僕と僕らの夏
2002年3月17日作成
最終更新日 2002年8月31日

表ルート  裏ルート(+おまけ)  【一通り終えて】

『きっかけ』

 建設中のダムを舞台にしている設定の物珍しさにつられてついつい購入してしまった。


表ルートで気になったヒロイン

『市村貴理(いちむらきり)』

 貴理の親父さんがダム工事の責任者ということもあって村では微妙な立場であることや幼なじみである古積恭生と友達以上恋人未満の関係であることを丁寧に描写されたシナリオは別に嫌いではない。ただ、ちょっと欲を言えば、もう少し突っ込んだエピソードがあっても良かったような気がする。せっかくダム建設という一風変わった設定を用いているのだから、それにちなんだ濃いエピソードを一つでもいいから見てみたかった。
 シナリオを見ていくと、ダム建設に反対していた村人が過疎化と財政難という現実を目の当たりにして考えを変えざるを得なくなった複雑な気持ちはそれとなく伺えた。少しでも村に留まるにはダム建設に携わるしか方法がないのであれば、反対運動を止めた方が賢い選択だと思うようになってもなんら不思議なことではない。
 これだけでも村の事情は大体判るのだけど、どうせなら、当時の大人達は、貴理はどんな心境だったのか、そして、何がきっかけで心変わりせざるを得なくなったのかを細かに描写したシーンを挿入していればシナリオはもちろん、貴理に対する感情移入もより大きなものになったような気がする。

「表ルートのテーマ」

 貴理シナリオと有夏シナリオにおいて(特に後者でより顕著になる)垣間見られる彼女のヤキモチは表ルートの大きなテーマの一つといえそうだ。曰く「幼い頃から私は恭生のことを気に掛けていたのに、あいつは気づきもしない」みたいなことを心の中で愚痴るところなんか可愛いとさえ思ってしまった。あくまでも貴理の胸中を中心に展開していくシナリオは好みだし、幼なじみである恭生のことで心を揺さぶられては後悔する貴理の不器用さが嫌みにならない程度のさじ加減だったことも好印象を抱かせる要因になっている。


 裏ルート(+おまけ)で気になったヒロイン

『小川冬子(おがわとうこ)』

 端から見ると冬子は人の恋路を邪魔するためには手段を選ばない酷い女と言えなくもないが、彼女の生い立ちを考えると仕方がないように思う。子供時代にあれほどの酷い仕打ちを受ければ誰だって他人の幸せを喜べない性格になってしまうだろうし、そう言う風にしか考えられない冬子のことがなんだか可哀想で仕方がない。

「印象に残ったこと」

 裏ルートでは冬子がどんな気持ちで他のキャラに接していたのかが伺い知ることが出来るシナリオはそれなりに共感することがあった。中でもトゥルーエンドで英輝に向かってぶちまけた冬子の悲痛な叫びは結構印象に残っている。本人にとって屈辱以外何ものでもない子供時代を過ごしてきた冬子からすれば「平凡な幸せを過ごしているくせに知った風な口を聞くな」という気持ちは痛いほど判る。
 幼い頃から両親のだらしない部分ばかりを見ていているうちに自分から親に相談しようという気持ちは封じ込められてしまった。親に頼る経験がなければ他の誰かに救いを求めるなんて発想そのものも生まれるはずがない。生まれながらに過酷な日々を過ごすことを余儀なくされ続けていくうちにだんだん投げやりな気持ちになってしまうのも致し方ない。
 それからも心が歪んでしまった冬子が複雑な気持ちに駆られながら貴理や有夏にいろいろと入れ知恵してしまう展開は面白かった。これで、なんだか知らないうちに話がまとまってしまわなければ尚よかったのだけど、なんにせよ、冬子が抱える複雑な心境が見られただけでも十分な収穫だったと言える。


【一通り終えて】

『駄目さ加減が目立つシステム』

 選択肢が出ている間はメニューはおろか、セーブ、ロードすら出来ないというのはあんまりだ。セーブ、ロードに関しても、2度クリックしないと実行に移さないのは面倒だし、一度成立すると何も聞かずに実行してしまうのも不親切な気がする。ここはやはり一旦は「実行しますか……はい、いいえ」とプレイヤーに確認させるのが筋だろう。
 また、読み返しにしても「量が少ない、読み返しの最後でボタンをクリックしても強制的に戻ってしまう、誰の台詞か判らなくなってしまう」という不親切極まりない代物だった。
 不親切といえば、使用してもたいして早くならず、おまけに未読既読の判定もしないという致命的な欠陥をもったスキップ機能にも参らされた。思ったより共通となるシナリオが多いので出来ることならそれで読み飛ばしたかったが、ここまで杜撰だと使うことを躊躇ってしまう。
 あと、自分のパソコンだけかもしれないが、ゲームの動作が少々不安定なのも気に掛かった。メッセージウィンドゥの細かなボタンや選択肢をなかなか思い通りにクリック出来ないのは非常にいただけないし、ランダムで音声が時折途切れてしまうのもどうにかしてほしいと何度思ったかしれない。

『演出について』

 郷愁を誘うBGMと情緒溢れる山間の背景CGにダムで村が沈んでしまうという設定とを上手く絡めることで得も言われぬ余韻を生み出している。

『声優について』

 ヒロインでは有夏が、男では恭生の親友原英輝が割合と頑張っていたが、それ以外は合格ラインまであと一歩という感じだった。

『結論』

 どこからともなく吹き抜けていく一陣の風のような心地良さに浸れるシナリオや演出は捨てがたい魅力があるように思った。ただし、システムの使い勝手は明らかに悪いので、その辺を我慢できるというのであれば、一度試してみるのもいいかもしれない。


【今回プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
僕と僕らの夏win95、98、NT、2000 light2002年