『きっかけ』
『とにかく考えさせられる』
ラブコメ漫画としても十分面白いのだけど、ミステリーの要素が絡んでいることに気づかされてからは「どこまでが事実でどこからが嘘なのか」というようなことを考えるようになった。「侮れない小悪魔の言動」
魔本から登場する条件は「気まぐれ」だと言い切り、源造が「嘘つくな」といえば「俺はあまり嘘はつかない」といって煙に巻く。こうした言動だけでも十分侮れないのに、少しでも都合が悪くなりそうになれば記憶をすり替え、機嫌が悪くなれば呪いを掛ける(厳密には生きる力を奪う)というのだから、これほど危険なものはない。「はたして小悪魔は人の記憶を自在に操れるのか」
もし、これが本当なら小悪魔は人の記憶を自在に操ることが可能だということになる。実際のところ、12巻では小悪魔とのやり取りを思い出そうした安田に「小悪魔。」という台詞を再三吹き込むところや、15巻で美木が気を失っている間に「メグは魔法で女の子にされたんだ」と再び思いこませている。これらをそのまま信じれば、実に巧妙な手口で2人の記憶を差し替えたことになる。『意外と細かいところに気を配っている』
こういっては失礼を承知で言わせてもらえば、この作品は少年漫画にしては意外と細かいところに気を配っている。なんでもないような部分でも何かしらの配慮をそこかしこで確認する度に作者の恐るべき才覚を認識させられる。『メグはメインを貼るに相応しい理想の主人公』
男と女の長所を兼ね備えたメグは性別を越えたとてつもなく強烈な存在感をアピールしている。何をやっても様になるし、喜怒哀楽の表情も絵になる(但し5巻以降)彼女はまさにメインを貼るのに相応しい理想の主人公といえる。『普通の少年でしかない藤木が立派に活躍していることに驚く』
脳味噌に何が詰まってるのか判らないほど馬鹿ながらも打たれ強さは誰にも負けない源造、変態であることを誇りに思っている安田、恥ずかしながらも武士を目指す頭の固い正義馬鹿小林一文字(以下小林)の3人はいずれもレギュラーとして立派に活躍させられるだけの個性を持ち合わせている。そこへいくと藤木一郎(以下藤木)は名は体を表すという言葉通りごく普通の少年でしかない。彼の地味さを考えると、本来なら藤木のようなキャラはエキストラ程度の存在でしかない。それなのに、気がつくとメグ団の一員として地位を確立させているというのだから驚かずにいられない。「普通であることを逆手に取る」
藤木が生き残れた勝因、それは普通であることを逆手にとって「だから苦労しているんじゃないか」ということを事ある毎に強調させることで藤木のポジションは見事に確立したといえる。普通であるが故の苦悩とでもいいだろうか。自分にはなんの取り柄もない、だからこそがむしゃらに頑張れるという考えは普通ならではの面白い発想だと思う。『目に注目』
5巻辺りからメグと美木の表情が安定しているように感じた。どうして変わったのか調べてみると、どうやら目の輪郭にその秘密があるようだ。『未だに強く印象に残るシーン』
数多くのバトルが繰り広げられたが、中でも、美木の許嫁の岳山隆雄(以下岳山)と源三による2度目の対決で、全体重を拳に預けることで見事勝利するシーン(9巻、第82章)は未だに強く印象に残っている。『三度目となる岳山グループとの対決』
岳山グループとの対決も、流石に三度目となると展開的に無理な部分が、多くのところで見受けられた。これはメグ団、岳山グループ、両陣営に言えることで、お互いに詰まらないミスで隙を見せてしまうというのが、展開上仕方がなかったこととはいえ、出来ればそういうものは見たくなかった。見たくなかったといえば、最後の力を振り絞ることだけを頼りに困難を乗り越えるという、勧善懲悪ものでよく見られるご都合主義な展開も、極力避けてほしかった。それでも戦いの前半までで魅せてくれた、相手の裏を掻くメグの鋭い洞察力には唸らされた。それに、これまでは活躍の場が少なかった藤木と安田にも、彼等らしい手段でメグの手助けをするという重要な役目を果たしていたことにも、少なからず満足している。『最後に』
最終巻で数々の謎が明らかになるのだけど、結果はどうであれ、メグが男か女かなんてことは、実はどうでもいいような気がした。それは、最後に彼女の願いが叶ったかどうかを小悪魔が質問するところも同様で、結局は「自分らしく振舞えていたか」どうかが重要だったのではないだろうか。それ以外では、小悪魔関連の謎はそのまま放置されてしまったが、これまでに提示されたメグ、美木にまつわる疑問について納得のいく回答が得られただけでも、良しとせねばなるまい。それに、なんだかんだいって「男女らしさとは何か」を意識した数々の興味深い発言は、面白くもあり、考えさせられもした。タイトル | 作者 | 出版社 | 第1巻出版年度 |
天使な小生意気 1〜20巻 | 西森博之 | 小学館 | 1999年 |