『きっかけ』
表ルートで気になったヒロイン
『市村貴理(いちむらきり)』
貴理の親父さんがダム工事の責任者ということもあって村では微妙な立場であることや幼なじみである古積恭生と友達以上恋人未満の関係であることを丁寧に描写されたシナリオは別に嫌いではない。ただ、ちょっと欲を言えば、もう少し突っ込んだエピソードがあっても良かったような気がする。せっかくダム建設という一風変わった設定を用いているのだから、それにちなんだ濃いエピソードを一つでもいいから見てみたかった。「表ルートのテーマ」
貴理シナリオと有夏シナリオにおいて(特に後者でより顕著になる)垣間見られる彼女のヤキモチは表ルートの大きなテーマの一つといえそうだ。曰く「幼い頃から私は恭生のことを気に掛けていたのに、あいつは気づきもしない」みたいなことを心の中で愚痴るところなんか可愛いとさえ思ってしまった。あくまでも貴理の胸中を中心に展開していくシナリオは好みだし、幼なじみである恭生のことで心を揺さぶられては後悔する貴理の不器用さが嫌みにならない程度のさじ加減だったことも好印象を抱かせる要因になっている。
裏ルート(+おまけ)で気になったヒロイン
『小川冬子(おがわとうこ)』
端から見ると冬子は人の恋路を邪魔するためには手段を選ばない酷い女と言えなくもないが、彼女の生い立ちを考えると仕方がないように思う。子供時代にあれほどの酷い仕打ちを受ければ誰だって他人の幸せを喜べない性格になってしまうだろうし、そう言う風にしか考えられない冬子のことがなんだか可哀想で仕方がない。「印象に残ったこと」
裏ルートでは冬子がどんな気持ちで他のキャラに接していたのかが伺い知ることが出来るシナリオはそれなりに共感することがあった。中でもトゥルーエンドで英輝に向かってぶちまけた冬子の悲痛な叫びは結構印象に残っている。本人にとって屈辱以外何ものでもない子供時代を過ごしてきた冬子からすれば「平凡な幸せを過ごしているくせに知った風な口を聞くな」という気持ちは痛いほど判る。
【一通り終えて】
『駄目さ加減が目立つシステム』
選択肢が出ている間はメニューはおろか、セーブ、ロードすら出来ないというのはあんまりだ。セーブ、ロードに関しても、2度クリックしないと実行に移さないのは面倒だし、一度成立すると何も聞かずに実行してしまうのも不親切な気がする。ここはやはり一旦は「実行しますか……はい、いいえ」とプレイヤーに確認させるのが筋だろう。『演出について』
郷愁を誘うBGMと情緒溢れる山間の背景CGにダムで村が沈んでしまうという設定とを上手く絡めることで得も言われぬ余韻を生み出している。『声優について』
ヒロインでは有夏が、男では恭生の親友原英輝が割合と頑張っていたが、それ以外は合格ラインまであと一歩という感じだった。『結論』
どこからともなく吹き抜けていく一陣の風のような心地良さに浸れるシナリオや演出は捨てがたい魅力があるように思った。ただし、システムの使い勝手は明らかに悪いので、その辺を我慢できるというのであれば、一度試してみるのもいいかもしれない。タイトル | 対応機種 | 発売元 | 発売年度 |
僕と僕らの夏 | win95、98、NT、2000 | light | 2002年 |