銀色〜完全版〜
2001年9月6日作成
最終更新日 2001年11月4日

『きっかけ』

 最近の傾向としてネットでの反応を参考に買うかどうかを判断している。このソフトも例外ではなく、レビューなどでシナリオの評価が割と高かったので購入することに決めた。


【 第1章 「逢津の峠(おうつのたわ)」 】
『けっして悪い内容ではないんだけど』

 「名無しの少女(以下名無し)」の悲劇を絡ませつつ、人斬り侍に芽生える淡く切ない恋物語という内容は悪くない。しかし、淡々と話が進むだけの変化に乏しいシナリオは少々物足りなさを感じた。もう少しメリハリのある展開があれば良かったように思う。
 確かに名無しと人斬り侍はいずれも不幸な生い立ちを背負っていて可哀想ではある。しかし、終盤までとつとつと話が進んでいたからかそれ以上の感情は残念ながら沸き上がってこなかった。2人の心理描写も突っ込んだところまでは描かれていないので、必要以上に思い入れることが出来なかった。
 それでも終盤にきて名無しの心の内を吐露する場面では理屈なんか関係なく悲しくなった。生きる証が欲しかったという名無しの気持ちがようやく伝わってきただけに、それ以前ではあまり語られていないことが非常に残念だ。狭い部屋に閉じこめられた時の様子だけではなく、その時どう感じていたかをもっと克明に描いてくれていたら、感動の度合いはもっと大きくなっていたと思う。


【 第2章 「踏鞴の社(たたらのやしろ)」 】
『結末が良かっただけに…』

 1章と同様、話の変化が乏しいせいかちょっと面白味に欠けていた。せっかく2章の初めでヒロインの辛い心情を見せたのであれば、その後も時折挿入してくれると彼女に対する入れ込み具合も変わったろうに残念だ。結局の所、この章も途中まではありふれた出来事を淡々と述べることに重点を置く退屈な話だった。
 そしたら終盤になってようやく面白くなってきた。今まであまり表に出なかった人間のエゴというか、群衆心理による醜い結束というものが一気に噴出したところはなかなかなものだった。それだけにここに至るまでの生温い展開をもう少し何とかしていたら、なんて思ってしまう。あたかも急に展開が盛り上がってきたように見えてしまうので、こういうことは序盤からもっと小出しして匂わせていた方が良かった。加えて、狭霧の心情も事細かに見せていればもっとやるせない気持ちに駆られていたに違いない。

『狭霧は素晴らしい女性だ』

 それにしても、狭霧の人生観には感心させられっぱなしだった。彼女の気高さというか誇り高さを見ていたら悲しい気持ちはどこかへ飛んでいってしまった。死をも恐れず己の信念を貫き通した狭霧の生き様はただただ素晴らしいの一言に尽きる。


【 第3章 「朝奈夕奈(あさなゆうな)」 】

 いくら、なんでも願いが叶うからといって、それに頼り過ぎてはいけないということなのだろう。調子に乗って願いを祈り続けてしまったことで「佐々井朝奈(以下朝奈)」は取り返しのつかないミスを犯してしまう。そして、そこから急速に歯車が狂い始めた。

『不必要な説明が多すぎる』

 1、2章とは逆に言わなくてもいい説明が多すぎる。メインである朝奈の心理描写にしても分かりきったことまで書く必要はなかった。これまでの彼女の態度を見ていれば姉である「佐々井夕奈(以下夕奈)」を大切にしようとしていることや、自分の迂闊さなどは十分に伝わっている。それなのに繰り返し説明されるとちょっとうんざりしてしまう。どうせやるのなら佐々井姉妹の微妙な心の揺れというものを事細かに見せてほしかった。

『夕奈の凄みに始まり、穏やかな表情に終わる』

 とまあ、序盤では嫌な感じがしていたんだけど、凄みを利かせた夕奈が朝奈を怒鳴り散らす辺りから展開的に面白くなってきた。ちょっと声優の演技に物足りなさはあるものの、夕奈が叱り飛ばすところはそれなりに見応えがあった。
 その後も日を追う事に理不尽な物言いになる夕奈の口撃を朝奈が黙って堪え忍ぶという興味深い展開が続くんだけど、結末はあまりにも悲惨だった。結局は朝奈の迂闊な態度によって感情を二転三転とさせられていくうちに夕奈の精神は崩壊の一途を辿ってしまう。最後は主人公も含め姉妹の生死に関わらず夕奈は穏やかな表情を浮かべて幕を閉じるんだけど、いずれにしても後味の悪いやり切れなさを引きずる結末だった。

「それにしても朝奈は迂闊なことをしすぎる」

 夕奈を怒らせる為には必要だということは分かるが、それでも朝奈の行動には疑問を抱かずにいられない。これまでの経緯を見る限り、朝奈はわざと夕奈を怒らせるようなことをしているようにしか思えない。それも一度ならず何度も繰り返すのだから夕奈が怒りに震えるのも無理はない。
 一旦は仲直りしそうになった時も朝奈は言わなくてもいい事実をカミングアウトしてしまい、再び泥沼化してしまう。ここまでくると単に頭の回転が悪いとかいう問題では済まされない。口では姉のことを考えていると言っても行動が伴わなければ全く意味がない。これでは夕奈に「よくも騙してくれたわね」と罵られても仕方がない。本当に夕奈のことが大事だというのなら、彼女が惚れた男性のことはきっぱりと諦めるのが筋だと思う。

『役不足について』

 どっかのサイトで朝奈が「やっぱり、あたしじゃ役不足なんだ」という台詞はおかしいと指摘していた。辞書には「割り当てられた役目が軽すぎて満足できない」とあるので本来なら「足手まとい」とするのが正解なのかもしれない。
 何故、かもしれないとしたのかというと、現在では「足手まとい」という間違った意味合いで使われることが多くなってきたからだ。いくら、辞書的には誤りでも大多数の人が支持すればそれが真実になることもある。そうなると「役不足」の意味に新たな解釈が加わる日も近いかもしれない。


【 第4章 「銀色(ぎんいろ)」 】
『これまでで最高の内容だった』

 過去編と現代編とが微妙に絡み合いながらテンポよく話が進む素晴らしい内容だった。過去では何故銀糸が作られたのかが、そして現在では偶然拾った銀糸に翻弄された「篠崎あやめ(以下あやめ)」にまつわるエピソードがそれぞれ丁寧に語られている。
 1度目こそ今と昔が頻繁に入れ替わるシナリオにこんがらがるけど、何度か読み返せば大まかな流れは掴めるので問題ない。話自体も飽きさせない工夫を随所に盛り込んでいたので途中で興味を失うことは全くなかった。

『心地いい余韻を味わう』

 過去編、現代編共にキャラの心理描写が程良く掘り下げられていたと思う。また、互いの時代の主人公とヒロインが惹かれあうまでの過程もつぶさに描かれていたので、終始心地いい余韻に浸りながらエンディングを迎えられた。
 もっとも過去編の方はまだ銀糸による願いを叶えてないし、現代編もあやめの声は戻ってない。これで終わりなら釈然としなかったが、まだ続きがあったので、そこら辺のことも含め、どういう結末になるのかにわかに興味が沸いてきた。

【 「錆(さび)」 】
『前半は涙に暮れ、後半は安堵した』

 前半はとある姉妹(+赤ん坊)に降りかかる見るも無惨な出来事のオンパレードに涙した。ただでさえ目を覆いたくなるくらい悲惨な展開に加え、絶妙な文章表現による追加コンボによって涙腺は緩みっぱなしだった。また、銀糸誕生秘話に関しても愛する者の為にヒロインが犠牲になったのにそれが全くの無駄だったことに少なからぬショックを受けた。
 後半はというと、ありがちだけどどこか安堵する内容だった。最後は銀糸に願うことであやめは再び喋れるようになり、過去の時代のあやめ達も幸せな暮らしをしましたとさ、という心温まる結末で締めくくられた。


【 番外編 】
『石切(いすな)シナリオについて』

 各章で語り足りなかった部分や間を繋ぐ役割を担っている。これを見れば1、2章の繋がりや各章の後日談のようなものが分かるんだけど、あんまり必要性は感じなかった。元々1、2章はあまり必要のないシナリオだと思っているので、それらの補完的な役割しかないことを考えると、別になくてもよかった気がする。

『(第4章とは別の)「銀色」』

 過去編の後日談として銀糸の行方や命を吹き返した石切が何かを求めて世界を放浪するまでが語られている。そこでいろいろと小難しいことを説明してるんだけど、今一つピンとこなかった。決して説明不足という訳ではないんだけど、強いて言えば自分の理解力を越えた壮大なストーリーという感じだった。

『おまけシナリオ』

 ジョジョネタのやつはくだらないながらもそれなりに面白かった。それ以外はファンの為に用意したシナリオみたいで、萌え属性のある人にとっては堪らない内容ではないかと思われる。


【 一通り終えて思いついたこと 】
『演出について』

 BGMは各場面に見合っていたし、CGも各時代を丁寧に描かれていた。ただし、CGに関して一つだけ気になることがあった。4章の茶店で外は雨なのに窓から日差しが射しているのはどうかと思った。また、時間は夕方だというのに景色が変化しなかったことにも少なからずがっかりさせられた。
 とまあ、気になったのはその場面くらいでCGやBGMを含めた演出に関しては、地味ながらも概ね好感の持てる出来映えだったように思う。

『声優について』

 きちんと感情を込めて喋ってはいるものの、微妙なところで外しているような気がする。とはいっても極端に下手な訳ではないし、個人的にそう感じただけではないかと言われればそれまでである。それでも何かこう言いようのない引っかかりは最後まで拭えなかった。

『システムについて』

 最低限の機能は揃えているけど、「君が望む永遠」の使い勝手の良さと比べると、どうしても物足りなさを感じてしまう。それがたとえ他社のものであっても出来ることなら次回作以降で取り入れてほしいと思う。以下、不満だった点をピックアップしてみた。
 ある地点をすぎると回想を選んでも読み返せないのは何とかしてほしい。あと、読み返す時はテキスト形式で表示するようにしてくれた方が断然いい。
 CGモードで登録されるほとんどのCGが一枚につき1種類だけというのはちょっと寂しい。せっかくいろんな表情を用意しているのに好きなときに見られないというは非常にもったいない。
 シナリオを回想出来るのはいいんだけど、途中で止めることが出来ないのは如何ともしがたい。
 あとはフォントのサイズ設定をどうにかしてほしかった。ただでさえかなり小さなフォントで読みにくいのに画数の多い漢字だとつぶれて読みづらいことがしばしばあった。
 以上の点を少しずつでいいから次回作以降で改善してくれると非常に嬉しかったりする。

『シナリオ全体の印象と結論』

 1、2章と3章の序盤、ならびに(4章とは別の)銀色は個人的にあまり肌が合わなかったものの、4章に関しては十分満足のいく内容だった。極端な話、4章とおまけ以外はいらなかったのではないかと思えるほどの差があった。これなら一つのシナリオを充実させていた方が潔かったように思う。4つの章を用意することで面白さが増すのなら別に構わないけど、こと「銀色〜完全版〜」では残念ながら逆効果だった。
 とはいえ、いずれの章も比較的整合性は取れていたし、結末もしっかりと描かれていた。これでもう少し物語の概要やキャラの心理描写に気を使っていたら記憶に残る名作になっていたかもしれない。
 ただし、これはあくまで主観的な判断での話であって客観的に見ればあのくらいの説明が丁度いい塩梅と言えなくもない。その方が想像力をかき立てられる人もいるみたいなので、一概に否定は出来ない。ということで、最低限揃えられた情報から自分なりに話を膨らませられる人や文学小説風に表現された情緒溢れる文章が好きな人にはうってつけの作品と言えそうだ。


【今回プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
銀色〜完全版〜win95、98、Me ねこねこソフト2001年


【参考資料】
『ゲーム』
タイトル対応機種 発売元発売年度
君が望む永遠win95、98、2000、me アージュ2001年