Kanon(カノン)
2001年1月20日作成
最終更新日 2001年2月24日
『プレイするきっかけ』
一部で異様に評判の高い『カノン』。そのあまりの熱狂ぶりを目の当たりにして、それが本当なのかどうか確かめたくなった。
『第一印象』
実際『カノン』に触れてみて思ったのは、グラフィック、キャラクター、BGM、シナリオ(台詞回し)、全てにおいて丁寧に作られているということだ。特にグラフィックとBGMは非常にクォリティーが高く、冬の街並みの雰囲気を見事に表現している。
もう少し細かく言うと、BGMは冬のイメージにピッタリな心地いいメロディーが多いので曲単体としても聞きごたえがある。スタッフロールを見ると折戸氏の名前があったので納得した。過去にも『雫』『痕』(リーフ)『moon.』(タクティクス)などで数多くの名曲を生み出していたので、このくらいは当たり前なのかもしれない。
グラフィックも水彩画を思わせる背景は綺麗だし、表現豊かにコロコロ変わる女の子は見ているだけで心が和む。見た目だけではあるが『水瀬名雪(以下名雪)』『月宮あゆ(以下あゆあゆ)』『美坂栞(以下栞)』の三人はかわいらしい仕種が多いこともあって結構気に入っている。
【キャラクター別感想】
『水瀬名雪<みなせなゆき>』
彼女はとにかく女の子らしい仕種が多かった。表情が豊かだし、着るものも可愛らしさを引き立てている。朝が弱く、立ちながら眠り込んだり、寝ぼけて「うみゅー」というところもかわいらしい。名雪のシナリオで特に盛り上がる場面はなかったけど、なんとなしに楽しめた。しょっちゅう噛み合わない会話も慣れれば別に気にならない。文句があるとすれば前半に繰り広げられる平凡な日常が長すぎることだろう。どうでもいい話が多いので、この辺りをもう少しコンパクトにまとめていたらもっと良かったと思う。
『月宮あゆ』
まさかゲームで、しかも美少女ゲームで感動することになろうとは想像だにしなかった。あゆあゆのシナリオではいろんな意味でしてやられた。彼女があそこまで健気に頑張る理由が分かると、思わず抱きしめたくなった。
それにしてもあゆあゆに関しては何もかもが不思議だった。いつどこでどういう物をなくしたのかが分からないのにどうして必死に探すのか。昔の約束にあそこまで執着するのは何故なのか。あゆあゆ自身も謎めいたところがある。同い年にしてはとてもじゃないが高校生に見えないし、行動があまりに幼稚だ。学校に行ってるかどうかも怪しい。さらに、名雪の母親『水瀬秋子(以下秋子)』があゆあゆに対して意味深な表情をするのも気になった。
こうした数々の謎が終盤明らかになると自然に感動が押し寄せてきた。ある日あゆあゆは永遠の別れを告げると姿を消してしまう。そこで「私を忘れてください」とあゆあゆが願うシーンで思わず泣けてきた。その夜、主人公『相沢祐一』(以下祐一)は夢をきっかけに過去の記憶が蘇り、七年前にあゆあゆとささやかな約束をしていたことを思い出した。当時彼女は不慮の事故に見舞われて意識朦朧となってしまう。この時一緒にいた祐一は一年後の再会を必死に訴えるが、記憶はここで途切れてしまう。曖昧だったとはいえ、彼はこの出来事であゆあゆは亡くなったと思い込んでいた。だから突如現れた女の子は幽霊なのかと自分は思った。あゆあゆがいう「時間がない」というのは二度とこの世には戻ってこれないということだとばかり思っていた。もうとり返しがつかない、そう思うと悲しくなってきた。
この段階では「どうしてこんなにも悲しい結末にするんだあ」と落ち込んでいた。しかし、まだ続きがあった。実は無事だったことが判明した。よかった、そう思っていたらまた涙が溢れてきた。全ての事実が明らかになることによってこれまでいろんなキャラが話す不可解な台詞の意図が分かった。するとこれまであゆあゆが健気に頑張っていた姿が急に愛しくなってきた。彼女のシナリオは名雪以上に長いけど、非常に充実していた。感動的なあゆあゆのシナリオが見られただけでも『カノン』は買う価値のあるソフトだったといえる・・・・・・はずだった。理由は後ほど。
『一通り終えて』
あゆあゆ以外では『沢渡真琴(以下真琴)』と『川澄舞(以下舞)』それぞれ終盤のシナリオが良かった。真琴では大切していたペットがいなくなる感覚で、舞は「こうなるはずだったのに」と祐一が願うシーンで感動した。彼女らの人柄にはそれほど興味を抱くことはなかった。しかし、祐一が楽しい場面を悲しく想像しているところでふと『moon.』(タクティクス)の『名倉由依』が思い浮かんだ。彼女が死ぬ間際に本当はこうなるはずだった家族団欒を想像して涙するシーンがある。これと舞のシナリオが重なったからか、ジーンときてしまった。
『浮上する数々の疑問』
名雪、舞、栞シナリオでなにか引っかかるものがあった。それぞれのシナリオで誰かが生死をさ迷うものの、無事生還してくる。しかし、はたして本当に助かったのだろうか。何故疑問に思うのかというと、微妙な言い回しで気になるようなことをいうからだ。
さらに何度もやり直していくうちに、多くの疑問を感じるようになった。最初にそう感じたのはほとんどのシナリオで奇跡が起こり命が助かるところだ。おそらく幽体離脱(?)して祐一の状況を見守っていたあゆあゆが最後の願いを祈ったからなのだろう。しかし、この願いは祐一の出来る範囲内ではなかったのか。ごく普通の高校生である彼に助からない命を救えるほどの力があるとは思えない。でなければあゆあゆに奇跡を起こす能力があったというのか、そこのところがよく分からない。
そして極めつけは、最初あれだけ感動していたあゆあゆシナリオにさえも疑うようになってしまった。彼女は10歳のとき祐一と偶然知り合う。この時にはすでにあゆあゆの母親は亡くなっていた。実際彼女は後に一人ぼっちになったようなことをいっている。とするとあゆあゆを引き取る親戚はいなかったのか。彼女が一人で街をブラついてても誰も心配しないのは何故なのか。この辺りの事情が一切分からないので今一つ感情移入しにくくなった。
『一つの可能性』
これらを考慮していると一つの考えが浮かんできた。それは「初めから誰かによって作られた想像の世界」だったのではないか。いわゆるなんでもありのファンタジーならどんなことが起こってもおかしくないからだ。ただ、そうすると今まで感動していたこと(特にあゆあゆ関連)を全て否定してしまいかねないのであまり好きな結論ではない。ただ辻褄の合わない出来事が多すぎるので、こうでも考えなければ納得がいかないのは確かだ。
でなければ最初から現実には有り得ない事態が次から次へと展開されていたらと思ってしまう。そうすればギャグとして楽しめたかもしれない。下手に現実味を残そうとしたのがそもそもの間違いのような気がする。
『評価に悩む』
このゲームの評価をどうしようかと思案していたところ、設定資料集なるものが出ていたのでなにはともあれ購入してみた。その中のインタビューで気がついたことがあった。それは「カノン」の隠された設定は自分で想像しなければならない、ということだ。例えば、名雪の父親はいつも家を空けているが、その仮説として「マグロ漁」を挙げていた。その理由を見ているうちに、「ああ、こういう風に想像力を働かせなければこのゲームは楽しめないのかな」と思うようになった。それが出来なければ単に謎の多い変なゲームということになる。
『もう一度最初から考えてみる』
改めてこのゲームを評価しようとすると非常に難しい。確かに彼女たちの秘密が徐々に明かされる辺りからは次第に面白くなってくる。終盤に至っては素直に感動出来るシナリオがあったのも事実だ。しかし、前半の何気ない会話の応酬は間延びしていていて退屈極まりなかった。というのも状況説明があまりにくどすぎるのだ。説明しなくてもいいような会話にも挿入されるので、ウンザリする事が度々あった。この辺をもっとすっきりさせていたら印象はもう少し変わっていたかもしれない。
また見た目の可愛らしさしか好きになれなかったのも今一つ気にいらない原因になっていると思う。性格面で好きになれた女の子は一人もいなかった。あゆあゆも最初こそ気に入っていたが、何度も読み返すうちに遠い存在になってしまった。物語の周りが見えてないうちは彼女の純粋さがかわいらしかった。ところが細かな疑問が見えてくるにつれて頭の中がこんがらがってきた。気がつくとなんで感動していたのかさえ分からなくなってしまった。
『最終結論』
それらを考慮しても『カノン』は購入しておいてよかったと思っている。理由は何も考えず真っ白な状態でプレイすれば情緒あるグラフィックとBGMも手伝って素直に楽しめるからだ。ただし、少しでも疑問を持ったり考え込んだりすると深みにはまってしまう恐れがある。それさえ気をつければ最後には程度の差はあれ感動が待ち受けているはずだ。
【今回プレイしたゲーム】
タイトル | 対応機種 |
発売元 | 発売年度 |
Kanon | win95、98 |
key | 1999年 |
【参考資料】
『ゲーム』
タイトル | 対応機種 |
発売元 | 発売年度 |
雫 | win95 |
リーフ | 年度不明 |
痕(リニューアル パッケージ) |
win95、98 |
リーフ | 年度不明 |
moon. | win95 |
タクティクス | 1997年 |
『設定資料集』
タイトル | 出版社 |
出版年度 |
Kanon ビジュアルファンブック |
エンターブレン |
2000年 |