EVER17
2002年9月11日作成
最終更新日 2003年1月18日

キャラ別感想
小町つぐみ  茜ヶ崎空  松永沙羅  田中優  八神ココ
一通り終えて

『きっかけ』

 数々の謎が最後には一つにまとまっていくシナリオが素晴らしいという評判を聞いて「それなら試しに購入してみるか」と思うようになった。

『第一印象』

 中盤以降のミステリーを匂わせる展開が面白いだけに、話の出だしが多少淡泊なのはもったいない。それと、中盤での平凡な日常を想起させるやり取りがあまりにも中弛みしてしまうせいで、閉じこめられたという緊張感が薄れてしまったこともどうなんだろうと思った。



【キャラ別感想】

小町つぐみ(以下つぐみ)

 普通では考えられない苦しみを幾度となく経験するのは確かに御免被りたいが、誰もが一度ならずも願ったであろう特殊な身体を手に入れたこと事態は、喜ばしいのではないだろうか。それも17歳というある意味丁度いい若さで得られたというのだから、普通に考えれば羨ましい限りだ。それなのに苦しみ続けているというつぐみの気持ちがどうにも解せなかった。
 例えば、その理由が「組織の実験で耐え難い苦しみを何度もさせられるのが嫌」だというのならまだ判る。しかし、つぐみの告白を聞いた限りではそれだけでなく、ウィルスによって作り替えられた身体になったこと自体も嫌悪してるようなことを話していて、その辺が個人的にはどうしても受け入れられなかった。



茜ヶ崎空(以下空)

 殊の外、空編では哲学めいた話が目立っていた。生きるとはなんのか、存在してるとはどういうことなのか、恋とはなんだろう、というようなことをプレイヤーに語りかけているかのように感じられた。そうして語られた事柄が終盤で一つに纏まり、一応の結末に至るのだけど、このような小難しい話で押し切るシナリオは正直馴染めなかった。
 それでも「所詮はゲームの中でしか存在し得ない」という認識を逆手にとるところは興味深かった。「たとえ脆くて儚い存在であろうとも彼女のことを大切にしたい」と思わせるシナリオにはちょっとばかり感動してしまった。



松永沙羅(以下沙羅)

 特殊体質のせいで子供の頃は周りから虐められ、そのことに目をつけた謎の組織には自由を束縛されてしまう、というところは確かに可哀想ではある。しかし、そうした不幸の歴史が断片的にしか伝わってこなかったせいか、彼女に対して今一つ感情移入することが出来なかった。
 それと途中で沙羅と少年が実は兄妹だということが判明すると、次第に2人の間には目に見えない絆が芽生えるようになるという展開もなんだかなあという感じだった。そうなることが駄目という訳では決してないんだけど、もう少しユーザーの心をグッと引き寄せるエピソードなりなんなりがあれば良かったような気がする。



田中優(以下優)

 最初に、下の名前は本当はもっと長いんだけど、ネタバレのことを考慮して割愛することにした。

『なんだかんだあったけど、面白かった』

 少年が見たという幻の少女をきっかけに話はオカルト、神話、宗教といった具合に広がっていく。ここで交わされる会話は一通りプレイしていれば判るのだけど、謎を紐解く重要なキーワードをそこかしこに散りばめている。それはそれで確かに素晴らしいのだけど、そこで語られる内容自体は正直自分にとっては受け付けがたいというか好みではなかった。
 とまあ、なんだかんだと頭を悩ますことがありはしたものの、これまでのなかではもっとも面白いシナリオだったとは思っている。
 確かに他のシナリオと大きく関わる謎をふんだんに盛り込んでいる数々のエピソードにはついていけないことが多々あった。しかし、何事にもサバサバとした性格や終盤で弱さを隠すために強がるところなんかは優がヒロインとして魅力的であることを如実に表していると思う。今にしてみれば、物語を通じて彼女の生き様に共感することが出来たことがそのままシナリオの醍醐味に繋がったのではないかと思っている。

『残念だったこと』

 ファーストプレイで優シナリオを最初に選択して進めていた時に感じていたことは全て勘違いだったことだ。事の真相を知るまではてっきり閉じこめられたメンバーの中に真犯人が人を欺いていて何食わぬ顔で一緒にいるかもしれないという恐怖を実感させる話だとばかり思っていた。そう考えればそれまでも様々な場面で登場人物達はどうして怪しげな行動や態度をどうしてしたのか気になってくるからだ。そのように思い込んでいただけに、想像していたものとは違った展開だったことは残念でならない。



八神ココ(以下ココ)

 ココ編に突入することでこれまでバラバラだったシナリオが少しずつ纏まっていく感覚は見事である。今まで隠されていた謎が小出しに露出していくにつれてこれまでに登場したヒロインが抱えていた気持ちが浮き彫りになる展開は実に素晴らしい。中でも死を願い続けるつぐみの気持ちが理解出来るようになったことで、彼女に対する評価は180度転換した。
 特殊な身体になってしまったことによって半永久的に平穏な生活を送ることが事実上不可能となるばかりか、それから逃れる術もないのだとしたら、これ以上辛いことはない。誰だってこんな暮らしを続けていたら死を願いたくもなる。つぐみにとって最大の苦しみは、死をもって人生を終わらせるという選択肢すらないということだろう。ただでさえ特異体質によって周りからは煙たがれ、まともな身分を証明することが叶わないので警察にも頼れない。たとえ駆け込んだとしても謎の組織が国家権力と影で結託しているので、どうしようもない。極めて異例な症状を抱えてしまったことで孤立無援の存在になってしまった彼女の立場になって考えると、なんともいいようのない悲嘆にくれてしまった。



【一通り終えて】

『シナリオの順番』

 多くの人が指摘した通り、武視点(つぐみ、空)を先にして少年視点(沙羅、優)は後という順番で進めた方が良さそうだ。これはファーストプレイは素より、セカンドプレイの時になるとより大きな効果が表れる。理由はネタバレになるので言明は避けるが、そうすることで「ああ、なるほど、そういうことか」と頷ける場面が少なからずあるからだ。

『シナリオ全体について』

 生とは、死とは、存在とは、などなどシナリオの根底にある哲学的な話は確かに考えさせられることが無いこともない。謎を解き明かす為に必要だったのは判るが、ココ編に至る前のシナリオでは長々と説明することは無かったと思う。
 これはココ編以外のシナリオ全てに当てはまるのだけど、謎めいた部分も含めて詳しい説明はもう少し端折っていても良かったような気がする。どうせココ編で事実が判明するのだから、それまでの話では断片的な繋がりがあるんだというくらいに留めておいてほしかった。その方が真実を知った時により大きな衝撃を受けさせることも出来たかもしれない。ココ編で全ての謎が一つにまとまっていく隙のない展開を披露していただけに、余計にそう思ってしまった。
 それでも、ゲームの世界観にあるルールに基づいて物語が完璧に収束していく様は圧巻であった。多少無理矢理というかごり押し的な部分があったにせよ、大きな矛盾を感じさせることなく物語をきっちりと完結させたスタッフの力量は相当なものである。

『システムについて』

 ノベルタイプのゲームで必要な機能(未読既読判定のある高速スキップ、音声再生付きの履歴、シナリオやエンディング等の達成率など)は全て揃っているし、操作性も良好なので文句のつけようがない。

『演出について』

 PS2ならではのハイクオリティーとまではいかないものの、無難な色彩で彩られたCGは見ていて心地いいし、単体で聴くとショボイBGMもゲーム中は各場面の雰囲気を壊すようなことはなかった。声優にしても皆終始安定した演技で物語を守り立てていた。

『結論』

 次から次へと広がる謎が最後には一つの結末へと収束していくところは確かに目を見張るものがあった。しかし、個人的には大絶賛と言うところまではいかないかなと思っている。
 理由は、@「謎解きの多くを哲学的指向を要する真面目な話が正直好みではない」、A「解明されてない謎のいくつかはファンタジーだったので、その部分はプレイヤーの想像力で補わなければならない」、B「SF作品の楽しさをある程度理解できないと面白さが半減してしまう」、以上が挙げられる。
 具体的に@から言うと、真面目が決して悪い訳ではなく、単に自分の肌に合わなかったというだけの話である。Aは「Kanon」や「水夏」のように含みを持たせた部分があったことにスッキリしない感じがしたから。Bは自分がSF作品に疎いこともあって作中に登場する「各種ウィルスや特異体質、時間軸〜次元や点ABC」などの説明についていけなかったからだ。
 とはいえ、裏を返せば哲学的思考や含みをもった謎が散りばめられた作品に興味を持つユーザーや、SFに関する知識が豊富な人にとっては堪らない作品ということになる。それに、なんだかんだいってココ編でバラバラだった謎が一つの結末に向かって集まる様は見応えがあったので、時間に余裕があれば試してみるのもいいかもしれない。


【今回プレイしたゲーム】
タイトルメーカー 対応機種発売年度
EVER17キッド PS22002年


【参考記録】
既読メッセージ数選択肢達成数 総プレイ時間
☆43521☆224 87時間43分


【参考資料】
『本』
タイトルメーカー 出版社出版年度
EVER17
ビジュアルファンブック
キッド エンターブレイン2002年