天使な小生意気
2002年8月28日作成
最終更新日 2003年11月20日

ミステリアスな部分を検証
天使恵  魔法使いのじいさん  蘇我源造  花下院美木  小悪魔
「天使な小生意気」の魅力とは  気になったことなど

『きっかけ』

 コミック購入の大半の基準はアニメ化されたものを見て判断することが多い。今回もその例に漏れず、数話分見てみたところ「ひょっとしたら面白かも」と思い、少しずつ買い足していくことになった。そうして揃えているうちにこの作品の本当の魅力というものが見え始めると、だんだんと深みにはまっていった。



『とにかく考えさせられる』

 ラブコメ漫画としても十分面白いのだけど、ミステリーの要素が絡んでいることに気づかされてからは「どこまでが事実でどこからが嘘なのか」というようなことを考えるようになった。
 しかして、天使恵(あまつかめぐみ、以下メグ)は本当に元は男の子だったのか、花華院美木(以下美木)の正体(というのもなんだけど)は、そして、メグ(ひょっとしたら美木も?)は小悪魔にどんな願いをしたのか。その辺りの謎を上手く物語に絡めているのが判るようになるのに比例して、興味深さも増していった。
 全般を通して感じるのは男らしさ、女らしさ、そして自分らしさとは、ということを読者に問いかけていることだ。こうしたら格好いいとか、男なら女ならこうあるべきだ、というような台詞を見るにつけて、自分らしさとは一体なんなんだろうなとつくづく考えさせられる。



【ミステリアスな部分を検証してみる】

 てっきりメグは魔本によって女の子に変えられてしまったとばかり思っていた。それが大和撫子杯編までを見終えると、そのこと自体が本当かどうか疑わしくなってきた。理由は恵に魔法を掛けた小悪魔は人の記憶を都合良く改変する可能性があるからだ。だとすると、実際はどこまでが本当でどこからが嘘だというのだろう。次からは気になる部分を大まかに検証してみようと思う。

天使恵

 まず1巻冒頭で自分より背の高い少年と喧嘩していたが、実はかつて悪王という異名をもっていた蘇我源造(以下源造)ではないかという疑問だ。このことで源造は10巻でメグから頬の傷のことを聞かれてその説明をするのだけど、これらの話と冒頭の部分を照らし合わせると、割と一致しているように思える。
 確かに源造の記憶は多少食い違っているし、メグと美木の2人は記憶にないと証言している。また、メグは3巻で「9歳の時源造に似た男の子をやっつけた云々」ということも話している。しかし、9歳の時に関しては「同年代の男に負けたことはない」と源造はきっぱり言っていたし、彼女らに関しても小悪魔によって記憶をすり替えられ、源造も部分的に勘違いしていただけだと仮定すれば、当時の少年は源造である可能性は十分あり得る。
 また、この時メグは「男の中の男」にしてくれと小悪魔に頼んで「女の中の女」にされたということになっているが、これも本当はどうだったんだろう。もしかしたら当時はちっとも女らしくない格好に嫌気がさしていてつい「女の中の女にしてくれ」と願ったのかもしれない。で、その願いは成就したものの、その時何らかの理由で記憶を改竄されたのではないだろうか。

魔法使いのじいさん

 もしそうだとすれば、格好だけの魔法使いにされたというじいさんの話も怪しくなってくる。彼の話だと小悪魔に騙されて云々ということになっているが、ひょっとすると元々の願い自体は「魔法使いの格好にしてくれ」だったのかもしれない。そうして願いは叶ったものの、恵と同様に記憶を書き換えられたのではないだろうか。そうするとじいさんの言ってることにも合点がいく。

蘇我源造

 こうなってくると源造が恵に惚れさせようとして失敗したというのもおかしくなってくる。今読み返してみると彼女の態度にそれ程の変化は見られなかった。だとすると、小悪魔の魔法に関係なく当時からすでに恵は源造に惚れていたということになる。

花華院美木

 大和撫子杯で男顔負けの格闘センスを見せたことで、美木の正体というのも俄然気になりだしてきた。人づてでメグが人質の身代わりになったと聞くや否やまるで別人のように豹変して救出に向かう美木を見ていると、彼女もメグ同様普通の女の子ではないことが容易に伺える。ということは、美木も小悪魔になにかしらの願いを叶えてもらったのだろうか。だとするなら、元はどんな状態で何を願ったというのだろうか、非常に気になる。

小悪魔

 謎めいているという意味では小悪魔の存在も見逃せない。そもそも「男の子だったメグが女の子にされてしまった」とされるのも、この小悪魔に魔法を掛けられたからに他ならない。一体どういう目的で魔法を掛けていて、それがどのくらいまで影響を与えられるというのだろうか。

「侮れない小悪魔の言動」

 魔本から登場する条件は「気まぐれ」だと言い切り、源造が「嘘つくな」といえば「俺はあまり嘘はつかない」といって煙に巻く。こうした言動だけでも十分侮れないのに、少しでも都合が悪くなりそうになれば記憶をすり替え、機嫌が悪くなれば呪いを掛ける(厳密には生きる力を奪う)というのだから、これほど危険なものはない。
 だからといって願いを叶えてないのかというとそうでもなさそうだ。なんの疑いも持ってない時は、メグや源造、そして魔法使いの爺さんは自分の意図に反する願いを掛けられたのだとばかり思っていた。しかし、メグと魔法使いの爺さんは小悪魔によってそのように思いこまされ、源造も本人と周りを勘違いさせたのだと考えれば、いずれも願いは成就していたことになる。

「はたして小悪魔は人の記憶を自在に操れるのか」

 もし、これが本当なら小悪魔は人の記憶を自在に操ることが可能だということになる。実際のところ、12巻では小悪魔とのやり取りを思い出そうした安田に「小悪魔。」という台詞を再三吹き込むところや、15巻で美木が気を失っている間に「メグは魔法で女の子にされたんだ」と再び思いこませている。これらをそのまま信じれば、実に巧妙な手口で2人の記憶を差し替えたことになる。
 また、12巻で源造に見せた2度の未来予知というのも考えようによっては恐ろしい。いくら小悪魔がそうなるように仕向けた(と思われる)からといって、当人に自覚がない以上どこまでが事実でどこからが嘘なのかなんて判りようがない。そう考えると、これ程恐ろしいことはない。



【「天使な小生意気」の魅力とは】

 ここからは「天使な小生意気」の魅力について自分なりに感じたことを掻い摘んで説明していこうと思う。

『意外と細かいところに気を配っている』

 こういっては失礼を承知で言わせてもらえば、この作品は少年漫画にしては意外と細かいところに気を配っている。なんでもないような部分でも何かしらの配慮をそこかしこで確認する度に作者の恐るべき才覚を認識させられる。
 とにかく登場するキャラは皆何かを考えながら行動しているのが個人的には凄く気に入っている。特に自分の中に渦巻く疑問を自問自答するところなんか本当に素晴らしい。こうやって考えを巡らせているからこそ、悩んでいた理由が掴めたり、一度目の失敗を教訓にして2度目は前回とは違った方法で挑むなんてことも可能になるんだと思う。
 なんでもないということでは大和撫子杯の抽選くじで出場選手全員が恵の友達の札を引いた原因も感心した。メグのお手伝いである頼子が札に細工をして恵の友達のいずれかを引かせるようにしていたのだが、実際に成功するかどうかはともかく、なんとなくそういう風になるかもしれないなと思わせる現象ではあるなと思った。

『メグはメインを貼るに相応しい理想の主人公』

 男と女の長所を兼ね備えたメグは性別を越えたとてつもなく強烈な存在感をアピールしている。何をやっても様になるし、喜怒哀楽の表情も絵になる(但し5巻以降)彼女はまさにメインを貼るのに相応しい理想の主人公といえる。
 そして、何よりも素晴らしいのはメグが人類史上希に見る可愛らしい生きものだということである。子供のように無邪気にはしゃいだり感情をむき出しにしてするところなんか本当に可愛らしい。また、様々な経験を積み重ねることで素直で可愛いらしい反応を返すようになるところもこの上ない魅力を感じた。
 それがいざ悪者と対峙する時には強ばった表情で八面六臂の大活躍をすることになるのだが、単に喧嘩が強いというだけでなく、どんな状況でも動じることなく冷静に物事を判断して最善の行動を取れるところは本当に「スザマジイ」としかいいようがない。

『普通の少年でしかない藤木が立派に活躍していることに驚く』

 脳味噌に何が詰まってるのか判らないほど馬鹿ながらも打たれ強さは誰にも負けない源造、変態であることを誇りに思っている安田、恥ずかしながらも武士を目指す頭の固い正義馬鹿小林一文字(以下小林)の3人はいずれもレギュラーとして立派に活躍させられるだけの個性を持ち合わせている。そこへいくと藤木一郎(以下藤木)は名は体を表すという言葉通りごく普通の少年でしかない。彼の地味さを考えると、本来なら藤木のようなキャラはエキストラ程度の存在でしかない。それなのに、気がつくとメグ団の一員として地位を確立させているというのだから驚かずにいられない。
 確かに話が進むに従って普通を脱却したいと思っていることが空回りして変な行動を取ってしまうことはある。しかし、だからといって他のメンバーと比べると見劣りしてしまうのは否めない。ではどうして普通である藤木はレギュラーとして生き残れたというのだろうか。

「普通であることを逆手に取る」

 藤木が生き残れた勝因、それは普通であることを逆手にとって「だから苦労しているんじゃないか」ということを事ある毎に強調させることで藤木のポジションは見事に確立したといえる。普通であるが故の苦悩とでもいいだろうか。自分にはなんの取り柄もない、だからこそがむしゃらに頑張れるという考えは普通ならではの面白い発想だと思う。

『目に注目』

 5巻辺りからメグと美木の表情が安定しているように感じた。どうして変わったのか調べてみると、どうやら目の輪郭にその秘密があるようだ。
 それまでのメグは男のような鋭い眼差しばかりが強調され、美木はというとまるでドングリ眼と言わんばかりの変な目をしていた。いずれもとてもじゃないが、可愛らしいとは到底思えなかった。それが少しずつ修正されていって、気がつくと2人とも可愛らしい仕草の似合う女の子に変身していた。
 ただし、メグに関していえば、時々目の輪郭が元の角張った状態になって妙な違和感を覚えることがあるので、これさえ修正させられればあとは問題ないように思われる。

『未だに強く印象に残るシーン』

 数多くのバトルが繰り広げられたが、中でも、美木の許嫁の岳山隆雄(以下岳山)と源三による2度目の対決で、全体重を拳に預けることで見事勝利するシーン(9巻、第82章)は未だに強く印象に残っている。
 とかく、「怒りによって覚醒する未知の力」とか「主人公がピンチになる度に颯爽と現れる仲間」など、現状の自分にない力で相手を凌駕していく展開が、格闘漫画の定番だと思っていた。それだけに、前回の失敗から得た教訓を次の闘いで早速生かした源三が、彼の底力を甘く見て同じ攻撃を仕掛ける岳山を見事に打ち破るという、理に適った展開で勝負が決まったことに痺れてしまった。



【気になったことなど】

『三度目となる岳山グループとの対決』

 岳山グループとの対決も、流石に三度目となると展開的に無理な部分が、多くのところで見受けられた。これはメグ団、岳山グループ、両陣営に言えることで、お互いに詰まらないミスで隙を見せてしまうというのが、展開上仕方がなかったこととはいえ、出来ればそういうものは見たくなかった。見たくなかったといえば、最後の力を振り絞ることだけを頼りに困難を乗り越えるという、勧善懲悪ものでよく見られるご都合主義な展開も、極力避けてほしかった。それでも戦いの前半までで魅せてくれた、相手の裏を掻くメグの鋭い洞察力には唸らされた。それに、これまでは活躍の場が少なかった藤木と安田にも、彼等らしい手段でメグの手助けをするという重要な役目を果たしていたことにも、少なからず満足している。
 とはいえ、岳山一派との抗争も三度目になるのだから、もう少しすっきりした形で決着してほしかった。そもそも、美木を敵の罠にわざわざ飛び込ませるという発想が、なんとなく嫌だった。せっかく源三が柳沢の自宅を強襲するという、突飛ながらも面白いエピソードがあったのだから、そこから発想を広げていく展開に持っていってもらいたかった。

『最後に』

 最終巻で数々の謎が明らかになるのだけど、結果はどうであれ、メグが男か女かなんてことは、実はどうでもいいような気がした。それは、最後に彼女の願いが叶ったかどうかを小悪魔が質問するところも同様で、結局は「自分らしく振舞えていたか」どうかが重要だったのではないだろうか。それ以外では、小悪魔関連の謎はそのまま放置されてしまったが、これまでに提示されたメグ、美木にまつわる疑問について納得のいく回答が得られただけでも、良しとせねばなるまい。それに、なんだかんだいって「男女らしさとは何か」を意識した数々の興味深い発言は、面白くもあり、考えさせられもした。



【今回読んだコミック】
タイトル作者 出版社第1巻出版年度
天使な小生意気
1〜20巻
西森博之 小学館1999年