Blow
〜満ちた月、欠けた月〜
2002年5月5日作成
最終更新日 2002年7月28日

『きっかけ』

 元々サイコサスペンスは好きなんだけど、真のエンディングで語られる思いも寄らぬ衝撃が襲いかかるらしく、それがどの程度のものなかをこの目で確かめてみることにした。


『第一印象』

 序盤でいきなり女子生徒が襲われるシーンがあるものの、基本的にはどうってことのない学園生活という感じだと思った。そうしたら得体の知れない気味の悪さで背筋がゾクゾクするような曲が掛かって総毛立った。それまでは比較的穏やかな曲調が続いていただけに、いきなり襲ってきたことに面食らってしまった。この時校長がモニター越しに事件について説明してるんだけど、そこに浮かび上がる謎のメッセージも意味深だった。文面の意味もさることながら、こんなことを誰がなんの目的で行ったのか、それが分からないので、余計気になってしまう。

「恐るべき噂話」

 益々深刻な事態になっても尚事件を隠そうとする校長のことや被害者の女子生徒の素行の悪さであることないことを話すところなんかは、本当に事件があったら言いそうなことばかりだった。
 主人公と仲の良かったヒロインがレイプされたことが学園中に知れ渡ってしまってからの悪意があるとしかいいようのない噂話の辛辣な内容ときたらなかった。生徒はもちろん近所の主婦までもがあることないことでヒソヒソ話していることにやり場のない憤りを感じた。こういうのを見るにつけ被害者の立場がいかに弱いかということを痛感せざるを得ない。


『前半(エンド1〜5)について』

 ヒロインやその他女子生徒が襲われた時の迫真の描写や事件が発生してからの緊迫した様子に比べると恋愛要素はおまけという感じがした。どのヒロインも魅力に乏しいし、互いが惹かれあって結ばれるまでの過程もおざなりだなあと思った。事件を解くヒントにしても多少は出てくるものの、これといって進展するようなことはなかった。

『シナリオの仕組み』

 とはいえシナリオを順番通りに進めていくに従って少しずつ事件のヒントを提示させていく手法は間違ってないと思う。初めは事件についてほとんど何も知らされず(エンド1〜5)、それから徐々に真相の核心に触れていき(エンド6〜9)、最後に全ての謎が解き明かされる(トゥルーエンド)という展開は非常に好みではある。
 ただし、一つでも選択を誤るとシナリオが思うように分岐しないことがあったり、その判断が終盤まで分からないという仕組みでなかったらもっと良かった。自分は攻略サイトを参考にしたから苦労はなかったけど、自力でシナリオを順番にクリアしていくのは十中八九無理ではないかと思われる。


『驚愕のトゥルーエンド』

 真実を知ったとしても必ずしも幸せになるとは限らないということをまざまざと見せつける結末だった。主人公にしてみれば「こんなことなら真実なんて知らなければ良かった」と内心後悔していることだろう。それだけでも充分驚愕に値するのだが、スタッフロール後の長いエピローグで語られる事の真相にはこれまで以上の凄まじい破壊力を感じた。
 真犯人が過去を振り返り、その合間に事件のあらましが挿入されるところでは何度となく背筋がゾッとした。恋愛が絡むと人は何をするか分からないというけど、愛する者の為ならどんな手段も厭わないといった狂気の世界が満ち溢れていた。どうして陰湿ないじめが起こったのか、そして主人公と関わりのあるヒロイン達は何故狙われなければならなかったのか、その辺りの原因というものがはっきりした時、「こいつはとんでもねえ」と舌鼓を打たずにはいられなくなった。
 また、真犯人が回想する場面に戻る度に悔しさが滲み出てきそうなBGMには言いようのない重苦しい気持ちに駆られた。滅茶苦茶鮮明な音色で奏でるベースメインの渋みを利かせたメロディーはなかなか耳から離れなかった。それとこの曲はエピローグで使用する為に用意されていたという事にも少なからず驚かされた。

「欠けた月、満ちた月」

 月はこのゲームのサブタイトルや各エンディングの名称で使われている。ゲームをやっているうちに月とは人の心とか気持ちを表していることが分かるようになる。おそらく、エンディングを迎えた時点で主人公、もしくは彼と関わりのある人間の心がどのくらい満たされているのかということを月の満ち欠けで表現したのだろう。
 これだけでも結構興味をそそられたのだが、トゥルーエンドのタイトルが何故「欠けた月、満ちた月」なのかが理解できた途端、こいつはただものではないなということを肌で実感した。ここまで緻密に計算された話を覗けたのかと思うと興奮せずにはいられない。

「ふと思ったこと」

 トゥルーエンドに於いて明らかになる真犯人の異常な部分はどこか「雫」と似ているなと思った。「雫」とはちょっと違う電波(ひょっとして後催眠暗示?)で人の心を操ろうとしていたところや真犯人にとって掛け替えのない人への歪んだな愛情表現なんかも相通じるところがある。


【一通り終えて】
『演出について』

 決して凝っている訳ではないし、構図も微妙に変な時もあるけど、時折妙に存在感をアピールする質感を醸し出す背景(草花、机、床に写る壁の反射具合)もあった。ただ、キャラの立ちポーズはパターンが少な過ぎるせいで感情的なことを喋っていても同じポーズということが多いのには流石に閉口した。
 BGMにしても次の作品にあたる(会社は違うが大体同じスタッフが関わっていたらしい)ポートレイトには及ばないものの、なかなかいい音色を奏でていたように思った。

『システムについて』

 いたってシンプルならもノベルタイプのゲームに必要なものは大方揃っている。しかし、読み返しの量やセーブできる数は少な過ぎるし、スキップに既読未読の判定がないのはかなり戴けない。

『終わりに』

 全体的に見ると荒削りな部分が目立つんだけど、随所にハッとさせられるようなことがあったのも事実だ。特に事件の全貌が明らかになっていくトゥルーエンド後のエピローグで描かれる衝撃の展開は必見で、この部分を体験する為だけでも試しみる価値は十二分にあると思う。


【今回プレイしたゲーム】
タイトル対応機種 発売元発売年度
Blow
〜満ちた月、欠けた月〜
win95、98 ロック
クライマー
不明


【参考資料】
『ゲーム』
タイトル対応機種 発売元発売年度
ポートレイト win95、98、2000 テスラ2000年
win95 リーフ不明