。



めまい

 誰も好き好んで堕落の世界に踏みいれたいとは思わない。しかし、ありのままの自分というものを否定され続けたら京子のようにドラッグで現実逃避なんて恐ろしいことも十分あり得る。
 幼少の頃から条件付きでしか愛されずに育てられた子供は両親に振り向いてほしいことだけを考えて必死に努力しようしてしまう。こんな状態が長く続けば健全な心が育つはずもなく、後で取り返しのつかないことになりがちだ。
 これは「ゆがみ」の時にも感じたが、薬に手を染めるなどして気でも触れたかのような態度をとらければ育て方の間違いに気づいてくれないのだとしたら、とても悲しい。京子の場合は両親が過ちに気づいてくれたからいいようなものの、下手したらアヤと同じように悲惨な末路を辿っていたかもしれない。
 勉強さえ出来れば立派な大人になれるという誤った固定観念が世の中から完全に払拭されない限りはこれからも似たような悲劇は繰り返されてしまうだろう。



うわさ

 いくつものボタンの掛け違いによってとんでもない事態に発展してしまうということをまざまざと見せつけられた。
 事件を深刻化させた一番の原因は被害者まなみの態度に一貫性がなかったことだろう。何度か警察に届け出てるけど、本当に止めてほしいのであれば親に話し、身なりもきちんとしなければと考えるのが普通であろう。それに、最初の相談であまり乗り気でない態度を取れば警察だって「それ程深刻な事件ではないな」と判断してしまう。
 まなみの優柔不断な態度によって警察の判断は狂い、友人達には多大な迷惑を被らせ、本当のことを知らされてなかった両親も深く傷つけてしまった。もちろん、彼女の元彼文彦のストーカー行為は収まるどころか日に日に酷くなり、やがては最悪な事態に発展してしまう。
 ストーカー事件がなかなか解決しないのはこうした複雑な事情があるからだろう。そう考えると想像以上にやっかいな犯罪なんだなと改めて思った。

「さけび」

 虐められていた生徒がある日突然虐める側になるのはよくある話だが、それがエスカレートして終いには元虐められっ子の精神が崩壊してしまうところはなんだかやり切れない気持ちで一杯になった。
 確かに相沢かおりは虐められて然るべき性格だったかもしれないが、彼女なりに精一杯の叫びで必死に助けを求めていたことは充分伺えた。にも関わらず、誰一人として心に響くことがないのだとしたら、これ程遣る瀬ないことはない。



なみだ

 教師の指導能力が優れていれば何をしても許されるという思い違いが正されないといつまでも不当な辱めを受けてしまう。しかし、これまでの実績を知っているだけに生徒達はたとえどんな屈辱を受けようとも、頑張れば都大会出場の夢が叶うかもしれないという誘惑にはなかなか抗えないだろう。そういう心理を利用してやりたい放題のエロ教師は本当に最低である。
 それなのに性的な嫌がらせに対して抗議する際、当事者だけでなく周囲への影響を考えてきちんと下準備をしなければならないという現状は如何ともし難いものを感じた。
 例えば裁判を起こすにしても、本人だけでなくその関係者までもがさらし者になってしまうことを熟慮しておかないと、勘違いしたマスコミにあることないこと書き立てられてしまう可能性がある。もちろん周辺の人々への理解を得るための入念な配慮もしなければならないだろう。セクハラを含めた性的虐待に立ち向かうにはまだまだ大きな障害があるようで、その辺りの環境が改善されない限りは今後もこうした問題は後を絶たないのではないかと思う。



とびら

 現実から逃避する方法は数あれど、成功さえすればどんな嫌なことからも永遠におさらばできるのは自殺だけである。また、やりようによっては恨みを抱く相手に復讐することが出来るのも自殺だけだと思う。ただし、その為には自らが命を絶つだけでは不十分で、最低でも自殺に至る理由を詳細に書き綴った遺書を残さなければなるまい。
 理想は自殺する前に入念な計画を立てて誰が死に追い込んだのかということが公衆の面前に知れ渡るようにすれば完璧である。しかし、普通死のうと決意した人間にそうした余裕があるはずもなく、結局はアスパラのようにひっそりと死んでしまうのが関の山だろう。
 それに当初の目的は「耐え難い苦痛からの解放」だったので、彼女にしてみたらそれが達成されただけで十分満足しているかもしれない。ただ、もし真夏の言うように「くだらない連中によって自殺という選択肢を選ばされた」のだとしたら、これ程悲しいことはない。



であい(1巻)

 世の中に押し寄せるデジタル化の波によって、犯罪の手口もそれに合わせるかのように変貌を遂げていた。出会い系サイトはまさにその代表例で、ネットを通じて直接相手に会えることを上手に活用すれば、誰でも気軽にアンダーグラウンドな世界を体験できてしまう。そこでは現代の裏社会が見せる甘い蜜が今か今かとてぐすね引いて待ち構えていて、その誘惑に一旦引き込まれてしまうと抜け出すのはかなり難しいようだ。
 手軽という点では、カメラ付き携帯電話というのも使い方次第でいかようにも悪用されてしまうことに、今という時代を感じずにはいられない。考えてみれば、カメラ付き携帯の普及によって、いつ、どこで、誰に撮られ、そして画像を送られるかもしれないというのはかなりの脅威である。その携帯を駆使して狡賢くやってしまうと今回のように援助交際する親父から金を巻き上げるなんて恐ろしい芸当も可能にしてしまう。
 こうして便利さばかりを追求した社会から生まれた歪は、やがて殻を破って暴走し始める。狂気に満ちた表情で暴れるその姿は、現代の日本が抱える課題であるように思えてならない。



【今回読んだコミック】
タイトル作者 出版社出版年度
問題提起作品集
(いたみ、ひみつ、めまい
うわさ、なみだ、とびら
であい1巻)
ももち麗子 講談社1998年
(いたみ)


【参考資料】
『本』
タイトル作者 出版社出版年度
子どもの
心をいやす
魔法のメルヘン
アンゲリーネ
・バウアー
(池田香代子・
鈴木仁子=訳)
主婦の友社2001年
桶川女子大生
ストーカー
殺人事件
鳥越俊太郎
&取材班
メディア
ファクトリー
2000年